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 かつて、メルネス国の城があった場所。『燃え続ける森』を抜けた先にある古城。御伽噺の舞台になりそうなその城は今は英雄たちの持ち物らしい。城門からコッソリ城の様子をうかがう。城壁で見えなかったが、中は花が咲き誇っている。恐ろしさを忘れて、一歩踏み出す。花たちに身を隠しながら近づく。

 ――ぽろっぽー

「うわっ!」

 すぐよこに黄色い鳩がいて飛びのいた。鳩はまっすぐにこちらを見て時折首を傾げる。観察されている気分だ。

「はぁ、ビックリした....いいから、静かにしてくれよ。騒がれちゃ台無しだ」

 鳩に向かってしゃべりかける。首を傾げ、人の声がした。

『侵入者』

「幻聴!?」

 確かに、鳩から人の声がした。それも女性の声。その場で、もたついていると、後ろから声をかけられる。男性の声、足音は一切聞こえなかった。

「誰だ、君は。チャイムもならさないで」

 振り返れば、白衣の男。不思議なのは赤以外の様々な色に染まっていること。声に多少、警戒が見られるが余裕を感じる。俺が舐められているのか。冒険者は舐められたらおしまいだ。

「ふん、誰でもいいだろう」

 ナイフを取り出す。軽く脅す程度で取り出したつもりのそれは一瞬ではたき落とされた。呆然としていると、後ろから首を占められる。背が高いことが自慢だった俺よりも大きい人物。

「ルー。俺の仕事だ、わざわざでてくる必要ないだろう?」

 恐ろしい、ごろつきのような人物を想像していた。若い、爽やかささえ感じる男の声。

「はぁ、城主は私なのに召使のように使われたんだ。君の奥さんに」

「ゴホッ、ルーなにを言って」

「まさか、その年になって何もやっていませんとは言わないだろう? それとも、不誠実な男だったのか....籍入れないで、逃げるつもりなんだな。そういうのをなんていうか知っているか?「やり逃げ」だ」

「そんなわけないだろう? 別の問題だ」

「っは、君に問題が!」

「ない! それより、この男どうすんだ」

「一旦、離してやれ。死ぬぞ」

 地面に尻を強く打ち付ける。心の中で全力で突っ込む。首を絞めながらなんつー会話をしているんだよ。正直もう少し聞きたかった。視線を感じて恐る恐る、見上げる。2匹の魔物に睨まれたような迫力を感じる。足に力が入らない。首も痛い。俺はもう終わりなんだ。

「ここへは、なんの用だ?」

「――英雄殿にお目通りに!!」

 涙目で、ぶちまける。大人になってもヒーローに憧れる俺を村の奴らは嘲笑った。吟遊詩人達の広めた新たな英雄に一目だけでも....

「ルー、君のことだろう?」

「まて、ほとんどは君の功績だ。当然」

 何やら突然揉め始めた2人。中々話しかけられず、押し付け合うよう懐かしい空気感。結局、白衣の方が一歩前に出てきた。

「ところで、君はどこのだれが何をした英雄の事を言っていますか?」

 一瞬、言葉が理解できなかった。尋問を受けているような気分になる。ここにはそんなに英雄がいるんだろうか?

「えっと、俺は....」

「もちろん! 俺に決まっているだろう?」

「いや、君ではない」

 突然、登場した男を白衣の男は追い出す。自信に満ち溢れた声に顔が見れなかったのは残念だ。

「もちろん、私の旦那様だわ」

 俺の首を絞めた男の後ろに波打つ金髪の絶世の美女が現れた。なんで、ここの城の人間は気配がないのか。しかし、平然としている男の方にやはり問題があるんじゃないかと勘ぐってしまう。

「それは、絶対にない」

「こらっ、力を使わない!」

 ぷるぷると背伸びをして手で目隠しする美女。絶景である。

「それで、どの英雄に?」


「俺が会いに来たのはもちろん......!リトル..」




 ******




 西大陸。帝国領とは山脈を挟んだ西に位置する。教会の本部、聖王国。地底王国、芸術の国に職人たちの国。個性豊かな小国が帝国の侵略を受けずに各々の文化を築いてきた。争いが少ないのは一歩、抜きんでた聖王国の存在が大きい。そんな小国の1つ。


 がやがやと騒がしい場所。長テーブルで額をつき合わせた4人はこそこそと暇つぶしに話をしていた。


「そういえば、どうしてビルードは旅に出ることにしたの?」

「....なんだろうなぁ。この間も言ったけど帰ると絵を描き続けられない怖さと、師匠みたいに旅に憧れていたってとこかな」

「あー、お師匠さんの絵、色々だもんね!」

「大人しく公国に帰るなんてできないよ。あんなもん見ちゃったんだから」

「本当に」

「うわー、男だらけだと暗ーい! 駄目だな、そんなんじゃ。ということでボクから質問! ヘリオスはどうして冒険者になるんですか!!」

「俺は、幼馴染を見つけないといけないし、それに団長に誓ったし」

「幼馴染?」

「首都の騒ぎで行方不明で....あと2年ぐらいで見つけないと」

「金貨がらみなら金貨を追っていればいずれはってとこだが今やばら撒かれたからな」

「金貨も大事だけど、とりあえず幼馴染さんが急務だね!」

「そもそも、どうしてど田舎の範疇を越えている秘境から何しに出てきたんだ?」

「お使いだよ。村長からの」

「よく首都まで、無事だったな」

「それは、タルマが持っている守りのおかげ? だったかな」

「何を頼まれていたんだ」

「ルーの質問には妙な圧を感じるよ。えっと、繭? 何とか繭の布を大量。海の虫とか」

「海芋虫の繭か。平民では最高品質の布だな。貴族でも特別な服にしか使わない。定番は花嫁衣装。」

「花嫁!?」

「お嬢様、いままでだんまりだったのに。えー。婚礼予定の人がいたのか?」

「いないよ。いるかも知れないけど、わざわざ首都に買い付けに行かない。それぞれの家で引き継がれていたものもあるし....でも、村長の家、倉庫に火事があってなくなったのかも」

「ふうん、息子の花嫁の為の婚礼衣装? 娘ならともかく。村長の息子、つまりお前の幼馴染に結婚の約束みたいのは?」

「はじめから、決まっているっていってた。僕らしかいないから。でもおかしい、彼の年に近い女の子なんて誰もいないよ。年上に男が数人と12歳も下の女の子」

「はじめからっていうと同じかその前後だもんな。必ずしも村の人物とは限らないだろう」

「そうだよな、話をすることなかったし」

「そいつ、女じゃないよね」

「だったら、万事解決だけどね。お嬢様はどう思う?」

「きな臭い」

「俺も、そう思うよ。考えすぎかも知れないけどね」

「わかったぞ。赤髪、そばかす。緑色! だな」

「ふぅーん」


「お待たせしました! 手続きは完了です、皆さんにご紹介できる仕事はFランクのみですね」


 掲示板に張り出された、Fランクの仕事は以外にも沢山ある。そのどれもが....

「冒険者じゃなくてもよさそうだな」

「千里の道も一歩から、だね」

「時々、出てくる言葉はなんなんだ? まあ、いいや。とりあえず....」


 *魔物の傷薬に、飲み物にまで、幅広く使われる薬草の採取!! すりつぶした時の強烈な刺激臭は魔物も逃げるほど。天然ものを愛用する方の定期的な依頼! 注意:栽培では現れない特徴があるのですぐにわかります


「ビルード、君が欲しいだけでは?」

「そんなことない、唯一外に行ける依頼だぞ」

「顔が、にやついているが」

「ふっふ。これはな予防にもなるんだぞ」

「はぁ、やっぱり」


「よっしゃー、行くぞ皆の者!」

「そのセリフ、誰かさんを思い出して嫌」

「――元気かなぁ....」

「え、なになに! 誰のことを言っているの!!」


「たく、騒がしい新人どもだな。その割に年を取っているようだが出戻りか?」

「いえ、全員新人です」

「ほう、それなら先人を思いやる心を忘れずにな。ちなみにここのボスはアイツだ。挨拶は忘れずにな」

「親切にありがとうございます」

「いいや、今俺は最高に気分がいいからな」

 口笛を吹きながら立ち去っていく刺青の男。

「仕事が増えて、活気が出始めた。トラブルがないのが救いだが複雑だな」

「彼らとのいざこざが起こらぬよう最大限気をつけないといけないが」


 西きっての冒険者ギルドがある場所というのが帝国の侵略を退けた英雄の一人。剣王が建国した『レーベラン』の首都である。英雄の愛称からとって『セッザ』という。最近、依頼の減少により、人が少なくなっていたのだが全大陸中から人が集まりだしていた。行方不明の金貨が大陸中にばら撒かれたからだ。冒険者組合は金貨に関わるのは御法度だ。あくまで討伐のみで回収は専門家に別に依頼をする。専門家たちも戦闘がメインではないため自然と冒険者たちに依頼がまわってくるのだ。


 もちろん例外もいる。戦闘から回収、処理まですべてをこなす『ガデス・ハント協会』だ。金貨の引き取り額から彼らに依頼する者は多い。一人一人の戦闘能力が高いからこそ運営できるのだろう。少数精鋭というものだ。選考基準が高く、入りたくても出来ない。ではその他の人たちはどうするのか? どちらかに絞るのだ。金貨か魔物か。はたまた、関係なしに冒険を目指すのか。自由である。

 といってもいきなり伝説の冒険家のように自由気ままに旅にはいけない。そこで、依頼をこなしつつ見識を広めていくというのが冒険者ギルドのはじまりだ。


「俺たちには金がある。だからこの素晴らしい草集めでも生活はできる。無駄遣いしなけえれば」

「うっわー。なんだか成金野郎の最悪セリフだね! 貧しいボクにとってぐさりときたよぅ。一か月前ならビルードをぶん殴っていたかも。自慢かこの野郎って」

 ぶちぶちと、嬉々として薬草を抜いているビルード。まん丸な眼鏡の姿に今だ違和感を覚える。引きこもりだったとはいえ変装なのだとか。

「しかし、協会に頼れない今。情報が欠けている。意外と、巷の方が情報が早かったりするし組織に属していると何かあったときに壁にできる」

 辺りの警戒をしていると突然、ビルードに声をかけられる。その声音が少し緊張感があって、構える。

「まず、ヘリオス」

「うん? どうしたルー」

「姿勢といい、その視線は鋭い。すっかり、騎士のそれだ。怪しい、怪しすぎる。俺たちはもっと普通になるべきだ。客観的にみてどう見える?」

「いや、そんなこといわれても」

 ビルードは自分を指差した。

「眼鏡の成人男性、芸術家特有の雰囲気を醸し出している。性別不明の小さな子を引き連れて仕事をさせている。次! 毒キノコを採取する仮面でローブ。そして明らか騎士らしき青年!! 一体、なんなんだこれは!」

「どうした、ビルード壊れた?」

散らばっていた、みんなが集まり始めた。

「どうみればいい、俺たち使用人? お嬢様? 護衛?」

「ルーの振舞いは使用人には見えない。親子にしては若い?」

「そうだ、もっと一般人を演じる必要がある。こいつらどういう集まりなんだ? 調べられて身元がバレる」

「考えすぎだよ。わざわざ、変える必要ない。えっと、リーダー大変なら代わるけど」

「....大丈夫だ。そんな気がしてきた」

「採取も代わる?」

「いや、ヘリオスが後ろにいてくれた方が安心だ」

「そう?」


「「ヘリオス! 前方、3匹。人間が追われている。狼!」」


セレスティアに腕を引っ張られ、空を見上げる。金色に輝く鳩がセレスティアを通して伝えてくれたのだ。

「分かった!!」

 剣を手に走る。セレスティアの言った通り、2人の人間が追われている。横の草むらに移動すると、通り際に1匹に斬り付け、続いて、並走していた2匹目に斬り下ろす。1メートル先を走る狼に短剣を投げつける。転がった狼に駆け寄ると、剣を突き立てた。

「ふう、大丈夫ですか?」


「あ、ああ。助かった」


 地面に転がるガタイのいい大盾を背負った皮鎧の男とフレイルを腰に差した細身の女性。後ろから駆け付けた3人と合流する。ビルードが代表して口を開いた。


「ルーだ。冒険者だ。一体なにがあったか聞いてもいいか?」

「あ、ああ。俺たちも冒険者だ。ニックとサマンサ。最近等級があがって魔物狩りに出ていたんだが囲まれてしまって逃げたのさ。本当に助かった」

「いいや。かまわないさ。俺たちも仕事があるからさっさと、死骸回収してどっか行ってくれ。集められちゃかなわない」

「すまない。助けてもらった上に。報酬まで....」

「あー、いい、いい。別の機会に返してくれ」

「わ、分かった。ありがとうルー。それに君も。行こうサマンサ」

 お辞儀をして立ち去った2人を見送り、冒険者タグを隠していた手をビルードは下げた。

「つめたーい、ビルードー」

「はぁ、なるべく人と関わりたくないからな。中には新人狩りってわざとなすりつける奴らもいるらしい。個人の特定にそうでなくても等級の一番下に助けられたとか、どんなトラブルに巻き込まれるかわからん」

「考えすぎ」

「でも、今回の慎重さは賛成だよ」

「やつら、なんか視えたか?」

「....さあね、あまりいい気配はしなかった」

 しょっぱなから、魔物に遭遇。トラブルの予感を感じたが宿屋に食事代分は稼げた。ついでにお茶にする分も。こうして、冒険者の一日目は終わった。



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