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21、孤児院の不穏な影

後半、過去話です。本編にはあまり関係しません....

 


「というわけでして、大剣を振り回す貴重なゴドーさんの話ですね。ちなみに魔物除けは改良に改良を重ね臭くないものが出来てます。鼻がないものにも対応済みで街道には結界まではいきませんが魔物除けが施されおり、完全ではありませんが比較的安全です。しかし金貨に引き寄せられた上級以上の脅威にはまったく効果がありません」


 街を歩きながら座学をはじめたイアンの話に耳を傾ける。しかし、昔話の際に言葉を挟んできたゴドーが急に静かになり違和感を抱き後ろを振り返った。


「あの、ゴドーさん。どうしたんですか??」

「ああ? なんでもねえよ」

 まるでケゲンが2人に増えてしまったかの状況に困惑する。

(今の話、すごい嫌がっていたし聞いちゃダメな奴だった?でも、どうして突然....)

(はぁ、ケゲンの荒み具合は思った以上だな)


「ということで、孤児院では魔物除けに使われる薬草や回復薬の材料なんかもつくっています。その売り上げと貴族たちや市民たちの寄付によって運営されているということですね。これから向かう孤児院は協会と一切かかわりがありませんけど地域交流ということで赴くことになりました。人材をおくるのも寄付の一環に入ります」


「なんで急に孤児院なんだよ」


「ケゲン君。地域交流ですよ。それに君たちは人との交流が極めて少ないでしょう? 子供というのは非常に愉快な存在です。じつは先日も」


「あー、こいつが語り始めたらすぐに口を閉じらせろ。何を口走るかわからん」

「失礼ですね。せっかく気持ちが高ぶってきたのに」

「テンションのあがったお前が何をやらかすかわからん」

「一体私が何をやらかすと?」


「ふん、あの後魔物の死骸で遊んでいたじゃないか。解体だの血祭りだのとか言って。俺の部下たちは気絶するし臭いを嗅ぎつけた魔物どもが寄ってきたり」


「楽しかったですよね? 先輩」


「いまさら、後輩ヅラするな。ほら、着いたぞ。南地区孤児院だ」



 シンプルな木で造られた建物。大きな柵と門の先に広がる庭。入口だと思われる扉に子供たちと戯れる一人の女性がいた。黒のワンピースに白いナフキンとエプロンをつけた女の人。自分たちに気が付くとゆっくりと顔をあげた。優し気な雰囲気をまとう美人がそこにいた。ミケのような色気溢れる感じとはまた違う可憐で清純な美しい人。


「ようこそ、いらっしゃいました。ガデス・ハント協会の皆様」


 門を開けぺこりとお辞儀をし顔をあげた院長。その笑顔に思わず見惚れる。


「とりあえず、中へどうぞ」


 子供たちに遠巻きにみられながら中に進んでいく。途中、不思議な視線を感じてふりかえれば一人の男の子がじいっとこちらをみていた。


「それでは、早速ですが皆様分かれて子供たちや施設の運営の手伝いをしていただきます。こちらから、ご希望の場所をお選びください」


 クリスティーンをなのる院長が差し出した紙を覗き込む。


 *庭 子供たちの遊び相手

 *花壇 花と野菜の手入れ

 *本の部屋 子供たちの勉強

 *食堂 食事の準備、手伝い

 *施設 全体の掃除


「今日のところ、この五か所です。どこがよろしいですか?」

「それじゃあ、俺はキッチンだな」

「では私はべんき....痛っ、何をする、ゴドー。えーと施設の掃除で」

「....じゃあ、花壇」

「俺は子供たちと遊んできます!!」


 そうして、一人庭に出てきたヘリオスは子供たちに囲まれていた。どうやら、多少警戒されているが特別なにかしてくるわけではない。この年の子供たちにしてはえらく行儀正しかった。少し、寒気がするくらいだ。


「えっと、俺はヘリオス。遊び相手としてきたんだ」


 子供たちの服は清潔で頬もふっくらとしている。環境がいいのだろう。それに加えておとなしい、教育にも力を入れているのか....奇妙な感じもするが


「お兄ちゃん、気に入った。夜までいなよ」


「え? よ、夜まで??」


 一人の男の子、さっき見てきた男の子が服の裾を引っ張ってくる。その場にしゃがむと男の子は小さな声で耳元で呟いた。


「面白いものがみれるよ?」

「うん、金貨と帝王っていう話の二話目知っている?」

「騎士様のお話だよね?」

「うん、夜にきらきら光る虹色の灯り。窓を見て、皇帝が金貨におぼれている」

(俺が聞いたやつの子供向けってことかな? それで、この孤児院でそれがみられるってこと?? でも、それって?)


「新しい人になったの」


「それから、夜はきらきら光る」


「そ、そうなんだ。それを俺が聞いちゃっていいのかな? 金貨だったら皇帝みたいに欲しくなっちゃうかもしれないよ?」


「お兄ちゃんは大丈夫」

「どうして?」

「知らないの? お兄ちゃんは金色の光に守られている」

「金色の光??」

「うん、純粋な綺麗な金色」


「「ヘリオスさん。不都合はありませんか?」」


 子供たちに詳しく追求しようとしたその時、院長の可憐な声が言葉をさえぎった。


「ああ、珍しいですね。子供たちが懐くなんて」


 間近でその笑顔を見て思った。不気味だと。極端に吊り上がった口角、引き下がった目じり、なんだか作り物のような感じがしてぞっとする。院長の顔から視線を外せないでいると裾が引っ張られてハッとする。


「院長様、お兄ちゃん好きです」


 子供たちも好意的な言葉のわりに、冷めた目をしている。

「まあ! それはそれは。よければ子供たちと夜までいてくれませんか? 随分と気に入ってしまったようです。」


「夜、まで、ですか?(明日まで、ではなく??)」


「――ええ、夜。まで、です。お兄ちゃんと一緒に寝たいでしょう?」

「うん、お兄ちゃん。一緒に寝よう!」

「お兄ちゃん、私と一緒に!!」


 今まで、遠巻きでみていた子供たちがすり寄り足や腕を掴んでくる。


「こらこら、ダメですよ。最初にお願いしたのはグレンでしたね。どうかお願いします、ヘリオスさん。この子たちは人の肌が恋しいのです。悲しみはいけません。そうは思わないですか?」


(ひとりだけで判断できない。誰か....って周りに人がいない。バラバラに仕事しているから。まさか、わざとなわけないし。でも、不穏な空気を感じるのはなんでだ?)


 本能的な拒否反応。幾度となく感じる、身の毛のよだつ恐怖。それが今、微笑みを向ける彼女たちから感じた。一歩、後ずさる。しかし子供たちの手に阻まれた。上手く足に力が入らない。院長の手が眼前に迫り、目をつぶった。


「「おい、ヘリオス!! 何してんだよ」」


「「ケゲン!!」」


 一目散に、ケゲンの元へと走り出す。脇目も振らずに全力で。


「どうしたんだ?顔色が悪いぞ」


「いや、ちょっと....」

「お前も、土いじりするか?? ガキの相手よりよっぽどいいだろ? 院長に行ってきてやるよ」

「ちょっと、待って!!」


「どうした?」


「えっと、今ちょっと抜けてきたんだ。休憩。調子はどう??」


「雑草をむしるだけだよ。でも、なんか妙に心が落ち着くんだよな。今までのどうでもよくなったていうかさ。院長さんがな教えてくれたんだよ――。」


「おやおやおや。2人でさぼっているのかい?」


「「イアン(さん)!!」」


 箒やモップを抱えて埃、泥だらけのイアンが近づいてくる。


「まて、お前臭いぞッ!!」


 バッと鼻を抑える。腐臭ような臭いが強烈に漂ってきた。

「どこ掃除してきたんだよ!!」

「どこって......フフ。この施設内さ」

「嘘だッ!! ゲホッ」


「正確には墓かなぁ。何かありそうではあったんだけどさ」


 泥のようなものは実は血なのではないかという気がしてきた。そしてなにかとはなんなのか。まさか掘り返したわけではあるまいし。


「イアンさん、ここを早く、帰りましょう。なにか変です」

「うん? 何かあったか??」


 その時、ゴドーの声が遠くから聞こえてきた。しばらくすると、タオルを片手に激怒するゴドーの姿が現れた。


「いったい、あんなものを料理に使いやがって! ここの連中は気が狂っているのか」

「どうしたんだい、ゴドー」

「なんでもねえ、料理のことをまったく知らねえ料理長と揉めただけさ。見たこともねぇ紫の花を入れたんだよ美味しいっていうがどうだか。あんな毒々しいもん」


「それじゃあ、満場一致で帰ろうか」


 イアンだけは満足げに口笛を吹いた。院長を探すと言っていなくなる。

「おい、イアンの野郎。いったいどこを掃除していたんだ?」

 ――やっぱり、ゴドーさんも気になるよな

 院長には、あれ以降会うことなくその場をあとにした。


 柵の向こうへ消えていく4人の人影を目で追い続ける院長。不気味な笑顔を浮かべると男の子に話しかけた。

「グレン。確かなのですね?」

「はい、院長様」

「それでは伝道師様に連絡を。適正者を見つけたと――。」




 ******


 ****



 ――帝国歴684年 5月??日


 どんよりと重苦しい空気が漂う。月も星も分厚い雲に隠れ姿が見えない。真っ黒な闇夜に溶けるローブ。フードを軽くずらすと叱責がとんだ。肩をすくめ、影の中から明かりを探そうと視線は彷徨った。


「暗いわ....まるで私の......」


 建物を曲がり、陰鬱な気分を振り払おうとした言葉は目の前のきらびやかな光景に消えた。沢山の馬車がその建物の前を止まる。そしてきらきらと輝くものを沢山身に着けた人たちが降りてくるのだ。すごく畏まった歩き方は、彼女にとってひどく滑稽なものに見えた。大きな羽を頭に差し余計そう見えたのだろう。


「なんて、面白い歩き方かしら? ずぅーっとつま先立ちみたいね。鳥さんのようだわ」


 次から次へと入れ替わる馬車。色とりどりの光が反射する。その中でも金色は特別な色に見えるのは贔屓だろうか? この人の流れを見ているだけで楽しかった。


「ねえ、これを見たかったの?」


 目の前のローブの男に話しかける。男は振り返ると、指をさした。


「あれを見習え、お前もあの振舞いができるようにするのだ。粗相のないようにな」

「ふふ。冗談でしょう??」


 男からの返事はない。本気で言っているのだろうか? この私に滑稽な人の真似をしろと? しかし彼がそういうならば私は叶えないといけない。


「あの建物は帝都で一番有名な社交ホールだ。王室の持ち物で貴族に貸出している。豪華さは帝国城に匹敵るといっても過言ではない」


「あなたは行きたいの???」


「あこがれない者はいない。ここに初めて来たとき私がひどくちっぽけな存在だと気付いた。私は今まで小さな世界で視野が狭かったのだと」


 珍しく饒舌に語る内容が私にとってナイフを突きつけられているようなそんな感覚だった。

 男の手首を掴んでいた手が無意識に緩む。手を振り払った男。少し赤くはれた手を隠し沈黙を破ろうと口を開く。


「ねえ! それなら、あれは何っ??」


 指さした先、建物のきらびやかさなど届かないであろう下に僅かな光をともし泥まみれで地面を掘り進める者たちの姿。よく見ようと、柵に身を乗り出す。

「――道を造っているんだ」

「道??」

「沢山の人を運ぶ乗り物だ」


 それきり、黙ってしまった男はまたどこかに向かって歩き始めた。私は段々と近づく城が気のせいではないと予感した。豪華な建物を通り過ぎたとき、ほんの少しだけ憧れてしまった自分がいた。この先、嫌でもみることになるというのに。男と私の間を吹き込む風は妙に湿っぽくて雨の訪れを予感した。それも大きな大きな雨の予感。



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