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第06話 カレン・リッチフィールド その1


──プロローグ──




「ふふ。ついに、見つけたわ」


 触れればぷるん。と音がするのではないかと思えるほど、艶やかな唇を指にあて、彼女は笑った。


 そこにあるのは、一枚の、手配書。


 とある街で起きた、留置所からの脱走者の手配書だ。



 金額もたいしたことはなく、捕縛のみ限定の手配と、賞金稼ぎもほとんど見向きもしない、とってもショボい内容のものである。


 なにより、その容疑はすでに取り消しのスタンプが押してあった。

 どうやら、濡れ衣での投獄であり、この容疑が晴れたことにより、この件も処分保留として取り消されたらしい。


 つまり、この手配書は、手配書としての意味さえすでになかった。



 だが、それを手にする女は笑う。



 それでもこの一枚は、彼女にとって大きな意味があったからだ。


 見下ろす手配書をどかし、その下にあった別の紙を見る。



 それは、地図だった。



 その西部が描かれた地図には、その手配書が発行された街から、何者かの足跡のようなものがしるされている。

 脱走事件の街から、ダム工事を続ける街。さらにラインが伸び、採石の再開された街へと。


 綺麗に整えられた爪が、地図をなぞり、その足跡の先にある、その地を指差した。



 となれば、次に立ち寄る街は……



「私の計算が確かならば……」


 彼女がそうつぶやいた直後、はらり。と、先ほどの手配書が、机から床に落ちた。


 動かした手によって生まれた小さな風が、それを小さく動かしたのだろう。



 彼女はそれを拾い、再びそこに書かれた情報を確認する。


 写真はなく、特徴とそれによって描かれた似顔絵が手配書に記されていた。



 金髪碧眼で、赤いマフラーを巻いた二丁拳銃のガンマン。

 名は、ジャック・サンダーボルト。


 その名を見た彼女は、唇を小さく吊り上げ、笑う。



「ふふっ。待っていなさい。ジャック。必ず、捕まえてあげるんだから!」



 彼女の指差したその地。


 そこは、川辺に作られた、広大な川を渡す、渡し舟を待つために生まれた、一つの街だった。




──川止め──




 ざあざあと、真っ黒い雲で染まった空から、雨が降っている。


 にごった濁流が大きなうねりを産み、流木とともに、巨大な力を押し流している。

 普段ならば穏やかに流れる、幅が広いだけの大河が、今はそこに龍でもいるかのように、荒れ、暴れ狂っている。


 数日続く長雨により、普段は人のヒザほどの高さしかない浅瀬でさえ、人をすっぽり飲みこむほどの深さとなっていた。

 あまりの川幅に橋が架からず、渡し舟でわたるこの地において、そうなった川に船を浮かべる愚か者は、流石にいない。


 ゆえに、川を渡ろうとする旅人はこの地で足止めを余儀なくされていた。



 そうなった川を、宿の二階客室の窓から、ジャックは見下ろしていた。


 幸いなことに、川から水が溢れるほど酷い雨ではなく、街が水浸しになるということはない。空を見上げれば、真っ黒だった空も少しばかり光を取り戻し、雨の勢いも弱くなってきた。


 この雨も、明日明後日にはやむだろう。


 とはいえ、増水した川は、雨がやんだからといって、すぐに水が引くわけではない。水量が減るまで、しばらくのタイムラグもある。それまでは船も出せず、もうしばらく待たねばならないだろう。


 弱くなりつつも、いまだふり続ける雨から視線を宿の部屋へと戻し、窓を閉める。



 先日手に入れた鋼の機体。『機鎧(きがい)』なんて呼ばれる巨人の鎧を使えば、この増水した川も渡れるだろうが、そこまで急ぐ旅でもなく、大人しく川の水がひくのを待つつもりだった。


 もっとも、あまり長い時間川の水がひかなければ、路銀の心配をしなければならなくなるが……



(これ以上の借金はごめんだが、その時はその時か……)


 などと思いながらも、ジャックは部屋を出て、食堂のある一階へと足を向けた。



 ブーツに取り付けられている拍車を鳴らしながら階段を降りていると、食堂が大歓声にわいていることに気づいた。


 歓声の源へ視線を向ける。



 そこには、宿屋兼酒場兼食堂の一角にあるステージがあった。



 そこで、大道芸人。正確に言えばサーカス団の一員と思われる者が芸をしている。


 興行でこの街に来たのか、それともその先に用があるのかはわからないが、この雨と増水した川のおかげでサーカスのテントを設置することもできず、待ち時間のみがつのるくらいならと、食堂の一角を借り、芸を披露しているのだろう。


 宿で足止めされている者も暇を潰せるし、宿も芸への感心で客が暴れ出したりするのも防げ、さらに彼等も路銀を稼げると、宿もサーカス団も客にも損のない即席興行だった。



 サーカスの芸の一つと思われるジャグリングが行われている。



 五つのリングが同時に宙を舞い、それを見た食堂の一同が歓声をあげた。


 そして、そのステージの一番前には和服を着て黒髪を後ろで束ねた少年が、目をキラキラ輝かせながらかぶりついている。

 サーカスが物珍しい田舎者のような姿をさらしているのは、ジャックの同行者。サムライである、アズマその人だ。


「……」


 なんでお前がそこにいる。と思わず顔に出しながら、ジャックは一階へ降り立った。



 同じようにどこか呆れたように苦笑しながら、階段の横にあるカウンターの椅子に座る少女がいるのにも気づいた。

 アズマと同じく、ジャックと旅をする、『エルフ』と呼ばれる新大陸の先住民の少女で、十二、三歳に見えるが、その実はその十倍は生きている、人に似て人と異なる異種族である。


 名を、リゥという。



 観客の壁ができているステージではなく、ジャックはすいているリゥの隣へ腰掛け、食堂のマスターに水を注文する。

 一口水を口にふくみ、喉を潤す。



「あんまり楽しそうじゃねーな」


 隣に座り、呆れるようにステージを見る少女へ声をかけた。

 ステージ上ではジャグリングも終わり、今度はナイフ投げに移行していた。大きなマトの前に美しい美女が立ち、その体スレスレにナイフが突き刺さるというものだ。


 ジャグリングもナイフ投げも、よくある大道芸である。


「そりゃそうじゃろ。普段から、あれ以上の曲芸見ているんじゃから」

「そりゃそーか」



 自分でもバカな質問をしてしまったと思い、ジャックも苦笑した。



 隣にいるお嬢ちゃんは、弾丸を鋼の棒一本で叩き落す技術を持つサムライと旅しているのだ。言ってはサーカス団に悪いが、こんなところで見せる流しの芸など、児戯にも等しいと言える。

 ついでに言えば、苦笑する当人のジャックも、弾丸を同じ場所に撃ちこめるという神業にも等しい技術を持つガンマンであり、その二人と共に旅をするリゥは、そういった技術を要する芸で驚けなくなっていた。



「むしろ、なぜアズマがああまで興味を持つのかわからん」

「まったくだ」


 頭の上に置かれたリンゴにナイフが突き刺さり、歓声があがるのと同時に、アズマもすごいすごいと拍手をしている。

 その姿は、心の底からその芸を楽しんでいるようだ。



「ところで、お前は興味ないのか?」


 曲芸を見て、興味のなさそうにしているジャックへ、リゥが問うた。

 リゥはともかく、刺激に飢える街の者や、旅の者はあの芸に歓声を上げている。その芸に、ジャックはほぼ無反応だったのが、気になったのだ。


「あー。俺も、見飽きているというか、なんというか、な」

 バツが悪そうに、頬をかいた。



(あんなのより凄いサーカスを東部で見たことがある。なんて言えねーわな)



「ふーん」


 なにか聞いて欲しくない雰囲気を感じ取ったので、リゥはそれ以上の追求はしなかった。



 視線をジャックから外し、ステージへうつす。



 いつの間にか、アズマがそのステージにあがっていた。頭の上と水平にあげた手の上にマトとなるフルーツを乗せ、突っ立っている。それはまるで、サーカス団の一員の道化師のようであり、歓声の一部を担っていた。


「あいつ、いつの間に……」

 リゥはさらに呆れてしまった。



(サーカス、か……そういや、ああいう曲芸は、あいつも好きだったっけかな)



 東部を思い出したところで、ジャックはそれに付随した一人の少女を思い出した。

 ふと、口元が緩んでしまったが、最近を思い出すと、気が沈んできた……


(……まさか、追っかけてきたりはしてねーよな)


 よぎった予感に、思わず苦笑する。それくらいやりかねないヤツだが、いくらなんでも、この危険な西部にまでやってくるはずがないと思ったからだ。



 わあぁぁ!



 さらなる大歓声がステージから上がった。


 マトとなったアズマへ投げるナイフの精度があがり、よりギリギリへ、よりスリルのあるものに変わったからだ。

 アズマの鼻先にあるりんごへ、紙一重の隙間で命中し、手の上に乗せたりんごにも、同じようにスレスレの命中劇がはじまっている。


 それは、東部でよりレベルの高いサーカスを見たことのあるジャックでさえ、滅多に見たことのない精度だった。


「あいつ……」

「おせっかいなやつじゃ」


 ジャックとリゥが、アズマの行為に気づき、笑みを浮かべながらも呆れた。


 アズマは、場をより盛り上げるために、さりげなく自分ごとマトを動かし、自分から紙一重の隙間が生まれるよう、ナイフに当たりに行っているのだ。

 弾丸さえ見切るアズマだからこそできる芸当である。


 ナイフを投げるサーカス団の男はそれに気づいていない。大歓声に鼻を高くしているだけだ。

 滑稽な姿であるが、その犠牲のおかげで観客達はより盛り上がり、大興奮の一芸となった。


 これでそのナイフ投げの団員は勘違いしなければよいが。とジャック達は思わず心配してしまうほどのスリルであった。



 ナイフ一投一投ごとに、大歓声があがる。



 そんな中でも余裕のあるアズマが、ステージからリゥとジャックの方を見た。



 リゥと、視線が合う。


 アズマはにこりと微笑み、小さくウインクを飛ばしてきた。



「っ!」



「あいつ、余裕だな」

「ま、まったくじゃな」

「? どうした?」


 一瞬、リゥの返答がぎこちなかったことを感じたジャックが、隣のリゥへ視線を送る。



「なにがじゃ?」



「いや、なんでもない」


 だが、ジャックの視界に入ったリゥは、いつも通りのちょっと生意気な、十二、三歳の少女という外見からは想像できない、落ち着いた姿だった。

 むしろ、いつもより落ち着き払っているようにも見える。


 ジャックは首をひねりながらも、そのまま視線をステージへ戻す。



(あ、危なかった……!)


 ジャックが視線をステージに戻したのを確認したところで、リゥは安心に胸を撫で下ろした。



 平静を装うのに成功はしたが、内心は、アズマと視線を合わせたときからずっとどきどきしていたのだ。



 視線を合わせただけだというのに、心臓の鼓動が早くなるのがとまらない。

 リゥは、あの日からはじまった、アズマへの意識が、日を追うごとに大きくなっている気がした。



 この感情が、なんという名のものなのか、リゥは知っている。



 だが、それを表に出すのは、よいことだとは思っていなかった。


 この気持ちは、相手にとって、重荷にしかならないからだ。



 エルフと人間は、寿命の長さが違う。


 なにより……



 すとーん。



 視線を落として目に入る、みずからの体の平坦さにめまいを感じる。

 これが人並みに成長するには、あと五十年は必要だ。だが、五十年といったら、人間はもう孫がいてもおかしくない年齢である。この動乱の時代を考えれば、下手すると死んでいる。


 生きた年数は軽く百を超えていても、人間に換算すれば子供でしかないリゥだが、自称高い精神年齢をお持ち、人の社会に生きて学べばそれが小さくない問題であることを理解していた。


 今はよくとも、長い目で見れば、とても共には歩めない……



 ゆえに、この気持ちを隠し、今までと同じように旅をしようと、決めたのだ。



(でも……)

 リゥは、そっと自分の胸に、手を置いた。



(視線を合わせただけで、こんなに幸せになるなんて、不思議な感覚じゃ……)



 にへへ。と、思わず笑みをこぼしてしまうリゥであった。




──リッチフィールド家──




 しとしとと雨が降っている。


 先ほどまでざあざあと音を立て降っていた雨脚も弱くなり、空が明るくなってきた。それを執務室の窓から見上げた男は、この雨は明日にはやむと確信を持った。


「とはいえ、問題は、これから。かね」

 夜の闇が広がりはじめた空から、視線を川べりに広がる街へ動かす。



 そこは、カーヴシティ。



 幅の広い大河、カーヴ川の横に存在する、川渡しのための宿場街だ。


 そして、その街を眺めるのは、この街を取り仕切る、市長である。


 少しお腹が出はじめているが、がっしりとした体躯は、五十に近くなった年齢から見れば、若々しささえ感じさせる。

 ヒゲを蓄え、精悍な男であるが、やみはじめた雨と街を見て、小さくため息をついた。



 市長には、一つ心配事があった。



 毎年この時期に起きる大雨は、このような増水、足止めを引き起こす。


 大量の水は船を川から拒絶し、人々を川の向こう側へと渡る人の流れも押しとどめる。毎年のように起きるこれは川にかかる橋も押し流し、川幅の広さとあいまってそこに橋を築かせることを拒否していた。

 しかしこの雨は、この街はおろか、その周辺へ大きな恩恵ももたらす。この雨によって運ばれる水には、多量の養分がふくまれており、田畑や緑にとっては恵みの雨でもあったのだ。


 雨がなければないで、今度は水不足を引き起こし、生活そのものが立ち行かなくなる可能性もある。


 この雨は自然の引き起こす気まぐれの産物であり、それに関して市長が空へ文句を言ってもしかたがないと理解していた。



 彼の心配事は、この雨ではない。



 むしろ、雨がやんでからなのである。


 雨がやめばここで足止めされた人達は活動をはじめる。



 だが、雨がやんだところで、川の増水はとまらない。川の水が安定し、船を行き来できるようになるまでは数日かかってしまう。


 その数日は、毎回毎回街の治安が悪くなってしまうのだ。


 雨がやめば宿で身動きできなかった者達は外へ出てくる。だが、雨がやんだだけでは増水した川に船を浮かべることができず、それを知った者達が喧嘩などの騒動を引き起こす。



 雨で溜まった鬱憤を、晴らすように。



 それが、街の者にとっては悩みのタネだった。


「毎度のことだが、どうにかならないものかねぇ」


 視線を自分の執務室の中へ向ける。


 執務用の書類を並べる棚のほかに、数々の銃を並べ立てた棚もあった。

 この地を守るため、彼は何度も銃をとり、立ち上がったことがあり、腕に覚えもあった。ならず者達が暴れはじめても、その銃を使えば沈める自信もある。


 一応毎度保安官と手分けし、街の秩序を守るため見守りをしているが、根本的には解決しない。



(銃は好きではあるが、それによって私みずからが法と秩序を率先して乱すようなマネはできないし……)



 なにか、足止めで溜まった鬱憤を晴らせるようなことができればよいのだが……


「うむう……」

 そんな素晴らしい考えは思いつかず、頭を抱えてしまっていた。



「市長。市長!」


 どたどたと、一人の男。秘書が執務室へ走りこんでくる。

 ノックもそこそこに扉を開き、転がりこむように入ってきたのだ。



 その音に、思考が中断される。



「なんだ騒がしい」

「そ、それが市長! リッチフィールド家の、リッチフィールド家の……!」

 ぜいぜいと、息を切らせ、それよりあとの言葉がなかなかつむがれない。


 だが、リッチフィールド家という言葉は、その先の言葉を聞かずとも、市長を戦慄させた。


「ま、まさか……」

「その、まさかなんです市長! 本物なんです!」



 リッチフィールド家。

 この新大陸でその名は、一つの伝説とも言えた。


 ジョン・リッチフィールド。


 鉱山王とさえ呼ばれる、ゴールドラッシュの成功を体現した、大成功者。単身新大陸へやってきて、鉱山を掘り当て、それを元手に一代でその名を知らぬものなどいないほどの商会を作り上げた人物。

 鉛筆から墓石まで、そのリッチフィールド商会で手に入らぬものはないとさえ言われる、一大複合産業の主。


 鉄道王と呼ばれるストレイン家と対を成す、この新大陸の大成功者の一人。



「そのリッチフィールド家か!?」


「は、はい。そのリッチフィールド家ゆかりの方が、面会にやってきているのです!」

 転がった秘書がその手に持つ紋章をかかげる。



 それは、間違いなく、リッチフィールド家の紋章だった。



「な、なんとっ……!」

 その、リッチフィールド家が、こんな西部の片田舎に、なんの用だというのだ……!



 執務室の扉が、ゆっくりと開いてゆく。


 柔らかいじゅうたんを踏みならし、足を踏み入れる人影があった。



「お邪魔いたします」

 凛とした、鈴を鳴らしたかのような美しい女性の声が、執務室へ響いてきた。


 動揺を隠し切れない市長が、そちらへと視線を向ける。



 そこには確かに、リッチフィールド家ゆかりの者が立っていた……




──散歩──




 朝。


 夜のうちに雨はやみ、その日は朝から快晴だった。



「くあぁぁぁ」



 ジャックはあくびをしながら、朝もやの立つ、宿屋の前の道を歩いていた。


(綺麗に晴れて、散歩には丁度いい朝だなー)


 うっとおしい雨から解放され、差しこみはじめた日差しがさわやかな、思わず散歩に出たくなるほど、清々しい朝だった。

 柔らかな日差しを浴びながら、まだ増水した川沿いの道を、のんびりと歩く。


 道に水溜りが残るのと、川原まで増水し、にごった川が視界に入るという点を除けば、西部とは思えないほど、空気が澄んだ、気持ちのいい時間だった。



 だというのに……



「んだとこらぁ!」

「だからどうしたああん?」



 さわやかな気分を吹き飛ばすような、ガラの悪い怒声が、とびこんできた。

 気分のいい朝だというのに、台無しのダミ声である。


 せっかくの気分を邪魔されたジャックは、舌打ちをし、その怒声のあがる方へと足を進めた。



 人気の少なくなった、川沿いの街道。



 そこには、三対三のアウトロー達が、肩を怒らせ、にらみあっていた。



「こっちはな、数日安宿に缶詰にされてイライラしてんだ。その上でドロまでかぶせるたぁ、いい度胸してるじゃネエか!」

「てめぇこそ、そのうすぎたねぇ肩を俺にぶつけやがって、なめてんのか? あぁ!?」



 水溜りのドロを、足のブーツにかぶせられたと主張するスキンヘッドのアウトローと、肩がぶつかったと睨むヒゲのガンマンがそこにはいた。

 さらにその二人の後ろには、彼等の取り巻きと思われるアウトローが、互いに互いをにらみ合っている。


 やはり雨で足止めされ、鬱憤の溜まった者達は、こんなさわやかな朝などおかまいなしに、己の感情を爆発させているようだ。


 このままでは、いつ撃ち合いがはじまり、血が流れても不思議ではない。



 そんな不穏な空気が、そこには流れていた。



 ジャックはその光景を見て、小さくため息をつく。



「おいおっさんたち。こんな往来で、バカみてえな喧嘩はじめてんなよ」


 ジャックの言葉に、男達が一斉に彼を振り向いた。



「んだとこらぁ? てめえ、俺を誰だかわかっていってんのか?」

「誰がオッサンだ。俺はまだ、二十二だぞ!」


「いや、しらねーし。ってか、二十二!?」



 誰だと言われても、ジャックははじめてあったスキンヘッドのことなど知らないし、二十二と叫んだヒゲの男は、三十を超えたオッサンにしか見えなかった。



「この俺様をしらねぇとは、万死にあたいすんぞコラァ!」

「二十二で悪かったなぁァァァ!」



 限界をむかえようとしていた二人のアウトローの鬱憤は、ジャックの心無い一言により、ついに決壊したようだ。

 男達の言葉が合図となり、男達は一斉に腰の銃を引き抜く。



 溜まった鬱憤を晴らす目標は、誰でもよかったのだろう。男達の目標は、ジャックただ一人だ。



 だだぁん!



 銃声が、さわやかな朝に響き渡った。



「なっ……!」

 ゆらゆらと揺れる硝煙の煙を、銃を抜こうとした六人の男達は、それを、呆然と見ているしかなかった。


 装填できる六発の弾丸全てを撃ち、男達の銃のみを撃ち落したジャックの銃から立ち上る、硝煙をだ。



 硝煙が上がっているのは、その銃からだけだ。



 男達の手にあった、合計六つの銃はその手から弾けとび、各々、その利き腕をおさえている。

 人によっては、手に衝撃を受けることなく、銃を引き抜こうとしたガンホルダーごと、その腰から銃を吹き飛ばされている者さえいた。


 圧倒的な、銃の速度と精度の差を見せつけられた格好だ。


「ったく。朝っぱらから銃抜かせんなよ」

 くるくると銃を回転させ、ホルスターへ収めるジャック。



「で、まだやるかい?」



 今度は残るもう一丁。左腰に備えた銃へ、手を伸ばす。

 今撃った銃は弾を撃ちつくしたが、もう一丁の銃に弾は残っている。そう主張するポーズだ。


 そちらの残弾も六発。相手も六人。十分な数だ。



 ごくり。



 あまりの速さと正確さに、利き腕をおさえた男の一人が、喉を鳴らした。


「お、覚えてろ!」

「次に会ったら、あれだからな!」


 それを合図に、男達はよく聞く捨て台詞をはき、一斉に逃げ出した。


 銃を失ったのだから、当然の行動とも言える。



 だがまさか、銃を弾き飛ばしたのが実力を知らしめるためではなく、血を見ないためだとは、夢にも思っていない。


 泥が跳ねるのもおかまいなしに、アウトロー達は必死に走ってゆく。



「誰が覚えているかって」


 逃げてゆく男達を見送りジャックは誇らしげに舌を出した。



 きびすを返し、来た道を戻ろうとしたその時。




 ぱちぱちぱちぱちぱち。




 道沿いの茂みから、拍手が響き渡った。


「?」

 いきなり何事かと、ジャックは足を止め、視線をそちらへ向ける。



「ハイヨー!」



 威勢のいい掛け声と共に、その茂みから、馬が飛び出してきた。

 水溜りのある道へと勢いよく降りる姿が見え、馬はそのまま、水溜りへと着地する。


 ばっしゃあと、泥水を跳ね上げたが、ジャックは一歩後ろに飛び去り、その水しぶきを浴びることはなかった。



「おっと、これは失礼!」


 馬には、ひげを蓄え、ちょっとお腹がぽっこりでた男が乗っていた。

 ガンマンスタイルに姿を変えているが、このカーヴシティの市長である。


 夜も明け、雨がやんだので、この街の治安を守るため、見回りに来て先ほどの一件を目にしたのだ。



 昨夜の沈んでいた市長とはとても思えないほどテンションが高く、気分がノッているのだが、昨夜のことなど知りもしないジャックに、そんなことはわからない。



 市長はかぶっているテンガロンハットを人差し指で押し上げ、ジャックを見て笑みを浮かべた。



「実に素晴らしい腕前だ。治安の悪化を心配して見回りにきたが、まさか血も流さずにああまで華麗に勝利するガンマンを見ることができるとは、これは朝からついていると言ってもいいだろう。おっと、だからといって、私は争そいを肯定しているわけではないよ。誰も彼もが銃を撃っては、街の治安が乱れに乱れてしまうからね」


「は、はあ……」


 いきなり現れ、素晴らしいと褒めながら一気にまくし立ててくる市長に、ジャックはあまりのことに気の抜けた返事を返すことしかできない。

 そもそも目の前のガンマンが市長であることさえ、ジャックは知らない。


 突然そんなことを一気に言われても、いきなりなに言ってんだこのおっさん。という感想しかわかない。



「であるから私は、この雨で溜まった鬱憤を晴らすために、ある祭りを企画しているのだ。それに、君のような素晴らしいガンマンに、是非是非参加してもらいたいのだよ!」



 ひらりと馬からおり、道に着地した市長は、ジャックの手をとり、ぶんぶんと握った手を振り回した。一人テンションが上がったままの行動である。一方のジャックは、ドン引きだ。



「い、いや、だから……」


「おおっと、私の自己紹介がまだだったね。私はこのカーヴシティの市長! 詳しいことは、このチラシにあるとおり、今日の昼に広場で、だ! ではよろしく頼んだよ!」


 市長は唖然とするジャックに、懐から取り出した紙を一枚手渡し、彼の返事も聞かず、再び馬へと駆け上がった。


「ひひーん」

 馬がいななき、前足を大きく宙に伸ばし立ち上がる。



「ハイヨー!」



 市長の拍車が馬の腹を蹴り、市長とその馬は、勢いよくジャックの横を通り過ぎ、駆け出して行った。



「では、また昼、街の広場であおう素晴らしいガンマンよ!」


 そんな言葉を残して。



「な、なんだったんだ……」


 嵐のように去っていった謎の市長に、ジャックは疑問符をあげることしかできなかった。



 残されたのは、市長の渡した、一枚のチラシのみ。



 一体なんなのかと、そのチラシへ視線を落とす。




『腕に覚えのあるものよ。来たれ、ガンバトル!』




 そのような題字が描かれた、大会のチラシだった。


 簡単に要約すれば、撃たれても死なない弾を使い、決闘形式のガンバトルを行い、この街で最も強い者を決める祭りを行うらしい。

 チラシには、賞金はおろか、豪華賞品まで用意されており、腕に覚えのある者はぜひ参加して欲しいという文言まであった。



「……なんだ、こりゃ」



 チラシに目を通して、ジャックから出た第一声は、それだった。




──ガンバトル!──




 チラシ言う祭りの存在に、ジャックが首をひねりながら宿に戻れば、話題はそのガンバトルのことで持ちきりだった。



「撃たれても死なない弾ってなんだ?」

「詳しいことは、これから街の広場でだとよ。行ってみようぜ!」


 宿の客達が、チラシを片手に、広場へと向ってゆくのが見える。


 彼等も雨で鬱憤が溜まっているのだ。祭りがあり、銃をおおっぴらにぶっ放してその鬱憤が晴らせるというのならば、大歓迎のようだった。

 その上、興味を引かれる文言もいくつかある。



 撃たれても死なないだとか、豪華賞品賞金などは、嫌でも期待を煽る。



 宿を飛び出し、広場へ走る客を見送り、ジャックはまだ揺れているスイングドアを押し、宿の食堂へ足を踏み入れた。

 ジャックもその祭りがどういうものか確認しに行きたいが、今はまだ、朝で、朝飯もまだだ。



「お、じゃっくんいたー」

「ああ。先に広場へ向ったわけではなかったのだな」


 食堂では、カウンターに並んで朝飯を食べるアズマとリゥの姿もあった。



 チラシには昼からとあったが、待ちきれずに向う人達の中、のんびりとマイペースに二人は朝食をとっている。



「天気もよくなったからな。散歩をしてきたんだよ。んで、途中で俺もこれを貰った」


 二人に馬に乗った謎の男。市長から貰ったチラシを見せる。



「ああ。今持ちきりのようじゃな。先ほどこの宿にも、それを宣伝しに来た男がいたよ」



 と、賞金首などを張り出すコルクボードをリゥが指差す。


 そこには、ジャックの持つチラシと同じものが、何枚も貼り付けてあった。いわゆる、ご自由におとりください。というヤツだろう。どでんとチラシの束が置かれている。



「ずいぶんと力はいってんな。一体なにがはじまるんだ?」

「さあな。詳しいことは、広場に行かねばわからぬじゃろう」


 リゥがジャックへ答えを返す。チラシには、期待を煽るような文言しか書いていない。詳しいことは、リゥの言うとおり、広場での説明を聞かなければわからなかった。



「そりゃそうか……」



 やれやれと肩をすくめ、アズマの隣に座ったジャックは、朝食となるベーコンエッグとパンにミルクを注文し、腹ごしらえをはじめた。


 アズマがずっと無言なのは、一人モフモフと、朝ごはんを食べるのに集中しているからである。



 朝食も終わり、彼等も広場へとやってきた。


 そこには、川の増水で足止めされた大勢の人達が、娯楽を求め集まってきていた。

 皆、宿やジャックに手渡されたチラシを片手に、広場へ集まり、その祭りを今か今かと待ちわびている。



 広場の正面には、市長の屋敷があり、その門の前に、今朝作られた木製の台と、横に受付らしい区切りのある、机が並べてあった。


 カーヴシティの人口は、約二百。そこにさらに、川の増水で足止めされた旅人が、それと同じくらいの数はいるだろうか。


 広場には、その数ほぼ全ての人間が集結していた。



「ま、まさかこれほど集まるとは……」


 屋敷の二階。執務室でスピーチの準備をしていた市長が、屋敷の前に集まる人々を見て、息をのんだ。

 まだ昼には早いというのに、こんな人数が集まるなんて、夢にも思わなかったからだ。


 それだけ、チラシに書かれた、撃たれても死なないなどの文言が、注目を集めたのだろう。



「ど、どうしましょう……」

 集まった人数に、秘書が不安そうな声を上げている。



「どうするもなにも、これだけの人数が集まったのだ。これは予定を早め、祭りの説明をはじめよう。むしろ、これはよい傾向ではないかね」



 集まった大勢の人達を見て、市長は思わず、胸を高鳴らせた。



 祭りの注目の高さとともに、この企画は、治安の維持とあわせ、大きく盛り上がると確信したからだ。

 市長はスピーチ用の原稿もそこそこに、執務室から広場へ向うため、歩き出した。



 執務室を出たところで、隣の客間へ声をかける。



「予定時間を繰り上げ、祭りの説明と受付を開始いたしますが、いかがなさいます?」


「かまいません。私は予定通り、こちらで受付の様子を見せていただきますわ」

 部屋の中から、そう返事が返ってきた。



 市長は小さくうなずき、外へと歩き出した。



 市長の屋敷の扉が開き、門も開く。


 屋敷からは、市長と、受付のために用意された受付につくため、受付嬢となったメイドと、その補佐の召使達も一緒に姿を現す。

 市長は門の前に作られた台に上り、広場に集まった人達の視線を一身に集める。


 その足元では、リッチフィールド商会の用意したマイクとスピーカーを、秘書が市長の足元に設置している。



「あー、テステス」

 きぃー。という拡声器独特の音を響かせ、市長の声が広場全体へ響き渡った。



「さて皆様、数日降り続いた雨もすっかりやみましたが、川の増水はまだ続いており、川を渡す船を浮かべることはまだできません。それにより足止めを余儀なくされ……」



「……あのオッサン、ホントに市長だったのか」

 台の上でスピーチをはじめた市長の姿を見て、ジャックはそうつぶやいた。



「……ですから、私はその鬱憤を晴らすため、水が引くまでの時間を待つ間に、楽しい時間を皆様に提供するため、一つの大会を計画いたしました!」


 市長が手を上げる。すると、その後ろにある屋敷の門のところに『第一回ペイントガンバトル大会』という横断幕が、吊り下げられた。

 その横断幕を見た人達は、ざわざわとざわめく。



 主な疑問は、ペイントガンとはなんぞや。というものだ。



「当然の疑問を皆様はお持ちでしょう。ペイントとは一体なにか。人の死なない、安全なガンバトルとはなにか! それを今から、ご説明いたしましょう!」


 市長がマイクを持たぬ手で、受付の方を見るよううながす。

 するとそこには、一丁の銃を持った召使がいた。


 それが、済ました顔のまま、市長へ向ける。



 ぱんっ!



 小さな発砲音と共に、市長の胸が、赤く染まった。



 召使が、市長を撃ったのだ。



「──っぅぅ!」


 悲鳴にならない悲鳴が、広場にあがる。



「ご安心ください!」

 パニックが起きるかと思われたその瞬間。胸を赤く染めた市長は、何事もなかったかのように、マイクを片手ににこにこと、無事をアピールするように手を回し、説明を続けていた。



「見ての通り、私は無事です。この胸を染めた弾丸は、今回のガンバトルに使用される、ペイント弾と呼ばれるものです。通常の弾丸と同じく、銃にこめて撃ち出しますが、結果はこの通り、赤く染まるだけで、怪我もありません! これを使えば、誰でも安全に撃ちあうことができるのです!」



 先ほど市長を撃った召使が、一歩前に出る。


 市長はその男に向けて、銃を抜き、三度銃を発砲した。



 その弾丸は、召使の肩、胸、足にあたり、その服を赤く染める。


 赤く染まった召使は、心配そうに見守る広場にいる人達へ笑顔を向け、無事をアピールし、頭を下げた。



 その安全性に、場にいる人々は、大きく歓声をあげる。



「この通り、元の原料はトマトですので、口や目に入っても安全ですし、洗濯をすれば綺麗に落とすことも可能です。ただし、味は保証できませんので、お食べになるのだけはご遠慮ください」



 市長のジョークを交えた弾丸の説明に、どっと笑いが起こった。



「そして当然、大会ですので、賞金と賞品もございます。大会のルールはシンプル。クイックドロウ(早撃ち)で先に相手にこのペイント弾を当てた者の勝ちとなります! そして、バトルに勝ちあがり、優勝したものに与えられる賞品は……!」


 市長は、そこで大きく息を吸いこみ、タメを作った。



「一万ドルと豪華副賞をプレゼントいたしましょう!」



「おおおおおー!!」

 市長のかかげた拳と共に、広場に大歓声が広がった。


 一万ドルとは、破格の賞金である。豪遊したところで、1年以上遊んで暮らせてしまう。そこにさらに副賞までつくというのだから、こんな小さな街で用意された賞金としては、まさに破格の賞金であった。


 さらに、準優勝でも五千ドル。三位四位やベスト十六からその他審査員賞などなど、様々な賞金、副賞が用意してあるという。



 雨によって足止めをされ、鬱憤の溜まった旅人達にとって、その鬱憤を堂々と晴らせる場と、さらに賞金まで手にはいる場が用意されたとなれば、喜ぶのも無理はない。



 ちなみに、この時代の一ドルは、現在に換算すると、約十倍の価値があると考えればわかりやすいでしょう。



「お待ちください。お待ちください! 大会は明日から。本日はエントリーと、ペイント弾の受け渡しになります! 大会に参加する方は、その受付に並び、エントリーナンバーと練習用のペイント弾を受け取りください」


 賞金額の大きさから、暴動でも起きるんじゃないかという歓声の中、スピーカーの音量を最大に高め、市長が叫ぶ。



「当然のことですが、大会中、問題を起こしたならば、出場権はもちろん失われます! ペイント弾の使用も、きちんとマトを作り、人に迷惑のかからぬようお願いいたします!」



 市長の説明を聞いているのかいないのか、気の早い男達はすでに受付に並び、エントリーをはじめている。

 ちなみにだが、最初に支給されるペイント弾だけでは足りないのならば、追加でお金を払えば、ペイント弾を手に入れることも可能である。



「い、いちまんどる……」


 賞金の額を聞いたジャックは、その金額に頭がついていかなくなり、少しの間呆然としてしまった。

 両手を肩の高さに上げ、指折り数えながら、視線を虚空にさ迷わせている。


「……いちまん。いちまん? え? 一万ドルって、いくらだっけ……?」

「一万ドルは一万ドルじゃろう」


「じゃっくんが前にかけられていた賞金の二百倍のお値段だねー」


「おい、なんで今その金額の話をする。つーか五十ドルだって立派に大金だからな。それだけあれば十分生活できるんだぞ」

「知ってる知ってる」


 つめ寄ろうとするジャックにストップストップと両手を前に出すアズマ。



「っと、こんなことしている場合じゃねえ。ガンバトルなんて、俺のためにあるような大会じゃねーか。一万ドルもの大金があれば、アズマに借金をたたきつけて、リゥへ返して、それでもまだまだあまる。あまりまくる金額だぞ……なんだこれ。なにに使えばいいんだ……? ふふ、ふふふふふふ」


 両手の指を立てたり折ったり。なにやら皮算用をはじめるジャックであった。



「……正直いいかな?」

「なんじゃ?」


 そんなジャックを見て、アズマが横にいるリゥへ、声をかけた。


「万一賭けがあったとしても、俺、じゃっくんには賭けないね」

「不思議じゃな。ワシも同意見じゃ」


「最大の弱点を無視できる大会だってのに、なんでだろうね」


「そもそも優勝しているイメージがわかん」

「だねぇ……」

 二人はヒソヒソと、ジャックに聞かれたら失礼ではすまないようなことを話すのであった。



「よーし、出るぞ! お前等はどうする? 優勝は俺で間違いないけどな!」


 ガッツポーズをしながら、ジャックは自信満々に、大会出場のことをアズマとリゥへ聞いた。

 アズマはふむ。と下から人差し指で唇をつつき、考える。



「んー。面白そうだし、俺も出ようかな。なにせ俺も、ガンマンだからね!」



「まだその主張諦めていないのか……」


 リゥが、答えのついでに人差し指と親指を銃に見立てて手をあげたアズマへ、ため息をつく。


 とはいえ、正直な話、銃の戦いで、アズマがジャックに勝てるのかは、リゥにとっても未知の領域だった。



 そういう意味では、興味がある。



「リゥはどーするのん?」

「ワシは流石に見物じゃな。いくら死なぬとはいえ、銃を持って戦うのは技術が足りぬじゃろう」


 アズマの進めに、リゥはあっさりと頭を振り、断りを入れた。



「弓矢ならまだ可能性はありえるが……」


 と、視線をルール説明をしながらその文章を張り出す市長へ向ける。



「ペイント弾の使用ですが、弾丸のみを投げて使用するのは反則になります。パチンコなどで弾丸を射出するのも同様に反則です。これは、銃とパチンコが同じ威力と考えるのはおかしいということと、薬きょう部分は金属ですので、当たれば怪我を引き起こす可能性が高く……」



 そこでは丁度、リゥの参加可能の兵装は無理だという説明がなされていた。


 パチンコと同じで、弓矢を使用すれば、リゥも矢にペイント弾をつけたものなら戦えるが、先の理由で参加は不可能だった。

 もっとも、早撃ち大会で弓矢など、アズマのようなよほどの例外がない限り、そもそも勝ち目などない話だが。



「そっかー。ざーんねーん」

「ま、その方がいいだろうな。んじゃあ、さっさと受付行くぞー」


 リゥの棄権を聞き、ジャックはアズマを引きずり受付へと歩き出した。


 この人ごみで一度はぐれてしまえば、合流するのに手間だと考えたリゥも、そのあとをついてゆく。



 こうして、ジャックとアズマは、このペイントガンバトルへ出場することが決定した。


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