31、新たなるはじまり
視点と時間がかなり前後します。そのうち、上手くまとめます....
時系列順
29話傭兵たち〈1〉→傭兵たち〈2〉→28話後半→リッテン騎士〈1〉傭兵たち〈3〉→30話前半→傭兵たち〈4〉→リッテン騎士〈2〉
【視点:主人公達】
「お前たちはいい、小さいからって井戸に突き落とされることはない。それに美男美女どもだ、ボクの一番嫌いな奴ら。でも馬鹿みたいに人がよさそうだな、嫌いじゃない。なあお前たちなら真面目に聞いてくれるか? ボクはずっと、『俺』と言いたいんだ。まだまだ鼻たれ感の抜けないお前ですら、俺と言っていたよな? それなら、年上であるボクも俺といっていいだろう? 今まで、子供の癖にって言われてたけどな、なよっちいお前より年上なんだぞ!」
甲高い声によく回る口、130cmぐらいの身長。いつの間にか飛ばされた洞窟で出会った小男に3人は捕まっていた。セレスティアはうんざりと呟く。
「ビルードの方が年上じゃん....」
「俺も、年相応に見られないんだけどな。童顔だし」
「井戸に落とされた、井戸の癖に下は水じゃない。住人どもが願掛けで落とすという金貨すらない。ただの湿った不気味な洞窟。しかも、人工的な洞窟だ。数時間前までただの洞穴だったのに。そのくせ人はいない。同じ迷子が3人。ボクも入れて4人だ。ポンコツがそろって何ができる? 前金が500シルバーの時点でおかしかったんだ。ローブの怪しい男の事もろくに調べないでボスは進めちまった。ヘリオスって言ったか? どう思う、ボスは間違っている。命は大事だがそれじゃあ、ダメなんだ」
「黒いローブ?」
「いやいやいや、そこはボクを慰めてくれよ! そんな怪しい奴のことを聞くなんてボクの、胸は苦しいよ。せっかく、誰もいない所に来たと思ったのに」
「ポティ、数時間前には違ったのか?」
「なんだ、今までヘリオスしか構ってくれなかってっていうのに。ものすごく今更だ。ボクはお前の名前なんか忘れたからな」
「ポティ。ルーは君の名前を忘れていないよ。話をするタイミングが掴めなかったんだ」
「――それは、ボクも心あたりがある。ボスはボクの声なんて聞こえてもない。女みたいにやかましい奴がいるって。仕方ないじゃないか、ボクは生物学上は女なんだから。格好が男だからって勝手に勘違いしているくせにさ。なんでお前ら、目をそらしているんだ? みんな馬鹿にして口を閉ざせっていうんだ。口枷をつけられたこともあるんだぜ? でもボクのおしゃべりは、そんなのじゃ、治らないよ。しょうがない、ビル―ト、なんだ?」
「どう見ても」
「こら、セレスティア」
「こほん。3人で冒険に行きたいなーって言っているときにここに来たんだ。君は?」
「そんなことか。依頼人の男は現地の人しか知らない井戸の下にお宝があるっていうんだ。それがここに来て金貨だって気付いた。『願いを叶える井戸』の中に入れるのはボクぐらいしか居なかった。それでランプと一緒宙づり。『ボスのクソッタレ、ボクは都合のいい道具じゃない。金貨はボクが探してやる』って」
「ふうん、つまり精霊たちが願いをかなえたってことなのか。冒険に行きたい、金貨を探すって」
「ボクの願いはあくまでクソボスに復讐することであって。金貨は二の次だぞ。その前に奴らと縁を切りたいとは思ってたけどさ。何よりもボスが....」
「これも単純な地下ってわけじゃなさそうなんだよな」
「この間の異空間か」
「無視するなよ、2人だけでおしゃべりしやがって。こっちのべっぴんすぎる奴も仲間に入れてやれよ。若いうちからしわ寄せていると、じじいになったころにはしわくちゃだって聞いたぞ。ごちゃごちゃと言っているけどなここはどう見てもダンジョンだろうが」
「ダンジョン?」
「これが噂の、か。ダンジョンとは強力な魔物が居座ることによって空間や環境が変化した場所だったかな」
「魔物のボスが支配する一帯になる。ボス好みに変わるんだ」
「つまりここは?」
「この街自体、おかしいかった。 金貨を井戸に投げ入れるなんて噂この街に来るまで聞いたことがないし、もしかした住人も魔物だったかもよ」
そもそも、3人は到着早々、こんな目にあっていて『噂』を知らなかった。ビルードは元々、妖精の森なるものがあったのを知っていたらしい。ポティは歌を口ずさみ楽し気だ。
「妖精はたちがわるい! 人間を惑わせて妖精の世界に誘うんだっ、幻術が大得意!! 二度と帰れない国~。それに馬鹿な人間をからかうのが大好き!! ボクは魔物狩りの見習い。なんでも知っているさ!! 妖精はボクらの中では魔物扱いっ!」
「ヘリオス、なんか見えないのか?」
「だめ、血の能力は使うべからず」
咄嗟に、セレスティアがヘリオスによじ登り目隠しをした。
「あー、そうだな。ヘリオスに蜘蛛になって欲しくない」
セレスティアが羨ましいのかポティはビルードの服の裾を引っ張って期待する目で見つめてくる。
「なんだよ、方法があるのか? 出し惜しみするなよ、こんなところぐるぐる、餓死したらどうするんだよ。ボクは、ボスを殴らないと気が済まない」
ビルードは顔を背け、ため息をついた。
「いいのか? 金貨は見つかっていないぞ?」
「それはダメだ。でも、腹が減ったんだ。ボクは、小さいからって飯もろくに貰えない。食べる量はむしろ多いぐらいだ、それにすぐ消化する。お前らの一歩とボクの一歩じゃどれだけ差があると思う? ボスたちは訴えても無視をする」
「なんでそんなとこ、いたわけ?」
ただの呟きに反応されたことに驚いたセレスティアはヘリオスの背中に引っ付いた。怯えた表情でポティを見ている。今まで外を知らなかったからポティのすべてが奇妙で仕方がないのだろう。ヘリオスも反応に心当たりがあるのか苦笑いだ。
「よくぞ、聞いてくれた! よくある話だ。母親が死んで、親父に引き渡された。魔物狩りの親父だ。その親父も死んだ。ボスは、引き取ってくれた。その時はまだ、いい人だった。でも、仕事が、金がなくなると変わっていった」
ボスと父親の話を延々と続ける。ビルードは立ち止まり、振り返るとヘリオスに訊ねる。
「....飯にするか。ヘリオスどれだけある?」
「バックいっぱいに。3日は余裕かな」
「っへ? お前たちのどこにバックやら3日分の飯があるんだ?」
ヘリオスの周りをくるくる移動する。猫のように毛を逆立てるセレスティア。ビルードは注意を逸らそうとポティに話しかける。
(お嬢様、ポティが女だって気付いてから警戒心明らかに強くなっているからな。ボケッと気付かないヘリオスに代って何とかしないと)
「水はこの洞窟ので平気そうだからな、固いパンでも文句言うなよポティ」
「固いって? なにを言っているんだ、こんなの固いうちに入らないよ! 黴臭くないし、なんかいいにおいがする」
目を輝かせたポティは、パンを掲げ今にも踊りだしそうだ。そして空気の読んでくれないヘリオスは女ったらしの気があるようだ。
「ポティ、そうだよね! みんな固いって言うけど、スープなしで食べれるんだからすごいよね」
「ヘリオス....!?」
交代で休憩をし、再び代り映えのしない洞窟を歩き続ける。半日も歩いたことだろうか?下へと続く階段が現れた。
「なんてこった、出口は逆だったか....」
ビルードは額に手を当てて、視線を上に向ける。そのしぐさが大公である父と重なって、胸を押さえた。
「また半日歩くのはきついね」
セレスティアの頭を撫でながら言うヘリオスは言葉のわりに楽しそうである。
「そもそも、反対が出口なんて確証はあるのか? 今まで、同じ道じゃなかっただけボクは嬉しいけどね!」
「なんで、なじんでんのよ」
セレスティアの言葉もごもっとも。敵意がないとはいえ、味方でもないのだから。
「下に行ってみるしかないか」
ビルードの言葉に全員が頷く、そうして降りた先には大きな扉が待ち受けていた。
「なんか、出てきそうな予感」
「この扉開くの?」
ヘリオスは全力で扉を押すが開かない、ビルードも参戦するがびくともしない。セレスティアが加わっても駄目だった。3人は疲れ果て、扉に寄りかかる。
「無理そうだな、はぁ。戻るか....」
チッチッチっと舌をならし、ポティは扉の真ん前で足を止める。
「いいか、いいか。こういうのは特殊な何かが必要なのさ。例えば、呪文、合言葉。高貴なる血とかな」
ポティがペタペタと扉を叩いた瞬間ゴゴゴッと音をたてて開いた。
「ボクって特別!?」
手を合わせ感動するポティ。急いで起き上がると、各々武器を構えた。しかし、その手はすぐに緩む。
黄金の海。金貨の山。遥か小さな丸い天井から光が降り注ぐ。その真下に、大きな大きな繭。3人は感嘆を漏らす。ヘリオスは咄嗟に目を覆い、その場で吐いた。強烈な虹色の光は太陽を直接見る以上に毒だった。扉にしがみつき、目を細める。ここからでも十分感じる。繭の脈動。繭はよく見れば、半分ほどほどけている、半月のようなサナギが微かに見える。
「「おい、見ろよ! お宝の山だ!! ローブの男の言っていたことは本当だったんだ!」」
「ビルード、あの繭。魔物?」
「おい!? 待て、そんな得体のしれないものに触れるんじゃないポティ!!」
2人の静止も耳に届いていないのか、ポティは惹かれるように繭にまっすぐ歩いていく。
「ボクにはわかるよ、これが街を守る妖精なんだね? 妖精族はきっと彼女には逆らえない、ボクも不思議と惹かれるんだ」
ポティが繭に触れた瞬間、光を放ちサナギにひびが入る。そして、下から凄まじい風が吹きつける。蝶のような何かは羽を大きく広げると大量の金貨と共に天井に吸い上げられるように消えていった。
「一体、なにが。起こったんだ....」
口の周りの吐瀉を拭う。扉が歪み、ヘリオスは慌てて立ち上がった。皆の元に急ぐ。地面から水が湧き出し始め、ばしゃばしゃと水を撥ねながら走る。
「ビルード! みろ、壁が! 明かりも消えて普通の岩肌になっている」
「ボスいなくなったんだ。ただの井戸の中に戻ったに違いない! 縮まってきている、急げ、ポティの話じゃ出口が狭くなるぞ」
「ヘリオス!!」
「なんだ、なんだ! わくわくだな、何かが始まった気がするよ!! おーい、早くしないと置いていくぞー」
「そんなこと言わないでッ」
3人が伸ばしてくれた手に飛び込むようにジャンプした。心配は杞憂だったようで、金貨と共に吸い込まれた。
******
【視点:傭兵たち〈4〉】
バタバタと井戸に駆け付ける。傭兵たちの必死な様子をなにと勘違いしているのか、ぞろぞろと後ろについてくる。戻ってきた井戸は金色の光を放っていた。呆然と立っていると井戸の周りが盛り上がる。爆発音と共に後ろに吹き飛ばされ、腕で防御する。石のつぶてが飛散しあちこちを負傷する。壁に頭を強くぶつける。
「ガハッ」
揺れる視界がとらえたのは、空中を漂う黄金色の蝶々だった。段々と人の形をとり、頭に触覚を生やし、背には小さな羽。女神と見間違うほどの美しい魔物がそこにいた。
「ああ、素晴らしいですね。金貨とともに長い年月いただけはある。姿がクレーテ様に極めて近い」
アモルの声がすぐ近くでして視線だけ動かす。
風で吹き飛ばされたフードの下はやけに整った顔の男だった。その両目は金色に怪しく光っている。動けない傭兵の方を見るとにっこりと笑った。
「彼女は願いを叶える妖精。あなたは彼女に何をしたのですか? 正確には叶った者に。貴方への殺意を感じます」
わけのわからない言葉に頭は混乱する。
「どうしましょう? 報酬は誰に払えばいいですか? 生き残りはいなそうですが」
首を傾げる男の言葉に視線を移す。井戸の周りにいた仲間全員が血だまりに沈んでいた。
「残念ですが、依頼失敗ということで。ご苦労様でした!」
楽し気な声音に笑顔を浮かべ、いつの間にか姿を消した男。
空を飛ぶ美しい蝶。鱗粉だと思ったそれは、金色の硬貨だった。帝国の金貨。大陸一美しい金貨。庶民は一生目にすることの出来ない代物。命をかけない魔物狩りにとっても拝むことすらできない代物。僅かに動く手でかき集める。11枚。全員に1枚ずつ。これまで苦労させた分。必ず一枚渡さないといけない。
「....必ず、かならずだ」
俺の分はいらない。俺のせいで、俺は金を得るに値しない人間だ。
金色の蝶が目の前に舞い降りた。その美しさに見惚れる。男が最期にみたのは手を振り上げた姿。
下ろされた瞬間、飛沫を上げ左右に倒れる死体。蝶は空へと舞い戻ると金貨を纏いながら飛び立った。災厄を解き放つために飛び立った。
「うーん、でも少し赦せない気もします。たかが魔物の分際でクレーテ様の姿をとるなんて。でも、まあ。やはり、金貨をばら撒くことがかの御方の意思なのですね。『蝶は羽ばたいた』クレーテ様の探し物が見つかればいいですね。きっと無能な皇帝より、遥かに大陸の隅から隅まで広げてくれるでしょう」
「伝道師様、金貨をばら撒いてしまってよかったのですか? 金貨の意思を集めて復活させるのでは?」
「グレン、それだけではいけません。遠回りになってしまいますがクレーテ様の願いを叶えないと。それに想いを纏い戻ってきた金貨の方が、より力を持っている。人間に復讐することもクレーテ様の願いなんですから」
再び、フードを深く被ると風景に溶けるように消えていった。




