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23、ダンス相手探しの波乱


夕暮れの開けっ放しの窓から黄金色に輝く鳩が、窓辺に降り立った。ぽろっぽーと鳴き声をあげるとからだを左右に揺らしながら部屋の中を覗いた。主人である金髪の少女セレスティア。その少女の愛おしそうな眼差しの向こうには誠実そうな少年とも言える青年がいた。彼もまた鳩にとっては主人の一人であった。


「それで、舞踏会に行くことになったんだ。仮面をかぶって、きらきらの服を着て、女の人をエスコートするんだって。人探しの為だけど、すごく準備が多くて、俺にできるかわからないよ」


「女の人??」


女の人という言葉に過剰に反応するセレスティア。ヘリオスの腕をぎゅっと握り問いただすような目を向ける。しかし彼には、変わらずに可愛い少女なのか、頭を撫でる。嬉しそうにすり寄る少女に目じりを下げ優しく微笑むヘリオス。


「あ、うん。本当は....ティアを誘いたかったんだけど....だめって言われちゃった。貴族向けのお店に行ったんだけどすごい素敵な服が沢山あったんだ。いつものワンピースも可愛いけど、君に似合いそうなドレスがあって....とてもじゃないけど俺には買えなくって....」


その言葉に飛びあがったセレスティアはヘリオスを押し倒した。にんまりと笑みを浮かべると小さな手で鼻をつついた。


「私にドレスを?」


首をかしげる少女。小さな重みはむしろ心地よかった。視界が金色で溢れて陽だまりにいるような気持ちになる。


「う、うん。きっとどの色も似合うだろうなって。豪華な赤も爽やかな緑も可愛らしいピンクも綺麗な水色も全部。俺は、全然似合わなかったけど。絵本の中のお姫様みたいだろうなって」


「私、お姫様??」

「うん」

「それじゃあ、ヘリオスはなぁに?」

「え、なんだろう? 騎士とかかな」

「守ってくれるの??」


「うん、まだ弱いから。守れるように強くなる....ぅ!」


ぎゅっと首に抱きつかれる。頬がくっつきすりすりと顔を左右に振る。そのたびに髪の毛が首元をくすぐり、奇妙な気分になる。これ以上はなんだかいけない気がして急いで飛び起きた。


「でも私は王子様がいいなぁ」


「王子!? まさか、そんな。俺は田舎者だよ、騎士ですら力不足なのに」


「そんなことないもん! ヘリオス王子様!!」

「はは、名前だけは立派だね」

「冗談じゃないよ! ヘリオスの選んだドレスを着て舞踏会に行くの。かっこいい私の王子様にみんなが夢中になるのよ?」


腰に手を当てて頬を膨らませ怒るセレスティア、ちっとも怖くない。


「それは....ないよ。皆ティアに見惚れるんだよ」


俺が着たって、服に着られている感が否めない。


「そういえば、結局だれと行くの?」

「ああ、それはさっき。第二薬室の女の子だよ。名前は....また、聞き忘れちゃった」


「あの子はタリス・ダチュラン。あの子なら少し安心。でも一応忠告しておかないと」


「忠告?」


急に険しい顔をした少女。彼女から外であった話を聞きたいと言ってきたが心苦しい。自由に外に出ることが出来ずに話を聞くだけなんて....本当なら、セレスティアを連れて行きたかった。知らない者同士、未知の世界を探検するようで心躍る。ふと呟く。


「仮面舞踏会なら、平気そうだよね?」

「っあ!? そうだ!! タリスと私、背変わらないよね?」

「ええっ、入れ替わろうとしている?」


「うん!!」


目をきらきらと輝かせて大きく頷くセレスティア。

「いやいや、無理だよ。ゴドーさんにイアンさんは騙せない」

「協力してもらえばいいんだよ。イアンは面白いこと好きだし、私のことどうでもいいからきっと頷いてくれるよ」

「ダメだって、もしかしたら危険な人が舞踏会に来るかもしれないんだ」

「ドレス着てみたい。ヘリオスとダンス踊りたい......」

「い、いや..でも......」


「タリスのとこ行こう!! きっと研究の時間が取り戻せて喜ぶよ」


ティアは起き上がると小さなからだのどこに力があるのかヘリオスを起き上がらせると引っ張って扉の前まで移動する。結局、彼女の熱意に応える形で廊下に飛び出したのだった。


廊下にある時計を見上げて丁度17時。ルーキスさんがティアを迎えに来るまで2時間。それまでに部屋に戻らないといけない。ご機嫌なティアの姿に思わず笑みがこぼれる、その時、背後からよく知った声が聞こえた。


「やあ、ヘリオス。君はなにしているんだい?」


「イアンさん....えっと今日はどこにいたんですか?」


顔をしかめそうになる臭いがイアンから漂ってくる。思わず質問を質問で返してしまった。


「あはは、なんか今のゴドーみたいだったね。今日は....」


イアンの言葉の途中にセレスティアが割り込んできた。

「イアンっ!」

「これは、これは....セレスティアお嬢様。ご機嫌麗しゅう。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」

ぺこりとお辞儀をするイアン。ティアは腰に手をあててご機嫌斜めのようだ。


(さっきまで口笛吹いていたのに)


「あなたのせいで怒っているわ」

「そのようですね。どうしたらその怒りを収めてくださいますか?」

「私は舞踏家に行きたいの、これからタリスのとこにいくの」

「タリス、ですか? ああ、なるほど?? 身代わりになってもらうんですか」

「ヘリオスと舞踏会行きたいの!」

「そうですね~。実に面白そうです。団長が居ない今チャンスですね」

「そうでしょう?」


はいっと意気揚々と頷くイアン。冷汗をかきながら傍観していたヘリオスは2人にはさまれた。そして引きずられるように地下へと向かうのであった。ティアの言った通りタリスは身代わりを承諾しイアンはやけに楽し気だった。


「ふっふっふ。久しぶりに楽しみですね」

「ヘリオス、帰ろう」

「あ、うん。ちょっと待って。あのありがとうございます。イアンさん、タリスさん!」


――パタンッ


第二薬室に2人が残され静まり返る。


「それにしてもあのお嬢様。ヘリオス君にだけは態度が違うのね。あんなにしゃべるのははじめて見ました」


ずりずりと薬草をすりつぶすタリス。紫色の花を手に持ち重さを図り始めた。


「どうしてすぐに了承したんだい?」

「聞いたことあるでしょう? 例の方の血を引いているって。ヘリオスの影に隠れて私を睨むお嬢様の目がとんでもなく恐ろしかったですよ」

「あーそれは、それは。私は気付かなかったけど....もしかして会話に割り込んだのも嫉妬心からなのかね」

「男でも嫉妬するのですか?」


「今から重症だよね。大丈夫かな....」


イアンは剣を膝に置き、刃を撫でている。


「断ったら殺されますよ。どっちに殺されるのがマシかって問題ですね」

「ああ、団長かお嬢様か」

「イアン卿の答えはわかりきっているので言わなくて結構ですよ」

「いや、考えたんだが。セレスティアお嬢様に殺されて団長が悲しんでくれるのもいいなと思ったのだがどうだろうか」


「その、騎士団上層部の思考はなんです?」


タリスの向ける視線はとても痛々しいものだった。それを物ともせず気持ちよく語り続けるイアン。

「熾烈だったのですよ。まともな思考が出来ないではなにかに依存することが心を保つ方法の一つだった」


「殿下の振舞いのせいではなかったのですか」


「それもありますね。そもそも団長に憧れて入団した者が多いですし....それに殿下の狂気にあてられてこんなになってしまうんですかねぇ」


その言葉に美しい王太子殿下の姿が頭に浮かぶ。


「ゾッとしますね」

「おや、女性陣には人気なのだと思っていましたが」


「私は例外です」


「そうですか、私は見ていてうれしいですけどね? あの殿下すら手に入れられない存在だなんて素晴らしくないですか? そのお傍に居られるだけで優越感に浸れます」


段々とセリフが怪しいものへと変化していくのを感じて終わらせる。


「いつまで、居るつもりです?」

「では最後に一つだけ、お嬢様の願いを叶えて欲しいのです」

「そんなこと言っていました?」


「ダンスを教えてあげてください」


イアンの事だ、なにか考えがあって言っているのだろう。私は渋々引き受ける。丁度、研究に行き詰っていたから丁度いいと言い聞かせた。


「そういえばさっきから気になっていたのですが」

「さっきのが最後じゃないんですか?」


「これは別件です。その紫の花、なんですか?」


「これはジキタリスですね。特に葉に素晴らしい毒性がありまして....あ、勿論花もです。薬にも使えないか今研究中です。最近、どこからかやってきた花なんですよ」


「そうですか、少し見覚えがありまして。もらってもいいですか?」


「ええ、もちろん。誰かに使うんですか? 冗談です、致死量にはほど遠いですね」


口笛を吹きながら作業に没頭し始めたタリスの元を後に、開店まもない『夢の終わり』へと歩き出した。


******


「それで、男に花なんざ貰ってもうれしくないんだが? 花もとんでもなく嫌がっているぞ」

「よく見ろよ、ゴドー」

「うん?」

嫌々花を受け取ったゴドーは目を細め、花を観察する。

「老眼そんなに進んでいるんだね、私は先輩の衰えが悲しいよ」

「うるせえ、なんだったか思い出しているんだよ」

「なんだ、頭の方でしたか」

「その減らず口、縫い付けてやろうか?」

「ご勘弁を、その花、鍋に入れたらおいしくなりますよ?」

「はぁ! 何言ってやがる、こんな怪しいも、の....ってあの時の」


ゴドーが花を握りこみ、へにょりとお辞儀する。やべぇと小さくつぶやいたゴドーは太い指一本で起き上がらせようとしていた。哀れな花をかすめ取ると花瓶に差し込んだ。


「どうやら、毒性があるらしいですよ。それくらいならなんともないらしいですが」


「そういや、今日。孤児院行ってきたんだよな? どうだったよ」


「それが院長と男の子1人いないそうです。それでカギのかかった院長室に侵入したら死にかけの院長とおもわれる人物がいたんです」


「なんだそりゃ」


「さあ、私が斬ったのは偽物だったんじゃないですか? 随分と小さな肉塊になったので、ほとんど魔法で作り上げたものでしょう」


「血の覚醒者か?」


「そうでしょうね」

「ふむ、ジャックのようなシェイプシフターの能力か?」

「ジャック?」

「エレントの名無しだ。蜘蛛になった」

「ああ、いましたね。懐かしいですね。」

「ジャックに後で詳しく聞くとして....」


イアンは紫の花を指でつつく。姿が変わってもリッテンの騎士であり続ける2人。自分とは違い休まず戦い続けている。私は一度挫折した。どこにも負傷がないというのに。いや、心をやられた。こうして時々、剣に触れていないと動悸がして落ち着かない。どうしても元の自分に戻りたくて剣を手放し彷徨った。しかし結局、気付いたら剣を手にしている。


「私の、代償は何だったのか....」


「イアン、純粋な人間じゃなかったのか」


「血の覚醒にほんの少し反応したので違うんでしょう」

「能力は分かっているのか?」

「ただの人間より強靭な肉体ですよ」

「代償がわからないってのも怖いな」


「ジャックのように強大な力を持ち苦しむのと小さな力を与えられ、知らぬうちに侵されているのとどっちがいいのやら」


珍しく弱気なイアンに酒を注ぐ。


「ゴドーはどうなんだ?」


「俺か? 俺は不器用だからよ、覚醒しても能力なんか使いこなせちゃいねぇ」


「なるほど、そういうパターンもあるんですね」

「一番こえぇのは自覚がないやつだ。」

「居ましたね。彼は知らずに、大きな力を使い、死んでいった」


イアンは珍しく話題を変えようとグイッと一気に飲み干す。


「ところで準備進んでいます?」

「はぁ、今度新しく見繕いに行くことになったさ」

「ははは、もう五年も経つのに礼服を新調しなかったのか? 準男爵様が?」


「領地も役職もねえ、ただの名誉だけの元騎士だ。そんなお堅い場所機会なんてあるわけないだろう?そういうお前さんこそあるんだよな」


「あるわけないでしょう? 今度、見に行くことになりました。楽しみですね? パーティー、一体どんなことがおきるのやら」


「また、なんか企んでいるんじゃないだろうな?」


「なぜ、そう思うんです?」

「お前さんには前科がたっぷりとあるからな」

「嫌だなぁ、仕事のついでじゃありませんか? 楽しかったでしょう」


ぶちッと何かが切れた音がした。そして次の瞬間、イアンの足が宙を浮いていた。恐ろしい形相を間近に、イアンは大人しく捕まっていた。


「ただのオークションかと思えば人身売買のオークション会場に、ピクニックと連れていかれたところは盗賊のアジト、航路の確認だと船に乗せられれば海竜退治、殿下に呼ばれたとついていけば勝手に出張が決まっている、ごく最近もそうだったな? 社会奉仕だの付いていった孤児院はクレデンテのやつら。今度はなんだ?? 他に隠していることないよな」


「まさか! 伯爵もどきを探す以外なにもないよ」


隠してはいるが、目的ではない。生真面目なゴドーにいえばルーキスに報告されているのは目に見えている。それではつまらない。それにクレデンテの連中がお嬢様にどんな反応をするのか確認したかったのだ。


「はぁ、ぜって、俺は信じないぞ」


雑に降ろされ、首をさする。ふてくされ背をむけたゴドーにこれまた柄にもなく呟いた。

「本当、申し訳ないね」

聞こえていないのか、わざとなのか背を向けたまま。その日はそれ以上言葉をかわすことなく立ち去った。



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