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花などとうに散ってしまった。
滓かな残香すら今は無く、全てはただただ宵の色に落ちている。
彼はもう動かない。あの人はもう、喉を裂いて逝ってしまった。
宵の混じった茜色。あの朱が私の足下に届いても、私は未だここに居る。
「花枝様。もう、良いのです」
全ては夢だったのだろう。
淡く、そう、全ては淡く。泡沫の夢。
そんなもの、始めから無かったのだ。
「貴女は生きて、生きて下され。せめて、貴女だけは―――」
花などとうに散ってしまった。
とす、と乾いた音を立てて、持っていた匕首が畳に落ちる。
何もない。後のこの両手には、もう何も無い。
「―――せめて、一言だけでも聞かせたかったねぇ。あの子の声」
呟く言葉は闇に溶け、そしてすぐに消えた。