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3、手探りの彼は帝都を彷徨う

現在(3話)と過去話(4話)でまとめられています。また、順番を入れ替えるかもしれません....


削られた話は今後別の場所で登場します(5話、九賢者について)

 

 俺は目覚めた、金貨の音で。


 そして帝都に来て二か月が経った。田舎者で世間のことを何も知らなかった俺は、多少街暮らしっぽくなりつつあった。白い良い香りのするシャツをつまむ。水洗いだけではなく、石鹸を使って洗っているからだ。村では川の水で洗うだけ。すべて土色の服ばかりだった。年の近いビルードという先輩はまだまだあか抜けないというが、来たばかりの俺をみれば別人のようだというだろう。髪も整えた。騎士団長でもあるブルートは身だしなみに厳しかったからだ。


 俺は今、帝都で『ガデス・ハント』という金貨ハンターの一員だ。といっても下っ端の下っ端。剣を扱えるわけではないから、事務仕事が主である。時々、酒場や情報提供場所に聞き込みに行ったり、依頼書を渡したり、依頼書の制作をしている。時々、受付をすることもある。金貨ハンターというのは冒険者とは違い金貨に関する仕事のみ受け付けている、金貨対処の専門機関である。


 集められた金貨は、地中奥深くに封印されている。世に放たれては危険なものだからだ。金貨は人を惑わし魔物に変え、魔物を呼び寄せ、人間を襲う。クレーテの血の呪いのせいらしい。ルーキスというブルートの部下である彼によると帝国で造られた金貨の半分がいまだ見つかっていないのだとか。製造停止から10年が経った今も探し続けられているのには訳がある。


 俺たちが首都の魔物襲来に巻き込まれた日は、段々と回収が進み落ち着いてきていた時の出来事だった。もう、何年も起こっていない久しぶりの事件に巻き込まれ不運で不吉極まりない。


 ――さて村のお使いに出てきたはずの俺がなぜ、帝都に居座り続けているか?


 タルマが行方不明だからだ。そのままでは村に帰れなかった。狂人という存在も金貨の騒ぎも一切届かない村。誰も信じてはくれず、殺される未来しかない。


 俺はブルートの提案により、『ガデス・ハント』に入った。金貨の専門家についていればいずれ、彼にたどり着くだろうということから。伝手も金もない俺にとって一番、可能性がある場所だったからだ。



 俺の人生が180度変わり、魔物の血を思いっきり浴びたあの日、ガデス・ハントで治療をしてくれた。ギルトは被害者の保護に支援も行っている。それらの金はリッテンをはじめとした同盟国たちの寄付で成り立っている。目覚めたの一週間後。だるいだけで傷跡も何も残っていない体にみて、すべては夢だと思っていた。いや、そう思いたかった。


 残念ながら身に起きたことも、タルマが狂人になって行方不明になったのもすべて現実だった。しばらく精神的なショックから幻覚と不眠に苦しんだ。そんな俺にみんないろんな話を聞かせて気を紛らわせてくれた。腕に抱えた、行方不明者リストを鞄に突っ込み、今日も情報がないか『夢の終わり』という酒場に足を向ける。その道中、ふと、事件から目覚めた日のことを思い出した。



 ******



 キーンという甲高い音が鳴って目が覚めた。ガバリと起き上がると、安楽椅子に揺れる背を向けた男性が目に入った。自分が寝かされていた場所は、信じられないほど真っ白な布の上。ふわふわと柔らかなベット。いつも、藁のベットだったから驚いた。


 ――こんなにも布があふれて、豪邸か何か?


 勝手に豪邸だと思い込んでいるが帝都では一般水準の部屋だった。男に話しかけようと口を開けた。飛び出た言葉は掠れていて思っていたことを話せなかった。


「――あの....」


 再びキーンという音がなった。頭がぎゅっと締め付けられたかのような痛みが襲う。男の頭上に輝く金色の光、それよりも輝く虹色の光....あれは....


「うっ、う、グッ....」


 喉に込み上がる何かを何とか押し止める。焦燥感と不快感が胸を支配する。パシンっと乾いた音が響き、顔をあげれば椅子の背から覗くように大きく振り向いた男がニヤリと笑っていた。


「いいね、珍しい」


 どこか、噛み合わない気持ち悪さ。世界が違うとその時思った。声を出せばその不快感も和らぐ気がしてヒリつく喉を絞り出す。


「何が、ですか....」


「これ、に魅了されないのがさ。珍しいよ本当。才能がある。君に言わないといけないことがあってね?」


 俺に童話を聞かせたように『狂人』という魔物が存在することを教えてくれた。金貨に魅了されるとシャドーという影が人間に憑りつき狂人になるのだという。タルマは狂人化してしまったのだと。そして俺は金貨に魅了されない特殊体質だと伝えられた。



 いきなりの話に頭が追い付かない。呆然としていると椅子に座り直した男は感情の読み取れない淡々とした口調で「相棒が行方不明だ」と言った。


「――まさか、なんですって? 一体どうして....確かに俺はっ!! 居なくなった、ですか? タルマが??」


 確かに、力いっぱい柱に縛り付けた。簡単にほどけるようなものじゃない。ましてや女みたいにか弱いタルマが脱出できつとは到底思えなかった。


「うん、そう。いや、ごめんね。色々、読み間違えていたようだ」


 軽い調子で謝り続ける彼に、唖然とする。別に彼が悪いわけではない。自分に不備があったのだろうから。


「いや、違うんだ。彼らが活動をやめていなかった」


 リッテンという王国の騎士団長であり、金貨ハンターの『ガデス・ハント』のギルド長でもあるブルート・ゴルドンという男。タルマは死んではいない可能性が高いといった。彼が詳しく話してくれた狂人という存在は死ぬと灰のようなものを残すが一切なかったこと。ロープは刃物で切られたあとがあったらしい。


「一体、だれが....」


「その話はまた今度しよう。君の面倒をみてくれる人物がそのうちくる」


 有無も言わせないといった態度で、部屋を出ていったブルート。


 そのあとにやってきたルーキスと名乗る人物は、ブルート直属の部下でありリッテンの騎士、そして副ギルド長なのだという。そんな彼直々に面倒をみられ、戦々恐々とした。日々の体調の確認にリハビリに至るまでルーキスには随分と世話になる。それは帝都を出ることになる日まで続いた。俺にとって一生の大切な恩人ひとりである。


 ******



 俺はその時、気持ちの悪い幻覚にとりつかれて頭を抱え、うわごとを呟いていた。突然、ポンっと頭に重みを感じて顔を上げた。無表情の30代あたりの男性を見上げる。


「――君の担当官になった。ルーキスだ。君の目は1ヶ月ほど寝込んでいる間に完治しているが精神的なダメージが大きいようだ。定期的な見回りと危険を感じたらそこの紐を引っ張るように」


 何がなんだかわからないうちに、手袋を外したルーキスに頬を包み込むように触れられた。


「皮膚を剥ごうとしたそうだな。再び記憶に苛まれる事があるだろうしばらくは睡眠薬を処方する。他に不調なところはないか?」


「――い、え。あり、ません....あの、ルーキスさんですか?」


「はい。そうです。団長から話を聞きましたか?」


「....はい。」


「よろしくお願いしますね」


 口を閉ざし、自分を見つめる目が帽子の男にそっくりなのに気付いた。鋭い視線。静かな雰囲気。


「ブルートさん、そっくりですね」

 無表情であった顔が一気に破顔する。いい年の男性が頬を染め照れ照れと身をよじる姿に全身に鳥肌が立った。

「!!?」

「フッフフフ。まさか、そんな光栄な....勿論私にとって偉大な師であり上司ではありますが団長のようだとは身に余る、いやこの上ない幸せ」


 急に旅芸人の役者のように仰々しく語り始めた彼に急いで距離を取る。今まで、出逢ったことのないタイプの人間ばかりでどう捉えればよいのかこれが世間一般の常識であるのか、俺には全くもって理解できなかった。のちに、リッテン騎士たちの神の如く崇める『ブルート愛』を知ることになるが、それまではルーキスに対して壁を作ることになる。


 語り続けるルーキスを止めるための策はしょうもないものだった。


「あのールーキス、さん....厚かましいとは思いますがとりあえず、食事が欲んですけど....」


「ああ、これは失礼しました!私としたことが。食欲があるのは大変結構ですね。それでは」


 ――な、何とか話を逸らせた!?


 未だに心臓がどきどきする。バンッと幾ばくもしないうちに開いた扉には湯気の上がる皿をもったルーキスの姿。最初から用意されていたのではないかというスピードで戻ってきたルーキスに見守られながら黙々と押し込んだ。喉も通らないかと思ったが杞憂。元々欲していたように匙が進む。意味深げに微笑を絶やさないルーキス。こっちが素なのだろうか?


「えっと、ごちそうさまでした」

「ふむ。では最後にこちらをお飲みください」


 濃い緑色の液体が入ったコップを恐る恐る覗き込む。鼻を瞬間的につまむほどの刺激臭を放っていた。


「ルーキスさん!? これ、本当に口にしていいものですか!!?」


「ええ、勿論です。魔物から受けた傷の特効薬です。これ無しにはハンターと魔物狩りはやっていけないと言われるほどのものです。彼らの常備薬、こんな言葉もありますね」


 楽しげに笑うルーキス。ころころと変わる態度に中々、気持ちが落ち着かなかった。


 ――この人は何がそんなに楽しいんだろうか?


「薬の“材料”を持ってきて下さった団長は私の口に、放り込もうとしたんです。抽出して毒素を取り出して使うものですから、危うく永遠に目覚めないところでした」


 頬を染めて嬉々として語る男に騎士らしい姿は皆無だった。口の中に未だ残り続ける苦味と強烈な刺激臭も相まってしかめっ面でいるとなにかに気がついたように顔をあげた。


「そういえば、当時より大分改善されているんですよ? 私がしょっちゅうお世話になったもので」


 手元の紙にペンを走らせるルーキスの様子を無言で眺める。口を開けば、気を失いかけるほどの薬を思い起こされそうになるからだ。そうでなくとも、渋い味と下に残るざらざら感、刺激臭が漂っている。きっと顔がとんでもなく歪んでいるに違いない。

「......」

「――おっと。私としたことが、お名前を確認するのを忘れていました。」

「俺は....」


口を開いた瞬間俺は気を失った。夢うつつで聞く声はその時は覚えていても、目覚めたときには一切覚えていなかった。俺的にはきっとどうでもよいないようなのだろう。


「―――――。」


 ルーキスは、手元の資料に目を落とすと呟く。

「あぁ、名前をまた聞き忘れてしまったな」


「相変わらずだな、ルーキス」


 無しの少年の直ぐ側に佇み顔を覗き込んだ団長にルーキスは問いかけた。


「団長、彼の名前って確認しましたか?」


「――いいや、どうせなら新しく名付けてやれ。どうせうちに入団することになるだろう」

「あの子、見なかったか??」

「――いえ」

「そうか」


 無表情な団長の顔からは心情も何も読み取れなかった。ルーキスは未だにどう扱えばわからない存在を頭に思い浮かべてため息をついた。


「髭、剃るんですか?」

「ああ、残念ながらそうなった」

「その短剣はなんですか?」


「これは、そこの少年が持っていたものだ。返そうか迷っていてな」


 随分と年季の入った短剣であることが鞘からも分かる。革の表面は剥がれ刻印らしきものは認識出来ない状態だった。


「思い出さないように預かっておこう。少年が聞いてきたら私が持っていると伝えておけ」


「はい、わかりました。お気をつけて団長」




3話以降。話数増えて、どの話か分からない、ので....題名、修正終わったものから長くなっています。

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