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真実はいつだって残酷で  作者: 夜須 夏海
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日常

 14歳、いわゆる思春期というやつだ。ファーストフード店でアルバイトをしている大学生の可愛いお姉さんだって、満員電車に揺られているサラリーマンだって、路上で爆音鳴らしてフードを被ってラップしてるお兄さんも。いや、あの人は万年思春期だ。間違いない。とにかく思春期とは誰にでもあるものなのだと私は思う。例えば、そんな時期になにか心が傷つくようなことがあったとしたら、それは間違いなくトラウマとなりこれから先の長い人生の足枷になってしまうのだ。誰の言葉かって?誰の言葉でもない。ただの私の持論だ。


 「咲希(さき)、帰ろー」

クラスメイトの華菜(かな)は放課後いつも一緒に帰ろうと誘ってくれる。友達が少ない私にとって彼女のような存在はとても貴重で大切だ。だけど、彼女にそんなことを言うとすぐ調子に乗るから普段は絶対に言わない。この前私が彼氏に振られて泣きながら電話をしたらごちゃごちゃな私の感情と話を全て飲み込んでくれた。感謝を伝えると「親友だもの!」と当たり前のように言った。そしてその言葉に救われた。だから私も華菜が彼氏に振られて悲しんでるときは話を聞いて「親友だもの!」と言おうと決めている。決めているけど、親友の悲しんでる顔は見たくないからそんな日がこないといいな。とも思う。


 「聞いてる?」

華菜の問いかけで我に返る。

「聞いてなかったでしょ!」

頬を膨らませ怒ったような表情をする。実際は怒ったふりだから本当に怒っているわけではない。

「ごめん、ボーっとしてた」

仕方ないなあ、と笑ってもう一度同じ話をしてくれた。


 「ただいまー」

「おかえり、遅かったね」

母の優しい声と夕飯の支度をする音が同時に聞こえる。いつもと少し違う道で帰ったら桜が綺麗な公園を見つけて寄り道をしたら、ついついガールズトークが盛り上がってしまい丁度夕飯が出来上がるくらいの時間になってしまった。この匂いは間違いなくカレーライスだ。カレーライスだけで言ったら我が家のカレーライスが1番美味しい。世の中の14歳の少年少女たちも同じことを思っているだろうか。

 少しして父も帰ってきた。今日は残業がなかったから一緒にご飯が食べられる。と言っても父が残業することは滅多にないから珍しいことではない。

 ご飯を食べた後はテレビを見ながら他愛もない話をする。時々テレビ番組にツッコミを入れる父とそれにたいして笑う母と私。ちなみに今日の家族団らんのパートナーは芸能人にドッキリを仕掛けるバラエティ番組だ。それからお風呂に入って鎖骨より下くらいの長さの髪を乾かして目覚ましをセットして明日の1時間目の授業はなんだっけ、また明日もあの公園に行ってみよう。なんてことを考えながらベッドに入る。特別なことはないけれど、こんな普通の日常が私は好きだ。今日みたいに宿題が無ければもっと好きだ。そんな日常はこれから先もずっと続くのだと信じていた。


 もうすぐゴールデンウイーク。大型連休があると決まって祖父母の家に行く。車で1時間くらいかかる近くも遠くもない所に祖父母の家がある。移動時間はちょっとだけ退屈だけど、祖父母のことは好きだ。いつも優しく迎えてくれるしお小遣いもお菓子もくれる。それだけが目的じゃないけれど、そんな甘やかしが目的の人もきっといるだろう。

 「明日からゴールデンウイークだけど遊び過ぎないように。みなさん受験生なので1日1日を大切に有効活用してください」

たぶん全国の教師が受験生にたいして言う決まり文句。なにかそういうセリフ集でもあるのだろうか。

 「有効活用してください。だってー」

目が開いてるか開いてないかくらいまで細めて担任のモノマネをする華菜。親友補正かもしれないがこれが結構似ている。

「咲希はゴールデンウイークどうする?」

「おじいちゃん家行くだけであとはなにも予定ないかな」

「てことは、あたしと遊んでくれるね!決まり!」

半ば強引だがこれが彼女の遊びに誘うときのスタイル。

「相変わらず強引ね。こっちに帰って来てからでもいい?」

「もちろん!」

彼女はさっきまでモノマネしてた担任の顔とは正反対のぱっちり二重の大きな目をキラキラと輝かせた。


 少し大きな鞄に1泊2日分の荷物を入れて車に積む。

「さて、そろそろ行こうか」

午前9時、父の運転で出発する。運転席の隣は母の特等席。両親はとても仲が良くて私の憧れだ。本当は私も父の隣に座りたいけど、ご飯のときはいつも私が隣だから車に乗るときくらいは母に譲る。その代わり運転してる父が見えやすい母の後ろに座る。いつもみたいに他愛もない話をする。

 出発してから30分経つ頃大きな煙突が見える道に出る。これは祖父母の家まであと半分くらいだという目印でもある。

「早くおじいちゃんたちに会いたいなあ」

外を眺めながら呟いた。窓から差し込んだ太陽の光が心地よくて私はうたた寝をしてしまった。

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