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「金貨の大量消滅の予感!!」


 ふんっと可愛らしく気合いをいれるセレスティア。仮面を被ると、椅子に座っていた俺の膝によじ登ってきた。ティアは髪の毛を手で後ろに束ねると振り返った。

「む・す・ん・で」

「仰せの通りにお嬢様」

「そこは、お姫様!」

「かしこまりました、セレスティア姫」

 鼻歌を歌い、ご機嫌なティア。足をぱたぱたと動かす。協会にいたころに『おままごと』をやってみたいというティアと最初に演じたのがお姫様と執事だった。そのうち、騎士になったり、王子になったりその日によって役が変わる。完全に役になりきるために酒場『夢の終わり』の常連、元執事に弟子入りしたことがあった。他にもガデス・ハントで働く奥さんに髪の結び方も教わった。

 金色の髪に丁寧に櫛を通す。さらさらで引っ掛かることはない。腰のあたりからウェーブのかかる髪。今日は、三つ編みにすると一つのお団子にする。結婚式や格式高い場で一般的な髪型。清楚で凛々しくすっきりとしたまとめ髪だ。

「いかがでしょうか姫」

 仮面を外し、膝から降りると鏡の前で何度もくるくると姿を確認する。後ろを必死に確認しようとする姿が可愛らしい。

「完璧よ、王子様も気に入ってくれるかしら」

 スカートを持ち上げくるりと一回転する。

「ええ、愛らしい姫様の姿に見惚れない人はいないでしょう」

「本当に? ごきげんよう、王子様。今日の私はどうでしょう?」

「え? 俺が王子様? こほん、今日も麗しいです。セレスティア姫。凛々しく、私には眩しくて直視できません」


 ******


 少し離れたところで3人はその様子を眺めていた。黒ずくめの男は、見てはいけないものを見てしまったと言わんばかりに顔を覆い真っ青にしている。

「まさか、あの堅物の娘がこんなお花畑なんて。坊主もノリノリじゃないか。俺のことを散々おかしな奴を見るような目をしていたが、坊主も大概だ。実は奴にもあんな一面があるんではないのか? 娘は親父に似るんだろう? ありえなくない、ありえなくないぞ」

「はは、英雄殿。あの二人は、幼い時にろくに遊んだことがないようで今頃反動が....つまり、無視してください」

「ああ、もちろんだとも。親友の秘密は一生、墓場まで持ち帰るさ」

「そんな、深刻にならなくても。そんなに衝撃的ですかね」

「ビルード、麻痺しているよ。ボクもとっても驚いたよ。あんなお話でしか聞いたことないあっまーい言葉を平気で口に出すんだもん。ボクですら恥ずかしくて言えないよ。ヘリオスきっと才能あるんだよ。冒険者辞めて、役者目指したら?」

「だめだ。うちの副リーダーを勝手に役者にするな」

 劇場が無事に終わったのか、2人も合流する。げっそりと元気のない魔物狩りにヘリオスが声をかけると恐ろしいものを見るような目を向けていた。

「シッタさん、どうしたの?」

「君たちの劇場が衝撃的だったんだ」

「耐性がないんだよ! さっき、クレーテとの戦いを聞いたけどね。団長さんに抱きつくクレーテのシーンで危うく手元が狂って研究者を殺しかけたんだって。魅了されたかと思って動揺したって言っていたけどただ単に色恋に耐性がないだけだとボクは思うな!」

「本人を前にして言うなポティ」

「ええー。絶対そうだよね! そうだと言ってよー。しるべすたーのボスー」

 おどおどと覇気のない様子をみれば本当にそんな気がしてくる一同であった。ビルードは咳ばらいをすると英雄からポティを引きはがした。

「それで、お友達という方にはいつお会いになるのですか?」

「あぁ....迎えの、馬車みたいのがくるはずだ....」

「うわぁーお! 気絶した!!」

「辞めろ、ポティ。英雄殿のイメージをこれ以上壊すのは許さん」

「えぇー。面白いのに」

 使者を名乗る人物が訪ね、ボゴボゴと音を立てる不思議な乗り物に乗り込む。馬もないのに動く不思議な乗り物に揺られ、たどり着いたのは、まさかのお城だった。気絶したシルベスタインを男二人で運びながら見上げる。地底で一番広い空間に建てられた城。城というよりは赤茶色の要塞ともいえる見た目。目のように見える小さな窓がこちらを一斉にみているような奇妙な感覚に陥る。ふわふわと宙に浮く羽の生えた鉄の目玉。機械仕掛けの鳥。ゴーレムが城中を闊歩する。

「っは、俺は....」

 目覚めたシッタを降ろす。余裕を取り戻した様子で先導する。飛び掛かろうと隙を狙っているポティの首根っこを掴みながらビルードは進んでいく。

「本当にヘリオスより年上なのか? もう少し落ち着け」

「年上だもん! 落ち着くのは無理っ、これがボクだもん」

 言い合いをしながら歩く二人。後ろでは、未だになりきり中なのか、恭しく姫の手をひくヘリオス。


 ――もうちょっと、堂々としないと王子にはなれないな


 人はほとんどすれ違わない。ゴーレムだらけの不思議な城の中を進んでいく。中は光石が灯っているが全く足りていなく薄暗い。抵抗し始めたポティを落ち着かせるための怖い話を語る。ネタが尽きると、英雄に話をふった。

「ふむ。この地底国はどのように出来たか知っているか? 元々は鉱山の街が地上にあった。それが丸ごと地震が起き地下に真っ逆さま。大きな湖に浮いていたんだ。なぜか、全員無事だったが地上は遥か上。そして地下には魔物が出てきた。そいつらや湖の水でなんとか食いつなぎ、地上への階段を掘り始めた。事件を知る人がいなくなっても地上まではまだまだ距離があった。ほとんどの人間はあきらめた。しかし、あきらめずに掘り続ける一族がいた。それが今の王族だ。その一族だけは地上で暮らすことを認められた。しかし、断り地下で暮らすことを選んだんだ。鉱山の街を地下に落としたのは一体何者か? 一代目の王は一体何と出会ったのか。一説には神の怒りに触れたらしい。それは今もなお、わかっていない。地底国の人間は外に出ると不幸に見舞われる。出たくても出れない牢獄のような場所。はたして彼らを怒らせたものは一体何者なのか....」

「ヒェッ!」

「その話本当なんですか?」

「ああ、ただ単に環境が大きく異なるからってだけかもしれないがそれにしては事故や不幸に見舞われるらしい」

 英雄は足を止めると、ポティをじいっと見つめる。ヘリオスの隣まで速度を下げると、何かを話し始める。小さなささやきに耳を凝らす。

「あの小娘、半分はなんだ?」

「まさか、この街の人間だと?」

「成人にしては小さいだろ、もしかしてと思ってな」


 ――不幸や事故....確かに、ポティじゃなくて周りに起こっているけどな....


「お前たちの害になる可能性の高い奴は傍に置かないほうがいい。この世界は意外と知らないことが沢山ある。ちなみに罪を犯した者、決まりを守らなかった者が戻ると更なる不幸が起こるらしい」


 気をつけろという言葉を最後に、先を歩いていく。覇気に満ち溢れた背中。


(確かにこの世界は、古の神秘に、解明されない魔物という存在に神。争いにかまけて、知られていることのほうが少ない)


 自分に首根っこを掴まれながら不服そうに歩くポティの顔を盗み見る。罪や呪いには正反対な明るい性格の女の子。もし、不幸をもたらすとわかったら自分たちはどうするべきなのか。第一に金貨に集中しないといけないのに、ポティのことが気になる。


 ――こんなことなら、周りの国々のことも調べればよかったな



 ******



 通されたのは豪華な客間だった。モグラのような土気色の大人の半分もない小男が入ってくる。ど派手な装飾の施された鎧に長いマントを引きずっている。手を広げると、シッタに手を差し出す。

「ようこそ、シルベスタイン。元気そうで良かったよ。ところでその服は変わらないな」

「ボッズこそ何着目だ。随分と贅沢になったようだな」

 全員と握手すると、椅子に着席する。酒をゴブレットに並々と注ぐと全員に手渡した。ビルードがこっそり度数が高いからと注意する。乾杯をすると、地底国の王ホスは一気に飲み干した。

「国の職人達の素晴らしさを見せびらかしているんだ」

「クック。冒険者が、ちゃんと王様をしているじゃないか」

「はぁ、やらざる得ないんだ。この血筋じゃないと神様はお怒りだ。しかも、規則に乗っ取らないで駆け落ちしたお姫様のせいで、今度こそ地底国は埋まるぞ」

「なにか、あったのか?」

「見逃した兄貴達が死んだ。だから、俺が王様になっちまった。血筋も途絶える寸前」

「ッチ。子供は何人目だ?」

「8人目だ」

「ふん、それを理由に後宮に引き入れまくっているくせに」

「モテてしょうがないのよ。最近もとびきりの美女が俺の後宮に入りたいってな。時期も時期だ。怪しいと思わないかい? シルベスタイン」

 おちゃらけた雰囲気から一転、重々しい口調に変わる。

「貴様は美女なんかに興味はないからな。そいつはどうしたんだ?」

「見張らせている。他にも怪しい奴を見張らせていて人が割かれている。特別捜査官なる者もきているが、尻尾も掴めていないカスだ。金庫の前でそいつと一緒に見張って欲しいわけだ」

 ホスが資料を投げてよこす。一瞬で目を通したシッタに押し付けられ、一枚ずつ確認する。九賢者の一人である人物と、その補佐の情報。今までの犯行の手口。

「とりあえず、カス達に挨拶するといい」

「九賢者達をカス呼ばわりとは....」

「昔の冒険者は気性の荒い奴が多いんだ。特にひょろくて何もできなそうな奴を見ると苛つく」

「それで、俺に対しての当たりが強かったんですか....」

「生きる意志の感じない奴は、あの時代じゃすぐに死んだんだ。発破かけるためだが、今の時代は通じないようだな」

「まあ、おかげで怒りで痛みが気にならなくなりました」

「そういえば、魔物の血には興奮作用があるんだ麻薬のような。香りだけでも、いい感じになるから魔物狩りが狩りだけに浸るのは酔っているのかもしれないな」

 思わぬところで魔物狩りたちの『本当の理由』を知ってしまって微妙な心持ちになった。あまり血を浴びないように気をつけようと決意するヘリオスであった。


 早速、案内された金貨の前で2人の人間が待ち構えていた。


「はじめまして、九賢者が一人。3番目の賢者ドゥル様の補佐官であります」

 深々とお辞儀をした人物の隣、仮面に帽子、首元まで布で覆われ、手袋まで。ひょろっとした長身というだけでどのような人物か見当もつかない。

「どうもぉ~。よろしくね~少年、少女達~」

 軽い調子の男の声。乱れ一つない姿からは想像も出来ないほどの軽薄そうな男だった。

「もし、かして....王太子殿下の、同盟提案時にいた、賢者の1人......」

「あれ、あれ~? 僕のことを知っているのかな。感激だな」

 手を合わせ、左右に揺れる男。補佐官はハンカチを取り出ししきりに額を拭っている。苦労が絶えないようである。

「はぁ~~。面倒なメンバーだ。何か起こる気しかしない」

 シルベスタインが地面に座り込みうなだれている。ビルードがこっそり近づくと耳打ちする。

「金庫の確認を一度するようだ。お嬢様を放り込むってのは?」

「それは....賛成できない」

「犯人たちがどこでばら撒くかわからない以上、今、ここでやっておく方がいいだろう?」

「でも....安全が、奴らがどう出るのか全くわからない」

 ビルードと言い争っていると、王様の補佐官の声が聞こえる。もう、確認の時間が来てしまったのか焦っていると、突然、白い煙が充満した。


「フフ、こういう事よ....」


 ――どこかで聞いた女の声....


「ちょっと、早く、金貨開けない!!」


 カチャカチャと何かを操作する音。目を凝らせば、濃霧の中がわずかに見える。国王の補佐だという男が金庫を開けるための暗号版とやらを入力している。きっと脅されているのだろうと走り出した瞬間、いくらも歩かないうちに何か固いものに足を思いっきりぶつけた。


 ――ッ!?


 柵があったのだ。俺たちは全員柵に閉じ込められていた。警告音のようなものが鳴り響き、一瞬の浮遊感。柵になんとかしがみつくも補佐官にグリグリと手を踏みつけられる。表面の皮が剥けるような嫌な感覚と痛み。結局、限界を迎えて手を離した。ガコンと再び大きな機械音がなった。


「いやぁぁー---!」


 女の悲鳴を聞きながら落下した。何もみえない、暗い暗い奈落の底に。



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