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6、かつての帝都は今より闇深き場所

※前半。色々、カット編集されています....今はあまり関係ないので飛ばしても大丈夫です。そのうち移動するかもしれません。


後半は主人公たちに戻ります。

 

 頑丈な鉄格子の嵌った荷馬車にボロを着た少年達が手枷をつけられどこかに運ばれていた。静まり返り誰もが感情の抜け落ちた顔をしていた。涙を流したであろう跡。手足首が青く変色し抵抗したであろう跡。ある日馬車が大きく揺れ、手首を挫いていた青年の一人がいつの間にか揺れが少なくなっているのに気付いた。その青年の膝で眠っていた小さな男の子が目を覚ました。


 ケゲンという名を与えた、自分が命を賭してでも守らないといけない人。血よりも濃い強力な絆がそうさせている。自分の人の見る目がないのか、ついにはこんなところにまで堕落してしまった。


「お兄、ちゃん?」


 自分を兄と呼ぶ声に心が締め付けられる。そうではない、とは言えない。自分はそう呼ばれるに値しない存在。それは父の代よりもさらに昔、古の時代から続く....といっても、今はまだ話すつもりはない。一生知らなくていい。捻った手首をさすった。


「ケゲン。まだ寝てな」


「――もう、眠れない。ずっと、ずっと寝ているよ?」

「そうだな」

「ここはどこ?」

「首都かもな」


 ――売り先はわかったも同然だ。まさか、また戻ることになるとは因果か


 首を傾げる弟のザラザラの砂混じりの頭を撫でる。その時、少年の一人が声をあげた。


「ひぃぃッ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!」


 頭を抱え一心不乱に騒ぎ始めた。その騒ぎに気付いた御者がパシンッとムチを『わざと』強く叩いた。その音に怯え縮こまった少年。


(よく、調教されているな。元々奴隷だったやつか? 成長して容姿が良くなったから売り飛ばされたんだろう。他の奴らも比較的、顔が整っている。貴族向けの奴隷ってところか。或いは、教会)


「どうして、首都だと思う?」


 久しぶりに他人に話しかけれて驚いた。異国の肌色を持つ少年が感情のない顔で聞いてくる。


「お前ら、貴族好みの顔しているぜ?」


「――なるほど、後は道、か」


 納得したとそれきり口を閉ざした。今騒いだところで自分たちに出来ることはない。良心的な場所に売り払われるのを祈るばかりだ。少年は中々、利口なやつだと感心していると喧騒が聞こえてきた。


(やっぱり、首都。それも大帝国の。因縁、か....父よ。私はどうすればよいのでしょう)


 教育も中途半端にしか受けていない自分が強固な奴隷市から逃げ出せる自信がない。それにケゲンを連れて脱出はあまりにも危険すぎた。失敗したら最悪殺される。特に自分は成人と変わらない年齢だから。


(首都の貴族はろくなヤツがいない。見栄を張って居続ける者の集団だ。かと言って教会は....一生の牢獄といっても過言ではない)


 売り払われた先での脱出を思い浮かべていると、いつの間にか馬車が止まった。そして扉が開いた。ギイギイという音を鳴らしながらやってきた男。ケゲンの目にはうつしたくない醜悪な姿。自分達を舐め回すように見定める太った男。歯が殆ど残っていない禿頭の男。でっぷりと飛び出た腹を撫で、ズボン手を突っ込んだ。


 ――本来なら、その目には至高ものをうつしていったはずだ。それが、こんな


「ようこそ、大帝国へ。おめかしして少しでも身綺麗に、グッヘ。我々への評価を下げぬよう一生懸命、働くんだな。あぁ、そうだなぁ、お前。一番の年上だ。仕事とはどういったことかじ(*この先は過剰な表現にあたる可能性があります。それぞれの想像力で補完お願いします。さらにこの先大幅カット編集しており、なんとなくで読み進めてください)」


 よだれを垂らし男の視線の先は明らかに俺に向けられていた。その視線が異国の少年に時々隣へとうつる。ケゲンの目を閉じると静かに立ち上がった。


「――ドルナン様、僕の弟。どうか一緒にいられるようにお願いします」


「....ふむ、そうだなぁ。」


 どんなことでもあくまで笑顔を絶やすことなく微笑む、俺らみたいのは可愛げがあったほうが長生きする。


(――でしたよね、先輩)


「ドルナン。早くしろ。商品に余計な傷をつけるなよ」

「ちょっと、待ってださいよ~」

「いっつもテメエだけ楽しみやがって」

「おやおや、先輩〜ご興味ないんではなかったのでは?」

「――そうだったけどな」


 おぞましいロクでなし達の会話に弟の耳を強く強く塞いだ。


「に、兄ちゃん。い、痛いよぅ」


 何度目の引き取り先だったか、回を重ねるごとに、どんどんと生活の質は下がり、人も同じく酷いものになっていく。まだ、旦那に不満のもつ奥様はマシだった。最近の帝都の流行が田舎に、平民たちまで来なければ。


『やめて、やめて、嫌だ、嫌だッ!!』

『さあ、こっちに来い! さっさと、仕事をしろっ』


「兄ちゃん、兄ちゃん....?」


 すべてが終わり、競売にすらかけられなかった自分たちは牢で一晩過ごした。次の日、特別待遇だと男に連れて行かれたのは、灰色の大きな建物だった。建物の遥か上から俺たちを見下ろす存在、我らの運命。


 そこは教会だった。女神信仰であるガデス教。中性が絶対であるのは下級の神官の話。特別に認められた上級神官は例外だった。上級神官は主に貴族。家門の存続の危機に陥った場合に備えて行われないのだ。


 ニッコリ笑顔を浮かべるキツネ顔の上級神官は一見、人の良さそうな人物である。


 運命を呪ったその時、弟は何かを指差した。軍服の男。髪をきっちりと撫で付けた生真面目そうな男。


 これはチャンスだ――。強く思った。


 賭けだった、狐のような細い目が全身を撫で回し弟が未だ注目されていない今。


「ケゲン。あの男に俺たちを買うように交渉してこい」


「こうしょー?」


「買ってください、とお願いするんだ。兄ちゃんと離れ離れになりたくなかったら早く!!」


 何度も振り返った弟が男の元へと辿り着いたのを見届けてホッと息をつく。せめて弟だけでも逃げ出せたらそれでいい。きっとここよりもずっとマシな事を祈って。


「――ふぅむ。確かに、やっぱり兄弟離れ離れは可哀想、実に可哀想だ。いいでしょうそれでは」


 神官の男がうなずき、ペンを手に持った。幾度となく見た光景。右下にペン先が触れた瞬間今度こそ自分の運命が定まった。いつもなら、決してやらないが心の中で強く祈った。


 ――この地の主。慈悲をどうか。彼に罪はありません....


「その倍、支払う。2人ともいただこうか」


 床にインクがたれ黒く丸いシミをつくる。呆気にとられる神官の目が薄っすらと開き頬を上気させた。


 間近で見る騎士の男には圧倒された。軍服の上からでもはっきりと分かる逞しい体つき。太い首筋から醸し出される色気。何よりも他者を圧倒する空気、迫力が凄まじかった。その後ろにヘロヘロと付き添う男も凄い人物なのか傍目ではわからない。


 趣味の違うであろう神官ですら夢中になる何かが彼にはあった。


「ちょ、ちょっとっ!! 団長正気ですか!?」


 取り乱す従者の男。ケゲンと自分を何度も交互に視線をうつす。自分はその時、騎士の男の目を見て確信した。この人なら、打ち明けても問題ないと。自分たちの秘密。


「ちょうど、人手が必要だ。おい。腑抜けになりたくなかったらこちらに来い」


 自分をジッと見つめてくる目。それを遮る白い衣が肌をなぞり鳥肌が立った。キツネ顔をこれでもかと近づけ「私が守ってあげる」と耳元で呟いた。


「ブルート・ゴルドン。私の為の商人ですよ。それもなんでしょう?団長さんがガキの代わりに?」


(神官長とは知り合いだったのか。自分のものにしたいだけでしょうに)


 彼に神官としての気概は一切ない。狂った帝国で生き残れるのはこういう人種だけのなのだ。


 狐顔の男が軍服の男に迫る、精悍な顔を妖しくなぞり腕を絡める。その手をどこに持っていこうとしているのか一切表情を変えない男は麻袋と共に神官を突き放した。


「同額お前にも支払おう」


「――ふーん。太っ腹。帝国金貨は受け付けませんよ?」


 奪うように受け取った神官は麻袋の中身をくまなく確認すると頷いた。


「西大陸の金貨だ。文句ないだろう?」


「確かに、フフフ。商人さん交渉成立ですね。」


 神官は細い目を糸のようにニンマリと気味の悪い笑顔を浮かべるとゴルドンに口付けをし満足気に立ち去っていった。ゴルドンは表情を変えずにその跡を念入りに袖口で拭うと「付いてきなさい」とただ一言。自分たちに背を向け歩き出した。


「はぁ....陛下がコレを聞いたらなんというか。えっと歓迎しますね。ようこそ、ガデス・ハントへ。弟君がケゲンだったね。君の名前は?」


「――アーノルド。この名前に覚えはありますか? 騎士様」


 眠ってしまったケゲンを抱き振り返った男と目を合わせる。男は、自分をジロジロと観察すると頷いた。


「もちろんだ、君の父は私にとって、敵であり、味方でもあった」


「はい、アーノルド・エルシュと申します。彼の名前はケゲン。名前の由来もご存じだろう」


「残り二つは、正当なるものなら受け継ぐものだからな。初めの名を聞こうか」


「名前は――。」


 *****


 荘厳で美しく見えていた教会の姿が急に外壁のように灰色に変わった。軽く微笑みながら話すケゲンの心情は一体どういうものなのか想像もつかない。衝撃的な世界に俺は絶句した。


「人身売買が禁止になって神官長も年取ったから大分マシになったけどな。元々はなんでも好きなものは手に入れていたお貴族様だ。気を付けな」


 その時の記憶はあまり残っていないらしい。兄にせがんでやっと話してもらったものだという。実際はもっと悲惨だったのだろうと呟いた。


「――俺は兄ちゃんに守られてばっかりだ。今も兄は前線で戦っている。ヘリオス、俺は兄ちゃんが心配するから。安全なここにいる。でも、ためになりたいんだ。いつかお前に迷惑かけることがあるかも知れないから今のうちに言っとく、この世界で生きていくための情報も惜しまず教えるつもりだ。それが今の俺にできる最大のことだからさ」


 背を向けたケゲンの顔は見えないが泣いているそんな気がして胸が締め付けられた。


「俺、頑張ります。いつか、お兄さんに直接ケゲンさんにお世話になったって尊敬する先輩だって胸を張って言えるように....!」


「ハハハ、そりゃ。嬉しい夢だなぁ....まあ、俺が言いたかったのはさ。この国やべぇからもっと危機感持てって事だぞヘリオス!!」


 急に肩を組まれ、よろめく。満面の笑みを浮かべるケゲン。


「あの神官の野郎。ずっとお前を目で追っていたぜ」


「!!?」


「そんなんで、護衛やっていたって本当かぁ?」


「あ、それは」


 一応、護衛だった。両親はなぜか俺を武器から遠ざけていたのに。父が死んだからか、外に行くからか基本だけ教えられ送り出された。


「――勝手が違うだろ? 別世界だと思いな。そしていつかお前の話も聞かせてくれ。落ち着いてからでいい。簡単な悩み事でもいい。何でもだぜ??」


「は、はい。ケゲンさん。ありがとうございます」


「あーダメダメ。今のアイツがすぐに飛び掛かってきそうだ。もっと男らしく堂々と! 団長思い出せ」


「団長??」


『――お前は馬鹿なのか?』

『おう、ボウズ。こんな話聞いたことあるか?』


 一番、男らしさとは程遠い人物ではないだろうかと俺は思った。最初の印象が強くとてもそうは思えない。熱く語るケゲンを訝しげな視線向けた。


 そして初日早々、仕事が遅いとミケにこっぴどく怒られた2人はまだ出会って一日目だとは信じられないほど仲が深まった。




修正:加筆 22.8.29

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