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エルヴァスカ王の落とし子  作者: 村田天
第三章 めざせ政略結婚!
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報告(1)


 唇は少し離れたと思ったらまたすぐに重なる。

 クラングランのキスがなかなか終わらなくて、リュシュカがだいぶくったりしてきた頃、トントンと、執務室の扉が叩かれた。


「お兄様、よろしいかしら」


 アンリエッタだ。

 心臓がビャクンと飛び上がる。


 クラングランがすっと離れたが、まだぜんぜんドキドキしたままだし、腰は砕けてるし、体全部が熱くてへにょへにょしていて、まるで力が入らなかった。


 クラングランが戸を開けにいったのでリュシュカはその間に自分の熱くなった頬をバシバシ叩いて正気を呼び覚ます。


 こわい! こわい! こわい!

 エロクラングラン、略してエロングランこわ!


 でもたぶんこれは自分が彼にエロい目を向けてるから彼がエロくなってるのだ。少なくともクラングランはキスしなくてもたまにエロい。それに同じことをされても相手が違うとたぶんエロを感じないのはそういうことなのだ。エロを覗く時にエロもまたこちらを覗いているものなのだ。


 んん? そもそもキスってエロに分類されるものなの? なんかもっと精神的なものが大きい触れ合いじゃないの?


 ……いや、エロいよなあ。


 くだらないことを考えているとだいぶ冷静に戻ってきた。これはもしかしたら魔術に応用できるかもしれない。


 入ってきたアンリエッタは弾けるような笑顔だった。さっきまでしていた脳内ひとりエロ談義を反省したくなる爽やかさだ。


「お兄様! 婚約破棄おめでとうございます!」


「その祝いの仕方はどうなんだ? だいたい、まだ内々で公表しただけで先方に受理はされてない」


「え、そうなの?」


 思わずリュシュカも訊いた。


「一応、セシフィールの側の被害が少なくてすむ形を考えたいと言って、ラチェスタに待てをかけられているんだ」


「んー、ラチェスタが? ならまぁ、なんか考えてんだろし、いっか……」


 ラチェスタはドライに見えて根が世話焼きだ。

 リュシュカは二十も歳上の彼に面倒なことを全て委ねて忘れる悪い癖がすっかりついている。特例後見人である彼にさまざまな選択の権利を奪われている立場なのもあるが、リュシュカの根が適当であるところが大きい。

 しかし、クラングランはラチェスタに少しでも世話を焼かれることに対して、とても不本意な顔をする。この辺は性別と性格の違いだろう。


「リュシュカもいらしてたのね……! 婚約破棄、おめでとう!」


 アンリエッタがリュシュカの前まで来て、手をぎゅっと握る。


「婚約破棄、ありがとう〜」


「お前まで破棄してどうする……」


「うふふ〜、前から思ってましたけど……」


 アンリエッタは上機嫌で、クラングランの前に指をビシッと出して言う。


「今もそうですけど……お兄様は、リュシュカといる時……ずっと口角が上がっていますわ! どれだけ好きでいらっしゃるの?!」


「……なっ」


 クラングランが衝撃を受けた。眉根を寄せながら口元を触っている。


「そんな馬鹿な……」と小さく呟いている。だいぶ不本意なようでこちらが逆に不本意だ。


「リュシュカは、もうお母様やお父様にはお会いになったの?」


 アンリエッタがリュシュカにした質問にクラングランが答える。


「……まだだ。特に父上はいつでも暇なのだから、こちらがきちんと時間が空いた時でいいだろう」


「時間が空いた時って……いつになりますの?」


「しばらく公務が詰まっていて……きちんとまとまった時間が取れるのは来月くらいだ」


「あ、わたし、もしかしたらその頃一回エルヴァスカに帰るからね!」


「ああ……そうだったな」


「お兄様は今日もこれからお仕事ですの?」


「ああ。これから城の増築関連と、新しい条例の確認修正と、貿易の見直しを図る会議とそれから…………」


 言いながらクラングランは天井を見て遠い目になった。


「リュシュカ……終わり次第俺も行くから、夕方になったら先にクシャドとイザークのところに行っててくれ。店はあいつらに任せろ」


「はーい」


 アンリエッタは眉根を寄せる。


「お兄様、ご多忙なのはわかりますけれど……なかなかお会いできないと、お父様もお母様も心配なさりますわ」


「婚約破棄した直後に次の女連れてくるほうが心配しないか?」


「あー……クラングランの顔でやると完全にわっるい男だねぇ」


「いや、この場合お前が決まってた婚約を略奪した悪い女だろ」


「……まずいけど、それ事実だからなぁ」


「い、いえ、そんな! そもそも表向きはどちらも政略結婚ですし、そこはわたくしが経緯を説明しても構いません。やはり、もっと早いうちに……」


「……うーん、ならアンリエッタ、これからリュシュカをつれていって家族に適当に紹介しておいてくれないか?」


「お、お兄様……そんな適当な……!」


「婚姻の決定権は俺にある。その時点で親との面会の重みが他所とは違う。どうせ来月になるなら、早いうちに顔だけでも見せておいたほうが後で文句も言われないしいいだろう」


「……でも、そんな、急に親に会えだなんて……リュシュカが……」


「べつにいいよー」


「な、なんと気の大きい……」


「クラングランの親とか、エルヴァスカの王様との最初の謁見に比べたらまったく緊張しない」


「……王と会ったのか?」


「うん……あの時は正直吐くかと思った」


「そ、そういうことでしたら、このアンリエッタにおまかせくださいませ!」


 そんなわけでリュシュカはアンリエッタに連れられて、クラングランの家族に会いに行くツアーが開催されることになった。



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