表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 石田杞憂

『あるきこりが斧を川に落としてしまい嘆いていると、


ヘルメス神が現れて川に潜り、金の斧を拾ってきて、


きこりが落としたのはこの金の斧かと尋ねた。


きこりが違うと答えると、ヘルメスは次に銀の斧を拾ってきたが、


きこりはそれも違うと答えた。最後に失くした斧を拾ってくると、


きこりはそれが自分の斧だと答えた。 ヘルメスはきこりの正直に感心して、三本すべてをきこりに与えた。


それを知った他のきこりは、わざと斧を川に落とした。


ヘルメスが金の斧を拾って同じように尋ねると、


そのきこりはそれが自分の斧だと答えた。ヘルメスは呆れて何も渡さずに去り、


恥知らずなきこりは自分の斧をも失った。』



出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』







そして、あろうことに今僕の前に神がいる。

ここは家から少し離れた沼。観光名所の一つ。

たまたま、ふらっと、僕はこの沼にきて、

たまたま、ぼちゃんと、斧を落とした。古く錆びたやつだ。


「貴方が落としたのはこの金色の斧ですか?それともこの銀色の斧ですか?」

例に漏れず神は言った。

「いや、どちらでもない。俺の斧は今貴様の頭に突き刺さっているのだ」

頭から血を流した神――女神は柔らかく微笑し、言った。

「……いたいです」

血がぼたぼたと、いやドバドバと噴出していた。あちゃー。

僕は右手で顔を隠し、指と指の隙間から女神をのぞき見た。

上目遣いに女神が僕を見つめている。

こころなしか頬を赤らめ、両方の人差し指をもじもじと擦りあわせていた。

可愛いけど怖い。

「責任、とってもらいますからね」

何のだよ。思わずツッコミを入れる。

当然とばかり、血などお構いなしに言った。

「もちろん、私をお嫁さんにするんです」

胸を張って、誇らしげな女神――推定一五歳。

「いやだ」

僕は無慈悲にオブジェクト。

「僕には許嫁がいる」

途端女神――はじめから何故か僕にはそうわかった、が驚愕したかのように目を見開いた。

「そ、それは、だ、誰ですっ!?データベースにはそんなこと一言も……」

「もちろん。嘘さ。今は、ね。許嫁はとうの昔に泡となって消えた」

「最後の含みが気になっちゃうじゃないですか!」

女神――好物は納豆、が即座に反応した。お、反応が早い。


いつの間にか女神は斧を頭から取り除いて片手に握っていた。傷はどこにも見あたらないあたり、やはり女神なんだろう。

「とにかくっ」

女神――コンプレックス胸、は僕の目をほじくるように見つめて言った。

「今日から貴方のお嫁さんですからっ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ