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第7話 婚約


「さて、ここからはティアが知らないだろう話をしたいと思う」

「私の知らない……?」

「そう。僕はティアに求婚して、受け入れてもらえた。だから僕とティアはまず婚約を結ぶことになる」


 ウィルバートがそう言いながら本当に嬉しそうな笑顔を向けるので、ティアナもほっこりした気分になった。


「ええ。私、運良く公爵令嬢になれたからウィルと身分の釣り合いはとれるのよね? あ、その前に義父の許可は大丈夫なのかしら……」

「それは僕に任せてくれて大丈夫。こう見えて“皇太子”だからね」


 こういうときに“権力”使わないと皇太子の意味ないよね、などとウィルバートが満面の笑みで呟くので、ティアナは思い出した事実にはっとして不安を高めた。


「あ……。もしかしなくても私が元平民だから、ウィルの相手に相応しくない……?」


 ウィルバートは笑みを深めたまま、首を横に振ってティアナの手をゆっくりと握った。


「ティアが僕の相手として相応しくないなんてことは絶対にない。けど、僕が皇太子である限り、申し訳ないことに身分の話は避けては通れない……」


 そう言ってウィルバートがティアナに話したのは、彼女の出自についてであった。ウィルバートは「勝手に調べてごめん」と謝ったが、両親に聞けずじまいだったティアナにはもう調べようがなかったことなので、彼女はむしろ喜んで受け入れた。

 

「大丈夫。私もウィルと生きていくのなら、自分のルーツについて知っておきたいし、そうしないといけないと思うから」


 ソファーに座ったウィルバートの隣で、ティアナは彼を正面から見つめて頬をなでた。頬に添えられたティアナの手を感謝の思いを込めて握り、ウィルバートは続ける。


「……調べたところ、ティアの母であるマリアさんは、プロスペリア王国の王家の人間であることがわかった」

「プロスペリア王国の王族……⁉︎」

 

 プロスペリア王国とは、フランネア帝国の東の森に隣接する王国である。母はそこの王女だったということか、とティアナは戦慄した。


「ああ。ティアにはもう一人親戚がいるんだ。プロスペリア王国のマリウス国王陛下が、ティアの叔父にあたる人だ」

「国王陛下が叔父様……」


 知らされた情報が予想以上の規模だったので、でティアナの頭は混乱していた。両親は二人とも高貴な血筋だったのだ。隣国で普通に平民として暮らしていたから、そんな背景があるだなんて想像したこともなかった。

 ただ、ティアナが一度だけ祖父母の存在について言及したことがあった。そのときは、両親は祖父母に結婚を反対されて駆け落ちしたと教えてくれた。だから、ティアナが父親の血筋を知ったとき、てっきり公爵家嫡子の父に比べて母の身分が低かったから、駆け落ちすることになったのだと勝手に想像していた。


(お母さんも……⁉︎ まさか隣国の王女だったなんて……!)


 ティアナはルスネリア公爵家の養子となってから、社交界でデビューするまで、最低限の淑女教育を受けていた。その教育カリキュラムに国の歴史についても当然含まれていたので、プロスペリア王国とフランネア帝国の間の微妙な関係も理解している。


「当時の女王は王女のマリアさんが政治的に利用されることを危惧して、フランネア帝国公爵家のクリスさんとの結婚を反対していたのかもしれないね」


 三百年前、プロスペリア王国がフランネア帝国に侵略されそうになった時、プロスペリアの安寧を守ることを条件に、不可侵条約を二国間で結んだ。その対価としてフランネア帝国が求めたのが、プロスペリア王家の女性にのみ受け継がれるという宝玉をフランネア帝国のためにも使用するという条件だった。プロスペリアの宝玉には膨大かつ無尽蔵の魔力が秘められており、それが欲しかったからこそフランネアはプロスペリアを侵略しようとした経緯があった。

 

 プロスペリア王国では、王家に伝わるその特別な宝玉を持つものが次代の後継者、つまり女王となり、その重責を継承していくという。


 そこまで思い出して、ティアナは重大な事実に気付く。


「……プロスペリア王家の後継は確か女性王族と定められていたわよね? 先代の女王様は引退されたのかしら?」

「残念ながら、ティアのお祖母様は亡くなっているんだ。マリアさんの死に余程ショックを受けたのか、追いかけるように亡くなってしまったそうだよ」


 ティアナは、ウィルバートに後ろから抱きしめられながら呟いた。


「……そう。お祖母様も亡くなってしまったのね。私は何も知らずに……」

「あの日、ティアのご両親が事故に遭わなければ、家に帰った後に伝えるつもりだったんだと思う。その日二人はプロスペリア王国に出向いていたらしいんだ。お祖母様の女王陛下から宝玉を継承するためにね」

「……! そうだったのね。二人は結婚を許してもらえたってことかしら? そうだったらいいわね」


 ティアナは寂しそうに微笑んだ。わだかまりが解消されていたのなら、もっと素敵な未来が待っていたはずなのにーー。その未来を一緒に生きられなかったことが、ただ残念だった。


 ウィルバートはティアナを抱き込んだまま、こめかみに小さくキスを贈った。


「もう、ウィル……」


 顔を赤くして恥ずかしそうに振り返るティアナに、ウィルバートは優しく微笑んで告げた。


「これからの未来は、僕と一緒につくろう」


 ティアナは幸せそうにこくりと頷いた。


「私は、ウィルがそばにいてくれるだけで幸せ」

「うん。僕も同じ」


 二人は頬を寄せ合い、また会話を進める。


「話を戻すと、うちの父はプロスペリア王国に並々ならぬ執着心を見せていてね。ティアの血筋の話をしたら、婚約はすんなり許可されると思うんだ」

「そう……。その実感はないけれど、私もプロスペリア王国の王女ってことだものね」


 ティアナは急に大きな身分を背負うことになってしまい、動悸がおさまらなくなってきた。胸に手を当て、呼吸を落ち着ける。


(ついこの間まで平民として生きてきたのに……私が公爵令嬢で王族でもあるなんて、なにかの冗談みたい)


 その上、正体を知らずに好きになった人は、フランネア帝国という大きな国の皇太子だったのだ。未だ夢の中にいるのだと言ったほうが信ぴょう性が高いほどである。


「僕は、父とは違うやり方でプロスペリア王国と親交を結んでいきたい。そのためにも、ティアに協力してもらいたい」


(私は、政治的にも利用価値のある結婚相手ってことね。ウィルにとっても、皇帝陛下にとっても……)


 少しチクリと胸が痛んだが、ティアナは平静を装ってやり過ごした。


(ウィルも私も、お互いを好きという気持ちを大切にしたいなら、まず建前を整える必要があるのだわ。重責を背負う立場にあるのだから)


「ティアの生まれを利用する形になるのは本当に心苦しいんだけど……」


(大丈夫。ウィルと一緒にいるためなら、私はなんだってできるわ)


 ティアナはウィルバートと運命をともにし、皇太子妃として彼をサポートできる自分になるのだと覚悟を決めた。


「フランネア帝国の皇太子殿下がそんな情けない顔しないで。私のこの身体から血に至るまで全部あなたのものよ、ウィル」


(だから、私のこの重たぁい愛を余さず受け取ってもらうわよ、ウィルバート皇太子殿下!)


「あなたのことは心から信頼しているから、何をどう使われたとしても文句はないわ。どうぞ好きに使って?」


 挑戦的な表情で言いきり、にこっと可愛く首を傾げるティアナに悶絶しながらウィルバートは天を仰いだ。


「すごい殺し文句」


(僕の婚約者が可愛すぎてつらい……)


 これこそが、ウィルバートが一生ティアナに勝てないことを悟った瞬間であったーー。

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