高瀬健一サイド2 二日目
■ ■ ■高瀬健一サイド2■ ■ ■
■二日目■
召喚2日目は、いよいよ神の加護を宿す儀式…『泉の儀式』が行われた。
一日目は引きこもっていたせいで、スイニーとしかしゃべっていないのだが(どうやら他の巫女は召喚を成功させた功労者ということで宴に出ていたらしい。まあ、ライティニアなんかは王族だし、抜けられないだろう)二日目のこの儀式には、全員集合した。
一日目に聞いた話によると、この召喚者五人は、同時に俺の魔王討伐の旅にもついてくる五人らしい。
神の加護を宿すには勇者だけだが、この儀式に参加することによって、より五人と俺の絆…『鎖』は強くなるらしい。
そんな勇者パーティの戦力配分は以下の通り。
勇者 1 (俺)
騎士 1 (火の巫女ベラ)
精霊術師 1 (木の巫女フロウ)
司祭 1 (水の巫女スイニー)
魔術師 1 (光の巫女ライティニア姫)
シーフ 1 (風の巫女ニファ)
バランスとしては悪くないようだ。
ついでに言うなら、ニファはシーフと配分されているが、盗賊ではない。偵察役と言えばいいのだろうか。
彼女はこのパーティの中では唯一の平民だという。風の加護を受けるには特性があり、ニファの一族はどうやら少数民族に位置しているらしい。
勇者召喚の儀式をするため、ずいぶんと田舎から出てきたとスイニーは言っていた。
そのせいか、彼女は常に一歩引いている感じがする。初日の印象が薄かったのも、そのせいだろう。
精霊術師とは何かと聞いたら、精霊にさまざまな現象を引き起こすように頼める存在らしい。
最年少ながら、その実力は当代一と言われているらしく、魔法ではなかなか発動しにくい現象も、フロウの精霊術なら可能になるらしい。
もっとも、魔術師であるライティニア姫は攻撃魔術よりも、守護魔術のほうが得意らしく、盾役の魔術師版、といったところだろうか。
「俺は何をすればいいんだ?」
泉の儀式にあたってスイニーに聞く。
泉は『希望の泉』と言われ、代々召喚された勇者に世界を救う力を与えるものだとは昨日知ったが、具体的な手順はわからない。
「詳しい手順は私たちにもわからないのです。この泉の儀式は勇者様の望みをかなえるもの、と聞いております。過去の文献を見る限り、勇者様お一人が泉に入り、加護を願う…とあります」
目の前の泉は、城の地下にあった。
どうやら城の壁に囲まれており、地下通路を通ってしかたどりつけないらしい。
上を見るとずいぶん高い位置に区切られた空が見えた。
手順も示されないが、とりあえず泉に入ればいいらしい。変な生物がいる気配もなければ、近づくことで光りだしたりもしない。
いきなり深くなっていることもなく、数歩進んだくらいでは足首くらいしか濡れない。
もっと深くまで行ったほうがいいのかと、とりあえず進む。
腰くらいまで水が来た。
が、何も起こらない。
何かが起こるのを待つのではなく、こちらから何らかのアクションを起こしたほうがいいのだろうか。
泉に入って、加護を願う、とあるらしいから、ここで俺が願いを言えばいいのか?
…とりあえず、魔法を使えるようになりたい。
魔法の制限はないほうがいい。イメージした魔法が発動する、というのがいいかな。
あとは、傷ついても自動回復する体にしたい。この世界の回復魔法のレベルはわからないが、魔王と戦うのだ。MP切れで回復できない、なんてごめんだ。
相手の能力をコピーできる、というのもいい。
ほかに何かあったか…ああ、毒や麻痺なんかは効かないようにしてもらいたい。
こんなもんか、と一通り考えてみた瞬間、泉の底が輝きだした。
どうやら、神の加護が与えられたらしい。
体に何かがみなぎったような感覚を覚える。
泉の向こう側でこちらを見ていたライティニア達がほっとしたような顔をしていたので、無事に儀式は成功したんだろう。
とりあえず…と泉から出て、自分の濡れた服を見た。
「乾け」
とつぶやいてみると、服はあっという間に乾いた状態になった。
呪文はいらないらしいが、イメージしたまま黙っているよりも言葉にしたほうが成功率が高そうな気がする。
「さすがはタカセ殿だな、無事、泉の儀式を終えたようだ」
ベラが頷きながらスイニーに向かって声をかける。
「ええ、体から湧き上がる魔力が見えます。フロウよりも魔力が大きいなんて、信じられませんが、これが神から託された勇者の力なのですね」
スイニーはこちらを見ながら胸の前で手を組み、神に感謝の言葉をつづけた。
「今の魔術って、勇者だけが使える伝説の言霊魔術ってやつだよね!精霊術とは違うし、僕らが使うどの魔法でもないもの!術式も見えないし、発動時間なんてかかってないも同然だし、すごいよ!!」
興奮しきりに飛び跳ねながら叫ぶフロウ。
「お疲れ様です、タカセ様、さあ、こちらへどうぞ。儀式も無事終わりましたし、このことを王にご報告差し上げなければ」
ライティニア姫が微笑みながら短い杖を掲げた。
一瞬、杖が輝き、空中になにか記号が現れた。
「今のは、王へ報告申し上げるための先触れを出したのですわ」
と、スイニーが補足する。
「今のが魔法ってやつか…ずいぶん綺麗な光だな」
この世界に来て、初めて見た魔法は空中に複雑な模様と記号を規則的に浮かび上がらせていた。
それはまさしく俺が思い描いていた通りの「魔法」だった。
光とともに浮かび上がる、輝く模様。
発光した瞬間、ふっとかき消すように何も残らないが、これが攻撃魔法だと、また違ったエフェクトなのだろうか。
「綺麗、ですか。なんだか恥ずかしいですわ。魔法はそれぞれ個性とともに発現するものなのです」
「ライティニア様は光の巫女だからね。魔法も光で現れるんだよ。ボクの魔法はもっと地味だもん」
「フロウの魔法はその分強力だ。実戦で、タカセ殿にいいところを見せるんだな」
苦笑しながらフロウの三つ編み頭を豪快にかき混ぜるベラに、フロウは顔を赤くする。
「そんなんじゃないよ、実戦向きなのはベラのほうじゃん。ドーンっていうかさ、バーンっていうか、迫力が桁ちがいだもん」
「一点集中型の私と、波状攻撃が主のフロウでは、どうしたってフロウのほうに軍配があがるさ」
そんな魔法談義を繰り広げながら、俺たちは『希望の泉』を後にした。
初めて使う魔法に興奮しながら、俺はこの力がどのくらい実戦で試せるのか、早く検討したかった。
正直、女王への報告なんてどうでもいいが…まあ、一応通過儀礼としてやっておくほうがいいだろう。
慣例を無視したところで好印象になるわけがない。
まだ二日目なのだ。
探るべき要素はたくさんあるし、今しばらくは従順なふりをしておこう。