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14、公国の人々

 


 翌日、横柄に高級ソファに腰掛けるコドーの姿があった。ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ対面の人物がまるで弱みを握られて脅されているかのような構図であった。きょろきょろと上目で上等なローブを羽織った50代ぐらいの男の挙動のせいで余計、何か犯罪に加担してしまったかのような気持ちに苛まれる。ガシッとコドーは両隣の青年の肩に腕を乗せる。思わずびくりと反応してしまい悪のボスに怯える手下のような気分だった。一体どういう状況なのか、聞き出したいヘリオスは先隣のケゲンに話しかけようとしたその時、目の前の男が口を開いた。


「――盗聴は平気そうですな。さて、ようこそ。エレント公国へ。お会いできてうれしいですよゴドー・タパス。しかし今日は....ガデス・ハント協会の方ですかな? 初めまして、ヒューイ・エレントだ。よろしく、若き同胞よ」


「???(大公さま!?)」


 先ほどまでと打って変わって威厳に満ちた姿ににこやかに握手を求めるヒューイという人物にどうしたらよいのかわからずに固まるヘリオス。


「お初にお目にかかります。ケゲン・アギットです」

「ヘリオスです。よ、よろしくお願いします」

(て、手汗とか大丈夫かな。そ、そもそも。挨拶あれだけでよかったんだろうか? 正解が全くわからない)

「本当に久しぶりですね。殿下」

「ハハ、ぜひ昔のように呼んでください。リッテンとの同盟は解消していないのですから。さて、本題に入る前に言わなければいけないことがありますね」


 急に顔をこわばらせる大公の妙な緊張感に身震いする。

「昨夜....」


 たっぷりと間をもたせた大公はようやく口を開いた。

「申し訳なかった。憲兵たちが君たちを殺人鬼だと勘違いして捕縛しようしたそうだな。最近取り締まりを強化している為にな。長い時間かけて来てくれたというのに早々に不快な思いをさせてしまい、貴殿らに改めて謝罪する」


 わざわざ椅子から立ち上がり頭を下げる大公に慌ててゴドーが立ち上がった。


「ヒューイ。大公がそんな簡単に頭を下げねえでくれ。彼らはちゃんと仕事していたんだ何にも悪くはねえよ。人を見かけだけで判断するのはよくないが。とにかく座れ、お前さんは暇じゃないんじゃろうが」

「君は相変わらずでうれしいよ。息子たちが少しでも政治に興味があれば私も手を抜けるんだが本当にどうしようもない。長男は迷惑をかけていないかな?ケゲン君」

「兄から大変世話になっていると聞いております」

(ケゲンのお兄さんって最前線にいるっている?大公の息子さんも協会の人なのか....)

「ならいいのだがね。さて、本来なら翌日私の城に来てもらい手紙を受け取る予定だったが用事は今日済ませてしまうとしよう。朝早くから押しかけてすまなかったね」

「いえ、前線より調査結果です」

(ミケ部長からエレニア公国のヒューイ宛てってこの方だったんだ)

「やあ、どうもごくろうさま。君たちはしばらくここに滞在するのかい?」


 大公は、思い出したようにぬるくなった紅茶を一気に飲み干すとちらりと視線が合った。何故か、ゴドーにどつかれ横を見れば紅茶を飲んでいるだけだった。それに続き、ケゲンがいつもとは違い畏まってカップを持っていた。

(???)


「その予定ですな。実は、ヒューイ殿の次男坊に用事があってな」

「ビルードにですか?それはまたどうして」

 よっぽど、意外な人物だったのか。テーブルのお菓子の上をさまよっていた手が止まりゴドーを凝視する。ヘリオスには心配そうな顔に見えた。

「報告書にもあるとおもうが、個人的な人探しの最中でね。そいつの顔がわかるもんを手に入れたいってわけさ」


 大公はしばらく考え込むとポンっと手をたたいた。晴れ晴れした表情で新しいおもちゃを前にしたような子供のように

「もしかして、伯爵ですか。社交界でも随分と話題になっていますよ。新たに夫人を迎い入れた矢先の失踪。夫人の出身に関して、早すぎる再婚とかね。真相が気になるのでこれで失礼します。なにかあったら私を訪ねてください。それとビルはアトリエに引きこもっているはずです。最後に家に帰ってきたのは一ヶ月も前ですから」

「ヒューイ。ありがとう。また、時間があるときにでも一杯!」

「いいですね、忘れないでくださいよ。では、失礼します」


 優雅な足取りで口笛をふきながら上機嫌な大公。彼を見送り、姿が見えなくなるとケゲンは早速ソファの背もたれに深く腰掛けた。ヘリオスは緊張して手に取れなかったジャムが挟まったクッキーをさっそく頬張る。


(美味しい!甘酸っぱい....)


「はぁ、お前らは全く。いや気持ちはわかるけどよ。情報部がそんなんでいいのか」

「あくまで情報処理だけなもので、社交に潜入は専門外ですー。それは前線の諜報部隊たちの仕事だし」

「向上心がないな、ケゲン。何でも器用にこなせるくせに。ちょっと体を鍛えれば諜報部隊もいけるだろうが?」

「俺の行きたいのは違うよ。名を偽るくらいならここでいい」

「兄貴のためか、そう言われているからか。兄貴離れできねえのな、まあそのうち。そう思われている側の気持ちも知れば心変わりするかね」

「なんだって?」

「なんでもないわい」

「ゴドーさん、ひとつお聞きしたいんですけど?」

「うん? どうしたヘリオス」

「差し支えなければ、大公殿下との関係は何なのかなぁとおもって」

「あ~それは俺も思っていたよ。大公様を名前呼びだし、リッテンと協会との関係性とか」

「ビルード・ゲテンスというお名前も気になります」

「いっこどころじゃねえな。ゲテンスを名乗っているのは子は親に似るってやつだよ。政治、エレントに関わりたくないから代わりの名前を与えられたのさ。さて、それじゃ順番にはなしてやろうじゃないか。大公は早くから金貨の危険性に気づき、対策を立てた。厳しすぎる検問とかな。そして、公国だけでは対処しきれない、そうしてリッテンの王太子殿下とヒューイ殿との会談始まったんだ」


 ******


 リッテンから帝国までは一週間ほどの時間を要した。あくまで最短の時間である。帝国に親戚がいてそれなりに道に詳しい騎士は呼び出されていた。リッテンの騎士で一番の憧れである第一王子殿下の護衛兼総括騎士団長ブルート・ゴルトン。嬉しい半面呼び出された理由を知らない騎士は内心びくついていた。


(俺自体になにも問題はないはずだ。そう、大丈夫。かといって何か功績をあげたわけでもない。いったい何を理由に? やっぱりなにかやらかしていたのか。突然のクビ!?)


 心配のあまりおかしな方向に思いつめ始めた騎士は道半ばで足が止まった。


「そういえば、俺の後輩が一人。とばされたっけ? まさか、監督責任とか....」

「あれー?クリスせんぱーいっこんなところで何をぶつぶつ言っているんですか」

「あれ、お前はとばされた後輩っ!?」


 気配もなく目の前に立つ若い男こそ、今まさに頭の中に思い浮かべていた人物だった。記憶の中にある彼の調子のいい口調やテンションは変わらず、佇まいに違和感がある。ちぐはぐな雰囲気。わざとふるまっているような取り繕っているような奇妙な感覚。


「なんですか? それ。先輩の後輩に間違えはないっすけどルーキスですよ。もしかして名前忘れられていましたか」

「そうだったなルーキス。お前、今までどこにいたんだ? 新入早々姿が見えないからまあまあ心配していたんだぞ」

「先輩って相変わらず正直っすよね。つまり、僕がクビになったんじゃないか疑っていたんですね? 言い回しが独特なのも相変わらずです」


 隙がない?ちょっと前まではこんな油断ならないやつではなかった。バカっぽくて、別人のようである。どこか張り詰めた空気に息苦しさを感じる。


「せんぱいー??」

「(さっさと用事を済ませよう)これから、騎士団長の元に行くんだ。理由はわからないが呼び出されてね」

「あ~、あの件ですね。先輩だったんですね。今、団長直轄の騎士でしてその辺をうろついている騎士がいたら担いで走って来いといわれたんです!」


「「うん!?まて、騎士違いだなそれはッ。まて、自分で走る!来るなー--!!」」


 じりじりと迫ってくるルーキスからなんとか逃れるも足に自信のあった自分を追い越しそうな猛烈なスピードで追いかけてくる。

(なんなんだ、アイツ!? 一体短期間でなにがあったらバケモンじみた速さで追ってくるんだよ。圧もやばいし悪魔にでも魂、売ったのか!?)


 後ろを振り返る余裕もなく全力で走り抜け、目的地の扉をそのままの勢いで飛び込んだ。

 ――バタンッ


「しつれいし・・・」


 一瞬。強烈な殺気を感じてその場に固まる。視線を下に落とせば鋭い剣がのど元に突きつけられていた。さっと手を上にあげ、息をのむ。だらだらと冷汗が額を伝い、恐ろしく無表情の相手を見つめた。視線だけで相手を殺せそうなほどの圧。手に震えが出始めたそのとき思いもしない声がクリスの耳に飛び込んできた。

「まったく、いつぞやもこんなことがあったよね。ブルート。部下の教育どうなっているんだ? 一度ならず二度も、もしかして部屋に入るときはノックをしないって教えているのか?」


 全身に吹き出す汗。幼い子供の声。年齢にそぐわない大人びた口調。騎士団室を我が物顔でふるまう人物はこの国でただ一人。リッテンの第一王子。


「「も、申し訳ありませんでした。殿下!!」」

「どうして、ノックしなかったの?」

「無我夢中で、追われて走っていました。つい・・・以後このようがことがないよう気を付けます本当に申し訳ありませんでした!!」


 その場で直立し声を張り上げる。殿下がゆっくりと手をあげ剣が引くとほっと息をついた。


「うちの王城って追われるような危険があるのか?」

「いえ、そのようのことはないかと」

 視線を感じてクリスは正直に答える。

「えっと、ルーキスより逃げていました。敵ではありません。多分」

「....あの新人君。君の直轄にした部下じゃないか。私の騎士をいじめようとしたのか?」

「申し訳ございません。遅いので迎えにいくように言ったのですが。最悪、担いででも連れて来いと言ったのを誤解したのかもしれません。」

「本当、君に忠実だよね。私が見ていて焼けてしまうよ。さて、クリス。君が呼び出された理由はわかっているかな?」


 一瞬だったが、頭をさげた騎士団長の頬をなぞる殿下の手つきに寒気がした。


「いいえ、存じません」


 王子はため息をつくと、椅子に座るよう指示する。

「実は、帝国での活動を円滑に行うために安全な場所に拠点をつくろうと思っている。そこで、比較的近いエレニア公国が第一候補だ。帝国近郊に親戚の多い君なら周辺のことに詳しいと思って呼び出した次第だ」

「それでは、私めの仕事いうのは....」

「エレニアとの同盟締結に護衛騎士として同行し補佐するのが主な仕事だ。」


 考えていたものと大きくかけ離れた仕事であった。そして、護衛は自分を含めて3人だけだという恐ろしい内容に胃が痛くなる。


 ――コンコンコン・・・


「失礼します。申し訳ございません、クリス卿を見失ってしまい....あ、先輩。たどり着いたんですね。よかったです!失礼しました!!」

(俺は、新人以下だったのか....)

 礼儀正しく、部屋を出て行ったルーキスの姿に誇らしくもあったが団長室に飛び込んだ自分の情けなさに苛まれるのであった。








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