表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

12、伝わる思い③(朱里)

早朝にマンションを出たので、昼前に横須賀駅へ着いた。


匠は徹夜でデザインを描きあげたが、新幹線の中と横須賀線の中でぐっすりと眠り、元気な顔になっていた。

ということは、テンションも戻っていて・・・。


「寺ちゃんっ。先にホテルにチェックインしよー。今日はぁ・・・ふふっ、スィートルームとったからぁ・・・お風呂一緒にはいるよー。えへへー。」


着いた早々、そういう話をニマニマ笑いながら、改札で宣言しないで欲しい。

速攻で、匠の頭を叩く。


「痛っ!?痛いよっ!何で、寺ちゃん、頭叩くのっ!?」


「アホかっ。こんなとこで、変な事宣言するなッ!!」


「変なって何っ!?何で、一緒にお風呂入るのが、変なのっ!?俺達愛し合ってるんだよっ!?愛し合っているんだから、お風呂一緒に入るのは、変じゃないよっ!?・・・・ねっ、駅員さん!?そうですよねぇ!?俺と寺ちゃん、一緒にお風呂入っても、良いですよねぇっ!?」


いきなり、匠が改札にいる駅員に話しかけた。

ギョッ、とする、駅員。


駅員を巻き込むな・・・。


こめかみを押さえながら、再び匠の頭を叩く。

今度は、グーで。


「恥ずかしいわっ!!」


そう言って、涙目の匠の腕をひっぱり、出口へ向かおうとした。

だけど。


「やっぱり、ジュリだよな?」



いきなり、話しかけられてギョッとした駅員が私をじっと見つめていた。


「え・・・もしかして・・・ヒロシ?」


中学の2コ上の先輩のヒロシだった。


「寺ちゃん、誰っ!?」


すかさず、匠が聞いてきた。


「だから、ヒロシ。」


「どこのっ!?」


「えーと、横須賀線の?」


「横須賀線じゃ分からないよっ!?もっと詳しく!!」


「・・・横須賀線の横須賀駅の、1番改札の、ヒロシ?」


私がそう答えた途端、ヒロシが噴き出した。


「アハハハッ・・・漫才みてぇー。ジュリ、お前ってそんな面白かったんだなぁ・・・つうか、結婚すんのか?この間、ノリオ君と綾乃さんとそこで会って、話聞いたんだけどよ?・・・ああ、すみません。俺、ジュリの2年上の中学の同窓生の、ヒロシです。」


凄い目つきでヒロシを睨んでいる匠に気がついたらしく、苦笑気味にヒロシが自己紹介をした。


「寺ちゃ・・・朱里ちゃんの、婚約者の、氷室匠でーす。って、綾乃ちゃん、知ってるのー?俺、従兄だよー。」


「えっ、そうなんですかっ!?つうか、すげぇ、イケメンですねー。」


「うん、良く言われるー。ああ、綾乃ちゃん知っているなら、いいことおしえてあげよっかー?綾乃ちゃんって、小さいころ、トイレ行くのが面倒でー、朝1回、昼1回、夜1回に我慢して行ってたらぁ、膀胱炎になったん――「匠さんっ!?余計な事を言わないで下さいっ!!」


迎えに来てくれたのだろう、ジョージと連れだって来た綾乃さんが烈火のごとく怒っていた。

ジョージは今の話を聞いて、綾乃さんに怒っているし・・・。

3人で騒いでいる。


はあ、やっぱり睡眠とらせて体力回復させるんじゃなかった・・・。


そんな後悔をしていたら。



「ジュリ・・・俺、お前に謝んなきゃいけない事あんだわ。」


ヒロシが私に意を決したように、話しかけてきた。


「何?今頃・・・改まって・・・。」


そう聞くと、ヒロシは顔を歪めた。


「俺・・・お前んちに1回、行ったことあったろ。酔ったお前の親父さん送り届けた事・・・親父さんグダグダに酔ってて、お前1人じゃ無理だから・・・玄関の中まで運んだろ?それがさ・・・家から出てくるところ、写メ・・・誰かに撮られてて・・・チェーンメールになってたらしいんだ。丁度、親父さんが、亡くなった日、前後なんだけどよ・・・お前に言おうと思ったんだけど・・・あの日俺、シュウさんにボコボコにされて・・・誤解だって言っても、聞いてくれなくて・・・で、やっと起きれるようになったら・・・お前、この街出ちゃってて・・・。シュウさん恐ぇし・・・だけど、俺がもっとちゃんと、ビビんねぇで、否定しておけばお前と――「気にしなくて、いいんじゃなーい?」


いつから聞いていたんだろう、いつもの緩い声がした。

と同時に、私の肩に手が回された。


「匠・・・。」


「君が寺ちゃんを傷つけたんじゃないよぉ。やっぱり、悪いのは、そのシュウってやつだよー。本当に、惚れていたら・・・最初に寺ちゃんに確認するでしょ。それで、寺ちゃんが言ったこと、俺なら全部、信用するー。結局、それをしなかったってことは、そいつん中では、それくらいの気持ちだったってことでしょー?」


口調は緩いけど、目が笑っていない匠。

はあ・・・もういいよ、そう言おうとした時。



「お前に、何がわかるんだよっ。人に裏切られた事もねぇ、金持ちのボンボンが、何言ってんだっ!?」


私達の話を聞いていたのか。

シュウちゃんがそこにいて、いきなり匠に殴りかかった。


ダメっ!そう思って飛び出そうとしたけれど。


その前に、ジョージが膝を、シュウちゃんのお腹へ入れていた。

崩れ落ちる、シュウちゃん。

そして・・・。


「何も、分かってねぇのは、お前の方だっ。シュウ。」


ジョージが吐き捨てるように、そう言った。

多分、匠の今までの事情を綾乃さんから聞いているのだろう。


ジョージが肩をいからせながら、綾乃さんの手を引いて駅の外へ歩いて行く。


かなり怒っているな・・・ジョージはあんな風にクソバカだけど。

昔から、正義感はとても強かった。

きっと、シュウちゃんの曲がって物事をとらえる心に、腹を立てているのだろう。


あんなに、好きだった、シュウちゃんだけど。


私の横にまっすぐな心の匠が寄り添ってくれる事で・・・シュウちゃんの心の歪みが、今は良く見える。


昔は・・・恋に目がくらんで、見えていなかったのだろう。

だから、お父さんが、ダメだと言ったんだ。


今なら良くわかる。

それは・・・匠のおかげだ。


「ねぇ、一言・・・言っていいかなぁ?君もお母さん、亡くなったんだよねぇ?ねぇ、その時・・・寺・・・朱里ちゃんは、君にどう接した?・・・そして、反対に、朱里ちゃんのお父さんが亡くなった時・・・君は朱里ちゃんにどう、接した?・・・・・・分かるよね?それが、気持ちの重さだよ。誰が悪いわけでもない・・・君の心が、原因なんじゃないかなー。だけどどんなに言われたって、朱里ちゃんは、ぜぇぇぇったいに、返さないからねー!!」


匠の言葉に、ハッとしたように顔を上げたシュウちゃんは。

私を見て、瞳を揺らした。


私は、何か声をかけようと思ったけれど、何も・・・言葉は見つからなくて。

ただ、唇をかみしめた。


すると突然、匠にグイッと手を引っ張られ、シュウちゃんから引き離すように駅の出口へ向かう匠に、私は従った。



私には、もう何もしてあげることができないけれど。

シュウちゃんには、本物の愛を手に入れてほしい。

私が、本物の愛を手に入れたように・・・。



どうか、この思いが伝わりますように――






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ