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ろうそくの国

作者: 鈴原りえる

 ろうそくの国が、ありました。

 ろうそくの国は、ろうそく達の住む国です。

国中が、電気のあかりで、あかあかと照らされ

ていました。

 今日の夜は、ろうそくの国のお祭りです。

 ずっと昔、ろうそくの国が闇に閉ざされた時、

勇気ある、ろうそくの若者が高い塔にのぼり、

光を、とりもどしました。

 ろうそく祭りは、今は使われていない火打ち

石を打ちあって、伝説の勇者を、たたえるので

す。

 塔の周りで、国中の、ろうそく達が、歌って、

踊って、笑っていました。

 元気な、ろうそくの若者が、勇者の活躍を祝

って、火打ち石をカチカチ! 青い火花が、は

じけました。

 ろうそくの娘も、火打ち石をカチカチ! 赤

い火花が、はじけました。

 ろうそく達は、ピンクの火花、オレンジの火

花、緑の火花をとばして、踊ります。

 ところが急に、国中の電気が消えてしまいま

した。

 あんなに陽気だったのに、闇夜に放りだされ

た、ろうそく達は、今は不安で身をよせあって

います。

「祭りで、電気を使いすぎただけだよ」

「そうですね。すぐに明るくなるでしょう」

 お互いを、はげますように、ろうそくの若者

と娘が言いました。

 そこへ誰かが、大声で言いました。

「ダメだ! 発電のしすぎで、機械が壊れたら

しい!」

「ええ?」

「なんだって?」

「明かりは、どうするの!」

 家に帰る道も、見えない暗さです。ろうそく

達は、みんな、怖さで怒鳴りました。

 大人数が、あっちへ行こう、こっちへ行こう

と勝手に動き出して、「おすな、おすな」のパ

ニックが、はじまっています。

「どうしましょう……」

 ろうそくの娘は、手をつないでいる若者とは

ぐれないように、さらに身をよせました。

「ああ……」

 若者は、何かを考えている様子です。

 そして、心に決めた声で、

「伝説の塔は、こっちだったな」

と、人ごみをかきわけ、少しずつ進んでいきま

した。

 二人は、伝説の塔につきました。

 塔は、高くのびた細い棒に、らせん階段が巻

きついているだけのつくりです。

「君は、ここにいて」

「いったい、どうするのですか?」

「いいから、ぼくにまかせて」

 ろうそくの若者は娘を残し、手すりもない階

段を、のぼっていきました。

 そして、ようやく塔のてっぺんにつきました。

たいらで何もない、小さな皿のような場所で、

若者は落ちないように真ん中に立ちました。手

に火打ち石を握っています。

 カチ、カチ! カチン!

 ボッと小さな音がしました。

「見ろ! 伝説の塔に光が、ともったぞ!」

「わー! やった! 勇者が助けてくださっ

た!」

 ろうそく達は大喜びです!

 ところが娘は一人、息がとまるくらい驚きま

した。

「あの方は、命を燃やしているのだわ!」

 急いで塔の階段を、あがっていきます。

「ああ…あなた……」

 娘が塔のてっぺんに立った時、ろうそくの若

者の体は、半分近くになっていました。

 娘の悲しみをやわらげようと、若者は微笑み

ました。

 若者の微笑みに、娘も悲しみをこえた、おだ

やかな笑顔になりました。

「さぁ…あなたは少し休んでください。夜は、

まだまだ明けません。今度は、わたしが、あか

りを、ともします」

 若者は驚いて、「それは、できない」と言い

かけました。しかし言い終わるより、はやく、

娘は若者から自分に、火をうつしました。

 若者の火を、吹き消します。

「わたしは、あなたが先に燃え尽きてしまうの

は、いやです。お互いの光で、ともしていきま

しょう」

 娘の言葉に、若者は微笑みを返しました。

「君の炎は、暖かいね」

「あなたの炎は、明るいわ」


 夜が明けました。

 伝説の塔の上で、二人の体は、とけあいまし

た。

 二人の心も、幸せに、とけあいました。

               (おわり)


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