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3.風の大晶石

「なんでわかってくれないんだよ!」

「お前こそ、八年も経っていてまだわからんのか!」


 怒声が聞こえてくる。それはサクセサー領主の館を訪れてからすぐのことだった。シンはすぐにその場から離され、一階の客間に通されたのでその後はどうなったのか知らない。

 しかし、戻ってきたフィンの顔を見れば父親と物別れに終わったのは火を見るより明らかだった。


「フィン……大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だよ。母さんは君の面倒を見てくれるって言ってた。父さんとはうまく話せなかったけど」


 そうではないのだが。

 はぐらかしているつもりはないのだろう。フィンは何か勘違いしているようで、それでも父親の話題になってしまうと暗く苦笑する。


「そうだ、フィン。良かったら町を案内してよ。フィンだって久しぶりに帰ってきたんだから、見て回りたいでしょう?」

「そうだな。そうしよう」


 その提案は実際、気晴らしにはちょうど良かった。

 町を一周し、フィンの顔なじみにも会い、帰ってくる頃にはフィンの顔にもどこか清々した笑顔が戻っていた。


「久しぶりの故郷はどう?」

「うん、意外と変わってないんだな。ほら、あの風車。子供の頃はユーベルトとよく遊びに行ったものだよ」


 フィンはそう丘の上を指差した。


「ユーベルトって弟さん?」

「そうだよ。行ってみるかい?」


 陽はいつの間にか傾き、夜気が漂い始めている。それでも二人は涼やかな風に誘われるように丘へと上がる。


「やっぱり高いところは気持ちがいいね」

「あぁ、この風……変わってないな」


 町を見下ろしてひとしきり懐かしむと気が済んだのかフィンは帰ろう、と言った。 

 帰ればフィンの母親が待っている。ろくに話すまもなく出てきてしまったから、彼の帰りを心待ちにしていたのだろう。父親の姿はなかったが、夕食の席は和やかなものだった。



  * * *



 翌日。早速風の大晶石を見るために、シンとフィンは西のブルーフォレストへ向かった。


「そういえば、サクセサーにはあまり機械はないんだね」

「あぁ。シン、他の国に行ったことはあるのか?」

「? テールディには何度かあるけど。どうして?」

「じゃあ地の大晶石はみたことがあるかな」


 こくりと頷く。テールディは積極的にエネルギー資源でもあるエルブレスを利用し、晶術と呼ばれる術を開発している魔法大国でもある。

 地の大晶石は街中にあってそれは観光資源にもなっていた。


「テールディやアオスブルフは大晶石からエルブレスを取り出して活用してるけど、このエクエスはできるだけ自然の形で温存することを選んだんだ。そのおかげで、技術面では劣るかもしれないけど、国を護る騎士団は世界一だからね」


 どこか誇らしげだった。だから晶石の恩恵を受け、大地は肥沃で戦争を巻き起こすこともない。エクエスは中立国だ。逆に、テールディとアオスブルフはエルブレス資源を巡りたびたび対立している。

 三年前に北方で起きたエルブレス戦争がもっとも近年で大きな戦いだったらしい。


「それは素敵なことだね」

「だろう?」

「そういえば、昔……有史以前はエルブレスを使いすぎて枯渇した、なんてことがあったんだっけ」

「え、そうなのか!」

「あれ? 違うのかな」


 またやってしまった。シンは己のあいまいな記憶に少しだけ混乱する。

 しばしばあるのだ。こんなふうに当たり前だと思って話をすると全く知られていないことだと言うことが。知られていない、というかあまりにも周囲がそんな反応だと記憶が断片的なことも相まって自分の方がでたらめな知識で話しているのではないかと思ってしまう。


「でも確かに……湧いてくるからには無限、ってわけじゃないんだろうな」

「うーん、星晶石のできるところは、エルブレスの泉みたいなものかな?」


 星晶石とは大晶石ほどでないにせよ、エネルギーを多量に含んだ結晶のことだ。いずれ、エルブレスとは何なのかがあまり知られていないのだから考えてみても答えは出てこなかった。

 それからどれくらい歩いたろうか。結構な距離を来た気がする。道は平坦だからそれほど疲れはしないが、人に会うこともないので一人ならば不安になったろう。しかし、その道の先で人影を先に見つけたのはフィンだった。


「珍しいな……こんなところに来るのは研究者か、巡回兵かくらいだろうに」

「観光客、かなぁ」


 ひとりは桃色の髪をサイドだけ長くのばし、あとは短くまとめた少女、もう一人は……なんと言ったらいいのだろう。スーツではないが、高級ホテルのフロントにいそうな白いベストをきっちりと着こんだ金の髪をひとつに束ねた青年だった。

 少女の服装が軽装でなければ一見して、お嬢様と執事、といった雰囲気もある。

 こちらが気付くとあちらも気づいたのか身体ごと振り返る。わけもなく足を止めるのもおかしいので、自然、待っている格好の彼らのほうへ歩を寄せる形になった。


「ここから先は、ダメ」


 会釈の一つでもする前に、少女が両手を広げ足止めをしてくる。きょとんとしていると隣にいた細身の碧の瞳の青年は、少しだけ様子を見るようにフィンとシンを見比べていたが、やがて小さく微笑んだ。


「こんにちは、観光の方ですか?」


やんわりとした口調だった。


「えぇ、風の大晶石を見に」

「それはよくないですね、今はやめておいたほうがいいと思いますが……」

「どうして?」


 シンの問いには答えない。困ったような顔で青年は苦笑した。



* * *

ツインコンチェルト イメージ画

フィン・サクセサー

挿絵(By みてみん)

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