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SNSは怖い

作者: 如月千暁

実在の団体・サービスとは関係していません。

「あれ、優子はこのSNSやってないの?」

 優子がいつものように友達である香奈美とファストフード店で駄弁っていると、そんな話を振られた。

「SNSって知らない人とかと繋がるんでしょ? なんかちょっと怖いんだよね」

 優子は毎度のようにされるこの質問に少しうんざりしつつそう答えた。

「花の女子高生がそんな時代についていけない老人みたいなこと言っててどうすんの」

 少し呆れたような香奈実の声に優子はむっとした。その顔をみながら、香奈実は笑いながらこう提案してきた。

「ちゃんと設定すれば知っている人としか繋がらないようにすることだってできるんだから。今私が見てるからアカウント作ってみようよ!」

 うーん、それなら少しぐらいやってみようかなと思えてきた。周りのみんながあまりに多くSNSをやっているので優子も興味がないわけでもなかったのだ。


 少し四苦八苦しながらアカウントを作るのに成功した優子はまだ何も表示されていない自分のアカウントのページを見ながら少し達成感を覚えていた。

「ほら、ここで終わりじゃないよ! なにか投稿してみなって!」

 香奈実に急かされ、とりあえず「今日から始めました! よろしくね!」と打ち込んだ。

「なんか面白みのない文章ね、まあいいわ。これからやっていけばいろいろ分かるでしょ」

 そんなことより、と前置きしつつ別の話題へと移っていった。女子高生の話は移ろいやすいのだ。




 優子がSNSのアカウントを作ってからしばらくたったころ、優子は少し物足りなさを感じていた。

「時々見るこういうたくさんの人にお気に入りされる投稿……。私もこういう投稿してみたいな」

 ユーザーが気に入った投稿に対してつけるお気に入り機能。友人たちにつけられると承認欲求が満たされることに優子は気づき始めていた。

「もし、こんな風にたくさんの人たちにお気に入りされたら、どんなに気持ちいいんだろう……」

 しかし、今の状態では友人にしか自分の投稿は公開されず、あまり多くの人に見てもらえない。そんな状態ではこんな風にたくさんのお気に入りをもらうなんて夢のまた夢だ。

「まだ、知らない人とつながるのはちょっと怖いけど……。別に個人情報が知られるわけでもないし、いいよね……?」

 こうして、この日初めて優子はSNSのアカウントの公開制限を解除したのだった。




「うーん、この投稿もあんまり伸びないなあ」

 優子はアカウントの公開制限を解除してから数週間がたった。お気に入りの数が百人ぐらいになることが一回だけあった。その時はすごい気持ちがよかったのだが、いかんせんなかなかそうなることは少ない。考えに考えた投稿があまりお気に入り数が伸びない。そうなると絶望感と焦燥感に胸が焦がれるようになった。優子は自分の承認欲求の高さに自分で引いてしまうくらいだった。

 そんなある日、優子はとあるサービスを見つけた。

「botサービス……?」

 説明を読むと、自分の普段の投稿を分析してコンピュータが設定した時間に投稿を作成してくれるサービスらしい。

「へー、面白そうじゃん」

 最近の自分の投稿のお気に入り数が伸びずイライラしていた彼女は気分転換にでもとこのサービスを設定し始めた。


「これで設定終わりかな? お、もう一つ目の投稿が出てきた」

 その投稿がお気に入りにされていくと、少しではあるが承認欲求が満たされていき、優子は満足した。




「ねえ、優子。botサービスって知ってる? なんか機械が勝手に投稿するサービスなんだけど、それを使い続けていると自分が自分じゃなくなっちゃうんだって」

 学校で香奈実にそんな噂話をきいた優子。思わずどきりとしてしまい、「え」となんとも間抜けな声を上げてしまった。

 それを聞いた彼女は笑い声をあげながら

「なんかおかしな噂だよね。SNSなんかでそんなこと起こるわけないじゃん」

 そんな香奈美の様子に優子はほっとしていた。

(そうだよ、そんな根も葉もない噂、信じてどうすんのよ)

 しかしそれから数週間後、優子はこの時なぜもっとこの噂について聞いておかなかったのか後悔することとなる。




「あー、次の授業は体育かー。なんかめんどいなあ」

「確かに。サボっちゃう?」

 優子は香奈美とそんなことを会話しながらスマホでSNSを見た。

(また、botが投稿をしているな)


 それを確認した次の瞬間、優子は暗闇の中にいた。

「え……?」

 慌てて周りを見渡すと小さい窓のようなものが光って見えた。その他は全てが暗闇で優子は自分がいまどこを向いているのかすら分からなかった。

「なに……、これ……?」

 この世界の唯一の光があの窓のようなものなのだ。優子はとりあえずそこに向かった。

 自分が歩いているのか、闇の中を泳いでいるのか、それさえも定かではない感覚の中、ついにその窓にたどり着き、手を触れた。


 その次の瞬間、優子は教室にいた。机に突っ伏して寝ていたようだった。

「あ、やっと起きた? ずっと寝てるのかと思ったよ」

 優子が教室で寝るなんて珍しいね、と言いながら香奈美は優子に笑いかけた。

「え、体育の授業は?」

 あの訳のわからない体験の前、体育の授業に向かおうとしていたはずだった。それなのに何故か今は教室にいるのだった。

「まだ寝ぼけてんの? 体育の授業はマラソンだったじゃん。優子もひいひいいいながら頑張って走ってたでしょ。変なこと言ってないで早く帰ろ?」

 「そうだね」と香奈美に同意しながらとりあえず帰り支度をし始めた。

(あれは夢だったのかな? 香奈美の言ってるような記憶はないけど、寝ぼけて忘れちゃったのかな?)

 そう考えて、優子はこの出来事をあまり気に留めることはなかった。




 しかし、この奇妙な白昼夢のような体験はそれからも度々起こった。初めは数週間に一度程度の頻度だったが、だんだんと多くなり今では日に一度は必ず起こるようになっていた。

 優子はこの奇妙な出来事が怖くなってきた。必ず暗闇の中に閉じ込められ、出たら数時間ぶんの記憶を失っているのだ。

(どうしよう、なんとかしないと。でも、誰かに相談できるようなことでもないし……)

 傍目からはなにも異常がないのだ。一番行動を共にしている香奈美ですら気付いた様子はない。誰かに相談したら頭がおかしくなったと思われるだろう。

 しかし、全ての出来事に共通のきっかけがあることに思い当たった。

(全部、SNSを確認した直後に起こってる?)

 そう思い当たった優子はひとまず、SNSのアプリをアンインストールしてみた。

(これでもうあんなこと起こらないようになって……!)

 何度も暗闇に閉じ込められた優子は暗いところがトラウマになりつつあった。もはや祈るような気持ちだった。




 その祈りが届いたかのようにばったりと奇妙な出来事は起こらなくなった。

 元気がなくなっていることには香奈美も気がついていたようで

「なんか、最近元気が戻ってきたね。よくわかんないけど、よかった」

と言われ、優子の心が暖かくなった。


「そういえば最近SNSやってないの、投稿見ないけど」

 そんな香奈美の問いかけにどきっとしながら優子はこう答えた。

「うん、アプリもアンインストールしちゃった」

「ならアカウントちゃんと消しといたほうがいいよ、乗っ取りとか最近あるし怖いよ」

 その香奈美の言葉に優子ははっとなった。

(そうだ、アカウントは残ってるんだ……。怖いけど、あと一回だけだし大丈夫だよね……?)

「じゃあ今消しちゃうね」

 そういうと優子はウェブブラウザからSNSのアカウントのページを開いた。


 そして、次の瞬間にはいつもの暗闇の中にいた。

(大丈夫、こうなるのは分かってたから。早くあの窓に触ろう)

 覚悟は出来ていても、怖いものは怖いので元の世界に戻ろうとした。

 そして、近づくと何かが聞こえた。

『〜〜〜、〜〜〜』

(声?)

 さらに近づくと窓に優子と香奈美が映ってるのが分かった。

『消すのってどうやるんだっけ?』

『ここの設定を押して……』

(まさか、この窓ってスマホの画面!? 私はいまスマホの中にいるの!?)

 優子は急いで窓に触るがいつもと違って外に出て行かなかった。

(なんで、なんで!? どうやって出ればいいの!?)

 慌てる優子の頭に香奈美の言葉が思い浮かんだ。

『botサービスって知ってる? なんか機械が勝手に投稿するサービスなんだけど、それを使い続けていると自分が自分じゃなくなっちゃうんだって』

(まさか、botの中の自分がいま外に出てるの!?)

 混乱する優子を置いて、外ではアカウントを消す設定が進んでいく。

(いまアカウントを消されたら……)

「やめて! 消さないで! 香奈美、私よ! 優子よ!」

 必死に叫ぶが、外の香奈美に反応はない。

『あれ、何この投稿。なんかおかしくない?』

『あ、そういえばbotサービスに登録してたんだった。まあ、アカウントを消しちゃえば問題ないよね』

「消さないで! こんなところに置いてかないで!」

 優子は必死に叫ぶが、香奈美も外の優子にも反応はなかった。


『じゃあ、これでアカウントは消去かな?』

『うん、これを押したら完全に消せるよ』

『香奈美ありがとう! なんか変な投稿されちゃうし、やっぱりSNSって怖いね』

『それじゃあ』


『バイバイ、もう一人の私』

 外の優子がそう言った瞬間、優子は暗闇に包まれた。

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