2. ここから始まる物語
好き勝手書きなぐってる作品なので、唐突に重たい話が来たりします。
エルフが登場しますが、作者の設定上のエルフなので、そこはご了承下さい。
今日は、お仕事があります。
私は王女として、エルフの知恵者であり冒険者として、そしてまあ謎の少女としての仕事がある。
謎の少女としては特に無いけどね。無職だもの。
王女として、他国に出向いたり、国内を巡ったり。
お父様曰く、システィが顔を出すだけでみんな元気になるからーーーってどこの栄養剤だよ。
その理屈はよく分からないけど、みんなの笑顔が見られるのは私も幸せで、困っていることや不満を聴くのは、とても勉強になる。
私も初等学園に3年、魔法学園に3年間通ったけれど、やはり現地ほど学べるものはないと思う。
まあ、それとは別に。
エルフとして、今日はお仕事があって、王宮に呼ばれています。
まあ、王宮に住んでるんだけどね。
王女システィタニアは、ふわふわの長い金髪に赤い瞳の可愛いお姫様だ。
エルフのリリアカーネは、エルフ特有の長くとんがった耳、ゆるくウェーブのかかった淡い緑の髪に金の瞳の、目の覚めるような美女。エルフは美形種族だけど、これほどの美人は見たことも聞いたこともないとは父の話。
そして、知らぬ間に名前が広がったセーラ。ただ王女として外に出歩くには窮屈なので、ふらっと魔法で変装して出かけたら、有名になってしまった姿。淡藤色のストレートの髪で、瞳は銀色。妖精のような優しい雰囲気の美少女……。
本当の姿はどれかと言われると、難しい。
実は、髪色や瞳の色は違うものの、容姿的にセーラは前世の自分に似ている。人の目がない分、セーラでいる時が一番自由だ。言葉遣いも気にしなくていいし、精霊や動物たちは可愛い。素で生きられる環境と言ってもいい。まあ、アレンと二人の時は素が出ちゃったりするんだけどね。
「【コンバート・アピアランス】」
私が常につけているアンクレットは、変身のための魔道具で、アンクレット自身にも透明化の魔法がかかっているからめちゃくちゃ有用。
ちなみにゲームみたいに3つの姿までセーブ出来て、消すと再起できない。つまり戻れなくなってしまう。
うん、これでよし。適当な所に飛ぼう。
「姫様、本日のご予定は……」
「ええ。伝えた通り、リリアカーネとして王宮での会議に出席して、その後今度の大規模討伐クエストの準備に出かけるわ」
「畏まりました。今回も、どなたかが訪ねて来られましたら姫様はお部屋でお休みになっているとお伝えしておきます」
「いつもありがとう、アレン」
「勿体無きお言葉」
アレンは、10の頃から仕えてくれている従者で、変異した時も、私のフォローのためにとそのまま仕えてくれている。
私がこの事を皆んなに明かさない限り、アレンは他の仕事に就けないし、結婚も出来ないだろう……。本当に苦労をかけてしまって申し訳ない。
「それじゃあ、行ってきます」
「お気をつけて」
【テレポート】
空間転移の魔法を行使すると、目の前の景色はまるきり変わり、王都付近の森に入っていた。
テレポートって本当に便利な魔法だよね。前世で欲しかった。
座標を記録しておくと、その場所にいつでも飛べるようになる。
セーブポイントみたいなもん。
「ここから急げば15分ぐらいか」
前世の時間でざっと計算しつつ、浮遊魔法のかかったブーツで先を急いだ。
*
わざわざ王宮に居たのに森に飛んでこちらへ来たのは、勿論理由がある。
身バレ防止ってやつ。
王都に家を建てようかとも考えたけど、入ったのに何日も出て来ないだとか、帰って来ないだとか言われると面倒だし、帰っているはずなのに返事がないと言われても言い訳に困る。
なのでエルフらしく森に帰り森から出ることにした。
うん、我ながらいいアイディア。
「遅くなったわね」
王宮の許可証を見せ城門を潜ると、見慣れた場所に戻ってくる。
二階の会議室に入ると、何人かが既に中で談笑していた。
その中でも一際目立つ、ひょろっと線の細くて背の高い男が、声をかけてきた。
「リリアカーネ様。ご足労いただき感謝します」
宰相のディミトリ・クルザール。歳は28だったか。
物腰柔らかく見えて意外に切れ者であるディミトリは、父である国王やジルベールお兄様からの信頼も厚い。私も彼のことはとても頼りにしている。
「ディミトリ殿、お久しぶりね。薬のストックはまだ残っているかしら?」
「はい。体力回復薬は100ほど、魔力回復薬は50ほど」
「そうね……今度のクエスト用に追加で作りましょうか?」
「それは大変助かります。後ほど発注の書面を用意させていただきます。リリアカーネ様の魔法薬の量と質はどこにも負けませんからね」
「あら、さすが宰相殿ね。口が上手いんだから……どう?今夜にでも」
「おや、よろしいのですか?最近は忙しいので、付き合わせてしまいますが」
「勿論、ディミトリ殿ならいくらでも」
夜の約束事をしていると、また見知った声が聞こえた。
「悪いがディミトリ。ご挨拶させていただいても?」
じ、ジルベールお兄様!?なんでここに!!?
「ああ、失礼しました。リリアカーネ様、こちら第一王子のジルベール様です。王子、この方はエルフのリリアカーネ様」
あっ、やばい。流石にジロジロ見るのは失礼だ。
「……殿下、お初にお目にかかります。リリアカーネと申します。ご挨拶が遅れましたことお詫び申し上げます」
「…………」
ああ、これは見定めタイムだ。自分が話すに値するか、時間をどれほど費やす価値があるのかを見てる。ディミトリも固唾をのんで見守ってるし、周囲もシーンと静まり返っている。
うーん。これは何か言うべきかな。
「エルフの特技をご存知ですか?」
「は?」
まさか私がこの沈黙を破ると思っていなかったのか、はたまた突然こんなことを言い出したからか、ジルベールは珍しく気の抜けた顔をした。
「耳が良く、記憶力がいい。魔力量が多く寿命が長い。その他に、特技をご存知ですか?」
「いえ……」
「我々エルフは見た目よりも長い人生を歩んでいます。ですから、人を見れば多少のことが見通せるのです」
「そうなのですね」
だからどうしたって顔だ。
まあ、正直嘘というか、そんな特技聞いたことないけどね。
「殿下のことを少し当ててみましょうか。
殿下には二人のご兄弟がいらっしゃると聞いています……。
そうですね。妹のことはたいそう可愛がっているけれど、弟とは喧嘩の日々。違いますか?」
「……!」
まあ、違わないだろうけど。
「それから、苦手な食べ物があるでしょう?人前では絶対に美味しいと口にするけれど、本当はとても嫌いな食べ物が。それはーー……」
「分かった分かった!君には負けたよ。悪かったよ、品定めなどして」
「ふふっ、構いませんよ。私も、少し揶揄ってしまいました」
苦手な食べ物があると知って、やばいと思ったのか周りの大臣達がメモ取ろうとしてたし。
まあ、おそらくここにいる人たちは二人の王子の不仲を知っている者だけなので、私がここで当てたところで問題はなかったはずだ。
「揶揄った?」
「……友人から、相談というか、話を聞いていたのです」
「もしかして、システィから?」
私は少し微笑んで、是とも否とも言わずこくっと頷いた。
つられてか、ジルベールも少し笑った。
「そうか。システィの友人なら、貴女ほどの切れ者でもおかしくはない」
あっ、友人とか変な設定作っちゃった。あーあ。
だけどどうやら、ジルベールのお眼鏡にはかなったようだ。
「……話は終わりました?会議を始めたいのですが……」
「あら、ごめんなさい。始めましょ?」
今日の会議は、大規模討伐の話がメインだ。
私も口出しするのは、今回はここだけ。あまり私が話を進めると、国が成長しないから。
「それで、リリアカーネ殿、討伐の件はいかがですかな」
やっと出番か……。調査書類と参考文献を回させると、会議室に備えられた大きな世界地図を指示棒で示す。
「今回は魔物の討伐が主だけど、恐らく元凶は西の森を挟んだ隣の国、ブルートゥスね」
ざわ、ざわ。
小さな会議室に大きなどよめきが起きる。
「それはやはり、人為的ということですな」
「元老長殿、やはりということは、お願いしていた調査でも」
「リリアカーネ殿の言われていた通り、召喚系の魔法陣が残っておりましたな。我々では解析はできず、写真だけは残してきましたが」
「拝見するわ」
前世よりはずっと画質の荒い写真には、丸型魔法陣が映っている。
「これは、未使用の召喚魔法陣ね。それも、魔物用の」
「み、未使用ですか!?」
「ええ。どうやらまだあちらの目的は達成できていないみたいね。けれどそれもこちらの調査で確認が取れているわ。ブルートゥスの狙いは我が国と森を隔絶することよ」
大臣達はあまり理解できていないらしく、考え込む。
だけど流石、宰相やお兄様は察して書類を読み返している。
「ブルートゥスは、見た目よりも大きな国よ。隣国だけれど、国交は繋がっていないでしょう?こちらにかなりの秘密を抱えているわ。中でも1つ、大きなものは、西の森の《封印》かしら」
「封印と言いますとやはり」
「4つの森の支配権を持っていた伝説の獣 《テトラルキア》の一体ね。場所は実際に行ってみなきゃわからないけど、地中と考えるのが妥当ね。それを掘り起こそうとしているのかしら」
大臣達は、深刻な顔で考えていれば何か解決すると思っている者ばかりだ。
あとは現地調査しか無いな。
「2日後は西の森に出向き、調査を行うわ。4日後に大規模討伐として、戦力を投入する。調査については、こちらで人員を確保、大規模討伐には冒険者を始めとした約500人の戦闘員と治療班。そちらはクエストとして発注の通りによろしく」
「では、解散」
ディミトリの声で、全員が動き始める。この件は大きくなることなので、これから忙しくなるだろう。
ディミトリをチラ見するけど、ニコッと笑みを返された。今日の約束はまだ有効らしい。案外暇人なのか、それとも溜まっているんだろうか?
まあ、せいぜい相手してあげるとしよう……。
「リリアカーネ様」
「リリアで構いませんよ、殿下」
「では私のことも、ジルと気安く」
「それはちょっと……」
「リリア」
「うーん、ジ、ル? 不敬にならないといいのだけど」
「私が命令したのだから、大丈夫だよ」
お兄様のこと呼び捨てにしたなんて、はじめてだよ。
なんか、変に懐かれた?
「予定はあるの?」
「今日は王都で討伐と調査のために色々と仕入れておこうかと」
「なるほど、買い物か。良ければ私も同行しても良いかな?」
「え、ええまあ、問題は無いけど」
「それは良かった」
……あまりにことがテンポよく進みすぎて怖いんだけど!
ええ、なんで変装した姿でお兄様と出掛けることになってるの!?
黙ってお茶会に行った罰ですか(泣)
王都は一年中通して大変賑やかだ。
セーラとして竜の背に乗せてもらい、転移魔法で座標をコピーしてリリアカーネの姿でたくさんの国を巡った。自慢じゃないけど、この国よりも富んだ平和な国は、私の行った中では他に無かった。きっと私は、とても恵まれているんだと思う。
街中にいても、エルフの顔はとても目立つ。容姿もそうだし、特徴的な耳なんかも。
父が本来の姿で生きやすいようにと、リリアカーネとして生きる選択を残してくれたけれど、エルフは何よりも目を惹く存在で、能力は良くても色んな面で狙われやすい。
エルフの国があるのと別に、エルフ崇拝の団体もあると聞くし。
エルフの国も人口が少ない上、他国では余計に珍しい存在だからな。
買い物がひと段落ついて、近くのお洒落なカフェに寄ることにした。
お礼に私が奢ると行って誘ったのだ。
「ジル。買い物付き合ってくれてありがとう。正直助かったわ」
「いいや。君が少し嫌な顔をしてるのを無視して誘ったのは私だ。こちらこそありがとう。だけど、お役に立てて良かったよ」
自覚あったんかい。
けど、他の街で買ったり、アレンに揃えてもらったりしていたから、王都での買い物は不慣れだし。魔道具や武具を新調するにもジルベールの存在が無ければこうしてお茶を飲む時間も無かっただろう。
さすが完璧超人お兄様だなぁ……エスコートも完璧だとは。
あ、
「このミルフィーユ、美味しい……」
こちらの世界は食が進んでいないのかと思いきや、ところがどっこい、科学についてはいまひとつだが、食の文化については文句なしの絶品であった。この国ではあまり齎されていないが、お米も一般的に食べられる国もあるし。
ただ、魔物が出たり種族が多かったり、魔法が使えるという点以外は、それほど元の世界と変わらない。この国は平和だ。
ふと目線をあげると、ジルベールと目が合った。
優しい目で、愛しいものを見つめるような、甘い笑み。見ているだけなのに幸せ、って顔だ。どうしたんだろう。
「ジル、どうかした?そんなに見つめて」
「いや……とても美味しそうに食べるから。君はこんなもの、これまでたくさん食べてきただろう?」
え……バレてる?
こっそり料理長にお願いしておやつにスイーツ食べまくってたのバレバレだった?
もしかして、時々自分でも作って食べてたのも??
あ、いや普通にエルフだからですよね。すみません。
「食は常に発展しているし、すぐに新しいものが生まれるから。魔法と同じよ?常に新しいことを追求するの。私……ここのミルフィーユは初めて食べたの。とっても美味しい」
思わず、自然の笑みが溢れる。
ジルベールの喉が、ごくりと嚥下するのがこちらまで聞こえた……エルフ耳の所為かもしれないが。
店内の客、店員問わず全員の視線を感じ、なんとか近くの店員に、お茶のおかわりをお願いし注意を逸らした。
「多くのエルフは、人間に対して好意を持っていないと聞いていたけど、リリアは例外なんだね」
「まあ、古い歴史の中で、人間によるエルフ狩りや森を焼き尽くすなんて非道な行為、許すことはできないけれど。変えるべきはいまと未来だと思っているから……」
紅茶を注ぎながら、エルフの歴史に想いを馳せる。容姿や魔法技能を目当てに狙われやすいエルフは、今でも何人が犠牲になっているかわからない。 この国から出れば、奴隷が容認されている国家だって少なくない。
「それにね。私は人間のこと、嫌いじゃないもの」
お兄様や、お父様。亡くなったお母様を思い浮かべて。前世の、平凡な日常を思い出して。
1年半前までは人間だったことを抜きにしたって、私の知る人たちは歴史に残る卑劣な人間達とは違うと言い切れる。
「そうかな?私にはあまり、そうは思えないんだけどな」
「ふふ、要領の悪い人間は嫌いかしら?」
「まあ……ね。学ぶ努力をしない者は特に」
それはどこぞの第二王子のことですかね。
ちょい、ピンポイントだよ、お兄様。
「人間は愚かで、そんなところも可愛らしいわ。明け透けな明日なんてつまらないもの。この世界に共存する以上、嫌いなんて感情で生きているのは息がつまるわ。好きになるのは、毎日が幸せになるということよ」
私のお友達のエルフが、言っていた。
リリアカーネと話すのは新鮮で、面白い。目線が全く違うから。
リリアカーネと話すと、人間と話しているはずなのに、エルフと話していて、けどやっぱり人間よりで、種族なんてどうでもよくなるって。
私は、それでいいじゃないって言った。
彼も、それでいいんだなって笑った。
こうして、人とエルフの壁が無くなればいい。
お兄様と、他人との壁も、無くなるといいな。
「リリアの考えることは大きくて、私にはとても手が届かないな……でも、君の話はとても素敵で、全て理解したくなる。君自身のことも」
「ジル。私とお友達になりましょ。そうしてたくさん話せばいいの。私たちは今日出会ったばかりだわ」
「そうだね……うん、友達か。そこから始まれば、今はいいか」
なんだか歯切れが悪いけど、気にしないでおこう。
成り行きだけど、第一王子ジルベールがエルフと仲が良いのは、国としても前向きになれるはずだ。
「ところでリリアーーーそろそろ外へ出ようか?とても目立っているから」
え?
気付くと、深く被っていたはずの外套が、思いっきり肩に落ちていました。
そりゃあ視線を浴びるよねぇぇぇぇ!!