5. システィタニア
短い
わたしは、ハナミヤ セイラ
異世界人、だった
わたしは、しあわせ
普通の人間、だった
ある日突然、人生が終わった
けれどすぐに、また始まった
私の 新しい人生は、王女様だった
「私ははな、はなみやせいら、違う、私はシスティタニア。王女システィタニア。でも私は、わたしは……ッ」
幼い頃は、心と身体が全く合わなくて、いつも鏡の前に立つと、自分を保てなくなっていた。
いい王女であろうと思えば思うほど、前世の自分を利用しなくてはならなくて、苦しんだ。
それにも慣れてこれば、後は簡単だった。
幸い前世の自分は、現代チートキャラで、今世の自分は容姿と魔法チートを持っていたようだから、ただ自分にお姫様というベールを着せれば、上手くやれるようになっていた。
ある時、従者が来た。
アレンというらしい。
私の世話係であり護衛である彼は、学園にも付いてきて、甲斐甲斐しく私を世話した。
彼がいるおかげで、私は常に王女でいる術を身につけた。
私の周りは不思議と人が絶えなくて、わたしがいる時間もだんだんと減っていった。
最初の学園を卒業する頃には、もう前世の学生時代の出来事はほとんど思い出せなくなっていた。
魔法学園在学中、私は高熱を発症した。
数日間苦しみに悶え、身体が焼き切れるかという中で、システィタニアとして生まれて初めて他人に本心を吐いた。
「私はどうして王女で、こんなに苦しまなくてはいけないの!この国もこの世界も、愛すれば愛するほど、こんなにも辛くなる!!もう……全てを捨ててしまいたい」
アレンは、それでも側にいてくれた。
それから数日後、私はエルフになる。
熱が治った頃、既に一月経っていた。
鏡の前の自分は、髪色も瞳の色も顔の作りさえも違い、長い耳がただ存在感を放っていた。
私はまたもや、私で無くなってしまうのか。
そんな危惧よりも先に、王女としての自分を、システィタニアを殺さないために、魔導具を作り、私が私の姿を忘れる前に、前の私と今の私をアンクレットに残した。
それが、リリアカーネとシスティタニアだった。
そして空いた枠には、前世の自分の髪と瞳の色を変えた、セーラを形取って保存した。ギリギリ自分の顔を覚えていたから。
私はすぐに転移魔法を行使し、お父様に説明した。
その転移魔法一つで、自分の魔力量と魔法の精密度が明らかに跳ね上がっているのが分かった。
その後父親の許可を得て、アレンにも事情を説明。
驚きはしたものの、笑顔で受け止めてくれたアレンの優しさには感謝している。
その後最後まで通い切って、魔法学園を卒業した私は、
システィタニアとして生きながら、リリアカーネとしても名を上げ、セーラとしての居場所も確立した。
これは、誰の為でもなく私のために。
私が生きるための、三つの姿である。
先日、私の二人の兄が、王位継承権を放棄したと国民にお触れが出された。
私は騒動になり、最悪王家全員処刑されるのではないかと恐れたものだが、そんなことは全く無く、寧ろ私を歓迎する声が多かった。
けれど、私はそれを甘んじて受けるつもりはない。
私はこの国の女王になるつもりなんてない。
兄達を……どちらかでもいい、王位に戻す。お父様が考え無しに私を王に据えるとは思えない。ここからが私の闘いだ。
「リリア」「セーラ」
ほら、システィタニア。眼を醒ませ。
お前が世界を変えるんだ。
《序章 終わり》
一旦おしまい。
続きは少しあけます。