かくれんぼがきらいなショウコ
「それじゃあさ、学校案内もかねて、わたしたちとかくれんぼしようよ」
真奈が元気よく手をあげていいました。
「もう、それ、真奈ちゃんがかくれんぼしたいだけじゃないの」
美雪がしょうがないわねぇといった様子でほほえみます。
「でも、それって案内になるのかしら? ショウコちゃん、迷っちゃうんじゃないの?」
睦美が少し心配そうに首をかしげます。
「大丈夫だよ、ショウコちゃん、もし迷いそうになったら、大声であたしのこと呼んでね」
メイがへへっとかわいらしく笑いました。
「じゃあそれでメイが見つかるから、ビリはメイってことだね」
桃子がアハハハッと手をたたいてはやし立てます。
「かくれんぼ……うん、でも、わたし……」
班のみんなにせまられて、転校生のショウコは不安げな顔をしました。
「どうしたの、ショウコちゃん、やっぱり迷っちゃいそう?」
班長の真奈がさっきとはうってかわって、優しく聞きます。ショウコは少しえんりょがちに、か細い声でつぶやきました。
「その、わたし……かくれんぼ、苦手なの」
「えっ、そうなの? かくれんぼ、きらいだった?」
驚く真奈を見て、ショウコはあわてて首を横にふります。
「違うの、ごめんなさい。でも、その……」
考えこむようにうつむくショウコでしたが、やがて顔をあげて、やはり消え入りそうな声で真奈にお願いしたのです。
「あの、それならお願い、オニは、わたしにさせてほしいの」
「えっ、あ、それはもちろん、それでいいわよ。ていうかショウコちゃんが隠れちゃったら、せっかく学校を探索できるのに、面白くないでしょ」
真奈の言葉を聞いて、ショウコはホッとしたように笑いました。
「それじゃあ、スタートね! ショウコちゃんは百数えて、それで、その間にわたしたちは隠れること。お昼休み五分前のチャイムが鳴るまでに、見つからなかった人が勝ち! もし、チャイムが鳴るまでにショウコちゃんが全員見つけたら、ショウコちゃんの勝ち! これでいいわね?」
「はーい!」
真奈にいわれて、他の四人が答えました。残りのショウコも、少し青い顔になりながらもうなずきました。
「それじゃ、隠れるわよ!」
五人はいっせいに教室から出ていきました。あとに取り残されたショウコは、今にも消えてしまいそうな儚い顔で、静かにうつむくのでした。
「……やっぱりわたしが一番みたいね! ショウコちゃんも、まさかこんなところに隠れてるなんて思ってもないでしょ」
お昼休みには、音楽室が解放されているのですが、転校生のショウコはもちろんそんなことは知りもしないでしょう。真奈はくひひとほくそ笑みました。
「ショウコちゃんには内緒にしてたけど、実はみんなでこっそり賭けをしてたのよね。最後まで見つからなかった子に、一番最初に見つかった子はジュースをおごるって。多分メイが一番最初に見つかってると思うけど、もしかしたら桃子かな? 美雪はさすがに見つからないと思うわ。睦美はけっこうドジだから見つかるかも。……あっ!」
ぶつぶついっていると、とうとう昼休みが終わる五分前のチャイムが、音楽室のピアノの音に重なって聞こえてきました。音楽の先生が、パンパンッと手をたたきます。
「ほら、それじゃあみんな教室に戻って。お昼休みはあと五分よ」
「はーい!」
みんな元気よく教室へともどっていきます。もちろん真奈もその一人です。かけあしで戻るうちに、美雪とばったり出会いました。
「あっ、美雪? なーんだ、美雪も見つからなかったの」
「そういう真奈もね。もしかして音楽室に隠れるなんて、いじわるしたんじゃないでしょうね?」
じろっと美雪に見つめられて、真奈はうっと首を引っこめました。
「ま、それはあれよ、ほら、やっぱりやるからには勝ちたいじゃない?」
「まったく……」
ため息をつく美雪でしたが、睦美と桃子が大きく手をふっているのを見て、目を丸くしました。
「あら、二人も見つからなかったんだ」
「うん。大丈夫だったよ」
「美雪ちゃんたちもかぁ。じゃああとはメイちゃんだけだね」
うーんっとのびをする桃子でしたが、真奈は少し申し訳なさそうに肩をすくめました。
「でも、ショウコちゃんには悪いことしちゃったかもね。やっぱり全然知らない学校でかくれんぼは難しかったかも」
「そうね。だけど、きっと楽しめたんじゃないかしら? ほら、学校探索って面白いでしょ。それに、もしかしたらメイちゃんは見つけられたかもしれないじゃない」
美雪にいわれて、真奈も首をコクッとさせました。
「あれ、でもショウコちゃん、まだ帰ってきてないみたいだけど」
教室に戻ってすぐに、桃子が首をかしげました。
「それにメイちゃんもいないわ。あ、もしかして、メイちゃんといっしょに探してるんじゃないかしら? やっぱり一人じゃ心細かったのかも」
落ちこむ真奈の背中を、美雪がポンポンッとたたきました。
「でも、そろそろお昼休み終わっちゃうよ。二人とも遅刻しちゃうわ」
不安そうに時計を見あげる睦美に、みんなもだんだんとそわそわしてきています。思い切って真奈が、教室で話していた女の子たちにたずねました。
「ねぇ、ショウコちゃん知らない?」
女の子たちはおしゃべりをやめて、それからけげんそうな顔で真奈を見かえします。
「えっ……? 消子ちゃん? えっと、誰それ? もしかして、となりのクラスの子?」
聞き返されて、今度は真奈が口を開けたままぽかんとしてしまいます。すぐにブンブンッと首をふって、今度は少し声を荒げて質問します。
「違うよ、ショウコちゃんだよ! ほら、転校生の」
「転校生って、えっ? いや、転校生なんて来てないじゃない」
女の子がいい終わると同時に、お昼休み終了のチャイムが鳴りました。真奈はまだなにかいいたげでしたが、女の子たちは自分の席へ戻っていきます。真奈たちは顔を見合わせて、なにがどうなっているのかわからないといった様子で目をぱちくりさせます。
「ほら、お前らも早く席につけ。お昼休みは終わりだぞ」
担任の先生が教室に入ってきて、真奈たちをせかします。真奈は思い切って先生にたずねたのです。
「先生、ショウコちゃんがまだ帰ってきてないんですけど」
「えっ? 消子? 誰だそれ? ほら、訳の分からないことをいって、先生をからかってないで、早く席につけ。授業始めるぞ」
先生がパンパンッと手をたたいたので、真奈はもうなにもいえずに席に戻るしかありませんでした。
「ねぇ、いったいどういうことなの? みんなは、もちろんショウコちゃんのこと、わかるよね?」
放課後の帰り道で、真奈は混乱した様子で美雪たちにたずねます。もちろん他の三人もしっかりうなずきます。
「もしかして、クラスのみんなで、わたしたちをからかってるのかな?」
睦美が顔をくしゃくしゃにしてからつぶやきました。もう泣きそうになってる睦美を、あわてて美雪がなぐさめます。
「そんなことないはずよ。クラスのみんなだけならわかるけど、先生までそんな意地悪に加担するはずないじゃないの」
「でもさ、やっぱりおかしいよ! 誰に聞いても、ショウコちゃんのこと知らないっていうんだよ! そんなのやっぱりおかしいよ!」
桃子が頭をブンブンふって、声をはりあげました。通行人の何人かが、驚いた様子で桃子をふりかえります。
「桃子ちゃん、落ち着いて。……でも、もしかしたら、もしかしたらなんだけど……」
めずらしくえんりょがちに、美雪が低い声で切り出しました。
「前に怖い本で読んだことがあるんだけどね。かくれんぼって、神隠しにあいやすい遊びらしいのよ」
「神隠し?」
睦美が青ざめた顔で聞き返しました。美雪はうなずいて続けます。
「そう、神隠し。隠れている間に、なにかにとりつかれたりして、それでさらわれて消えちゃうって聞いたことがあるの」
「ヒッ!」
睦美が思わず悲鳴をあげます。真奈が怖い顔で美雪をにらみつけました。
「ちょっと美雪、そんな怖がらせるような話しないでよ!」
「ごめんなさい、でも、わたしショウコちゃんがかくれんぼいやがっていたのが、どうしても気になっちゃって。それに、ショウコちゃん、自分からオニをさせてほしいっていったでしょ」
美雪の言葉に、真奈は「あ……」とつぶやきました。確かにショウコは、自分からオニをさせてほしいとお願いしていました。
「あれってもしかしたら、ショウコちゃんがオニになることで、身代わりとなって、それでわたしたちの代わりに神隠しにあったんじゃないかしら? だってわたしたち四人は、誰も神隠しにあっていないでしょう?」
「確かに……って、ちょっと待ってよ!」
美雪にうなずきかけてから、真奈は首をブンブンッと激しく振りました。ぽつぽつと雨が降ってきましたが、そんなことはおかまいなしに美雪をにらみつけます。
「美雪、本気でいってんの? ていうか、わたしたち四人ってどういうことよ! わたしたちは、もともと五人の班だったじゃない! みんなマ行の名前だから、ずっと仲良しでいようねっていったの、忘れたの? メイがまだ見つかっていないじゃないの!」
いきどおる真奈に、美雪はもちろん、睦美も桃子もぽかんとした顔をしています。そして一言……。
「真奈ちゃん、その……命日って、誰?」
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