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13.世界の接点

「まずは何から話そうか」


 ホワイトノアに乗り込んだシンたちは、一息つき一室に落ち着いた。

 窓が広く、下界がよく見渡せる。次に行く場所も決めておらず、ホワイトノアは緩やかにホバリングを続けている。


「アースタリアって言ったっけ。ミラージュの人がなぜこちらに来ることになったの?」


 本来、自分の世界はあちらなのだからそういう言い方も違和感があるが、仕方ない。ウィスも違う意味での違和感に気付いたのか少しだけさみしそうに苦笑を落としながらも応じてくれる。


「アクアフォールが起きるから、こちらの世界を滅ぼしに来たんだよ」

「アクアフォール?」

「滅ぼしにって……!」


 それぞれがそれぞれの着目点で驚いている。

 そういえば、ソルは初めて会った時に「滅べ」と言っていた。理由があるのだろう。シンは次の言葉を待った。なぜか自嘲気味にも見える言い回しで始めたウィスは、何から話したらいいものか言葉を選んでいるようだった。


「アクアフォールについて、こちらの世界は何も把握していないようだな」

「それはなんです?」

「まず、オレたちの世界が何を接点につながっているのかは、知っているか?」


 シンは少し考え、空を見上げる。


「空、だよね」

「その空を覆うアクアスクリーンの存在については、知られてるのか?」

「……アクアスクリーン?」


 先ほどから復唱ばかりだ。どうやらこちらとあちらの世界では、そもそも「世界」に対する認識度が違うらしい。その差異は承知しているのかウィスの説明は丁寧だった。


「この星は、薄い水の層に覆われている。オレたちとセレスタイト……この世界はそのスクリーンを隔ててひとつの次元を分かって存在しているんだ」


 理解の間がある。質問はないとみて、ウィスは先を続ける。


「アクアフォールとは、その水の層がいずれかの世界に落下し、次元が崩壊することを示している。つまり良くてどちらかの世界が消え、悪ければ両方消滅ということになる」

「どうして、アクアフォールは起きようとしているの?」

「こちらの世界が、過剰に輝石に干渉を始めたからだ」


 輝石……大晶石のことだろう。確かに近年、星晶技術は躍進を遂げ、戦争まで巻き起こるほどだ。それがどの程度のレベルであるのかはわからないが、干渉と言えば干渉なのだろう。

 噂では世界の北東、ウィンクルムと呼ばれる嵐が吹き荒れる海域には、水の大晶石があるとも言われ、アオスブルフとテールディは競って突破を試みようとしているらしい。それも関係があるのかもしれない。


「それと輝石……私たちの、ううん、こちらの世界ではその輝石のことを大晶石と呼んでるんだけど、それを破壊することにどんな関係が?」

「輝石はアクアウォールを安定するための役割を持つ。それを破壊することでこちらの世界に人為的にアクアフォールを起こし、先に滅亡させ、アースタリアを救済しよう、というのがそもそもの考えだ」

「そんな……ひどいです」


 そうだろうか。いずれの世界も消滅するならばせめてどちらかでも……となるのも全くあり得ない話ではないだろう。一方的に滅びを定められるなど確かに酷な話であるが。

 「僕らのために滅びてよ」。ソルの言葉の意味は分かった。


「両方の世界を救う方法はないのか」

「さぁ……オレはないと言われてここに来たわけだが……それがどこまで信じられるのかはわからない」

「あんた、それなのに来ちゃったの?」

「……」


 他に何か理由でもあるのだろうか。ウィスは瞳を伏せ、口を閉ざした。

 誰だって好き好んで世界を滅亡させようなんて思わないだろう。シンと会い、ソルから離反したことはウィスが本来、滅亡の加担に消極的であったことを物語っている。


「あったとしても難しいだろうね。こちらの世界に協力を仰ぐって言ってもいきなりミラージュから来ました。世界がピンチです。なんて言われて誰が信じると思う?」


 それに話を聞く限り世界の仕組みにはアースタリアの方が遥かに情報量が上のようだ。

 こちらの世界では絵物語でしかない世界が実在すること自体、にわかには信じられまい。気がふれていると思われて終わりだろう。


「そもそも私たちは世界の仕組みすら知らないんだ。大晶石からエルブレスを搾取することがそんなに危険なことだなんて、誰もわかってない」

「では、私たちはどうしたら……」

「エルブレスは世界のエネルギー源だ。そんな簡単には……利用を停止できないよな」

「エクエスはともかく他の国じゃ下手をすれば、異端論者扱いがオチね」


 それぞれが思い悩んで沈黙を落とす。

 どうしても情報が足りない。であるならば──


「ウィス、ミラージュへ行く方法は?」

「え……?」

「こっちの世界じゃ埒があかないよ。少なくともアースタリアはこっちより情報を把握しているみたいだし、色々確かめたい」

「あんた、ミラージュへ行くつもりなの!?」


 イーヴが止めるように、聞いてきた。


「つもりというか、行く気満々」

「あんたね……」


 ウィスがくつくつと声を出して笑っている。


「記憶がなくても変わらないな」

「そう?」

「そうだよ。それでオルディネの塔へ行って……」


 その先は、彼にとってはあまり美しくない記憶なのか再び押し黙る。それから観念したように、静かに息をつくと言った。


「行く方法はある」

「連れて行ってくれる?」

「わかった」

「いいんです?」


 今度はリエットだ。自然、彼女に視線が集う。


「……リエットも行くの?」

「行きます! 世界の危機に、のんびりとしていられません」

「そういうことなら、オレも」


 正義感あふれる発言だ。負けてはいられないとフィンも手を挙げた。


「あーあ、しょうがないわね……お子様たちが行くんじゃ保護者がついていかないと……」


 年はせいぜい見積もっても三つ四つ違うだけだが。ともかく心強いので素直に歓迎することにする。だが、イーヴは最も些事に警戒を怠らない。ウィスに向かって念を押すように少し鋭く、瞳を細めた。


「あんたもいいの? そんな簡単に異世界人を連れて行って」

「シンの性格はオレがよく知っている。駄目と言っても聞かないだろうからな。それに……」


 ウィスはイーヴの視線はなんでもないというように、シンに自らのそれを向け、わずかに口元を綻ばせた。


「シンは元々アースタリアの人間だ。戻ってくるのに、何が悪いことがある」


 彼なりの家族愛だろうか。少しだけ、家族と言うものがかいまみえた瞬間だった。

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