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9、休日の過ごし方

*しばらく、飛ばし気味で読み進めてください....



今日は配属先の仕事がない俺は、ルーキス。ガデス・ハントの副ギルド長のもとに来ていた。つい最近。ギルド長はリッテン騎士団長として魔物の大規模発生の討伐任務に出てしまったのだ。それも金貨が関わっているという。ケゲンのお兄さんもそこにいるんだろうかと思いにふけっていると、薬の処方箋と書類の山をルーキスから押し付けられた。


 ズイッと差し出された山積みの書類の束を見上げる。作業に没頭し始めたルーキスはこちらの非難の視線に気付かない。空気を大きく吸い込むと意を決して書類を持ち上げた。


「思ったより、重くはないけど....前が全然見えない。それに施設内のマップちゃんとわかるわけじゃないし....」


ブツブツと独り言をつぶやきながら進んでいると視界の端にいつぞや金色の女の子が通った。団長の娘さん!!


「あっ、ちょっと待って!!」


書類が傾き、終わった。と思ったが一向に倒れる気配がない。


「あれ~? ヘリオスちゃん。どっしたの、休みじゃなかった??」


今日も素晴らしい服のミケが書類の向こうに居た。赤ちゃんに対するような言葉にちょっとムッとする。だが、助かったも事実だ。

「あ、えっと。この声は....ミケ部長。あのお使いです」

「アハハ。ヤダァ。ヘスっちたらまだ病人扱いで休みなのにお使い? 私のかわいい部下を使うなんて一体誰よん」


鼻をつつかれ、驚いて書類を落としかけた。裏目がましい目を向けるも、飄々とした態度のミケ。仕事はそうしたんだろうか?

――この人こそ本当に何しに来たんだ? 書類を漁っているし


「って、やば。副会長の印じゃないこれ」

「あの。ルーキスさんって補佐のような方いないのですか?」

「うん? あの人が補佐だよ??」

「え?」

「正確には補佐の補佐。午前中のあの書類の束は本来、王太子殿下が処理するもので権限が与えられているのがあの人しかいないのよ。また午後になれば協会の書類作業になるから人も入るけど」

「リッテンの王太子殿下ですか?」

「そうよ。今ね、リッテンは色々忙しいの。よくある話。寵妃の子を王にしたい王様と優秀な王太子殿下のバッチバチの争いよ。予定ではガデス・クレーテが消えた事で金貨の事が終わり権力争いに集中する予定だったのだけどねー。こっちの後始末終わらないどころか新しい事件立て続けに起きてるし」


「そんな」


「もう、すっごい人不足よ!! 連合も一旦解散しちゃったし。ヘリオスちゃん、信用できそうな奴いたらスカウトしちゃっていいから!」

「あ、はい」


「じゃ、頑張ってねー!!」


 去り際に銀貨をポケットに押し込んだ部長は怖い人ではない気がしてきた。少し、いやかなりめんどくさい感じはあるけども。それに視界に困る。うちの村の服をプレゼントしたいくらいだ。ため息をつき、俺は医務室に急いだ。


「おはよう御座います。ルーキスさんから書類を預かってきました。あと、処方箋です」


「いらっしゃい。ハハッ、大変だね?あの人も」


 部屋の奥から出てきた白衣の老人に手招きされ部屋の中に進む。白で統一された清潔な空間。イスで待つよう言われた。時々、診察してもらっている先生だ。


「珈琲は嫌いかな?」

「いいえ!」

「お砂糖とミルクは??」

「たっぷりお願いします」


 朗らかに笑う老医者。自分の言葉が恥ずかしく感じて俯く。「どうぞ」と差し出されたものはグラスにクリーム色で透明な石が浮いた冷たい飲み物だった。意を決して飲むと甘くて美味しかった。前飲んだ温かいものよりずっと飲みやすかった。


「冷たくて甘くて美味しいです!!」

「最近、少し暑くなってきたからね。アイスコーヒーを作ってみたんだ」

「この冷たい浮いているのはなんですか?」


「氷だよ。君の田舎は温かいところだったのかな? とっても低い温度になると水はガラスみたいに凍るんだよ。温度が高くなればゆっくりと水に戻っていくんだ」


「へぇ、不思議、ですね」

「リッテンは、小国だが魔法、科学関係なく研究が進められている。自慢の国だよ。これで夏でも氷が作れるようになったんだ」

「氷....すごいです!」

「ふふ、大国でも限られた贅沢さ。さて、申し訳ないがこの書類を第2薬室まで持っていってくれるかい? 君の薬もここのものだけでは足りないそうでね」


 老医者に見送られ、随分と軽くなった書類を手に真反対位置する第2薬室に急ぐ。近づくにつれ清潔さとはどんどんとかけ離れ薄暗く不気味な通路に変化していく。館内図ではあるはずの道には壁があり、俺は途方にくれた。


「おか、しいな。この先にまだ通路があるのに....そういえば先生が第2薬室って言う前に『下に行ってきてくれるかい?』って言っていたっけ?」


 近くの扉を開ければ下へと続く階段があった。チカチカとランプが点滅する階段をゆっくりと慎重に降りていく。カツンと足音が響き妙に神経的になる。


 無事に降り終わり扉を開ければ通路が片側に続いていた。夜のように薄暗くひっそりと静まり返る地下。ゴクリとつばを飲み込むと、『キケン第2薬室』と書かれたすぐ手前の扉をノックした。



 ******


「やぁ、やぁやぁ。じいちゃんから連絡来たよ。薬も調合済み。それにしても随分とかかったね? もしかして迷った??」


 中は医務室と一見変わらない様子。違うのは壁一面に薬棚が並び、怪しい瓶詰めがテーブルを占拠していることぐらいだろうか? ビビりながらも、ビンの中身をよく見ようと、目を凝らす。


 自分とそう変わらない快活そうな女の子は鼻歌を歌いながら書類を一枚一枚めくっていた。


「何か言いたそうな顔しているね~なんでも聞きなよ」

「えっと、なんでこんなところにあるの?」

「あ、それ聞いちゃう?」

「駄目ならいいよ」


「いや、全然? ここには危険な薬品も数多くあるの。毒草なんかもここで管理されているから辺境に位置しているってわけ。この先ってさ牢屋だから出番が結構あるのよねぇ」


 喜色ばんだ声にほんの少しの狂気を感じた。そして直感した。この子も可笑しな世界の人間なのだと。友達になれるかもと淡い期待を抱いた自分を後悔する。


(ミケ部長の方がまだ、安心出来る。この子はあまり関わっちゃいけない)


 本能が忠告していた。薬を受け取るとすぐにドアノブに手をかけた。


「あの、ありがとう」

「いいえ。その薬、お世話にならない日が来ることを祈っているわ。お大事に」


 毒薬も扱うという彼女の口から出た言葉を何故か余計に考え込んでしまう。一階への階段の途中で思わず座り込んだ。心臓がバクバクと痛いぐらいに騒ぐ。何か嫌なことが溢れそうになってピタリと止まった。


 階上からヘリオスを見下ろす金色の少女。何故、5歳ぐらいだって思っていたんだろう? 神秘的な光を携えた少女が足音もなく近づいてくる。ただその光景に魅入っていた。ゆらゆらと揺蕩う金色の帯び、少女の手が自分の頬に触れた。気付いたらその手をとり甲に口付けしていた。目が引き寄せられ離れない。


「――――。」


 心臓が再び動き出す。時を忘れていたかのように瞬きをした一瞬。柔らかな何かが頬を掠めた。そしてこの世のものとは思えない福音ともいうべき美しい声が耳元で囁かれる。


『あなたの名前は――。』


「ヘリオス」


『ヘリオス。太陽。私の太陽』


 甘美な囁きは強烈な眠気を誘いヘリオスを突き落とした。


「女神、さま....」


 物語に聞いたクレーテそのものだと薄れゆく意識の中、ヘリオスは思った。






 青年が眠りにつくのを確認するとナイフを取り出し、躊躇なく腕を切りつけた。


 流れた血を試験官に数滴集めると少女は青年の隣に座り、観察しはじめる。満足したのか次に手をとると匂いをかぎ始める。仕草がどこか動物らしく、首元が気に入ったのかしきりに嗅いでいる。今度は、反対の手をとり頬ずりする。


 ハッと息を呑んだ少女は青年の腕をつかむと身を震わせた。ピンクの小さな舌をだし傷口を舐めた。




「ヘリオスに何をしているのですか。セレスティアお嬢様」


「伝書鳩....つくるのに、血。必要....」


 冷ややかな視線が頭上から注がれ少女は真っ赤に輝く瞳を男に向ける。


「ルーキス。父様はどこ?」


「お出かけになりました。ヘリオスは治療中です。不用意に近づかないで下さい」


「ヘリオス、とても惹かれるの。どうして?」


「お嬢様の心の内なんて僕にはわかりませんよ。それよりヘリオスを離してあげて下さい。首し

まって苦しげですよ」


「....素敵」


「お嬢様が言うと恐ろしいですね。もういいでしょう。彼を部屋に運ぶので、お戻り下さい」


「ヘリオスにくっつきたい」


「駄目です。人にどのような影響を及ぼすのかわからないんですから」


「――っあ....ごめんなさい。ルーキス。ごめんね、ヘリオス」


軽くため息をついたルーキス。ヘリオスは連れていかれいなくなってしまった。ポツンと取り残された少女はズボンから抜き取ったコインを地面に叩きつけた。美しい顔を歪め、にらみつける。


「――忌々しい」



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