表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/39

36、平凡な冒険者としての最後の日々

 

 いくつもの新聞が床に散乱し、机の上ですら埋まっていた。埋もれていたティーカップを見ることなく探し出すと立派な髭の合間をぬい、一口飲んだ。安楽椅子に揺られながら、老人は何事かを呟いた。メイドは、呼ばれたのだと勘違いして近くに寄る。しかし、すぐに独り言だと気付く。後ろに下がろうと思ったが、噂話好きのメイドは気になって耳を澄ませた。

「....解放を、あの子の能力を解放させよう。全員だ。そうでなくては、いずれ、世界は滅んでしまう。魔物の飲み込まれ、死ぬ。たとえ、危険があろうとも、全世界に知らせよう。能力の解放を許可する。むしろ推奨する。戦う時がやってきた」

 メイドは物騒な単語の連続に目を見開く。話の内容を理解しようと必死に頭を働かせるが何を指しているのか一切わからない。バッと後ろを振り返った老人と目が合う。ビクッと肩を震わせ、後退る。

「手紙だ、聖王宛てに手紙をだせ。九賢者もだ! はやく、急げ!!」

 一体この老人は何者なのだろうか? 偉大な方々を呼び捨てで喚き散らす老人。杖を振り回し、指図する男は何者か....

「か、かしこまりました」

 部屋を出てすぐに人とぶつかりそうになる。老人の孫娘だという少女だ。とても良い性格だとは言えない。横暴で、偉そうで意地悪。しかし、今日は少し違った。

「お前、顔が真っ白だな? あのじじいから何を聞いた? 能力がなんとか言っていなかったか?」

「は、はい。そのようなことを」

「ふ、ふふふふ。やっとだ。やっとだ。ようやく、手に入れられる。金貨をある意味求めるものは多い。そして更なる混乱を巻き起こすとはクソじじいには理解できないようだな」

 不気味に笑う少女の横をすり抜け、メイド長に報告する。これで解放されたとほっと息をついた。


 ******


 地道に依頼をこなし『D』ランクのなりたて。活動拠点であるメルネス城の掃除にきていた。といっても毎日ここまで戻ってきているわけではない。小国の城とはいえ、とんでもなく大きい。図書館もそれなりに大きいが何十と入るような大きさなのだ。ヘリオスはため息をついた。

「専門の人を雇わないと駄目だろうな....」

「こんなこと言いたくないが、そのうち行き場のない人々が増えるだろう。そういう人たちを優先に雇用するつもりだ。まだ、そんな余裕はないけどな」

 魔物狩りが解禁されてそれなりに稼げるようにはなった。だが、宿代に食事、装備に結構消費に手元に残る金は少ない。とても、人を雇えるほどにはほど遠い。それに毎日、依頼を達成できるわけではないから安定しない。

「協会から知らせはあった?」

「いや。特に....重要なことはない。血の儀式が再開されたことぐらいか」

「能力の解放」

「そう、代償だの暴走の危険があるから緊急事態以外の使用は禁止されたんだ。全世界に数も少ないし禁止するのは意外と簡単。大公家にも一つ保管してある」

 俺は掃除用具を財布ほどの布袋にしまう。ビルードから視線を感じ顔をあげる、悩まし気に呟いた。

「装備の新調も急務だな」

 ビルードに自分宛ての手紙を押し付けられ、ひっくり返す。中には『灰と土の調査結果』とある。土には毒花が好む豊富な毒。灰には微量の毒とあった。

「『燃える森』の土に毒性だって。元々、どんな生態系だったのか知りたいって。魔物がいたのか、毒花の群生地だったのか」

「そうなのか? この地を縄張りにしていた魔物狩りがいれば知れるかもな」

 手紙を丁寧に折りたたみ、ポケットに突っ込む。

「ティア達グリーンロブスターを捕まえられたかな」

「わざわざこの地域にもいる安全なFランク魔物を選んだんだ。あの2人なら大丈夫だろ。今頃、こんがり焼かれているさ」

「はは....ティアの炎魔法はすごいからね。手で触れる必要あるけど」

「うーん、俺も儀式をうける必要があるか....」

「いま、その必要は感じないけど」

「そうだよな、限界を感じたらでいいか」

 メルネスから洞窟を抜けた先。西大陸すぐに出迎える大沼は荒れていた。巨大なロブスターが沼の周りに何匹もひっくり返っている。

「うわー、おかえりー! エビちゃんこれで足りる―?」

 ポティが沈みかけている魔物の上で手を振っている。さすが魔物狩りの娘。小さな体躯の割に力が強く、身長を大きく越す槍を使いこなし仕留めているようだ。セレスティアは、すぐ横で、釣り糸を垂らし、魔物を呼び寄せている。

「「十分だー! 出発するぞー」」

 証拠の部位と金になる甲羅を引きはがしていく。袋に詰め終わると馬にくくり付けた。

「大量だな。金貨は見つかったりしないのかお嬢様」

「ない。魔物狩りがわざと金貨に頼る理由がわかったわ」

「魔物呼び寄せがめんどくさかったんだな」

「この、匂い袋で引き寄せられるのはエビぐらいだもんね」

 セレスティアから受け取ると、バックに放り込む。実に冒険者らしい冒険者生活。


 冒険者といえばもう一つ。冒険者の街の夜は一段と賑やかになる。今日は情報収集のため街に繰り出したのだ。もちろん、ビルードと俺だけだ。彼女たちが荒くれものに巻き込まれないようにという配慮からだ。けっしてやましい想いからでは決してない。決して。

「おい、ヘリオス。その握りこぶし降ろせ。今にも殴りこみにいきそうな顔だ」

「なんだよ、それ」

「ということで今回は冒険者御用達、『酔いどれの集まり』だ」

「ああ、看板からして陽気そうなところだね」

 弦楽器と渋い男の歌声が入口から聞こえてくる。中を覗くと、音楽が聞こえるぐらいの囁き声で談笑する客たち。客の平均年齢が高めである。名前のわりに、上品な酒場に立ち止まって中の観察をする。

「なにぼうっとしているんだ? はやくこっちにこい」

 ビルードに誘われ、角を曲がればカウンターが現れた。席に座ったビルードが何かを注文している。観葉植物の葉が肩に触れ、意識を取り戻すと隣に着席した。ちょび髭がかっこいい、壮年のバーテンダー。とんでもないスピードで仕上げると、自分に渡された。横をみればビルードの手には既にグラスがある。

「どうやら、今日の演者が魔物狩りらしいぞ」

「ビルード。ここを知っているの?」

「一回、親父に。夜眠れなくて、連れていかれたのがここだったんだ。老舗の酒場で、伝説の冒険者ウィールの友人が始めたらしい」

「その通り」

 カウンターの奥。キッチンだと思われる場所から、立派なコック帽をのせた男がのっしのっしと出てくる。手には大皿を持っていて、ヘリオスに押し付けた。

「若者は食え。力を付けろ。そして、出来れば早く寝ることだ。俺についてこい? よく眠れる寝物語を歌ってやるよ」

 バーテンダーの男はやれやれとあきれた様子で首を左右に振る。また始まったと呟くと彼を追いかけるように言われる。そして料理の御代は無料だと。コックの男は歌を口ずさむ黒装束の男に近づくと、耳元で何かを囁く。鷹揚に頷くと急に曲調が荒々しく変化した。おたまをマイクの代わりに握ると、大口を開ける。

「「やあ、皆さん! こんにちは!! 今宵もようこそ『酔いどれの集まり』へ。新しい冒険者達に我々の物語をお聞かせしましょう....負傷し、それでも夢をみる1人の冒険者が始めた酒場の名前は『酔いどれの集まり』かの有名な冒険者ウィールの大親友!」」

 ふと視線を感じて顔を上げると、楽器を弾いていた男と目が合った。そして、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。知り合いのような雰囲気を醸し出す男。気まずくて、視線をコックに移す。話の場面は、足が不自由になった店主の最後の冒険に差し掛かっていた。

「「友人の夢を知っていたウィールは、少ない宝をすべて渡した。それだけでは、とても立派な店は用意できなかった。しかし、ウィールの気持ちを無駄にしたくなかった店主はなんとかボロ家を店とした。ウィールを招待し酒を振舞った日が記念の一日目! 仲間たちで賑わい今や立派な老舗の酒場。今や、深い歴史に恐れおののく若い冒険者が立ち入らぬ立派な酒場! 今日まで支えるのは現店主『ヴィクトリー』だー」」

 歓声が上がり、硬貨があちこちから飛んでくる。手を振って歓声に応えるヴィクトリー。

「「わけぇ、新入りだ! よろしくな!!」」

 肩を組まれ胸をバシッと叩かれ、むせる。マカロニが口から出るかと思った。あちこちから、誘いの声が飛んでくる。その時後ろから声をかけられた。歌を歌っていた男だ。

「ヴィクトリー、今日は俺とお話させてくれないかな? ちょっとした顔見知りでなぁ」

「そうなのか? ではでは先輩方と交流を深めたまえ。ああ? なんだって、味が薄い? テーブルに塩があるだろうが、自分で調整しろ!」

 のっし、のっしと立ち去るコックと、どこかに行ってしまったビルード。残された俺は後ろで不気味に笑う男を仕方なく振り返った。

「えっと、初めまして。ではないようですが....ヘリオスです」

「ほう、坊主の名前はヘリオスって言ったか。目は大丈夫か? 周りの皮膚を引きちぎろうとしていただろう?」

 その言葉ですべてを思い出した。皮肉の籠った口調。今はそんな気配がないため思い出せなった。帝都での事件の際、ブルートといたところに通りかかった男。名前もその時言っていたはずだが思い出せない。

「はい、もう大丈夫です、あのシル、なんとか....さん」

「シルベスタインだ。シッタと呼べ。見違えたんじゃないか坊主。ブルートにはまだまだほど遠いけどな。軟弱だった頃とは大違いだ」

 あの日の再現か、よろよろとモノマネのつもりなのか殴り飛ばしたくなる衝動に駆られる。

「殴ってもいいですか」

「度胸もでてきたな、ちなみにブルートなら殴った後で聞いてくる」

「今度からそうします」

「それが俺に対しては正解だ」

 食べかけだった大皿をシッタに奪われ、仕方なくグラスに口をつける。


 ――美味しい、甘い。


「英雄がこんなところで演奏しているとは思いませんでした。俺に話があるようですが」

 シルベスタインといえばクレーテとの決着戦まで残った魔物狩りの英雄の一人だ。

「聞いたのか? クレーテとの争いを。あるかもしれないし。ないかもしれない」

「では、俺から聞きます『燃える森』の魔物狩りの存在はご存じですか」

「へぇ。中々面白い話だね。いないよ。あそこは毒花で守られている。薬草師が好んで出入りしていた。まあ、炎が消えないせいで育たないからアイツもどっかいったんだろう」

「薬草師?」

「魔物狩りと組んでいる存在さ。魔物の毒やら材料を渡して代わりに薬やら狩りに使う毒を貰う。奴らは研究できる。俺らは魔物を狩れる」

「魔物狩りになぜなったのです?」

「楽しいから、それだけだ。お、話を思いついたぞ。坊主は今何やっているんだ?」

「冒険者です」

「ふぅん。それなら....」

 ――アハハ! オホホホ....

 急な女の甲高い笑い声に顔を向ける。2階席。高らかに笑う女は妖艶な深紅のドレス。目を細めると金貨の輝きがみえた。どこかに隠し持っている。

「あれは、最近の新入り。羽振りがいい。支払いに聖国の金貨を使った。ハリ街戻りか、なんかの手先か....」

「金貨を数枚持ち歩いているようですよ」

「へえ、目がいいんだな。そういうやついたな....昔、どこかで」

「女性ですか?」

「いいや」

 一瞬母親かと思って期待した。残念ながら違うようだ。

「それで、俺の話だ」

「あら、さっき店主の紹介していた新人さん?」

 気配もなく、すぐ背後から声をかけられて振り返る。ドレスの女が長い黒髪を横に流し顔を近づけてきた。甘ったるい匂いがする。酒の匂いだろうか?ざっくりと開いた胸元は光が反射してキラキラと輝く。ミケと同じくらいかと思い出していていると、鼻をつままれた。

「いやね、こんなところに私に見惚れない人が2人もいるなんて。賞賛の言葉は期待しないけど返事くらい返して欲しかったわ」

「そんなことないさ。お嬢さん。素晴らしい()だ。随分と鍛えている」

「あら、魔物しか興味のない魔物狩りさんに褒められて嬉しいわ。()()()()()

「それは、どうも」

「歌、素晴らしかったわ。受け取って頂戴」

 ピンッとはじかれた硬貨の光を見て、顔を歪めるシッタ。手の中を覗けば帝国の金貨が輝いていた。

「....どういうつもりだ?」

「拾ったの。私には荷が重いわ、じゃあね」

 スカートを翻し颯爽と立ち去るドレスの女。忌々しげに金貨をポケットに突っ込もうとしていたシッタの手を掴む。

「その金貨、俺にくれませんか」

「これじゃない硬貨一枚と交換だ」

 ニックたちの事件以来の金貨にテンションが上がる。その様子を見たシッタは、ため息をつくと大皿を抱えて、食べ始めた。

「お話ってなんですか」

「ちびちびと飲むな。酒弱いのか?」

「いいえ、明日に支障をきたすと困るので。あと怒られます」

「奥さん厳しいのか、可哀想に」

 憐みの籠った声に無性に腹が立つ。どこか芝居臭いから余計にか。

「違います。シルベスタインさんのお話はなんですか?」

「覚えていて、くれたのかい? 俺の話はそうさな....俺には沢山の知り合いがいる」

 どこか自慢げな視線に、グラスを持つ手が震える。本当にこんな人に友達がいるのか疑問だ。しかし、英雄の一人ともなれば違うのだろう、か?

「地底に住む奴らだ。ドワーフを起源にもつ奴らが住んでいる。モグラみたいなやつだ」

「本当に友達ですか?」

「もちろん。最近の金庫破りを知っているか?」

「ええ、各国が回収した金貨だの、個人の金庫を荒しているって」

「そうだ。最近、予告状が届いた」

「今まで、予告していたんですか? 新聞ではそんなこと....」

「犯人は複数いる。個人の金庫を荒しているのは模倣犯だ。本物は、予告をだす。金庫破りのファビアンと名乗っているらしい」

「狙いは金貨らしいですけど目的はわかっているんですか?」

 コツコツとテーブルを鳴らすシッタ。

「知らん。ばら撒くこと。やつらは奪った金貨を塔の上やら、川だのにばら撒く。ある者は義賊。ある者は、盗賊。ある者は、混沌を狙っていると」

「理由はわからないんですね」

「その通り。『蝶』の真似をしているとか。クレデンテの仕業だの。皇帝の命令だとか。貧困者を救うためだとか巷では様々な憶測が飛び交っている。そして、ショーになっている。それで、余裕のない協会に代わってお前たちを招待しようと思ってね。金貨の専門家。『ガデス・ハント』の君にね」

「今は違いますが」

「お前たちのパーティー宛てに依頼を出そう。護衛の仕事とする。『地底国』までなら難易度は低いから今のそのタグでも受けられる。中身は、俺と一緒に事件の阻止だ」

 彼の中では既に決定事項なのだろう、空になった大皿を押し付けられ歌いだし始めてしまった。バーカウンターに戻ると、そのうちビルードが戻ってくる。軽く、頬が赤いだけで一見いつもとかわらない様子だ。

「それで、ヘリオスは誰と話をしていたんだ?」

「3人の英雄の一人だよ。魔物狩りシルベスタイン」

「嘘だろ、あの人が....シルベスタインだって? 確か、相棒の死をきっかけに辺境伯領から出て、旅をしているんだったか?」

「あー、あの薬草の話の人と同じ人だったんだ」

「薬草? ともかくとんでもなく大物だぞ!!」

「そう、とにかくシッタから明日依頼を受けることになった。地底国で『金庫破り』を阻止せよって」

「わぁお、エビと狼しか狩っていない俺たちに急な依頼だな」

「地底国が保有している金貨の量は相当らしい」

「ほぉ....あわよくば全部浄化できないかね」

「俺たちが強盗になっているよ、それじゃあ」

「ふっふっふ。ようやく冒険者らしくなってきた」

「いや、冒険者じゃなくて盗賊だよ。それに今、全く冒険していないけどね。見た目ではわからないけどもしかして酔ってる?」

「俺の? どこが??」


 グラスを返し店を出る。認めようとしないビルードを引きずりながら街を歩く。店の灯りに蛾が集まり、路上でひっくり返る人。これからが本番だと言わんばかりに活気に溢れる道を後に宿へと戻った。


次回、地底国編....

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ