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第13話 残された思い

メアリーの回想です。


※人が亡くなる表現があります。


「スタン‥‥!どうして‥‥!!」


スタンリーが殉職した。


その一報が入ったのはメアリーがスタンリーのために新しい外套を縫っていた時だった。

以前誂えたものは大事に使ってくれはしていたようだが、洗濯のしすぎで生地が傷んできたようなのだ。

騎士団支給のものもあるのに、スタンリーはメアリーがプレゼントしたものを好んで着ていたので、もうよれよれになっていた。


メアリーは勤めていたルスネリア公爵家にしばらくの間休暇をもらえるよう申請し、失意のままに放浪していた。

たどり着いたのは、スタンリーとの思い出が残るメアリーの実家、旧スコット男爵邸である。

20年前に没落した時に手放したはずだったが、いつの間にかスタンリーが権利のほとんどを買い戻していたそうなのだ。

それも、知ったのは数日前。スタンリーの訃報を伝えにきてくれた彼の弟、サミュエルが教えてくれたのだ。


メアリーは、実は転生者である。


この世界はメアリーが前世で生活していた日本という国の、乙女ゲームの世界なのだ。

そのことに気付いたのは、サミュエルの存在を知ったことがきっかけだった。

メアリーが9歳のときスタンリーに弟が生まれ、名前がサミュエルだと教えてもらった瞬間に急激に頭が痛くなったのだ。その後3日間寝込んだことは今でもよく覚えている。スタンリーが毎日お見舞いに来てくれて、とても嬉しかったことも。

その後メアリーが14になる年まで二人とは幼馴染として過ごすが、その年にスコット男爵家が没落し、路頭に迷うことになったために一時スタンリーとの連絡は途切れた。その後、彼が居場所を突き止めた兄とメアリーに手紙を届けるまでは。

サミュエルは当時5歳だったのでメアリーのことはほとんど覚えていないだろう。

それなのに、スタンリーの訃報と遺言を伝えるためにわざわざ他人であるメアリーに会いにきてくれたのだ。

サミュエルの成長した姿は前世のゲームの中で見て以来だったが、さすが攻略対象だけあって実物はさらにとんでもない美形であった。メアリーはスタンリーの方が好みであったのだが。ヒロインとの恋に悩むようであったら応援してあげようと思うくらいには情が芽生えていた。


スコット男爵邸は清掃が入っているようで、埃が溜まったり蜘蛛の巣がはったりすることもなく、綺麗な状態だった。


スタンとの思い出を辿りつつ、父の執務室だった場所の隠し扉へ近づく。

兄とスタンとの三人で隠れんぼをして遊んでいた時、偶然発見してしまった場所だった。その後遊びで執務室に入るなと父にこっ酷く叱られたのだった。

幸せだった頃の記憶をなぞりながら、隠し扉を開ける。そこは小さな部屋になっていて、壁側に本棚、中央にソファーとローテーブルも置いてあって寛いだ空間になっている。歴代当主が趣味を満喫する部屋として使っていたようで、祖父が好きだった酒の瓶がこれでもかと並んでいる棚も以前見たままそこにあった。


その中に思い出深いものを見つけた。メアリーが産まれた年に祖父が手に入れたというワインだ。メアリーが成人したら皆で一緒に開けようと、メアリーが誕生日を迎える度に笑っていた。結局それが叶うことはなかったのだけれど。

幸せだった頃を思いながらワインを手に取ると、ラベルの辺りがうまく認識できない。少し考えて、もし認識阻害であれば解除すればいいと、認識阻害解除の魔法をかける。


メアリーは転生者チートなのか、膨大な魔力を持っていたため、楽しくなって魔法の勉強にも力が入った。今ではどんな魔法も思いのままだ。


「これ、もしかしてスタン‥‥?」


ワインのラベルの裏にスタンからの手紙が隠されていた。


「なんで‥‥!」


そこには、スタンリーからメアリーに宛てた言葉が綴られていた。


その頃、国境警備隊にいたスタンリーは、フランネア帝国とプロスペリア王国の国境を警備する任に就いていた。

数日前、近くの山で大規模な崖崩れが起きたため、人手がいると聞き率先して手伝いに名乗り出たのだという。

その崖崩れには馬車が一台巻き込まれたらしかった。救出作業にあたりながらスタンリーは内心首を傾げていたらしい。山は崖崩れが起きそうな状態ではなかったから。

そして救出された遺体を見てその疑問は確信に変わった。そこにいたのは土砂に塗れてすっかり生気が失われた顔をしたルスネリア公爵家元嫡男のクリストファーだったからだ。手紙には『幼い頃に数度挨拶をした程度だったが、非常に整った精悍な顔立ちをされていたから記憶に残っており、顔を確認してすぐにわかった』と書かれていた。

そしてそのすぐ後に虫の息ではあったがまだ息のあるマリアを見つけた。メアリーからもらった魔水晶を使ってマリアの命を救うことができたのだという。

その後、スタンリーは現場の状況から故意の事件であったと推測し、マリアの生存は秘すことにした。その場にいた者たちの中で一番身分が高かったので、他の者にはもうその事件に関わらないよう厳命した。

しかし、その場にいた者たちは少しずつ皆行方不明になったのだという。恐らくもうこの世にはいないのだろう。

スタンリーはその黒幕を追っていて、あともう少しで核心が掴めそうだ、というところまで書いてあった。


メアリーは国境警備隊に異動になったスタンリーに、お守りとして大きな魔力を封じた魔水晶を贈っていた。スタンリーを守ってくれるようにと願いを込めて渡したものだったが‥‥。


「私が‥‥。私のせいで運命が狂ってしまったのね‥‥。」


きっと間違いないだろう。

メアリーが知っている乙女ゲームではヒロインの母、マリアは夫であるクリストファーと共に亡くなっているはずだったのだから。


手紙の最後は、このように締め括られていた。


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私は死ぬつもりはないが、万が一の時のことを考えてこの手紙をメアリーに残す。もしこの手紙を君が読んでいるなら、私は失敗してしまったのだろう。君を遺して逝ってしまう私は無念で仕方がないだろうな。むこうでキミの両親に会わせる顔がないよ。

メアリー、皇都に帰ったら君にプロポーズするつもりだった。このようにしか生きられなかった私を許してほしい。

私自身の手でメアリーを幸せにしたかったのに、そうできなくなるのが悔しく、とても残念だ。だが、幸せになってほしい。

誰よりも愛している。


スタンリー・スペンサー


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