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1、田舎者は金貨を知らない



大帝国の皇帝はある日、気づきました。


テーブルにいっぱい広がる金貨がどれも同じに見えること。他国の金貨に混じりわからないのが非常に腹に立ったのです。


『どの国よりも輝く黄金の金貨を作れ』


皇帝は命令を出しました。


その方法を見つけた者には願いを一つ叶えることを約束したのでした。


それが世界の崩壊へのキッカケだと知らずに....


*順番に修正中です! 若干、変わってます 22.8.27

 


 人で溢れかえる、大帝国の首都。恐ろしい金貨を生み出した皇帝の死をきっかけに今は『帝国』ではなく『ファレー』という小さな王国の首都である。いまだに帝都と呼ぶ人も多い。そのせいで彼らは勘違いしていた。山深い田舎出の若い小柄な少年2人組にはわかるはずもなく、何もかもが目新しく祭りのような空気に圧倒されていた。


 大陸の中心地でもある街はたくさんの個性豊かな馬車が行き交っている。その迫力は、胸を張り気丈に振る舞っていた2人の虚勢を削ぐのに時間はかからなかった。深く帽子を被った方の少年。女のように華奢で村長の息子であるタルマ。怖気づいた姿を隠そうともせず、旅の仲間で幼馴染、兄弟のような俺にピッタリとくっついていた。


 ビクビクと恐れ慄くタルマの姿。


 ここに来るまでに精神、体力ともにすり減らしていた俺はイライラが募っていた。


 それは、大きな車輪がはねた泥を頭から被ったときに爆発した。


「お前なぁ!! ルマ村の男としての誇りはないのか!?」


 タルマの胸ぐらを掴んで揺さぶる。こうでもいないとこの街に呑まれそうで怖かった。今まで散々さげすまれるのは態度のせいだと確信していた。それと金がないせい。村から貰った金は、『お使い』でほとんど使ってしまう。宿なんか取れずに野宿、首都と比べただでさえ時代錯誤な服がボロになり、奴隷呼ばわり。


「――そ、そんなこと言われたって」


 自分がどうしようもないクズ達と重なってすぐに手を離したが地面に着地するなりタルマはどこかに走り去っていった。自分から逃げ出したのかと思ったがそうではなかった。




 タルマは、なにかに引き寄せるように一直線に屋台に向かっていた。


 所狭しと軒を連ねる屋台の中でただそれだけしか存在しないかのように走っていくのだ。焚火に群がる蛾や死骸にたかるハエのように『自然』と吸い寄せられていく。


 俺は、申し訳なさでいっぱいだった。常に一緒に行動してきたのだから、タルマだって精神的に参っていてもおかしくない。それを態度に出さないだけ。金袋を覗き、余分に入っているはずの銅貨の数を確認する。


(ひい、ふー..5枚ってところか....)


 正直に面と向かって謝るのがなんだか気恥ずかしくて、中々、足が思うように進まない。もし、なにか欲しいものがあるなら自分のお小遣いも出してそれでチャラにしようと思いつく。タルマが走り去っていった方向へ行くと、屋台の屋根の下にタルマの背がみえる。近づくと、何かを手に持ち掲げていた。


「おい、お前。何をそんなに熱心に....」


 顔を覗き込んでギョッとした。恍惚とした笑みを浮かべていたのだ。


 兄弟のように育ってきたタルマの見たことない表情に驚いた。


  頬を染め口は呆けたように僅かに開けている。....まるで天上の女神に出逢ってしまったかのようでもあり魔に魅入られた身の毛がよだつ笑みにも見えなくもなかった。


「これが、これが欲しい。欲しい、欲しい、欲しい。僕は、タルマはこれが欲しい」


  明らかに様子がおかしかった。手に持った何かを自慢する様に、見せびらかしてきた。タルマの目は熱に浮かされているようにとろんとしている。手の中を覗き込めば太陽を遮る大きな軒下の影にも関わらず黄金の光を放つ大きな金貨があった。レプリカに過ぎないだろうがずっと眺めているうちに俺の目には何だが特別なものに見えてきた。


「タルマは欲しい。これが欲しい、欲しい」


「そんなこと言われたって。俺達金をそんなに....」


  どこからか視線を感じる。屋台の奥にふくよかな柔らかな笑みをたずさえた店主が居た。何故か今まで存在を気にしなかった。いや、気配がなかった。ゾッとした。優し気な笑顔が気味の悪いものに見えてくる。気を紛らわせようと辺りをみわたす。用途不明な不気味な骨董らしき品々がズラリと並んでいた。骸骨に、錆びた剣。謎の木彫りの人形に....


「――銅貨、5枚」


「っえ?」


「銅貨、5枚でいいよ」


 ゆっくりとした口調の店主の言葉に凍りつく。首からぶら下げ胸元にある金袋を服の上から握り込む。

(――たまたまだ。まぐれに決まっている。5なんて数字はキリがいいから....)

 丁度、余分な金が銅貨5枚。手が震え、店主の顔をみる。まぐれだと自分に言い聞かせ、銅貨5枚を手渡す。タルマが手放す気などなさそうだったから助かった。村の金だが村長の息子であるタルマが使ったなら文句は言わないだろう。



「まいどあり。お二人に偉大なる女神の祝福がありますように」



 背中にジトリと嫌な汗が伝う。横を歩くタルマは金貨を大事そうに握り込みずっと魅入っていた。


「おい、ちゃんと前見ろよ。人多いんだから危ないだろう?」


 俺の声が聞こえていないのか、ただジイっと金貨を見つめ微笑んでいた。その笑みが一瞬、店主の顔と重なる。


 ――本当に気味が悪い....


「早くしないと日が暮れる。サッサとおつかいをすませよう。お前の親父さん、村長も心配....」


 やっぱり声が聞こえていないのか、足を止め人の流れにただ流されていくタルマを不審に思う。なにかに、熱中するような人物ではない。


「まるで意識がない、みたいだな....タルマッ!?」


  急に視界から消えたタルマの元へ急ぐ。そこには倒れ伏したタルマを地面に押さえつけている黒ずくめの体格のよい男が居た。護衛を兼ねていた俺には短剣を渡されていた。村で武器に触れることは禁止され、扱い方を知らない。震える手。そっと、抜き放つと、両手で振りかぶった。


「お前何者だ!! タルマに何をした!?」


「――威勢のいいボウズだなぁ。コレ、ドコで手に入れた?」


 難なく回避する男。タルマの背を足で踏みつけながら振り返った男。帽子を深くかぶり顔はわからない。その手には露店で買った金貨があった。


「タルマから、タルマから離れろッ!!」


  男の足を狙って斬りつける。身軽に脇に避けた男。勝てるとは思っていない。とりあえず逃げようと必死だった。他所に剣を投げタルマを抱きかかえた。


「おい、どうしたんだ!! タルマ!?」


  頬を叩いても、起きる気配がない。と次の瞬間、ブルブルと手足を捩り、震わせ、人が出したものとは信じられないうめき声がタルマの口から漏れた。


「――え?」


 急に飛び起きたタルマ。男に飛びかかろうとして、再び地に押さえつけられていた。


「ヴガッ、ヴゥー、ガァ、ッガ!!」


  罠にかかった獣のように一心不乱に手足をバタつかせ歯を剥き出しに唸り声をあげていた。

 その姿は、もはや人ではない。


 よだれを撒き散らし、叫び、指からは血を流し、それでも地面をえぐり続け目を血走らせ....そして、タルマのような何かを押さえつけている男も普通ではなかった。


「――これは一体? タルマ、は?? 貴方は一体誰ですか....」


  恐怖から、声が震える。俺の言葉にゆっくりと顔をあげた男はタルマ気絶させると帽子を取った。顔の半分はヒゲで覆われた中年の男性。鋭い目つき。


  男は、金貨を目前に突きつけると言った。





「ボウズ。金貨と皇帝っていう。お伽噺知らないか?」


22.8.27 修正 加筆・セリフ以外ほとんど修正 流れは変わってないです....


しばらく『ファレー国』中心の話になります。帝国はもうないですが「帝都」「首都」と言っています。

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