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番外編(匠)

この番外編で、『ステーキブルー』は完結となります。ありがとうございました。

寺ちゃんと結婚することになって、NYの事務所とマンションを引き払うことを決心した俺は、一度NYへ戻ることにした―――


一応ダメもとで寺ちゃんに一緒に来てくれるように頼んだら、速攻。


「無理。」


と、冷たくあしらわれたけど。

ほら、そこはやっぱり、天下の氷室製薬の力を使わない手はないし。


ということで、奥の手を使った。

いや、奥の手ってわけじゃないけど。

近場の手?


つまり――


「朱里ちゃん、あんた出張扱いにするから、NYへ匠と一緒に行ってくれんか。この子ぉだけにすると、ほんま、気ままやから、連絡もせんし・・・一応こっち戻って、氷室製薬で働くとなると、スケジュールも入れるし。ああ、そうや・・・朱里ちゃんあんた、今まで私専任やったけど、匠が来たら、匠の世話も頼むから、これからは私と匠の兼務や。まぁ、何かと役員連中の指揮もおいおい頼むことになるけど、まあそれはまだ先や。それで、人手がたりんし、三浦の下にもう一人男の社員を専任でいれることにしたから・・・あんたがNY行っている間に、決めておくし、こっちのこと気にせんでいい。頼むわ。」


はい、会長命令―


寺ちゃんは、唖然とした顔で俺を見た。

俺の嫁にと思っただけあって、ばあちゃんは寺ちゃんをすごく気に入っている。

ちょっと、ばあちゃんと俺の兼務っていうのが気に入らないけど・・・。


とにかく、NYへ寺ちゃんも連れて行ける!!

俺は、一気にテンションが上がり。


「寺ちゃん、寺ちゃんっ。NY案内するからっ、どこ行きたいっ!?」


と、ご機嫌で聞いたのだけど。

速攻、頭を叩かれた。


「アホか。遊びに行くんじゃない。事務所とマンションを片づけたらすぐ帰るから。匠のスケジュールもう、入ってるんだぞ。」


厳しいことをいう、寺ちゃん・・・ちぇぇっ。

せっかく婚約したんだしー、もうちょっと甘い感じてもいいのに。

俺は、口を尖らせた。


そんな俺たちを見て、ばあちゃんが笑いながら、いい提案をしてくれた。


「せっかくやから、ウエディングドレスをNYで選んできたらいい。そおや、匠、あんた婚約指輪まだ、贈ってないやろ。一緒に選んで来たらどうや?」


俺は、再びテンションが上がった。






本当に、先日帰国した時とは打って変わって、俺は飛行機の中でリラックスできて。

もう、わかっていたが、絶対に寺ちゃんとは離れられないと再確認したわけで。


「匠・・・・ウザい。ちょっと、離せ。」


「ええー、なんでぇ?本当はもっとくっついていたいのにぃ。やっぱ、寺ちゃんの言う通りエコノミーにすればよかったぁ・・・。」


「そういう意味で、エコノミーって言ったんじゃない・・・。」


いつも使うファーストクラスを予約してもらおうとしたら、調子に乗るなと言われ。

だって俺、ファーストクラスのシートしか使ったことなくて・・・エコノミークラスを予約しようとした寺ちゃんに泣き落としでどうにかビジネスクラスにしてもらったけど。

よく考えたら、座席と座席の間に距離がある。


しまったっ。

俺と寺ちゃんの間には距離なんて必要ないのに!

いや、距離なんかあっちゃいけない!!


自分のミスに気が付いて、とりあえず手だけでもつないでいようと思い、ずっとつないでいたんだけど・・・ウザいって言われて、手を離された。


ぐすん・・・。


涙目でみる俺に、寺ちゃんがため息をついて。


「これじゃ、何にもできない。隣にいるんだから、問題ないでしょ。」


寺ちゃんの冷たい言葉に、ヘコむ俺。

その時。


「あ、やっぱり・・・氷室様。ビジネスの担当の者から、氷室様が本日はビジネスに乗っていらっしゃるって聞いて・・・何か予約されるときに、手違いがありましたか?」


突然、嗅ぎ覚えのあるキツイ香水の香りがしたと思ったら、CAに話しかけられた。


えーと・・・誰だっけ?


そう思っていたら。


「いえ、今回は社用ですので、経費削減のためビジネスクラスを予約しただけです。」


寺ちゃんが、ビジネス口調になってCAに答えていた。


って。

あっ!?

このCA・・・もしかして・・・。


「・・・・・・。」


思い出した・・・完全に、思い出した。

この、臭い香水・・・。

CAのこの派手に作りこんだ顔には全く印象はないが、この臭いと、このなれなれしくて鬱陶しい喋り方・・・。


チラリと、寺ちゃんを見ると。


バチッ――


目が合っちゃった・・・って、これ・・・完全に、マズいパターン!?

焦る俺に、追い打ちをかけるように、寺ちゃんは。


プイッ――


っと、俺から顔をそらした。


えっ。

ええっ!?


「て、寺ちゃんっ!?」


俺の呼びかけを無視して、寺ちゃんはCAにビールを頼んだ。

だけど、CAは。


「あ、すみません・・・私、このクラスの担当ではないので・・・ファーストクラスの担当なんです。」


あろうことか、俺の寺ちゃんの頼みを断った。

驚いて、CAを見る、寺ちゃん。

寺ちゃんは、無表情になり、下を向いた。

そして、それを無視して俺に話しかけるCA。


「でも、お久しぶりですー。氷室様にあれからお会いできなかったから残念で。あれから何回もクリスのホームパーティに参加したのに、氷室さんいらっしゃらないから・・・そうそう、明日、パーティーあるんですけど、いらっしゃいますか?よかったら、その後、この間のように氷室さんの可愛い寝顔を見た――「すみません、ビール頂けますか?」


もう一度、寺ちゃんがCAに注文した。

今度は、さっきよりも大きな声で。


こ、怖いけど・・・寺ちゃんがどんな行動に出るか、滅茶苦茶興味があるっ。

黙って、見ていたら。


信じられないことに、明らかに眉をよせてCAが寺ちゃんを見た。


「ですから、私はファーストクラスの坦――「ここは、ビジネスクラスですけど?しかも、失礼ですけど勤務中ですよね?氷室さんへホームパーティーに行くお誘いは、勤務後にして頂けますか?よかったら、はい、これ。氷室さんの携帯電話の番号です。」


「ちょ、て、寺ちゃんっ!?」


どんな行動に出るか見守っていた俺だけど、俺の携番を渡すなんてっ。


「ひ、酷いよっ、寺ちゃんっ。」


俺が抗議すると、寺ちゃんが俺をギロリと睨みつけた。


「酷いのは、どちらですか?私にこういう話題を聞かせる方が、酷いのではないですか?ですから、お話になりたいのでしたら、私のいないところでして頂きたいと思うんですけど?」


冷たい声で、そんな事を言い出した。


ああっ、もうっ。


「寺ちゃんっ。私のいないところでって、どこ?俺、寺ちゃんから離れないっていったよね?だったら、寺ちゃんのいないところなんてないよねっ。それに、この人、俺良く覚えてなかったけどっ、このくっさい香水と、なれなれしい喋り方で思い出したけどっ。仕事仲間のクリスのホームパーティに来てて・・・この香水と、なれなれしさが嫌で、俺パーティー中この人に話しかけられるのがウザくて、寝たふりしたんだよぉ。寺ちゃん知ってるでしょっ。俺が寺ちゃん以外の他人がいるところで熟睡できないって。それに、俺が仕事中に自分の持ち場を離れて、私語をしにきて、お客さんを無視するような社会人失格者と、長い時間一緒にいられると思うー?」


寺ちゃんに誤解されたくなくて、思っている事を一気に言ってしまった。


スッキリしたけど、寺ちゃんの反応が怖い・・・

だけど、その前に、俺の前でひきつる顔のCAに。


「あ、こっちにも、ビール。」


「私には、赤ワインのメニューをお願い。」


「あんたさー、注文受けないなら、ビジネス担当のCAを呼んできてよ。」


あまり座席がうまっていないビジネスの、客からも文句が出た。

目の前のCAはひきつった顔でどうにか笑顔をつくり、ビジネスクラスの担当者を呼びに行った。


その背中を見ながら、隣からただよう冷えた空気に怯える、俺。


だけどっ、やましいことなんかないしー。




それから。

漸く来たビジネスクラス担当のCAに、俺の分も合わせて2つビールを頼んだのだけれど。

寺ちゃんは窓の外を見たまま、俺の方に顔を向けない。


「寺ちゃん、こっちむいてよぉ。」


「・・・・・・。」


「てっ、寺ちゃんっ!?何で無視!?」


「・・・・・・。」


「寺ちゃぁぁぁぁんっ、俺のこと嫌いにいなったのっ!?だ、だめだよっ?俺、寺ちゃんと結婚するんだからねっ?寺ちゃん、俺のこと愛してるって言ったよねっ!?寺ちゃん、俺に側にいてほしいって、俺と結婚したいって、俺のエッチのテクニックが凄い・・・・・痛っ!?――「バカじゃないのっ!?」


寺ちゃんが全部俺にいったことなのに、何故か寺ちゃんが怒りの形相で、俺を叩いた。

まあ、最後のは心の声を聞いたんだけど・・・でも、あのエッチの時の寺ちゃんの状態を見たら、誰だってそう思うけれど。

まぁ、誰にも見せないけど。

いや、それよりも・・・。


「て、寺ちゃん・・・俺。」


「何?」


「・・・俺。」


「だから、何。」


ぶっきらぼうだけど、そのちょっと俺様顔も可愛いんだよなぁ・・・本人は気がついていないみたいだけど。

ぷ、俺様顔する時の寺ちゃんって、ちょっと子供っぽくなるし。


あー、ダメだ。

キスしたいっ!


俺は、自分のシートベルトをはずして身をのりだし、寺ちゃんにチュッと、キスをした。

想定外だったのか、固まる寺ちゃん。

周りに人がいるから、これ以上はできないな、と思って素早く顔を離した。

と、タイミング良く。


「あ。寺ちゃん、ビールきたよぉ。乾杯しよっ。」


寺ちゃん同様固まるCAに、ビールここですー!と言って、俺は寺ちゃんに笑顔を向けたが。

我にかえった寺ちゃんから、再び頭を叩かれた。


「何で、こんな所でっ・・・!」


「えー、だってぇ。俺様顔の寺ちゃん、滅茶苦茶可愛くてぇ・・・思わずチュウしたくなったんだもん。それにぃ・・・・。」


そこまで言うと、俺はチラリとビールを持ってきたビジネス担当のCAを見た。


「何かさぁ、さっきの臭い香水のCAさんにー、寺ちゃん話をした時、仕事できましたって雰囲気でぇ、俺の婚約者って感じじゃなかったしー・・・って、ことで、PRも兼ねて?的な?」


ビールをテーブルに置いたCAが、驚いた顔で俺を見た。

俺はにっこりCAにほほ笑むと。


「ということで、俺、あの人と面識あるけど。最初から苦手なタイプだったんで、もうこっちのビジネスに来させないでくれますか?これ以上のことがあったら、俺・・・個人的な感情で悪いけど、氷室一族にこの航空会社もう使わないように、宣伝しちゃいますよ?」


自分でも寺ちゃんに対する声とはかなりかけ離れた、冷えた声でそう言った。






「・・・・だから、無理だって言ったんだ。」


CAが引きつった顔で去り、無理矢理寺ちゃんと乾杯をした後。

ビールをゴクリ、と飲んだ寺ちゃんがポツリ、とそう言った。


「え?」


「だからっ。一緒にNYへ来たら、こういうことになるのは目に見えてるからっ!」


「こういうこと、って?」


良くわからなくて聞き返した俺に、寺ちゃんが大きくため息をついた。

そして、バツが悪そうな表情をしたかと思うと、俯いた。


「・・・・だから・・・匠の、お・・・女、関係・・・・昔のことだって、分かっていても・・・・目の前にしたら、ム、ムカつくし・・・。」


しどろもどろ離す寺ちゃんの言葉に、俺は一気に舞い上がった。


「て、寺ちゃんっ、それっ、やきもちっ!?俺にやきもちやいてくれたのっ?これって寺ちゃんやきもち?うれしいなぁ、やきもちやてくれたんだっ。寺ちゃんのやきも・・・・うぐっ!痛っ!?・・・・・・何で、殴るの!?それも、グーで!」


「うるさいっ、何度やきもちって言うんだっ。」


あー、寺ちゃん、照れてるー。

頭、ちょっとグワングワンしてるけど・・・やっぱり、寺ちゃんを連れて来てよかった、と思った。

俺は、そう思いながら、上機嫌でビールをあおった・・・頭痛いけど。


そんな上機嫌な俺をチラリと横眼で見た寺ちゃんは、はあ・・・とため息をついた。


「えっ、寺ちゃん?・・・もしかして、さっきのくっさいCAと俺が何かあったとか、思ってる!?言っておくけど、俺、何にもないからねっ!仕事仲間のクリスのパーティーだから、無下にもできなくて、寝たふりずっとしてたんだからねっ?本当だよぉ?」


俺は、疑われたらたまらないので、必死で説明をした。

寺ちゃんはそんな俺に、小さく頷いた。

だけど、わかってくれた、と、ホッとしたのもつかの間。


「うん。ああいうタイプは、匠の好みじゃないっていうのがわかる。だから、携帯の番号もデタラメ教えたし・・・でも・・・NYで・・・その、付き合っていた人・・・だって・・・いた、でしょう?」


寺ちゃんがいつもの勢いなく、つまりながらそう言った。


成程、そういうことかー。

でも、これって、どういう風に答えればいいんだろう・・・。

まあ、嘘ついてもしかたがないしー。


「えーと、学生の頃とかは、まぁ・・・彼女とかいた時もあったけど・・・ほら、5年前のことがあって、俺ちょっと人間不信っぽくなってたから・・・NYに来てから恋人っていう人はいなかったよ?でも、まあ・・・付き合ってはいないけど、たまにカラ――「もういいっ。きかないっ!!」


寺ちゃんが、話している途中の俺の口をふさいだ。


もうっ。

寺ちゃん、可愛すぎるっ!!







普段は超クールな寺ちゃんが可愛いやきもちを焼いてくれたことに俺は気分が良くなり、NYへ着いても、口元のニヤケは治らなかった。


「匠、キモい。その顔。」


タクシーの中で寺ちゃんが、俺にうんざりとした表情でそう言った。


って、これは単なるポーズで、恥ずかしがっているだけなんだよなー、もう、寺ちゃん可愛いすぎっ。



で、ホテルについてもそのテンションは下がることはなく。


「え、なんでホテル?匠、マンションを片づけるんじゃないの?」


グランドヒロセNYについてチェックインをすると、寺ちゃんは驚いた様子で俺に聞いてきた。


「ああ、マンション、1ヶ月以上留守にしているし、クリーニングもしていないから泊まるのはこっちで、通いで片づければいいと思ってさー。まあ、そんなに荷物もないし・・・ほとんどの荷物は処分するから業者に頼むし。とりあえず、片づけは明日からってことでー、部屋いこー。」


俺はそう答えると、荷物をポーターに預け、上機嫌で寺ちゃんの手をとった。

目の端に、一瞬寺ちゃんの顔におびえが走ったような気がしたけど・・・まあ、あえて気が付かないふりをした。






ぐったりとした寺ちゃんの、シーツから出ているむき出しの肩にキスを落とせば。

ぐったりしているにも関わらず、ピクンと体がはねた。


「ふふっ、まだ足らないのぉ?寺ちゃんのえっちー。」


それだけのことで、すぐに回復した俺は、また寺ちゃんの上にまたがった。

だけど。


「いや、む、無理だからっ・・・今のは、条件反射みたいなものでっ・・・・無理、もう、本当に無理っ、匠、ちょっと休ま――」


寺ちゃんが何か言っていたけれど、俺はすぐに寺ちゃんの中に入った。


ふふ、最高―。

寺ちゃんと俺、凄い相性いいみたい・・・まあ、愛情があるのもあるんだろうけど。

こんなに乱れる寺ちゃんは、こういう時しか見られないから、俺も興奮するし・・・。

よしっ、もうちょっと興奮させよう!



俺は、今日も頑張った・・・。



結果。

何故か、また。

寺ちゃんに口をきいてもらえなくなって。

現在、非常に困った事態になっている。




「寺ちゃーん。返事してよぉ。」


何十回目かの呼びかけも、むなしく。


「・・・・・・・。」


無視。


はあぁぁ、いいよ、こうなったら。


「無視するなら、いいよー。じゃあ、俺も好きにさせてもらうねぇ?」


俺はそういうと、寺ちゃんの体を抱き上げ、俺の膝の上へ着地させた。


「ちょ、た、匠っ!?何するのっ!?」


焦って、俺の腕押す寺ちゃん。


ふふっ、かわいーいー・・・だけど、無駄だよねぇ・・・。

俺、見た目と違って力強いんだよねぇ。

握力右68で、左73だし。

あ、俺、左利きね。


「やっと、寺ちゃんこっちむいて喋ってくれたー。なんで無視すんのっ。」


俺が寺ちゃんの両腕を抑えて、そう尋ねると。

寺ちゃんはあきらめたように、ため息をついた。


「だから・・・NYに来たくなかったんだ。」


「うん、それ、さっきも聞いたけど・・・俺は、寺ちゃんと一緒に来れて、嬉しいよぉ?」


「・・・匠の・・・今までの、女・・・性関係・・・聞きたくないから、言わなくていいって言ったけど・・・だけど・・・・こういう風にスムーズに・・・ホテルの部屋に連れてこられて・・・・部屋に入るなり・・・その、こういう事をして・・・匠、こういう事すごく

慣れてるって、思ったら・・・・頭の中が、グルグルして・・・・。」


しどろもどろに寺ちゃんがそんな可愛いことを言い出して、挙句の果てに俯いたら。

俺、もうたまんなくなって・・・寺ちゃんを、ぎゅぅって抱きしめた。


「慣れてるとか・・・なんて、考えたこともなかった。ここのホテルは、昔からよく使っているし・・・って、女の人と泊まったことは、高校でこっちに留学する時についてきてくれたばあちゃん以外にはないからねっ!?・・・寺ちゃんが何を慣れてるって思ったかわかんないけど・・・俺はただ、こうしたいって思ったことをしてるだけだよ?・・・寺ちゃんと、ここに泊まって一緒にお風呂入りたいから広い部屋にしたし・・・もっと寺ちゃんを気持ちよくさせたいから、指でも舌でも・・・・・・痛っ!?何でっ、何で叩くのっ!?俺、今、良い事言っているのにっ!」


俺の熱弁は聞き入れてもらえなかったけれど、寺ちゃんはさっきより少し機嫌が直ったようだ。







案の定、クリスに寺ちゃんを婚約者だと紹介すると。


「マジかっ!?」


と、言った。


微妙なんだけど、クリスの中でこの「マジか」という日本語はイケているらしく、驚いた時にかなりの頻度で使う。

だけど、今回の「マジか」は最大級の驚きが込められていて・・・。


いや、声がデカすぎて、耳が痛くなった。

寺ちゃんも耳を抑えた。

俺を見る目が、若干批難の目になっているし。


「あー、寺ちゃん・・・彼は、俺と事務所を共有している建築デザイナーのクリストファー・ケビン。俺がこっちの高校に留学してた時の同級生で・・・それからの付き合いなんだー。だから、今の事務所も後はクリスに任せようと思ってー・・・ちょっとした資料だけ持って帰れば困んないしー。」


固まったままのクリスは放置し、寺ちゃんにクリスの紹介をする。

寺ちゃんは頷くと、一応社会人としての態度を示した。


「初めまして、寺島朱里です。10月に氷室さんと結婚をすることになりました。よろしくお願い致します。」


なめらかな英語でそう話すと寺ちゃんは、綺麗にクリスに頭を下げた。

その所作にクリスは酷く驚き。

再び「マジかっ!?」を連発し・・・寺ちゃんの眉間にシワを作らせた。


だけど、その「マジかっ!?」にクリスのホームパーティーに来ていた連中がすばやく反応し。


「え、どうした?」

「『マジかっ』って何かあったか?」

「お、タクミ・・・久しぶりだなー。」

「そっちの可愛いコ、もしかして匠の彼女か?」


俺とも顔見知りのクリスの友人達が、途端に集まってきた。

まあ、クリスは独特な個性の持ち主だが。

高校からの友達で、俺が心を許せる数少ない友人のうちの1人だ。

5年前に俺がNYへ来て、以来日本に帰ろうとしなかった理由もよく知っている。

そんな俺を心配して、ホームパーティー好きのクリスが、よく俺をこうした集まりに誘ってくれていたのだった。

クリス以外の人間関係は面倒だったが、ここへ来るとまともな食事ができるので、週末にはかなりの頻度で通っていた。

まあ、あのCAが鬱陶しくて、ここ最近は顔を出していなかったが。



「やっと、タクミもパートナーができたか、おめでとう。」


クリスの友人たちの質問攻撃がひと段落した後、穏やかな声が聞こえた。

クリスの恋人で、インテリアデザイナーのビル・フラワーだ。

大人のいい男という雰囲気のビルにちょっと寺ちゃんが見とれかけたのを、俺は見過ごさなかった。


「寺ちゃんっ。ビルは、クリスの恋人だからね!ビルは、女の人には興味ないからねっ。」


急に不安になったので、先に釘を刺した。

だけど。


「タクミ、俺は別に女性に興味がないんじゃない。俺は、クリスがクリスだから愛しているんだ。」


なんて、ビルが恰好良い事を言い返したもんだから。

寺ちゃんの視線は、ビルに好意的なものになり。

クリスはクリスで。


「マジかっ!?」


と・・・・また、鬱陶しいリアクションをとり・・・俺は、今日は寺ちゃんとあのままホテルのベッドの中にいればよかったと、後悔したのだった。



そこに、エミリが現れた。

エミリは、ビルの事務所で働く30歳のインテリアデザイナーで。

理由はわからないが、結婚には全く興味のない仕事一筋という主義の、日本人とアメリカ人のハーフの女性だ。

そして、俺の――


「タクミ、やっと戻ってきたと思ったら・・・結婚!?嘘でしょう?」


驚いた様子で、俺の所へやってきた。

今ここへ来たばかりらしいが、俺の所へ来る前に事情を他の人から聞いたのだろう。


ふふ、驚いてるー。


「えー、嘘じゃないよぉ。俺、すっごい恋に堕ちたんだー。あっ、このコ俺のハニー。ふふ、可愛いだろー。」


俺の言葉に、完全に不機嫌なエミリ。


「日本に帰るって聞いたけど・・・じゃあ、私はどうなるのっ!?これから、タクミがいなくなったら・・・シタくなった時、どうすればいいのっ!?」


「えー、そんなこと言われたってー。他のヤツあたってよー。俺、寺ちゃんとこっち片付けて、日本にもどるんだからー。」


俺は、最初の約束とちがうぞとエミリを睨んだのだけれど。


「他のヤツって・・・ダメよ。タクミが一番相性がいいんだもの。他の人だと、こう・・・しっくりこないのよねぇ・・・。」


あくまで、自分の意見をいうエミリ。

はあ・・・やっぱりアメリカ的な意見の言い方だよな・・・なんて思っていたら。


突然。


バチンッ――


頬を、思いっきり殴られた。

寺ちゃんに。


え?


寺ちゃんは何故か怒りの形相で。


「最低!!やっぱり、私っ、匠とは結婚できない!!いくらつき合っていないからって、カラダの関係のあるガールフレンドと、こうやって平然と私に会わせるような無神経な人、嫌い!!」


そう叫んだ。

俺は、もうびっくりで。


「マジかっ!?」


っと、叫び続けるクリスを蹴り倒した。

多分、こめかみに青筋が立っていると思う。

こめかみがドクンドクンと、波打っているから。


「嫌いって、何!?寺ちゃん、結婚できないって今更、何!?っ俺にまるでセフレがいるような言い方は、何なのっ!?俺の、事・・・そんな男だと思ってたのっ!?」


もう、目の前が赤く染まるような状況で。

これって、かなり精神的にダメージなんだと思うけど。

だけど、寺ちゃんも負けじと怖い表情で俺を睨みつけていて。


「だって、匠・・・付き合ってはいないけど、カラダの関係の女性はいるっ――「そんな事言っていない!!」


想像を絶する発言をした。

俺は寺ちゃんの両肩をつかみ、正面から見据えた。

寺ちゃんの目に、涙のまくが盛り上がる。

こんな傷ついた表情の寺ちゃんは初めてで、誤解からでもこんな表情を俺がさせたんだと思うと、俺も悲しくなった。


「寺ちゃん・・・完全に誤解している・・・ちょっと話そう?」


そう言って、腕をつかみ引き寄せ胸の中に閉じ込めた。

そして、冷静になって考えてみると・・・原因に思い当たった。


ぷっ。

もう、寺ちゃん、可愛すぎるー。


俺は寺ちゃんの頬に自分の頬をすりよせながら、真実を告げた。


「エミリは・・・俺と、『カラダ』のつき合いじゃなくて、『カラオケ』のつき合いだよー。」


俺の言葉に驚きの表情の寺ちゃんと。


「マジかっ!?」


日本語のできる友人に今のやり取りを聞いたのであろう・・・。

クリスの、声が聞こえた。






無実を証明するために結局、エミリと寺ちゃんと俺とで、行きつけのカラオケ店へと来たのだが・・・意外な展開で。

というより、最高な展開となった。


寺ちゃんが熱唱している・・・何故か、昭和の歌姫と言われたド演歌の女王、美山つぐみの歌を・・・思いっきり、こぶしをのせて・・・。


エミリが、日本の代表的アニメソング、魔法使いエイミーを早速予約に入れた。


俺も負けじと、20年くらい前のスーパーアイドル、川原充彦・・・通称ミッチーの『トマト娘』を入れた。


そう、エミリはアニソンオタクで、俺はミッチーオタクだ。


ちょっと、仲間内で熱唱するのは恥ずかしいし、でも、ストレスが溜まると自分の好きなジャンルの歌を歌いまくりたい・・・。

エミリも俺も同じタイプで。

お互いがどんなドン引きな歌を歌っても、気にしないし。

というより、自分の歌に集中したいから、気にもならない。

1人でカラオケに来るのは侘しいし・・・1月に2回くらいの割合でカラオケに一緒に来ていた。

カラオケ店現地集合、現地解散という形で。

まぁ、歌いながらピザとかハンバーグとか食べていたから、一緒に食事をしていたということになるんだろうけど。

メシ友というより、完全なる、カラ友だ。



寺ちゃんの歌が終わった。


「寺ちゃん、凄いうまーい。こういう歌好きなのー?」


戻ってきた寺ちゃんに、ビールを渡しながら俺は尋ねた。


「いや・・・普段は、ドン引きされるから、こういうのは歌わない・・・だけど、小さい頃、金平のじいちゃんのパチンコ屋で美川つぐみの歌ばっかかかってたから、自然と体にしみこんだのかも・・・ストレスとか溜まると、無性に熱唱したくなる時があるんだけど・・・。」


「あ、わかるわー。私も、アニソン熱唱すると、周りはドンビキだし。その点タクミは自分の歌ばっかり集中してるから、そういうの全然気にしなくていいし。本当に、私たちカラオケの仲なの。でも、あなたもいいわねー、同類かしら?また、こっちへ来ることがあったら、カラオケ一緒してね?」


エミリが嬉しそうにそういうと、マイクを持って立ち上がった。



寺ちゃんの顔をみると、すっかり疑惑はなくなったようで・・・・。

って、もう次の曲探してるし!?



まあ、ひとつ寺ちゃんと趣味が合ったってことは喜ばしいことだよねぇ?

まさか、俺、ほったらかしってこと・・・ないよね?

俺は、嬉しい反面ちょっと不安な気持ちを持ちつつ、エミリの歌の魔法の呪文を聞いていた。






次の日、整理のためマンションに行った。

大切なものだけを持ち帰るだけで、後は全部処分するつもりだ。

元々そんなに物は多くないし。

というより、家具って言ったら、ベッドとデカいローテーブル。

テーブルではデザインをそこで書いたり、反対側でお茶を飲んだり何か食べたり。

クローゼットは備え付けだし。

マンションに他人は入れないので、椅子もない。

俺は、リラックスしながらじゃないとデザインが書けないので、床に直接座るため自分用の座布団とテーブルの下に敷いたラグだけ。

家では、料理なんかしたことがないので、ケトル以外調理器具もないし。

後は、インスタントコーヒーと、マグカップ1個だけ。


「え・・・匠、本当にここに5年も住んでいたの?・・・ウィークリーマンションの方がまだ、色々揃っているんじゃない?」


俺の部屋を一目見るなり驚きを隠せない様子で、寺ちゃんがそう言った。


「そーかなー?実際、他に何が自分に必要なのか、考えてもわからなかったしー。」


何も考えず、そのままの事を言ったんだけど。


「匠・・・。」


寺ちゃんがとても悲しい顔をしたから、まずいと思って。


「いやいや、今は何が必要か・・・って、じゃなくてー、これから寺ちゃんと一緒に住むにあたって何が欲しいか、もう色々希望は湧き出ているけどー?なんか、寺ちゃんと出会って俺急に強欲系?ふふっ・・・たとえばぁー、ソファー!!ソファーが欲しい!!2人でぇ、一緒に並んでテレビ見たりー、そこで寺ちゃんに膝枕してもらったりー、その後は・・・ムフフのエヘヘでぇ・・・・ってことはー・・・振動に強くてぇ、あー、背もたれが倒れるヤツ?・・・ソファーベッドでもいいしー・・・そしたらそのまま・・・・・・痛っ!?何?何で、俺を蹴るのっ!?」


これから買いたい物の希望を言っていただけなのに、寺ちゃんが思いっきり俺の脛を蹴飛ばした。

訳がわからず顔を見ると、真っ赤になって怒っている。

まあ、さっきの悲しい顔よりもずっといいけど。

いや、滅茶苦茶可愛いっ。


仕方が無いので、俺は寺ちゃんの手を引っ張った。

そして、5年間コーヒーを淹れる以外使わなかった、キッチンカウンターの上に飾ってある写真立てを空いているほうの手でつかむと、そのまま出口へ向かった。



「えっ!?匠!?荷物整理するんじゃないのっ!?」


驚いた声で寺ちゃんが、聞いて来た。


「えー、後は処分してもらうしー。大切なものとりに来ただけだしー?」


そう言って、俺が手にした写真立てを寺ちゃんに見せると。


「・・・出窓がある、家がいい。」


寺ちゃんが突然、違う話をした。


「え?何?」


良くわからなくて聞き返す俺に、寺ちゃんは殺人的な笑顔を向けた。

つまり、可愛すぎて俺の心臓が止まりそうだってことだけど。


「だから、私達の新居。日のあたる明るい出窓に、この写真飾りたいのっ。それから、私のお父さんとお母さんの写真も・・・それから、私と・・・匠の結婚式の写真もっ・・・だから、出窓のある家に住みたい。」


俺は、もう。

たまらなくなって。

手にした写真立てをまた、カウンターに伏せた。

そして、寺ちゃんの手を握ったまま出口とは反対の方向に歩き出した。


「えっ!?匠、しゃ、写真置いたままにしていいのっ!?」


俺は、ドアノブを握り、寺ちゃんを振り返った。


「えー、お袋の写真の前で、寺ちゃんとエッチするの、さすがに恥ずかしいしー?」


「ええっ!?」



驚く寺ちゃんの顔がまた一々可愛くて。

俺は、寝室のドアを開けた――





寺ちゃんと2人で行ったNYで、無事友人にも寺ちゃんを紹介できたし。

マンションも、仕事も整理がついたし。

寺ちゃんの気に入ったドレスや、エンゲージリング、マリッジリングも選べたし。

もう、最高―、って感じで。

ああ、そうそう、なんて言ったって、寺ちゃんがっ。

かわいすぎる焼きもちをやくから、俺たまらなくなっちゃったんだよねぇ。

まあ、結果・・・寺ちゃんの機嫌を損ねたっていうミステイクもあったけど。


ミステイクっていえば余談だけど、岡部がNYに事務所を構えることになって。

だけど最初の仕事で大きな失敗があったらしく、滅茶苦茶評判が悪くなっているらしい・・・と、こっちで世話になったこの業界の人に帰国直前思い立って挨拶まわりをした時に、何人かから同じような内容で聞いたんだけど。

だから、どうって今更俺は何とも思わないんだけど・・・だけど、寺ちゃんが。


「ええっ、そのミスターオカベって、ミスターオカベタツヤですよね?・・・世間ってせまいですね・・・私、先日その人にグランドヒロセNYで、突然迫られて、断ったら腕をつかまれて殴られそうになったんです。怖かったです・・・足がすくんで・・・転びそうになったので、どうにか避けられましたけど・・・ああ、目撃者もかなりいましたので、ホテル側に取り押さえられて・・・その後、どうなったかわかりませんが・・・ホテルに問い合わせればわかると思うのですが・・・関わり合いにはなりたくないので・・・仕事する上でも暴力を振るう人とは、難しいですよね・・・本当に怖かったです・・・。」


と、涙ぐみながら、毎回その話をした。






「寺ちゃん、涙まで出して凄い演技力だったねぇ。しかも、何気にフィクション入ってたしー。」


挨拶まわりを無事終えて、どうにか予定通り関空行きの飛行機に乗った後。

隣のシートに座る寺ちゃんに、俺は感心したようにそう言った。

すると、寺ちゃんが少し怒った顔を俺に向けた。


「匠は・・・岡部にちょっとくらい仕返ししたいとか思わないの?・・・いくら、匠の心が広いからって・・・もうちょっと、何か言ってもいいんじゃない。」


「別に、俺の心が広いわけじゃないよぉ。ただ、俺の中で岡部のことはもう完全に終わったことだし。まぁ、寺ちゃんにあいつがしたことは許せないけど、俺がかばう前に寺ちゃん自分であいつ倒しちゃったし。寺ちゃん格好良かったし。最終的に、自分でとどめさしたし。それに、あいつは5年前にああいう卑怯な事をした時点で、今の失敗に向かっていたんだって思うし。放っておいても、このまま自爆するよぉ。というより、もう関わり合いになりたくないのが本音―。」


「でも・・・。」


「寺ちゃんはぁ、俺のこと好きだしー。俺も寺ちゃんのこと大好きだしー。俺、今すごーく

幸せだから、自爆に向かってる不幸なやつにもう、仕返し出来てると思わない?寺ちゃんだって、寺ちゃんに酷いことしたやつらに、もう仕返しできてるよ。きっとー。」


「幸せになることが・・・仕返し・・・そっか。」


俺の言葉に寺ちゃんは納得したように、ギュッと、俺の上着の袖を握った。

俺はクスリと笑うと、寺ちゃんを抱きしめた。


「納得したかな?」


俺がそう問いかけると、寺ちゃんは俺の腕の中で小さく頷いた。


ああ、もう可愛い・・・俺、幸せすぎるぅぅ。

寺ちゃん、俺の事本当に好きなんだって、伝わってくるよぉ。


まぁ。

そう思っても、俺の方が好きなんだよなぁ、きっと・・・・。

悔しいけど・・・でも、人を好きになるって、本当に幸せだし・・・うん、俺、もっと・・・寺ちゃんに幸せにしてもらおう!


「寺ちゃーん、俺、もっと幸せになりたいっ!」


俺は寺ちゃんに、大きな声でそう宣言した。


「・・・うるさいっ!勝手になれっ。周りに迷惑だっ。」


抱きしめながら近くに耳がある場合じゃない時に、宣言した方がよかったってことに気が付いたのは、グーで力いっぱい頭を殴られてからの事だった。

寺ちゃんって、ツンデレだ・・・。


最近よく思うんだけど・・・頭って、大事だよね?

力いっぱい殴るって、良くないよね?

グワングワンしてるって、あんまりいい状態じゃないよね?


そんなことを痛みに耐えながら思ったのだけれど、寺ちゃんは非情にもそんな俺は放置で、CAにコーヒを注文した。

他の人よりもちょっとツンデレで暴力的だけれど、優しい寺ちゃんはちゃんと俺の分も頼んでくれた。


うう、愛を感じるぅ。




それから、グワングワンがおさまり立ち直った俺は、良い事を思いついた。


「寺ちゃん、俺しあわせなんだー。」


今の気持ちを、再度伝えてみた。


「そう。」


「寺ちゃんのおかげー。」


「なるほど。」


「でも、もっと幸せになりたい。」


「頑張れ。」


寺ちゃんが他人事のように言う。


「ええっ、俺一人じゃなれないよっ。寺ちゃんと一緒じゃないと、しあわせになれないんだよっ!?」


「・・・なら、十分幸せだと思うけど?」


「えへっ、俺って、欲張りだからー・・・ほら、エッチも1回じゃ満足できないしー・・・おかわりかならず欲張っ・・・・痛っ!?痛いっ!!寺ちゃん、ちょっと!!グーで殴るのやめてっ!!」


「・・・・・・。」


「ああっ、寺ちゃんっ、無視しないでっ!!だから、俺、今よりももっと幸せになりたいのっ。それには・・・俺の幸せ計画には、寺ちゃんが不可欠なのっ!だから、寺ちゃん協力してっ!!」


「・・・・・あんま、訊きたくないけれど。『幸せ計画』って何すればいいの?」


寺ちゃんが俯いてため息をついた後、こめかみを抑えながら、聞いてきた。


俺は、ニヤリと笑うと、俺のドリームライフを語ろうと1つ目の提案を仕掛けたが。


「あのねぇ、とりあえず俺の席を秘書室の寺ちゃんの席の横に移して――「却下!!はい、終了!」


あえなく、強制終了を余儀なくされた。

だって、寺ちゃん・・・右手グーにしているし。

その後、運ばれてきたコーヒーは・・・ちょっぴり涙の味がした。


でも、隣を見ると・・・大好きな寺ちゃんがいて。

今までとは違って、他人と空間を共有するスペースに長時間いなければならない飛行機の中だって、こんなに、リラックスができる・・・。


本当に、俺、幸せだーーーーー。







【番外編 完】





ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。

ブルーシリーズは私の中ではまだ続くのですが、丁度発表している作品で完結してるものがここまでとなりました。

あと未発表のものを含め未完の作品が3作ありますが、一旦ここでブルーシリーズを休憩させていただきます。

他サイトで連載中の作品が3年以上かかってもまだ完結できず(あと1章分だけなのに)、それをどうにか完成させようと思っています。

また、ムーンの方も放置だったので、ずっと構想を練っていた作品を書きたくなりました。

といっても、頻度は減りますがこちらへもまた投稿したいと思っています。

今後ともよろしくお願いいたします。

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