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亡命者

ニブルヘイム帝国首都エーリュズニル郊外 飛行場



「あれが我が国初の国産戦闘機ヴィルベルヴィントか」


エアハルトが感慨深く青空を飛ぶ飛行機を眺めている。


飛行機は第1次大陸戦争の3年前に登場し、戦争での使用は開戦から2年後にホルス軍が地上施設とゲリラ兵を攻撃するために飛行機に大口径機関砲と爆弾を搭載した攻撃機を用いたのが最初と言われてる。


やがて都市爆撃が行われるようになると爆撃機が登場し、爆撃機、攻撃機を迎え撃つのに特化した迎撃機や、それから爆撃機などを守る戦闘機が戦場に現れた。


ニブルヘイムでも開発が行われていたが、量産体制が整ったときに戦争が終結したので日の目を見ることがなかった。


ヴィルベルヴィントに続き、迎撃機のブリッツリッヒト、攻撃機のツァオヴァーベルク、爆撃機のコメートが青空を駆け抜けていく。


エアハルトが楽しげに眺めている後ろに艦隊司令官たちが並んでいる。


アルフレートもそのひとりだ。


「噂によるとあの飛行機たちは別の運用法を模索しているらしい」


コンラートがアルフレートの耳元にささやいた。


「貴官はどう考えるのか私は聞きたい」


「他国では飛行場があってそこから飛行機を飛ばしていると聞いている。その方法では何か問題が?」


「私にはわからんよ」


と言ってわからないことを殊更アピールするように手を振った。


「飛行場が動けば戦線の変化に応じて場所を移動できるのですが」


微笑をたたえてアルフレートは言った。


「動く飛行場なんて見たみたいものだな。ところで、今晩はあいてるか? マックスとディナーを共にするつもりなんだが、一緒に来ないか? いろいろと話を聞いてみたいんあだが」


「残念だが辞退するよ。仕事以外で帰りが遅いと妹がうるさいんだ」


「ブラコンか?」


アルフレートが苦笑して頷いた。


「仲がいいのはよろしいことで。だからといって変なことするなよ」


「ご心配なく。イレーネとは“健全なお付き合い”をしていますから」


コンラートは思わずニヤリと笑った。


******

アルフレート宅



「兄様が羨ましいです。飛行機を拝めることができるなんて」


シチューを前にしてイレーネは頬を膨らませてムスッとしている。


「まあまあそう言うなよ。いずれは珍しいものじゃなくなるんだから」


しかしイレーネの機嫌は依然として斜めだ。


そのときだ。


ガラスが派手に割れる音がした。


まるで誰かが悲鳴を上げたようだ。


アルフレートはすぐさま銃を構えて音の出処に向った。


そこで彼はその場にいるはずのない少女を見た。


少女は顔にかかる艶やかな長い黒髪を振り払いアルフレートを正視する。


見つめあう瞳。


互いに相手の出方を探っている。


空間に張りつめた空気が広がる。


先に動いたのは少女の方だ。


跳躍魔法(リープ)でここに突っ込んでしまったようね。ところでここはどこです?」


少女が小首を傾げる。


「将官用の官舎だ。君の名は?」


「イリーナ・アハトワ。隣国のちょっと危ない警官とでもいっておきましょう」


「は、はぁ、左様で」


イリーナの空気に飲まれてしまったアルフレートはなんとも微妙な返事をした。


「この国のお偉いさんに会いたい。案内してくださるかしら?」


アルフレートはこのめんどくさい人物を誰に託すか考えた。


「それなら王宮に案内しましょう」


******

ニブルヘイム帝国首都エーリュズニル 王宮 謁見の間



「アルフレート、アポなしで皇帝に謁見できるとでも思ったのかい?」


エアハルトは不機嫌そうな目でアルフレートを見つめる。


「ことがことですから、すぐにでも陛下に直接会うべきかと考えてこのようにいたしました」


「まあいい。で、彼女はホルス人だといういうのか?」


エアハルトがイリーナに視線を移す。


「はい、私はホルス共和国国家保安警察非公式組織の第12課に所属していました。革命が起きて自分の身が危うくなったのでこちらに逃れてきました」


「事情はわかった。君に与えられる選択肢は2つだ。我が国のために戦うか赤いホルスに強制送還されるかのどちらかだ」


「これからはニブルヘイム帝国のためにこの身を捧げます」


ずいぶんと早い返答だ。


「答えるのが早かったが、ホルスへの忠誠はどうした?」


「ホルスはもうこの世界に存在しません。現在ホルスを騙る国家はホルスではありません」


「わかった。これからは我が国の特殊部隊の一員として働いてもらうことになるが、構わないか?」


「私は陛下の臣です。陛下の命に従います」


ニブルヘイムが亡命者を迎え入れた頃、コンラートとマックスは酒場でビールを飲んで今日1日の自分への労いをしていた。


「ところでアルペンハイム家を知っているか?」


マックスがビールを何杯も飲んだとは思えないほど涼しい顔で尋ねた。


「ルーン帝国の大貴族だろ? それがどうした?」


同じく素面のコンラートが聞き返す。


「あの家の総資産がいくらか知ってるか?」


コンラートは首を振る。


「ルーン帝国の毎年の国家予算の4倍らしい。外国の銀行に資産の一部を分けて預けて税を逃れているんだとよ」


「国家予算の4倍ってとんでもない額じゃないか。個人で1個艦隊を保持できるんじゃないのか?」


「大きい湖を確保できれば間違いなくできるな。で、そんなブルジョワ家の噂なんだが、ルーン皇帝を頂点にした連邦を作って大陸を統一しようとしてるらしい。もちろんアルペンハイムが裏で権力を握るんだろうがな」


コンラートは失笑した。


「金はあっても知恵はないのか? 力がないルーンを盟主と崇める国がどこにある。それに共産圏は確実に連邦に加わらないだろうな」


「と、普通ならそう考える。だがな、アルペンハイムは莫大な資産を元手に革命が起きた国から流出した優秀な人材を大勢雇い入れている。これは事実だ。優秀な人材を用いてテロ、暗殺とかを目論んでいるんだろう」


「なかなか面白い話だが、結局何が言いたい?」


「金持ちが裏で世界情勢を操っているんじゃないかと俺は言いたい」


ふっとコンラートが吹いた。


「お前、それ陰謀論だろ。馬鹿馬鹿しいにも程があるぜ。素面に見えて実はかなり酔ってるだろ?」


くだらない話はやめようと言ってムスペルヘイムの話題を持ち出した。


「それにしても大規模な騒乱が起きたのによく持ちこたえたな。あれだと体制崩壊していてもおかしくなかったぞ」


「あれは女帝の力のおかげだな」


「女帝アマーリエか。もう在位30年以上のおばあちゃんだな。内憂外患を乗り越えてムスペルヘイムを大陸の一強国の立場を維持し続けてきたってすごいことだな」


「確かに。あれだけ複雑な民族構成でありながら国体を堅持しているんだ。気になるのは彼女の死後だ」


コンラートがもっともだと言うように頷いた。


「皇太子はあまりいい評判を聞かないな。戦も政治もできないそうだ」


「次男の方が優秀らしい。戦争で決して大勝利はしないないが、大敗したことはない。政治家に転向した後も奇抜さはないが、手堅い統治を行っているんだとか」


「あの複雑な多民族国家で政治的実績を残せるなら十分皇帝の責務を果たせそうだが」


コンラートは腑に落ちないといった顔をする。


「まあ他国のことだしどうでもいいのだがな」


「そうだな、遠い国のことより今は目の前の酒とつまみだ」


「まったくもってその通りだ」


2人はつまみに舌鼓をうった。


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