24、憧れの舞踏会
後半過去編です....飛ばしてしまっても大丈夫です
優雅な音楽が流れる会場に、上品にさざめく言葉、豪奢な衣装に身を包み、仮面で素顔を隠す。もっとも華美な彼らの装いとは裏腹に会話の内容は下劣で酷いものだった。勿論、悪いものばかりではないが聞いても半分以上理解できない内容であった。田舎者である自分がはじめて帝都に着て味わった感情が思い起こされた。あの日よりも気が楽なのは心強い味方が沢山いるからであろう。
「ねえ、タリスちゃんはいまいくつなの」
「タリスじゃないわ、代わりにきたの。でも、タリスって呼んで」
「訳アリね? 本当の名前は??」
自分越しに話をしている2人の女の子。タリスになりすましたセレスティアと、もう一人はナイエル伯爵の一人娘であるルアーナ嬢だ。ぶっきらぼうな顔をしているセレスティアだがルアーナと会話を楽しんで?いるようだった。
「――へぇ、あの地域にゆかりがあるんだな」
「ええ、そこでは盛んに栽培されていましてね、ご興味があれば」
乗り気ではなかったケゲンがギラッギラの衣装を着こなし、パートナーを置き去りにして随分と楽しんでいるようである。普段の態度を隠そうともしないケゲン。相手はどうとったのかしきりにご機嫌を伺っているようだ。その様子がとても自然で、自分はさしずめ遠くで見守る......
「やっぱり、俺は騎士かなぁ」
別に誰に聞かせるわけではなかった呟きに両側から返事が来た。
「あの方、すごく偉そうですよね! 完全に私のこと忘れているし。私も侍女になった気分ですよ」
「ヘリオス騎士様、でもかっこいい」
「タリスちゃんはヘリオス君が好きなの?」
「む、なんでわかった」
「だって、さっきからずーっとくっついているよ?」
「ヘリオスはダメ」
「あはは、大丈夫だよ。かっこいいけどさ」
苦笑いを浮かべるルアーナ。容姿は平凡そのものだが、振舞いが美しく目が惹かれる。また会話から聡明さがうかがえる少女だ。緑色のドレスに猫のお面。それに対して少女は水色のドレスに同じ猫のお面でどことなく似ており2人並べば姉妹のようにみえる。
(雰囲気が同じようなものを感じる?)
「ねえ、あのお菓子美味しいのよ?」
「――お菓子....」
お菓子は食べに行きたいようだが、手を離す気配のないセレスティア。
「ルアーナ様と行っておいで。俺はここにいるから」
しばらく迷っていたようだが結局お菓子の誘惑には勝てなかったようだ。2人に解放され少し心細くもあるが会場を見渡す。
「すごいなぁ、全部が輝いている」
遥か高い天井からぶら下がるシャンデリア。天井に描かれた緻密な絵。イアンによれば帝国の歴史がそこに描かれているらしい。
「絵といえばビルードだけど....」
「よぅ、呼んだか? ヘリオス」
狐の面を被った人物が親し気に近づいてくる、よく知った声。
「なん、なんで!?」
「――営業だよ、絵のね。そっちこそなんでいるんだよ」
仮面をずらした素顔はたしかにエレント大公の次男ビルードだった。
「協会の仕事で....前に探しているって伯爵が、ここに来るかもしれないんだ」
「へえ、よかったじゃないか」
「それが、どうも。目が金色だったんだって。しかも娘さんは別人のようだったって」
「なんだそれ? 狂人なのか??」
「それが、理性もあるしわからないって」
「ふうん、あの教団なんだっけ、あいつらがついに成功させちまったってことなのかね」
「「へリオース!!」」
名前を呼ばれて手を振り返す。未だ不安なのか、ちらちらと確認していた。
「お前、彼女と来ていたの?」
「そ、そんなんじゃないって」
「ふっふっふ。俺にはわかるぞ....父さんの血を引く俺を見くびんなよ」
「なんだよ、それ」
「ヘリオスだけじゃないよな? 誰と来たんだ??」
「ゴドーさんと、イアンさん、ケゲンと」
「女性陣は?」
「ナイエル伯爵夫人とご令嬢、ゴドーさんの奥さんと....」
「おいおい、なぜそこで言い淀む」
「うーん....タリスさんって知ってる?」
「薬師のか? あれは違うだろ?」
「そうだよね、えっと秘密にしてほしんだけど団長の娘さん」
「....嘘、だろ」
「その、彼女のことみんなそんな反応するんだけど何かあるの?」
「あー、それは....噂しか聞いたことねぇんだけど..」
――パリンッ....
どこかでガラスが割れるような音が聞こえた。周囲を見渡しても不審に思う人はいないようだ。
「ルー。何か聞こえなかったか?」
「ああ、誰かがグラスを割っただけかと思ったが....気味の悪い話を聞いちゃったからか気になるね」
「ヘリオス、そこのケゲン以外の大人はどこにいるんだ?」
「たしか....」
「「ヘリオス、こいつ誰!」」
ケーキを片手にビルードを指差す少女。ビルードはひざまずき目線を合わせると
「これは、失礼しました。初めましてエレント公国から参りましたビルードと申します。ヘリオスとは友達です」
「む」
「待って、タリスー。あら、失礼しました」
「初めまして、ルアーナ嬢。ビルードと申します。」
「あら、紳士ね? ヘリオスのお友達?」
「はい、先ほど、舞踏会の目的を......」
――パリンッ
2度目の音ははっきりと聞こえた。
「ヘリオス、なんだか音が近づいていないか?」
「はい、俺もそう思っていました」
不安げな表情をうかべるルアーナ。
「あのルアーナ様、タリスの事を見てもらっていてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
「ヘリオス....」
「少し、様子を見てきます。イアンさんかゴドーさんと合流してください」
******
「なんか、不穏だよな。ところでケゲン置いてきて平気なのか?」
「えっと、随分とお酒が入っているようなので....」
「はぁ、あいつは何やっているんだ。随分前に来たけど俺は一杯も口付けてないんだぞ」
2階からホール全体を見渡す、不審な様子はない。すっかりケーキを食べる気を失ったのかセレスティアはルアーナにくっついていた。
「お、ゴドーと合流できたのか、安心だな。えっとケゲンは....どこ行ったんだ?」
「あれ? あんな目立つ格好なのに」
「伯爵の特徴なんだった?」
「赤茶色に緑の目か金色?」
「赤茶色だけでも沢山いるな....おい、あれそうじゃないか」
ルーの指差した方向には、赤茶色の髪に真っ黒な仮面、それに....
「まさか。ケゲン?」
屋敷の奥の扉へと向かって行っていた。
「「キャー----!」」
2人に気を取られ、声の元へと素早く視線を向ける。カラン、カランと音がなる。それは仮面が床に落ちた音だった。
(なにが、起きている....?)
体を硬直させ、地面に倒れる。沢山の人で埋め尽くされた会場の三分の一が倒れた。
カクカクと身をふるわせた瞬間、ヘリオスは確信した。
「狂人だ!」
「まて! 少し様子がおかしい。俺はシャドーを見ていない」
「でも....みんなが、ケゲンが」
よろりと起き上がった人の両目は金色に光っていた。しばらく、ぼうっとしている。会場は皆が息を潜めその様子を見ていた。
そして、空気の読めない目立ちがりが躍り出てきた。中でもでっぷりと体格の良い男に突っかかったのだ。胸倉を掴み、会場全体に響く大声で叫んだ。
「「たちの悪い催しものだなぁ!!それにしてもよくで」」
――ブシャー-ッ....
一瞬だった。ゴトッと首が地面に落ち、天井高くふき出す血。辺りの人は血を浴び、顔は段々と青ざめていく。
狂人はバリッという不快な音をたてて笑った。口が裂け、びちゃびちゃと赤い血を浴びながら奇声をあげる。
人々の唇まで色を失ったころ悲鳴が轟いた。
「そんな....」
逃げ惑う人々、押しのけ、押しつぶし、奇声と悲鳴と怒号。この状況をよく知っていた。あの日と一緒だ。
狂人は、触発されたのか、次々と暴れ始めた。手あたり次第近くの人間を攻撃していく。足が震え、その場から動けない。2階にも、動き出していないだけで狂人がいる。
息が思うようにできない、視界がかすみ、必死にみんなを探す。
みんなはどうなった? いま、どこにいる??
手すりを掴む。
あの時飛び出していれば何か、いいや、その前に気付けたらこんなことには....
「ヘリオス!! しっかりしろっ、まずは呼吸を整えろ」
「る、ルー....ビルード......」
ガシャンと大きな音がそこらじゅうで聞こえる。そして、なにかが焦げる臭い。
「ッチ。クロスに燃え移りやがった」
燭台が倒れ、アルコールの染み込んだ絨毯にも燃え広がり始めていた。
「こんな、ことしている場合じゃないぞ。剣を持て! 俺は残念ながら戦力外だ。とりあえず、奥の部屋に行こう!! やつらは皆、入口に逃げた人間を追っているはずだ」
「う、わかった」
「なるべく、戦闘は回避する。とにかく走れ!」
バシッと思いっきり背を叩かれる。その勢いのまま駆け抜ける、1人は難なく駆け抜ける。
しかし、すぐに次が待ち構えている。足音に反応し、今にもとびかかりそう。咄嗟に判断し剣を構えた。身を低く屈め足を斬り付けるよろめいた所を体当たりで一階に落とす。
「ナイス!!」
躊躇しちゃダメだ。さっきも、ろくに傷が入らなかった。剣を握り直し、階段を降りていく、うろついていた一体を背後から強襲する。突き刺しはしたもののバタバタと動く。
「よいっせっと。これでいいだろう。先に行くぞ」
ルーがどこから持ってきた剣で壁に突き刺した。自身の剣を引き抜き、汗を拭う。
バタバタと音が聞こえ身構える。しかし、煙の中から出てきたのは少女だった。
「「君は!! どうして!」」
「炎で分かれちゃったの、みんなは逃げたよ!」
駆け寄ってきたセレスティアを抱きとめる。
「よかった、本当に....」
「ヘリオス、会いたかった。ケガは?」
「ってこら。この状況でなにやってんだお前らッ!!」
ぎゅっと抱き締め合う空気の読めない2人に拳骨をくらわせる。
「状況を考えろ、こうなったら仕方ねえ。お嬢様ヘリオスの邪魔にならないように付いてきな、さっさといくぞ」
会場の奥へと続く扉をなにかで吹き飛ばしたルー。少女の手を握ると、駆け込んだ。
「急に、静かになったな」
「まるで、違う世界に来たみたい....」
扉の向こうに踏み入れた瞬間、火の音も、焼け焦げる臭いも喧噪も急に遠くなった感覚があった。自然と歩く速度がゆっくりになる。
慎重に周囲を見渡しながら廊下を進んでいく。豪奢なホールと違って素朴な通路。装飾品もなく、どこかにそっくりだった。
「そうだ、あそこ....孤児院?」
「どうした、ヘリオス」
「随分、地味だなって」
「使用人用の通路なんだろう? こんなものだよ....それにしても、どこにいるんだ?手あたり次第、扉確認したいが......安全第一だな。奥に進む」
他とは違う扉が通路の終わりに見える。玄関のドアのように黒くて頑丈そうな扉は違和感を感じるほど浮いていた。
「ヘリオス、この先は....よくない」
「でも、ここにいたら炎がまわってきちゃうよ?」
「お嬢様、俺たちにはこの道しかありませんよ」
扉に耳をくっつけ澄ませる。いつもよりもはやい心臓の鼓動だけで何も聞こえない。
意を決し、ドアノブに手を触れた。
******
686年 6月 ・日 ・・新聞
・・・・・皇帝は、・・を求めている。・・日、・・時。久しぶりの謁見要請があった模様。これは確実な情報であり、城門前には・・・すでに昨日から多数の・・社が、張っており皇帝は夜も眠れないらしい。我らの皇帝陛下の悩みの種を見事解決できる・・は・・・・のか。要請者は、無名の研究員を名乗る者であり・・・・に・・と
濡れた地面にべったりと張り付いた新聞。所々、滲み読めなくなった場所をを何とか解読しようと首をひねる。結局あきらめ立ち上がった。昨日は思ったよりも雨は降らなかった。しかし未だに空はぐずついているそんな印象だ。
「ねえ、これ全然読めないわ。なんて書いてあるの??」
フードを深くかぶった男は、私の声に気が付くと地面にしゃがみこんだ。そのまま無言で固まる男。
「――きゃあっ!」
いきなり立ち上がり驚いた私は尻もちをついた。水たまりにしっかりとお尻がつかりじわじわと湿りだしていく。慌てて立ち上がったころにはもう遅く、丸い2つのシミが出来ていた。恥ずかしさで赤面していると、いつの間にか男がいないのに気付いた。
「あ、あれ? どこに行ったのかしら??」
不快感など忘れ、不安が襲い掛かってくる。あたりを必死に見渡すと意外と近くにいた。露店で何かを買っていたようである。
(そういえば、街をまわろうって約束したわ)
男を追いかけると手には先ほど地面に落ちていた新聞とまったく同じものがあった。疑問に思って新聞を覗き込もうとしたらサッと隠されてしまった。
「どうして隠すの?」
「君には関係ない。知らなくていい」
「そうやって、いっつも、いっつも....」
私に背を向けて男は新聞を取り出し、読んでいるようだ。それも表紙だけでそれ以外をうるさい私に押し付けてきた。
(表紙になにがあるっていうのかしら?)
新聞に彼がとられてしまったかのようでやきもきする。熱心に表紙だけをみている。
「ねえ、どうしたの?」
男は何も言わずに、新聞に火をつけるとゴミ箱にそのまま放り込んだ。
「あ、危ないわッ火事になったらどうするのよ!」
忠告も無視して足早に進んでいく男。ちらちらと位置を確認しながら周りのゴミを使ってなんとか消化する。額の汗を拭い急いで男を追いかけた。




