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19、彼らの活動理由

 


  黒いローブに身を包み、時代錯誤な暗い階段を下っていく。所々に設置された松明では足元が照らされるわけもなく心もとない。わざとそうしているのなら文句は言わない。暗がりに落ちていくような感覚は気に入っている。闇の中というのは私にとって精神を落ち着かせてくれる安寧の場所だった。冷たくて、静か、闇に浸っていると何かが見えてくる。


「......合言葉を」


「黄金の女神の願いはわれらが願い」


 灯りを受け取り、開けた場所にでた。同じようなローブの集団がわらわらクレーテ像の前で祈りをささげる。ただ一人、突っ立っているローブの人物に近づく。


「こんにちは、活動の進捗状況はどうですか?」

「やあ、その声は。順調ですよ。ついこの間、体を入れ替えることに成功いたしました」

「!!?そういえば、そうですね。気づきませんでした。身長も声もまったく違うというのに」


「....祈りを捧げない者を私だと認識していたのでしょう?ええ、前の小男もよかったのですが。さらなる適合者を見つけてしまいました。心を随分とすり減らした可哀想な男」


「それは、おめでとうございます」


「ありがとうございます。人の身は非常に脆い。この体は若いのでまたしばらく持ちますね。しかし、一点。面倒なことがありまして」

「それはどのような?」

「どうやら、貴族の男のようなのです。あなたはこのような顔に見覚えはありませんか?」


 フードの中にあった顔はよく見知ったものだった。咄嗟に、顔をそらしてしまう。行方不明報告書に掲載された特徴、肖像の通りだったのだから。


「っ!?い、いいえ。とても、顔の整った人物ですね」


 騙せたとは思っていない、しかし男は興味なさげに

「顔の美醜など、どうでもいいのですが面倒です。外のことに詳しいあなたが知らないのならそう気にしなくてもよさそうですね。祈りを捧げますか?」


「ええ」


「では、灯りをもらいましょう」


 男の手に灯りが渡った瞬間、光が消える。


 そして、クレーテ像の輝きがより一層増す。


 思わず感嘆が漏れる。今、この瞬間。自身の生命がクレーテに捧げられたのだ。クレーテを復活させて愛を求め嘆く彼女に『我々の愛』を捧げ、慰める。


 あの悲しみに暮れる悲壮な姿を一度でも見てしまった人間は、彼女の為に尽くそうと思うのだ。


 脳裏にこびりついて離れることのない、クレーテの嘆き。悲しみはやがて怒りとなって、憎しみへと変わる。そして最近また変化したのだ。後悔。クレーテの黄金の血を摂取した我々には思いが伝わる。クレーテ様の願いこそ我々の願い。



 となりで、クレーテ像を眺める男を盗み見る。血を直接、輸血しても狂わなかった特殊な体質の人間。片目がつぶれることなく両目は黄金に輝いている。クレーテに一番近い存在。


(残念ながら、私に直接、体にいれる耐性はない。ああ、厄介だな。しかしこれも巡り合わせか?)


 しばらく、暗闇の中で耳をすませる。強い悲しみ、身が焦がれるような思い。そして、流れ出す黄金の血と痛み。


「もう、いいのかい?」


「もうしばらく、祈っていたいところですが失礼します。ところで、首都での布教活動の折、捕まえた女はどうでしょうか?」


「うん? ああ、彼女は素晴らしい人材だよ。まるで、祝福を受けているが如く適正能力。彼女のおかげですべてのクレデンテの信者たちがその身に黄金を宿せそうでね」


「それは!! 貴重なッ、そのような人間が存在するとは」


「うん、いきなり黄金の血へ入れ替えるのは大変だから一度彼女の血に適合させればいいってことだよね。彼女だけじゃ負担が大きいから同じようなのが欲しいよね。血族がいないか、調査中だよ」

「私の力が必要になりましたらいつでも」

「うん、その時はよろしくね」


「――はい!!」


(すべての人間がクレーテ様と血を同じくし思想を共有すればそれ以上の平和な世界は存在しないだろう。簡単に死なぬ体、それだけでもとんでもない価値があるのだ)


「どんなに素敵でしょう?すべての人間がクレーテ様と同じ存在になる。これでクレーテ様も悲しみに暮れることはなくなるはず」

「ええ、そうですよ。クレーテ様を搾取し続けた愚かなる人間、研究者は我々にいいました。『世界に黄金はただ1つしか存在できない』そんなことはない。我々が成し遂げてみせる。絶対に同じ境地に....!」


「伝道者よ。髪の毛が....」


 フードからのぞく赤茶色の髪が金色へと変わっていく。フードを外した男の髪の一部が金色に染まっていた。


 それに気付いた信者たちが伝道師の元へと集まり口々に賛辞をおくる。

「おめでとうございます」「素晴らしい」「クレーテ様万歳」「伝道師」「我々に応えた」「クレーテ様・・・」「おめでとうございます」「おめでとうございます」


 不気味なさざめき。


 伝道師は笑顔を浮かべる。


「ありがとう、みなさん。さあ、祈りましょう。クレーテ様の悲しみを共有し身に宿し鎮めるのです。そうすれば不死という恩恵を授かれるでしょう!」

「クレーテ様!! われらも共にあることを!」


 祈りの言葉の合唱を後にし、ローブを脱ぎ素知らぬ顔をして街に溶け込む。


「――我々は極めて近くに存在するぞ、ただ人よ気をつけよ」



 誰に聞かせるわけでもなくぼそりと小さく呟いた。





「――あーあ。どうすんだよ、これ」


 ローブの人物が出入りしていた施設の前で、隠れ潜んでいた男はパンを片手にどこか他人行儀に呟いた。長剣の刃をなぞり、刃先までたどり着く。


「証拠としては十分? 殺すか、それとも巣窟の壊滅?? まあ、ここも入口の一つでしかないんだろうけどな」


 そのとき、頭上に光が差し込んで次の瞬間、ばらばらと生臭いものが降ってくる。バタンッと再び暗闇に戻り、頭の上にのった魚の骨をどける。


「自分のゲロのほうがまだマシだよ」

 手を伸ばし、ふたをあけてゴミ箱から這い上がる。軽くため息をつくと、近くにあった水たまりに手を突っ込んだ。それを躊躇なく顔に塗りたくる。


「これは、ゴミ箱の方がまだマシだったな」


 ずるずると足を引きずりながら、ローブの女が出てきた建物に近づく。

「ミケの奴が出てきたときは地下だったはずだな? さてどうかなッ」


 扉の向こうは、ただ通路があるだけだった。


「やっぱりか、妖精族の類だかなんだかしらんが別空間という御伽噺チックな所に隠れやがって。そのせいで未だに捕まえられない」


 近くで悲鳴がして、後ろを振り向くと震えている女性がいた。


「「ふ、不審者!! け、憲兵・・・っ!」」

「怪しいもんじゃねぇよ。嬢ちゃん。邪魔したな」


「は、はぁ・・・よかっ、く、臭いッきたなッッ!?」


 人々に遠巻きにされながら街を適当にうろつく。浮浪者すらも脇によける。

「うん?帝国の奴らはしんせつだなぁ。道を譲ってくれるなんて」


「あの、おじさん。どうしてあんなに臭いの?」


「見ちゃダメよ、指もさしちゃいけませんっ。ほら行くわよ」

「なぁーるほど。親切にも子供が教えてくれたわけだ」

 やっと、理由に気付き納得する。それならばと、川を探してさらにさまよった。




「『不審者情報。男性、背は190cmほど、汚物のにおいをまとい街を彷徨う厄介者。さらには帯剣しているとみられ、いつ暴動を起こすかわからない。特別なにかを起こしているわけではないので憲兵は動いてくれない』っと。確かにいかにも危険そうな人物ですね。」


「――あ、ああ。」


「最近、上の空ですけど。大丈夫ですか?」

「うん? ああ、平気だよ。旅の疲れがまだとれていないだけだ」

「なら、いいですけど」


 デスクに足をのせ天井をぼうっと見つめるケゲン。これ以上どうすることもできなくて作業に取り掛かった。


「『不審者情報。すごく、臭いおじさん。目は緑色で、大きくて強そう。髪の毛は、もじゃもじゃしている。すごく汚くて色はわからない。川に身投げする』なるほど? さっきと同じ人かな? それなら付け足して....あ、こっちに報奨金依頼になってるものが。それじゃあ、まとめて酒場と掲示板に貼り付けないと」

 情報をまとめ、他の依頼と一緒に手に抱えチェックをもらう。今日は珍しくミスがなく浮かれていた。そのせいで気づけなかったのだ。部屋を出た瞬間、何かにぶつかり書類が何枚か宙に舞った。

「うわっ、ごめんなさい。大丈夫で....」


 ぺらりとぶつかった人物のすぐ横をとんでいた依頼書。そこに描かれたまったく同じ顔にヘリオスはその場でフリーズした。


「おい、気をつけろよ。少年」


 ガシッとその人物の腕をつかむと、

「もしかして、ものすごく臭いおじさん、さんですか?」


「....はぁ?」


「これです、見てください!!」

「おぉー私にそっくり。しかも昨日の私だね。」

 すごく感動しているおじさん。自ら出頭しにきたんだろうか?

「懸賞金かけられているじゃん。アハハ、おもしろいなぁ」


「(本人だよね?)おじさんはどうしてこちらにいらしたのですか?」


「それは、今日からここに配属になったからさ。部長さんいるかい?」

「えっ!?」


(懸賞金かけられた人なのに?本当に??)


「ところで、坊主の名前ってなによ?」

「ヘリオスです」


「へぇ、ビンゴ!もう一人の坊主と一緒に私が面倒を見ることになったからよろしくな。えっと、ヘリオスだっけ?」

(懸賞金をかけられた人に!?)


「私の名前は、イアン。団長殿の右腕にして長らく休暇を楽しんでいたイアンだ。ということでさっさと、ミケの元につれていってくれるかい?」


 なぜか、剣を取り出し刀身をなぞりはじめたイアン。逆らえない圧を感じて急いで案内する。そして手配書も忘れずに回収する。




  ヘリオスが作成し用のなくなった手配書を机の上に投げると、ふてぶてしい態度でケゲンは向かいに座る人物に声をかけた。


「それで、その変人が俺たちの顧問的存在だと?」


「そうだ。よろしくケゲン。君たちは事務仕事に向いていないとか。私がいる場合のみ外での活動を全面的に許されたんだよ」

「本当か!!」

「ただし、私の稽古をクリアしたらだ。どうだ?」

「もちろん、やるに決まっているだろう!」


 身を乗り出し、さっきまでの無気力状態が嘘のようにやる気に満ちている。ヘリオスはうれしくもあったが複雑だった。


(いつもなら確認するんだけど。最近は、自分しかみれていない気がする。別に俺は反対はしないし、いいんだけど。)


「乗り気だね。外で活動したい理由があるのかな? ここは絶対の安全といってもいい場所だよ?一歩出ればいつ魔物が襲来してもおかしくない」

「ふん、別に。ここが窮屈なだけだ。制限ばかり....」

「だから、娼館に足しげなく通っているのかい?」

「それは関係ないだろう!?」


「まあ、個人の自由さ。それはどうでもいいとして....」


 なぜかまじまじとケゲンを観察するイアン。


 先ほどから彼会話には緩急があって妙に疲れを感じていたから解放された気分だった。それにしても、なぜ突然、顧問という人が付いたのか疑問だった。しかも、会長の右腕だったすごい人。これまで、慣れるのに必死で考えることはなかった。待遇が良すぎるのではないかと。俺自身は短剣もろくに扱えない、金貨のことも全然知らない田舎者。この待遇が普通なのかは判断できない。


「とりあえず、明日から稽古場だ! 遅れるなよ!! 今日の仕事おわり、解散!!」


 どうやら、いつの間にか終わったようだ。短い返事をかわし、ケゲンは今日もどこかに出かけに行くのだろう。

「そうだな、俺は....」




 黄金色の鳩を膝に乗せなでている金髪の少女セレスティア。自分に気付くと満面の笑みを浮かべて迎えてくれる。そして、思いっきり抱きついてくる。これが彼女の歓迎の挨拶だった。


「ヘリオス!!来てくれたの?」


「うん、元気にしていた?ティア??」

 団長の娘である彼女はなぜだか協会の人々に避けられているらしい。こんなに可愛い子なのにいつも疑問だった。


「ジョーンも元気だった?」

「ぽろっぽー」

「元気だって!!」


 無邪気で明るくて、人々に愛されてもおかしくないのに本当にわからない。そして自分がものすごく懐かれている理由も疑問だった。一度聞いたことあるが『大好きだから』と理由なのかよくわからない返事が返ってきた。


「母さんへ手紙届けられた?」


 彼女の血には特殊な能力があるらしく血を与えた動物は自由自在に操れるのだとか。そして頭に思い浮かべたことを読み取る能力もあるらしくそれを頼りに手紙を届けてもらったのだった。


「うん、とっても遠いところなのね。なんかね、村の人たちがジョーンをみて騒いでいたけど渡せたよ。ヘリオスのお母さまは少し驚くだけだった」


「まるで見ていたみたいだね」

「見たよ。ジョーンの頭の中はヘリオスより簡単」


 いつの間にか膝に乗り、手紙を覗き込む少女。ふわふわの髪の毛はお菓子のような甘い香りがする。


「へへ、くすぐったい。ヘリオス」

「うわっ、ごめん!!」


 いつの間にか、髪の毛に顔をうずめていた。あわてて、距離をとるとティアの手が頬を撫でた。

「いいよ、ヘリオスの好きにして? 触りたかったら触って??」


「だ、大丈夫。て、手紙みないとっ」


「うん」

 セレスティアはすぐに前に向き直り胸をなでおろす。さっきの俺はいったいどうしてしまったんだ。無意識の行動に羞恥心から顔が熱くなる。


「えっと『正直な連絡に感謝する。すぐに帰れない事情が出来たと村長には伝える。詳細は知らないと。後日、唯一の道である橋を壊すことにする。3年。3年だけ時間を稼げるだろう。それが限界である。2人が生きて戻れることを祈る。その時はすべてを話そう』」


「とってーも、堅い文章だね?」


「うん、母さんも父さんもこんな感じだよ。話ってなんだろう。すごく気になるけど。もう手紙をおくってくるなって書いてある。ジョーンが目立つって」

「可愛いのに」


「うん、とっても可愛いのにね」


「ヘリオス。それってジョーンに言っているの?」

「え、もちろんっ」

「どうして、私を見ているの??」

「えっと、かわいいから?」

「私もヘリオス可愛い!大好き!!」


 ぎゅっと抱きつかれ、人形のようにかわいらしい少女の背を撫でた。


 彼女といる時間はあっという間で、すっかり日の落ちたころルーキスさんによって引きずられていった。



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