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真実はいつだって残酷で  作者: 夜須 夏海
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崩れ始める日常

 葬儀が行われた三日間の記憶はあまりない。鼻をすすりながら焼香をする両親の友人や会社の人たちをただ眺めていた。悲しいはずなのに涙は出なかった。心が空っぽで(しかばね)にでもなったみたいだった。告別式の後、華菜に呼び止められたが無視して帰った。それから二週間私は家から出ていない。


 元々、大樹さんが使っていた寝室を今は私が使っている。トイレとお風呂以外で部屋の外には出ない。部屋から出たとき彼と顔を合わせると声をかけてくれたが全部無視していた。ご飯はいつも扉の前に置いてくれるのでそれを部屋の中で食べる。


 私の異変に大樹さんは気づいていた。そして一つだけ約束をした。

「無理に学校へ行けとは言わない。でも俺が家にいるときに一日一回は必ず部屋から出てくること」

だから私は彼が仕事から帰ってきて部屋の前を通るタイミングで毎回トイレに行く。他の日は適当な時間に部屋を出る。もし祖父の家でこんな生活をしたらきっと叱られる。


 学校に行く気力はないが外には出たくなる。とある金曜日の夜中、リビングのソファで眠っている大樹さんに心の中で「いってきます」を言ってそっと家を出た。


 夜中に外に出るのは初めてだ。空っぽな心が少しだけウキウキしている。誰もいない静かな夜の空気は昼間より美味しく感じた。あの日華菜と寄り道した公園は家を出て五分くらいのところにあった。公園の時計は0時を回っていた。ベンチに腰を掛け背もたれに寄りかかり空を見上げる。

高山(たかやま)?」

しまったと思った。ゆっくり横を見るとそこに立っていたのは隣のクラスの松本くんだった。一ヶ月半前私のことを振った男だ。

「えっ、なんで…」

「親と喧嘩してムカついてプチ家出してそろそろ帰ろうかなって思ったら公園で天体観測してる女の子を見つけたってとこかな」

淡々と話す。普通、不登校の人を見つけたら色々と質問するものじゃないのか。

「高山も家出?」

「私のは深夜パトロールだから松本くんとは違うの」

「なんだそれ」と言って笑った。久しぶりに誰かと話して緊張しているのが自分でもわかった。

 風が吹く。少しだけ肌寒い。

「送ってく」

「いいよ、松本くん早く帰らないと」

「一人で帰らせたくないんだよ。危ないし」

不器用な優しさに甘えることにした。


 エントランスの前に着くと彼はマンションを見上げた。大きなマンションだから驚いているのだろうか。

「ここ俺ん家」

衝撃すぎて言葉を失う。

「なんか俺ちょーカッコ悪いじゃん」

松本くんは頭をわしゃわしゃと掻きながら苦笑いした。

 三階と五階のボタンを押してエレベーターに乗る。次、彼に会えるのはいつだろう。

「あのさ、来週の金曜日も同じ時間に深夜パトロールしよ」

まさか彼のほうから誘ってくるなんて思わなかった。あっという間に三階に着いて「じゃ、また来週」と言ってすぐにエレベーターの扉を閉めてしまった。

 ドキドキしていた。公園での緊張とは少し違う心地良いドキドキだった。

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