1. 出掛けるときは一言伝えた方がいい。
新連載です。
7まで連日予約投稿していますが、8以降書き溜め出来次第連日予約投稿予定です。
私、クロシスナ王国第一王女システィタニアは、実は隔世遺伝で変異した元人間のハイエルフである。
オーマイガー。
そして、エルフとなったので真名が【リリアカーネセーラシスティタニア】となった。
ワーオ。
で、実は実は、異世界転生者だったりするんだよね。
アンビリーバボー。
色々あってチート能力付いちゃった。
ウズウズしちゃって、家族に内緒で姿を変えてあちこち行ってたら、名前が広まっちゃったよ。
アイムソーリー。
えっ?ちょいちょい英語挟むのなんでって?
そりゃあれだよ。……ファンタジー。
「姫様!あれほど言ったではありませんか!!
お出掛けになる際はどこへ行くか、せめていつ頃帰られるのかを伝えて下さいと!!」
ぷんぷん怒って整った顔に皺を寄せているのは、私の従者のアレン・ルヴァーノ。
私よりも2つほど年上で、世話焼き。優しくて、私に甘い。
ちなみに、私のみっつ……トリプルフェイス(キリッ)を知っている数少ない人間。
「ごめんってば、アレン。許して?」
「そ、そんなに可愛らしく謝っても簡単には許せませんよ!
せめて私にくらい伝えていただかなければ、フォローもできません!!」
「えー。可愛くは無いと思うけど、本当、悪いとは思ってるんだよ?
いくらお友達のお茶会に突然誘われたからって、何も言わずに出てきたの」
「そのお友達はどこのどなたです?」
「……始祖竜のヴァルキリー」
「くぅっ!ああもう、怒るに怒れない!!」
アレンって本当に優しいと思うの。
毎回私の尻拭い、あっ物理的にじゃなくて言葉の綾だよ、してくれて困った時には助けてくれて。しかも強いし。凄いよね。
「それでアレン、お兄様やお父様は何も言っていなかった?」
「そんなわけがありますか。陛下は明日の朝自室に来るようにとのお達し、王太子殿下は明日の午後こちらへ、第二王子は……」
アレンの言葉はそこで止まった。
「え? なぁに?」
「その、第二王子は、今晩18の刻……つまりこれから、こちらに来られるそうです」
「それを先に言ってよ!!」
ああもう、絶対に間に合わない。
私の宝物がぁぁぁ……。
予感したとおり、その直後、時間ちょうどに強いノックが響いた。
いえ、これはノックじゃありません。拳ですね。そして返事を待たずに扉は開く。
「シス。おせぇよ」
「アルベールお兄様……」
あー、やっぱり間に合わなかった。
「…おい、シス。俺が前に言ったの覚えてるか?」
「う、覚えて、ます」
「俺言ったよな?クソジルベールの写真は全部捨てろって」
「あ、あの、おにいさ「おにいちゃん」
17になってまでおにいちゃんって呼ぶの、恥ずかしいんだけど……。
「……おにぃちゃん。おにぃちゃんは、ジルベールお兄様のこと、どうして苦手なんです?」
「……クソジルベールのことは苦手なんじゃねぇ。嫌いなんだよ」
説明しよう。
おにぃちゃんこと、アルベールお兄様はこの国の第二王子である。
王太子であるジルベールは私の3つ上、20歳であり、ジルベールはアレンと同い年の2つ上。19歳。
いい歳した二人の兄は、どうやら不仲らしい。理由は分からない。
ただ、二人とも私のことは随分可愛がってくれて、現代的に言う不良っ子のおにぃちゃんも私にはデレてくれるのだ。
まあ、お互いに、アルベールお兄様は毛嫌いしてるし、ジルベールお兄様は関わりたくないって感じなんだけどね。
「おにぃちゃん、写真は捨てませんよ?おにぃちゃん達の仲が悪いのと、私がおにぃちゃん達のこと好きなのは、関係無いですよね?」
「う……それは」
「じゃぁ、私ジルベールお兄様とだけ仲良くしてしまいますよ?ジルベールお兄様は、写真を捨てろなんて言いませんし」
「あーーーわかったわかった!写真はいい、いいからそんなこと言うな!」
うむ。それでよろしい。
「おにぃちゃんって王子様なのに王子様らしく無いですよね」
「シスも大概だぞ。国民の前では見惚れるほどに綺麗で誰よりも目を惹くのにな」
「え?私、そんなに目を惹いてます……?おにぃちゃん達がかっこいいからじゃ」
「天然かよ……」
よく分からないけど、美形兄二人は国民に人気も高いし、女の人も放って置かない。
なのに……未だに二人とも結婚してない。
「あの……おにぃちゃんは、いつ結婚するのですか?」
「あ?予定は無ぇよ。どうせクソジルベールが王位も世継ぎもなんとかやるだろうし、俺は特定の女に肩入れしねぇんだよ」
「……おにぃちゃんのそういうところは少し嫌いです」
「ハッキリ言うな。しっかし、お前が心配した方がいいのはクソジルベールの方じゃねぇか?」
……まあ、正直そうかもしれない。お兄様は女性嫌い、というか自分よりも頭の悪い人間が嫌いだ。事実、アルベールはお世辞にも頭がいいとは言えないし。国の文官たちでも、お兄様にかなう人はいないと思う。
私は前世のこともあって、馬鹿では無いし、お兄様は私のことを可愛がってくれる。国一番の天才っていうのは、流石に言い過ぎだけどね。
そんなお兄様は、初対面で見定めて不合格の女性……含む人間には、驚くほど冷たく、大きな壁を作ってしまう。結果、今の今までお兄様に婚約者はいない。
「……よし、明日お兄様に、聞いてみます」
「え゛」
「なんですか、おにぃちゃん」
「あーいや、うん。まあとりあえず、今日体調を崩して寝込んで臥せってたのを黙ってたんだから、大人しくしとけよ?」
「……はい」
おにぃちゃんは知らない。
私が3つの顔を持っていることを。
おにぃちゃんは知らない。
私がおにぃちゃんより強いってこと。
*
「システィ、おはよう。もうすっかり顔色はいいようだね」
「お父様……揶揄わないでください、どうせ知っているのでしょう?」
「ああ、昨日君が始祖竜とお茶をしていたのは報告で上がっているからね」
アレンのバカー!
なんで言っちゃうのかな!!
黙っといてとは言ってなかったけども!!
「それでお父様、ご用件はなんでしょう?」
「……システィはもう少し、ゆっくり生きた方がいいと思うよ?
君の人生はとても長いのだから」
「私の人生は長いかもしれません。ですが、お父様たちはそうではないですから……」
私は一年半前、突然変異でエルフになった。これまでは人間として、16年の月日を年を重ね成長してきたけれど、これから私の身体の成長が進むのは何十年、いや何百年先だろう。
私が隠しもせずにしょぼくれてしまうものだから、お父様は困ったように笑って、私をぎゅっと抱きしめた。
「ごめんね。僕もシスティと同じ、エルフに生まれられたら良かった。君のお母さんに、亡きシーリアに、託されたのに……」
私は、国王ベルナールと王妃シーリアの間に生まれた、第一王女。
クロシスナは様々な種族の共存している国ではあるが、王族はこれまでずっと人間ばかりだった。けれど、シーリアの出はエルフの国アルフヘイム。エルフが人口の9.5割を占めるアルフヘイムに生まれた異分子が人間のシーリアだった。クロシスナとアルフヘイムの架け橋として、半ば押し付ける形で嫁入りに来たシーリアは、体が弱く三人の子、最後に私を生んでしばらくして亡くなってしまった。
お父様やお兄様は、私を責めない。理由はなんとなく分かった。私も、母が亡くなった瞬間は覚えているからだ。母は幸せそうだった。娘が欲しかったんだって、ずっと言っていたそうだから。
「私は、大丈夫です。お父様。王女としてもエルフとしても、立派にやっていけるから。お父様は王座で威張っていていいんです!」
私は精一杯の笑顔を見せた。
2回目の人生、とてつもなく長くなりそうだけど、今とても幸せだから。
家族が大好きだから。
「ああ。ありがとう。そうだね、父親として王として、君達を守るのが僕の使命だ」
私がエルフだと知り、トリプルフェイスを持つことを知っているのは、人間ではお父様とアレンだけ。とても心労をかけてしまうことを承知で打ち明けた。
私、お父様の分も必ず生きて、国を守るから。
「お父様、大好きです」
「ああ。愛しいシスティ……ジルベールが物凄く怒っていたからね。覚悟しておいた方がいいよ」
……あっ、死んだかも。
*
「ねぇシスティ」
ひゃい。くちいひゃいでひゅ。
「何かあったらすぐに知らせなさいと私は言ったよね?」
ひゅみまひぇん。うりうりしないれくらひゃい。
「私がどれだけ心配したのか、分かっているの?」
わひゃってまひゅ。
「ほら、返事は?」
「あ、お兄様、ご結婚されないのですか?」
「分かってないみたいだね」
あああ!順番間違えた!!
「ご心配おかけして、本当に反省しているのです。ジルベールお兄様は、いつも一番私を心配して下さりますから」
「当然だよ。システィは私の愛しいただ一人の妹なんだから」
弟はいいんですかね?
……いらないことは言わない方がいいよね。
「ありがとうございます。私もジルベールお兄様のこと、大好きです!」
「ふふふ、システィは良い子だね。それで、良い子なシスティはお兄様に結婚して欲しいの?」
ヒィィッッ!!
こわっ、怖いよ!お兄様怖い!!
「いや、その。お父様ももう40になりますし、お兄様は20歳になられましたから、そろそろ頃合いと言いますか……上級貴族でも10になれば婚約者がいるものですし。ほら、お兄様は女性にとても人気ですから、一人くらいお兄様のお眼鏡にかなう方も……」
「……私の目にかなう女性がいるなら、連れてきてほしいくらいだよ」
あー、一生見つかる気しないや。
私のお友達は基本婚約者がいるし、お兄様狙いで近付いてきた子はお兄様達が追い払ってくれるし。
それに相手がいない私のお友達、人外ばっかりのような……。
「諦めた方が良いかもですね」
「まあ、王位は継ぐつもりだけど、世継ぎは能無しのアルベールに任せるよ」
アルベールに任せたら、母親が誰か分からなくなりそうだけど。
うちのお兄様方は本当に女性観が全然違うな。
「もう、お兄様たちったら……」
「そんなことを言うけれど、システィはどうなの?いいお相手がいるなら、私が見定めてあげるけど」
お兄様が認めた方なんて、元老長のヴェイロン様と宰相のディミトリ様とお父様ぐらいでは?
「いえ……私は、きっとお相手を不幸にしてしまいますから」
結婚し、契りをすれば、寿命が長い方に合わせられる。
契りをしなければ、私が旦那様の死を見届ける事になる。
どちらにしても、いいことなんてきっとない。
そして今日も、クロシスナ王家は全員独身なのである。