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4.未知数


「どうしてもです」

「それじゃ困るよ。どうしてだかわからないなら見に行くし」

「! シン、離れろ!!」


 歩き出そうとすると、襟首をつかまれ後ろに引きずられた。瞬間、鼻先を何かがかすめていった。フィンに引っ張られて間合いを取ると初めてそれが少女の足であることがわかる。

 彼女は、一歩踏み出す形で身体を低くすると体術でこちらに襲いかかろうとでも言うのか構えていた。

 否、すでに襲いかかられたのである。


「何をするんだ!」

「わかるでしょう? 危険な目にあいたくなければ、お下がりください」


 しかし、青年の言葉はフィンの騎士魂に火をつけてしまったようだった。加えて、この先で何かをしようとしている。それがわかれば放っておくつもりなどないようだった。

 フィンも低く腰を落として剣の柄へと手をかけた。


「やるおつもりですか?」

「ラウル、私がやる」


 ずいっと少女が前に出た。にらみ合う間があった。


「あなたはどうします?」

「……私は戦闘は得意でもないんだけど……」


 むー、と眉を寄せつつも銃を取り出す。とりあえず、ラウルと呼ばれた青年に向けてみた。青年はやはり困った顔をして苦笑する。

 その隣ではフィンと少女の戦闘が始まっていた。まだ未発達な身体の体術と剣術。 どう見てもリーチが長い分フィンに分があるように思える。が、少女は俊敏だった。

 フィンの剣をかいくぐると繰り出した手刀は眼前をかすめ、振り下ろされる。辛くもかわしたフィンは次の一撃を繰り出すが少女はひらりとそれをかわした。まるで戦うことが当然と言った身のこなしだ。


「くっ」

「フィン! とりあえず大晶石のところまで行こう!」

「!? シン!」


 威嚇射撃をしながらシンはラウルの横を駆け抜けた。フィンも少女の蹴りをかわすとあわててそれを追う。


「逃げた……」

「追いましょう」


 ラウルが言うと少女はこくりと頷きその後を駆け出した。

 森の向こうに、巨大な緑色の結晶体が見えてくる。その結晶体は天を突くほどの大きさで、その下までたどり着くのに数分かかった。

 息を切らせながらたどり着くと更にそこに居たのは紫藍色の髪の青年だ。髪と同系色の服装に、マント。腰にはサーベルを下げている。


「あれ? 何だ、フリージアは獲物を逃がしたのかい?」


 青年は狡猾そうな笑みを浮かべて二人を迎えた。


「新手か……!」

「フィン、大晶石の下まで!」


 足を止めかけたフィンを置いてシンは少し離れた青年の前を駆ける。大晶石を背にすれば少なくとも挟まれずにすむ。それに勝算があった。


「何? どういうことになってるのさ」


 青年はそれを見送って首をかしげた。サーベルを抜く気配はない。相手が三人になれば、それだけで不利になるのは目に見えている。けれど、シンは待った。


「お前たち! 一体何を企んでいるんだ!」


 ゆっくりと追って正面にやってきた青年に、フィンが問いかける。青年は薄く笑って「あぁ」と何か得心したようだった。


「何って、簡単さ。滅びてくれないかい? 僕らのために」

「何……?」


 青年はその反応がおかしかったのかくつくつと笑い出した。その後ろからラウルとフリージア、という名らしい少女が追いついてくる。

 青年は腕を組んで悠然と二人の前に立った。


「だから、僕らのために死んでよ。みんなまとめてさ!」


 遂に青年がサーベルを抜いた。シンは大晶石に手を置いて精神を集中させる。そして逆の手は立ちはだかる三人に向けて突き出した。光が手のひらに宿り、呼応するように大晶石も光を明滅させたように見えた。


「何のまねかな」

「いけません、ソル様」

「そう、少しでも知識があるならわかるよね。私はここでこの大晶石を使ってありったけの魔力で晶術を使う。どれくらいの威力になるかな?」


 晶術とは大なり小なり星晶石と呼ばれる結晶を用い、そこに宿るエルブレスを利用して放つ魔法だ。

 当然、媒体に宿るエルブレスが強ければ、そして、それを扱う術者の腕が良ければ良いほど晶術は強力になる。彼らにとってシンの力が未知数である以上、危険と認知されるに至ったことだろう。


「……ちっ」


 舌打ちをして踵を返したのはソルと呼ばれた青年だった。


「まぁいいけどね。ウィスが来るまでまだ時間がある。それまでは譲ろうか」


 そして立ち去っていった。ラウルが続き、フリージアがこちらを振り返りながらも去っていく。静けさが訪れた。


「奴ら、何者なんだ……?」

「はぁっ緊張したー」


 その姿が見えなくなるとシンは大晶石に背中を預け空を振り仰ぐ。ここで起きていることなどちっぽけなことのように空はいつもの青だった。

 そんなシンの様子に振り返ったフィンがちょっと驚いた顔をしてから笑みを浮かべた。


「すごいじゃないか、シン 。晶術も使えたんだ」

「いや、全然すごくない。使えるのは初級術だし、半分ははったりだから」

「はったり……?」

「大晶術使いならものすごい威力が出せそうだけど、制御がね……ほら、大きな剣があっても大きな力がないと動かせないのと一緒」


 一瞬、目をぱちくりとしてからはぁ、と脱力したようにフィンが息をついて肩を落としている。そんなにうなだれなくても良いではないか。結果としてはったり半分になったが、相手は退いてくれたのだから。


「それより、いいの? なんだか、あの人たち、大晶石に何かしようとしてたみたいだけど」

「あぁ、それに滅びろだとか言ってたな……急いで報告したほうがいいかもしれない」


 風の大晶石をろくに見ずにフィンはさっさと元来た道を取って返してしまう。


「報告って、フィンはシャインヴィントに戻るの?」

「そうだな。伝令だけでは伝えきれない事態だ。俺は戻るけど……シンはどうする?」

「私も行く」


 シンはその後ろを歩きながら振り返って見上げた。

 大晶石はエメラルドのような透明な輝きを宿して、来た時と変わらず静かに天へ向かってそびえていた。

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