第24話 献身と既視感
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感謝の気持ちを込めて‥‥!!
「今日は私に付き合っていただいてありがとうごさいます。」
王城の外へ向かって走って行く馬車の中で、そう言うウィルバートはティアナの目の前に座っている。
そして、ティアナのすぐ横にはマリアが微笑みをたたえて座っていた。
ちなみにティアナの護衛として着いてきたサミュエルは、フィリップと共に馬に乗って馬車の両脇を並走している。
ティアナはとても緊張していた。ウィルバートと外出する気まずさもあるが、何よりマリアと顔を合わせるのはマリウスと一緒に会いに行って以来で、自分との記憶を失っている彼女と何を話せばいいのかわからなかったからだ。
マリアはウィルバートと打ち解けた様子で、今回のこの外出を計画してくれた彼に礼を言っている。
「ティアとももっと話したかったから、今日誘ってもらえてよかったです。ね、今日はたくさんお話ししましょうね。」
自分の名を愛称で呼ぶマリアにティアナは目を丸くした。
「今の私にティアって呼ばれるのは違和感があるかしら?ウィルくんにそう呼んでいたって教えてもらってね、呼んでみたらすごく自然に馴染んだから‥‥そう呼ばせてもらうわね。」
マリアの勢いに呑まれ、ティアナは壊れた人形のようにこくこくと頷くしかなかった。
その真正面ではウィルバートがティアナをじっと見つめ、愛おしそうに目を細めていたのだが、マリアの言動に気を取られていたティアナが気付くことはなかった。
馬車が大通りに着き、三人は馬車を降りた。一応街に溶け込めるような身なりと、それなりの変装もしているが、目立つ顔立ちの人間が並ぶと変装もあまり意味をなしていなかった。
だが、そんなことは気にしないのがマリアだった。彼女は幼い頃から街に通っていたので、ティアナとウィルバートを案内できるほどだった。
さすがに結婚してから20年近くのブランクがあったので、記憶を失くして帰ってきた当初は街もその頃とは様変わりしているのだろうとマリアは想像していた。しかし、予想に反して、代替わりしていたり、改装していたりする店はちらほらあったが、どこも看板はマリアの記憶のまま、彼女が愛した街の姿がほぼそのままの状態でそこにあったのだ。
「それで、不思議に思ってみなさんに聞いて回ったのです。そうしたら、『街のみんなで駆け落ちして突然いなくなってしまったマリア様の帰ってくる場所を守ろうって、一致団結して暮らしてきたんだ』って口を揃えて言われました。」
その時のことを思い出して涙ぐむマリアに、ティアナは寄り添う。
「マリア様は皆に慕われる、素敵な王女様だったのですね。‥‥私にとっても大切な存在でしたよ。お父様はすごく‥‥すごく残念でしたが、お母様が生きていてくださって私は本当に嬉しかったのです。生きていてくださっただけで‥‥それだけで。」
ティアナは今まで閉じ込めてきた思いを言葉にしようと思ったが、うまく表現できなかった。
けれど、マリアの方を窺い見ると柔らかに笑んでいて、「伝わっている」とそう表情で伝えられているようだった。
二人で微笑み合っていると、一陣の風が吹き、ティアナが被っていたつばの広い帽子を攫っていった。
「あ‥‥っ」
ティアナは風に飛ばされていった帽子を目で追いかけたが、視界に捉えられる範囲から外れそうになったので、咄嗟にその方向に身体を動かした。護衛のサミュエルやフィリップもいることは意識から完全に抜けていた。
ついに道の端に落下した帽子を見つけ、ほっと安心して取りに行こうとしたところで、「ティア!」と誰かの焦った声が聞こえた気がした。
声の方を振り向くと、御者を乗せていない馬車がティアナのいる方向に猛スピードで駆けてきているのが見えた。
「きゃー!」という悲鳴や、「逃げろー!」という怒号が飛び交う中、ティアナの目には全ての人や物の動きがスローモーションのように映っていた。現実のものではない光景を目にしている気分で、「ああ、同じような状況が前にもあったなぁ」と考える余裕すらあった。
これが俗に言う走馬灯というやつだろうか、と思うティアナの頭の中で、楽しかった思い出や苦しかった記憶が過ぎる。
そのどの場面にもウィルバートがいた。
もうウィルバートのことを考えるのはやめようと、深く深く負った心の傷に見えないように封をして、なかったことにした時からわかっていたのだ。ティアナはウィルバートのことを忘れることはできないと。
でも、仕方がないではないかとティアナは思い直す。大好きだったウィルバートには、今は別の婚約者がいるのだ。
ウィルバートはティアナに向けていたあの可愛い顔でアマンダに微笑むのだ。大好きだった空色の瞳は、もうアマンダのものなのだ。そう諦めようとすればする程、「嫌だ!嫌だ!」という嫉妬心が湧き上がってくる。
だが、ティアナは彼のために傷つく覚悟もなかったくせに、這い上がっても来れなかったのに、死ぬ間際になって今さらなんなのだと自嘲して目を瞑ったーー。
「ティア!」
気が付いたら、ティアナは温かな腕に抱え込まれていた。それはとても既視感のある状況だった。
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