幕間① ーアマンダとランドールー
(なによ! なんなのよ!)
アマンダは憤慨していた。
幼い頃から何度も父と共に訪れた宮殿。
顔見知りの高位貴族の令息たち。
アマンダを美しいと褒めそやしてくれた殿方たち。
(みんなみんな、どうして私じゃなくてあの女を見て……あの平民女を褒めるのよ!)
アマンダはフランネア帝国の中でも皇族を除けば最上位にあたる公爵家の令嬢である。
普段ならこういう場にアマンダが姿を現すと、見目麗しい殿方がアマンダを取り囲み、媚びへつらって褒めそやし、最高の気分にさせてくれるのだ。
(どうしてよ……! 私の方が何倍も素敵なドレスと最高の宝石を身につけているのに……!)
「あれが噂のクリストファー様のご令嬢か。初めてお姿を拝見したが、美しい方だったな」
クリストファーとはティアナの亡き父親のことである。
アマンダは父ロバートから、クリストファーのことは聞いたことがなかった。ティアナがうちに連れて来られて初めてアマンダにも伯父がいたらしいということを知ったのだ。
「ああ。公爵令嬢なのにシンプルな装いで……ああ、でも関係ないな。あの女神のような笑顔はなにものにも替えがたい。どんな宝石も彼女の美しさの前では霞んでしまうに違いない」
「君、そんなキザなことを言う男だったっけ?」
「うるさいな。これは社交辞令じゃない。私の本心だ」
「本気か……。残念だが諦めろ。彼女はバッカス侯爵家のトーマス殿と婚約が内定しているらしいからな。さっきエスコートしているのを目にしたが、必死で口説いていたぞ」
「……そうなのか。あのような高貴な美しさを持つご令嬢だ。私のようなしがない伯爵家令息の手に届くような方だとは初めから思っていないさ」
明らかに気落ちしたような男の声を最後に、彼らは去っていった。
(しがない伯爵家令息ですって……? あの方、代々近衛騎士団長を務めるスペンサー伯爵家の……美形で有名なサミュエル様じゃない! 私、社交辞令でもあの方に褒めてもらったことないわ! 悔しい! 悔しい……!)
内心地団駄を踏んでいたアマンダを、隣でずっと眺めていたのはランドールだ。彼は先程ロバートからアマンダのエスコート役を任されていたのだ。
アマンダをエスコートしつつ、ティアナをトーマス・バッカスから解放するために、人を使って彼の足留めも指示していた。本日一番の功労者である。
「あなたの義姉上はどんな方なのですか? 私はアマンダ嬢の方が可愛らしいと思いますが……」
(ふーん。この男は私の美しさをわかっているようね。さすがウィルバート様の側近だわ)
やっと自分を褒めて気持ちよくしてくれる存在を見つけ、アマンダは少し冷静さを取り戻していた。
「義姉ですか? 実は私と義姉はあまり趣味が合いませんのよ。ですから義姉には『自分には近付かないように』と強く言われておりますの。とても残念なのですが、そういう理由でお話もあまりしませんし、どんな方なのかよく知らないのです……。せっかく聞いてくださったのにごめんなさい」
すかさず瞳を潤ませて上目遣いで謝る。これで殿方はアマンダの魅力のとりこになってくれるのだと彼女は思っている。
「そうでしたか。それにしてもアマンダ嬢はいつも素敵な装いですよね。……あ、そのドレスはもしや『ブランシュ』のものではないですか? さすがアマンダ嬢ですね。美しく着こなされているので、私の姉も喜びます」
「よくおわかりになりますのね。『ブランシュ』は懇意にさせていただいていましてよ。お姉様にもよろしくお伝えくださいませ」
「伝えておきます。そういえば先程ティアナ嬢のドレスも遠くから拝見したのですが、彼女も『ブランシュ』を利用してくださっているのでしょうか? 姉の店の仕立てのように見えるのですが……」
アマンダは焦った。この男、なぜドレスにそんなに詳しいのか、と。
「まあ。そうなのですか? 申し訳ありません。先ほどもお伝えしました通り、私は義姉に近寄ることを許されていませんのでよく知らないのです……」
そこまで答えた時、アマンダはウィルバートが自分の父と話しているのを目敏く見つけた。
(まあ! ウィルバート様だわ! きっと私をダンスに誘おうと探していらっしゃるのだわ! 早く行かなきゃ!)
「ランドール様ごめんなさい。私、この後お約束がありまして……」
「では、私がお約束先までエスコートしましょう」
「いえ、急いでいますのでお気持ちだけ頂戴しておきますわ。それではごきげんよう」
挨拶もそこそこに、アマンダはそそくさとウィルバートのもとへと向かったのであった。
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