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と、いうことが起きたのが数日前。
前世の記憶を思い出したからと言って何かが変わるわけでもなく、更にはこちらで21年間生活してきたのだ。簡単に癖や人格が変わるわけがなかった。
(前世の記憶自体は完全に思い出した訳でもないしな。付き合い的には転生後の方が長いし、思い出したところで今日のバイトがなくなる訳では無いのでした。)
日常は今日も以前と変わらずなわけで。
少し変わったといえば、何やら変なものが見えるようになったくらい。
例えば、道端で突っ立ってる顔色の悪い人とか、花壇から飛び出すキメラみたいな生き物とか、空を飛ぶ巨大な鳥とか、スカイフィッシュ的なにかとか、ちっちゃいおっさんとか。
見えてしまうようになった。ぶっちゃけどうでもいい。見えたところで初めは驚いてたけど、慣れたら当たり前になってて笑ってしまう。
というか、私の家族は元々幽霊が見える一家で私だけが見えてなかったので、正直にこの話をすると納得されただけだった。
バイト終わりの夜道はちょっと怖いけど、ホラー映画の如く襲ってきたりはしないので安心。
魔法使いだったからなにか当時のように魔法が使えないかと呪文を唱えてみるものの、使えなかった。
経験上その理由はわかる。魔力が足りないのだ。
おまじない系のものなら素材を集めて少しの魔力を込めれば使えるのでいいのだが、素材がまぁこの世界にはない。
代用品になるものを探す方が大変で結局1回も使ってない。
使える魔法といえば、少し物を浮かせるくらい。しかもこれ、使ったらすごく疲れる。
これがこの魔法がない世界において魔法を使うための対価なのかと実感した。
私こと、富田 茜は21歳のただのオタク女だ。推しの供給に咽び泣き、推しが笑えば拝み倒す。絵を描くことが好きで、人見知り。文具屋でバイトをしてる極々普通な女。
そんな私の前世は魔法使い。性別は男。とある森で結界を張って宿屋を経営していた。
妻は……いなかったはず。多分童貞。彼女いない歴=年齢だったはず……。
何故こんなにも曖昧な表現をするのかと言うと、先程も言った通り記憶が完全に戻った訳では無いからだ。
そう言いきれるのは、自分が死んだ時の記憶が無いから。
転生しているということは、前世で死んでいるはずなのに、その死ぬ間際の記憶が無い。
だから、記憶が抜けていると分かるのだ。
(まだワンチャン童貞じゃない可能性あるで、これ)
まぁ別に童貞だろうが童貞じゃなかろうが今の自分には関係ないのだが。女だし?
(でもなぁ、可能性として拭えない疑惑があるからなぁ……前世、男が好きだった可能性あるからなぁ……。)
もしそうだった場合、ちょっと問題なのだ。
オタクでもあり腐女子でもあり夢女子でもある私は左右固定しがちなのである。
ABにハマってしまったらBAはその時点で解釈違いで受け付けない。
めんどくさいオタクだ……と自分でも思う。
だからこそ、前世の自分は……と考えて我に返る。
(自分が受けとか攻めとかあんま考えたくねぇかも……。)
今世の記憶の方が多いとはいえ、一応前世の記憶も自分の一部なわけで。
前世の自分を絵で描いてみたりもしたけれど、正直実感がない。
夢を鮮明に覚えている気分だ。
「全部思い出したら何か変わるんだろうか。」