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22、再び動き出す金貨

 


 月の光が、明かりを必要としないほど大きな窓から注がれていた。闇の中でうごめく3人の人物。金色の両目を輝かせる男は、静かにたたずむ女に向かって鷹揚に頷いた。


「なるほど、わかりました。報告どうも」


 今の体の身元を突き止めた男は、自分の家を訪れていた。厄介なことに貴族な上に妻子持ちであった。それらの目をかいくぐりここへとたどり着くのは私にとって....非常に簡単なことである。特に催眠を得意とする見た目だけの子供と、敬虔なる信者の力があれば尚更。


「いえ....すべてはクレーテ様のために」


 能面のように貼り付けられた笑顔をあげる。


「あなたも素敵な体を手に入れたようだね?」

「しかし、この体はもう限界でしょう。新しいものを探しています」

「それなら丁度いい。この家には妻子も使用人もいる。好きなのを使えばいい」

「ありがとうございます。お言葉に甘え、探しに行って参ります」


 男は書斎机から一枚の手紙を取り出した。生前彼宛てで届いていた舞踏会への招待状の一枚。場所は帝都中央地区、上層にある会場。


「ああ、そういえば。私のことはまだ....行ってしまっていたか」


 妻子とやらにまだ顔をあわせていない。偶然廊下で鉢合わせした彼女がどのような行動をとるのかわからない。この男の血筋ならば生かしておいた方が便利だろうと伝えるのをすっかり忘れていた。まあ、死んだら死んだでどうでもいい。


 何か、使えそうなものがないか探る。しかし、綺麗に片付けられているのか重要そうな書類は何もなかった。

「印章もないか。身分を証明するものがあれば便利だと思ったのだがね? それに男の行方を求める手紙とは。ルアーナ・ナイエル嬢に妻のラリサ・ナイエルも熱心なことだな。我々が一番大切にしている愛を感じますね。愛を一身に受けた身でありながら、心を悲しみですり減らす。私の為に用意されたといっても過言ではない器だったということですね?」


 手書きで書かれた手紙を愛おしそうに撫でる。


「この男が善良で愛を受けてきたからこそ今度は私がそれを....」


 屋敷のどこかで悲鳴が聞こえる。グレンが部屋を飛び出そうとして静止する。


「グレン、今。出ていくのはおやめなさい。今の悲鳴はクリスティーンのものでしょう。彼女がしくじるのは極めて珍しいですね」


「離してください。伝道師様」


「ダメですよ。あなたにとって大切な愛を与えてくれる存在であったかもしれませんが十分貰ったでしょう? 今度はクレーテ様に捧げなさい」


 抵抗するグレンの手を握りしめる。みしみしと音をたて、ぐしゃりと潰れる。ぽたぽたと血が地面に落ちひしゃげた何かから手を離す男。


 痛みは不思議ない。グレンはそれを見つめる。


「私の力ですよ? 痛みをなくせるのです。しかし、クレーテ様の痛みはどうしても取り除けなかった、当時の私は未熟だった」


「伝道師様。クリスティーン様をどうするおつもりですか?」


「んん? 運がよければ戻るでしょう」

「このまま見捨てるのですか?」

「それは....」


 ――バンッ!!


 鍵のかかっていた扉が一撃で破られ、長身の男がそこにいた。


「お、お父様!?」

「まさか!? 伯爵ッ!!」


 剣を手に部屋の中にずかずかと入り込んでくる男。その後ろには可憐な2人の女性が立っていた。


「ああ、愛おしいわが娘、そして妻よ」


 2人は互いに手を合わせ震えている。どうしたというのだろうか? ビシッと剣を突きつけてくる男。空いた手で自身の目を指さした。


「伯爵様ぁ?? その目は一体どうしたんですかねぇ」


 私はすっかり失念していた。ニヤリと笑みを浮かべるとグレンの首根っこを掴んだ。そして男が剣を振り切る前に後方にナイフを飛ばす。瞬間的に気付いた男はナイフを弾き飛ばしその隙に後ろの窓ガラスを突き破った。


「ふう、ここが3階で助かりました。一階だったら追撃してきてましたね」


 窓から飛び出る銀色の光をみてゾッとする。


「おや、警備が1人だとお思いですかな?」


 ひやりと当てられるナイフに両手をあげる。


「おやっさん、死んでないようで安心さ」

「それはどうも、私の知り合いかな?」


「ああ、知り合いの知り合いさ」


 背後に向かって肘をくらわす。しかし大きな腹にダメージを感じられない。振りかぶってきた剣を腕で受け止めると、前方に転がり、距離をとる。どうやら、足が動かない様子の男。これ幸いと近くの扉に逃げ込んだ。



 ******



「「「おかえりなさいませ。王太子殿下」」」


 協会、会長室の更に奥。赤い絨毯が轢かれ立派な椅子が一脚。肘をつき、つまらなそうな顔で、ひざまずく3人の男を睥睨する。謁見の間といっても過言ではない立派な部屋。その中でも一際輝く銀色の髪。


「ほんと、久しぶりだよね。イアン。いつ戻ってきたの?」

「一か月前です」

「そう。それで単に挨拶しに来ただけじゃないでしょ?」

 一振りの短剣を手の中で弄ぶ王太子。

「はい。南地区の孤児院に行って参りました。クレデンテ関連の施設だと思われます。」


「ふぅん。なるほどね....」


「殿下。ミケに対しての処分はどうされますか?」

「泳がしといていいよ、皇帝の息子はさほど重要じゃないし」

「――っ....」

「さて、次の行動は決まったね。引き続き彼らは守ること。ブルートの娘の観察は怠らないこと」

「はい、かしこまりました。国内の方はどうでしょうか」

「あんなの、どうってことないよ。僕の相手じゃないし。それより集中してよね」


「「っは」」


「今度、ゴドー宛てに舞踏会の手紙が来る。それに2人を連れて参加してくれ」


「殿下ッ!? 髪や目の色は変えておりますが顔立ちで気付かれる可能性があるのでは」

「大丈夫でしょ。それにうんざりだよ、そろそろ引きずり出したいんだよね。目ざわりじゃない?」

「2人は餌ということですか」

「ただ黙って食われるだけの餌にしたくないからイアンを付けたんだろう? ねえ、ゴドー? 僕のことを君はよく知っているもんね??」



 ******



 すっかり元の調子に戻ったケゲンが、ビールを片手に語っていた。


「それでさ、院長は言ったんだよ。愛だって。関係ないんだって、まあよく考えれば男女もそうだよな、血のつながりなんてどうでもよかった!」


「あ、うんそうだね。血は繋がってなくてもお兄さんはお兄さんだもんね」

「そうだよな! この間兄ちゃんに送ったんだよ。本当にエルシュっていうお貴族様なのかって」

「ゴホッ、お兄さん、貴族だったの!?」

「まあ、確かに? うちの兄さんはめちゃくちゃイケているし、強いしー? むしろ貴族じゃなかったらおかしいっていうかー?」


「ケゲン、そろそろ。水を飲んだら....」


 顔を真っ赤にして4杯目を煽りだしたケゲン。焦点が定まらず村に酒などなかったヘリオスは今の状態が心配でしょうがなかった。蛇口をひねり、コップに半分の水が注がれたときカラン、コロンと店のベルが音を立てた。

「すいません! お店は今日はお休みで....っあ、ゴドーさんおかえりな、うわっ」

 水があふれ手首にかかる、冷たさに驚いてグラスはシンクにすごい音を立てて落っこちた。

「イアンさんもおかえりなさい。何か飲みますか?」


「ゴドー、なんか自然に酒を出してくれたんだが。君こそヘリオスに何を教えているんだよ?」


「....ゴホン、別に暇だからって教えただけだ」


「そのうち手伝いをさせようなんてことは....」


「お前さんじゃないんじゃからそんなことあるわけないだろう。ありがとうヘリオス」


 2人はジョッキを受けると、一気に煽った。すっかり出来上がっているケゲンに気が付いたゴドーはいつものように諌めようとして止まった。宙に浮いた手をそのままポンっと頭の上に置いた。思わず『殿下』と口走りそうになって咳で誤魔化す。ヘリオスはそんないつもと違うゴドーの様子に違和感を抱いた。


「ケゲンめ。すっかり酔っぱらいやがって」


「イアンさん。どこに出かけていたんですか?」


 孤児院を早々に出て『夢の終わり』というゴドーの酒場に戻ってきた。2人はやり残したことがあるといって深夜になって帰ってきた。イアンは首をかしげると


「ケゲンと仲直りしたのかい?」

「――はい。元に戻りました....」


 なぜかはぐらかされてしまった。


「それは何より、それじゃあ私たちの冒険を話してあげよう」


 期待して、身を乗り出すと、ケゲンを小脇に抱えたゴドーがやってくる。


「そんな大層なもんじゃねえよ、そんなことより俺たちは今度、中央地区で開催される舞踏会に参加することになった」

 寝耳に水な知らせにゴドーを凝視する。冗談を言っている顔ではない。

「突然、舞踏会なんてなぜです?」

「なぁ~んで、俺たちがヒック。貴族どもの、おべっかに....」


 へべれけなケゲンが、なぜか肩を組んできてすごく重い、酒臭い。


「実はな、院長を張り込んでいたんだ。そしたらナイエル伯爵邸に行くもんだからさ。まったく知らない仲じゃねえし、ちょっとお邪魔してな」

「侵入したら、ナイエル伯爵嬢が院長に襲われかけていた。それを切り捨てて、屋敷を見廻っていたら執務室にナイエル伯爵らしき人物がいたのさ」


「たしかに、肖像画と同じ顔だ。しかし両目が金色だったんだ」


「ナイエル伯爵ではないってことですか?」


「それが確証がなくてな。仮に金眼の男とするが、舞踏会の招待状だけ持って行ったらしい。」


「それで、私たちもパーティーに潜入しようってことにしたのさ」


「そうですか、今まで街で聞き込みしても成果がなかったのは....」


「気になるだろ? そこで、君たちには相手を探しに行ってもらう! なんと都合のいいことに仮面舞踏会!! ケゲンの()も、身分も気にしなくていい。ある程度の振舞いは何とかしてもらうが」


(うん? 身分はわかるけど....ケゲンの顔??)


 3人は特別気にした様子のない、だが俺には強調して聞こえた。ケゲンの顔がばれてはいけない理由があるのだろうか?ケゲンの顔になにかある?頭の中にエレント公国での肖像画たちが思い浮かぶ。その中で何かを見落としているようなモヤモヤしたものが胸に広がる。


「連れていける相手なんていないっすけど」


 その通り、目下一番の問題は悩むことじゃない。パーティーの相手を探さなくちゃいけないのだ。


「半分が女装していけばいいんだ。と言いたいところだけどナイエル伯爵夫人たちをエスコートすることになった。この目で確認したいってな」


「ということで、私が夫人を、ゴドーは奥様と、どちらかが娘さんで一人探してきてくれ。」


「ぜってぇ、貴族の女なんてヤダ」


「そういうな、とても聡明で素敵なお嬢さんだったぞ」

「「ヘリオース! 先輩として命ずるー、俺の相手を適当に見繕ってこーい」」


「最低な先輩だな」


「ヘリオス。こんな奴に疲れたらすぐに俺にいうんだぞ」


(でも、嫌な感じがないんだよね。ケゲンにはあの姿があっているというか、しっくりくるというか....)「はい、ありがとうございます。でもケゲンらしくていいと思います。なんかわがままな王様って感じが....」


「「シー――ン......」」

(え?なんだ、なんか言っちゃいけないことだった??)


「ほう、余が王か? なんという素晴らしい響き....!!」


 へんなスイッチが入り立ち上がったケゲンをイアンが素早く手刀をくらわせた。


「イアンさん!? その瓶は何を飲ませているんですか?」

「気付け薬だ、気にせずゴドーの話を聞け」


「いやもう話はおわりさ。2週間後、それまでに大急ぎで準備するぞ、衣装もな」



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