表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真実はいつだって残酷で  作者: 夜須 夏海
3/6

華菜と大樹

 「咲希!」

お見舞いに来てくれた華菜が勢いよく病室の扉を開ける。

「華菜、ここ病院…」

「ごめん、つい。無事でよかった、本当に」

彼女は今にも泣きだしそうだった。


 昨夜、華菜に連絡をしたとき事故に遭ってから初めて日付を確認した。画面が割れていて使えるのが不思議なくらい酷い有り様のスマホに表示されていたのは「5月4日」の文字だった。私たちが家を出たのは2日前だ。目が覚めたとき祖父が目に涙を浮かべていたのを思い出した。これだけ眠っていたら本当に生きてるのかどうか心配になるのも無理もない。


 本来であれば今日は華菜と宿題をやってショッピングの予定だったがこれでは宿題すら出来そうにない。

「来てくれてありがとう」

涙ぐむ彼女を見て私もつられて泣きそうになった。

「当たり前でしょ。骨折とかしてないの?」

「骨は折れてないみたい。打撲と特にむち打ちが辛いかな」

首の痛みが酷くて頭を動かすことができない。例えば誰かに呼ばれたら体ごと振り向かなければならないのだ。加えて痛みは昨日より増している。

「欲しいものがあったらなんでも言ってね!」

彼女の優しさに甘えてお父さんとお母さんなんて言いそうになったけど、今の私が言うと冗談に聞こえないからやめた。話題を出さないようにしてることもなんとなく分かる。笑って話しているのに空気はどんより重くこの時間が早く終わって欲しいと思った。


 「こんにちは」

扉を静かに開けて入って来たのはあの人だった。

「こんにちは!咲希の友達の佐藤華菜です!」

驚きながもしっかり挨拶をするが頭の上に沢山はてなマークが出ていたので父の弟だと説明してあげた。彼が来てくれて少しだけほっとした。あの空気に長時間耐えられる自信は今の私にはない。

「なにか飲み物でもいる?咲希ちゃんと華菜ちゃんの買ってくるよ」

「炭酸がいいです。スカッとするくらい強烈なやつ」

モヤモヤした心を少しでも晴らしたくて変な注文をした。

「あたしも同じやつでお願いします!」

「強烈なやつね」

爽やかスマイルで病室を出て売店へ向かった。


 「ちょ、ちょっと!何者なの、あの好青年は!」

さすが私の親友だ。彼女も彼を好青年だと思ったらしい。なににそこまで興奮してるのかは分からないが。

「お父さんの弟」

「それはさっき聞いた!そうじゃなくて…」

「昨日初めて会ったの。だから私もよく知らないけど、華菜が好きそうな顔してるよね」

あからさまに動揺する姿が可笑しくて笑ってしまった。興奮する要素は十分にあったらしい。ぎこちない空気はもうそこにはなくて、いいタイミングで病室に入ってきてくれたあの人に感謝した。


 少しして期間限定と書かれた白桃味の炭酸飲料を持って彼が戻ってきた。

「そういえば、大樹さんって何歳ですか?」

合コンみたいな会話の入り方をする華菜。彼女のコミュ力の高さにはいつも驚かされる。

「35歳独身だよ」

父の五つ下だ。思ったより年が離れていて驚いた。

「独身…。結婚願望ないんですか?」

年齢を聞いたのに変なところに食いつく彼女に「そこかよ」と心の中でツッコミを入れた。

「3年くらい付き合ってた人がいたんだけど、結婚したいと思えなくてダラダラ付き合ってたら浮気されちゃってね」

華菜は彼の話に興味津々だ。私も少しだけ興味があった。この人の話だからではなく単純に恋愛の話に興味があるだけだ。

「どこに住んでるんですか?」

続けてグイグイと質問する彼女は、やっぱりすごいなと思った。

「咲希ちゃんたちが通ってる中学校の近くだよ」

「そうなんだ!家近いかもしれないですね!」

テンション高めな姿を見てこの人のこと好きなのかななんて思ったけどそれはまた今度聞こう。


 「ピロン」と華菜のスマホが鳴る。

「夕飯の支度するから帰ってきなさい、だって。そろそろ帰るね」

もうそんな時間か。

「うん、また学校で」

「咲希、なんかあったらいつでも言ってね」

グッと親指を立ててはにかむ。

「ありがとう」

華菜は照れくさそうに病室を出て行った。

「いい友達だね」

「はい。私の自慢の友達です」

親友が褒められたことが嬉しくて頬が緩む。そんな私を見て彼も微笑んだ。

 「さて、俺もそろそろ帰ろうかな」

空になったペットボトルを持って立ち上がった。

「あの、聞きたいことが」

さっきまで質問攻めにあっていたから少しだけ申し訳ない気持ちになったが気になることがあった。

「どうして通ってる学校知ってたんですか」

「聞いたからだよ」

一瞬、彼の表情が曇った気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ