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環境保全魔王  作者: 望塩
11/13

高瀬健一サイド2

ゴブさんのお話の前に勇者サイドの話を三日間。

■ ■ ■高瀬健一サイド2■ ■ ■



その話を聞いたのは、召喚から三日経った昼だった。



■一日目■


召喚一日目は、お決まりのように王様との謁見だった。

正確にいえば、女王との謁見だった。

なんでも、アミスガルドという国は女王制らしい。代々、一族の内からもっとも力のある女性王族から次代の女王が任命されるとのこと。

女王はライティニアの実の母親ではないらしいが、その威圧感といい、圧倒的な美貌といい、赤いじゅうたんの延長線上にあった数段高い床に据えられた玉座に座る女性は、この国のすべての権力の頂点にいる存在として、まさしく王族らしく、俺の思い描いていた通りの姿だった。


女王は謁見の最中、いくつか俺に話してきたが、いかにもテンプレな内容だった。


魔王が現れたため、この世界は今、滅びようとしていること。

魔王を打ち倒せるのは、異世界からの勇者の力だけだということ。

この世界を救ってほしいということ。

そして、この世界を救ってくれるために、協力は惜しまないということ。


俺はいくつかの条件を付けて引き受けることにした。

一つは、俺の「魔王を倒すことのできる力」が安定するまで、城で訓練を受けられること。

もちろん、この世界の知識や常識なんかもある程度知っておきたかったので、そのサポートをすること。


金銭的援助や、魔王の行動を推察できるような情報を集めてもらうこと。

そして当然、身の安全と、この世界を救った暁には、報酬をもらうこと。また、元の世界に戻すこと、などだ。


正直、最後の元の世界に戻ることができる、ということはあまり信用していない。

どの異世界召喚小説だって、呼べるけれど、帰せない、なんていうのはざらだ。


だが、ある程度強くなり、この世界での常識を身に着けることができた後、最悪、元の世界に戻れなくてもなんとか生きていけるだろう。


両親や友人くらいいるが…正直、退屈な世界だったのだ。

あまり元の世界に未練はない。


こうして初日の謁見を終わらせると、俺は城の一室をあてがわれた。

夕食は勇者を歓迎する宴、なるものが開かれ、50人ほどの王族や貴族たちが集まった…らしい。


ま、俺は出なかったんだが…

いちいち、顔も覚えられないような人間と会って腹の探り合いなんかしたくないし。

「一刻も早くこの世界を救うための知識を覚えたいのです」

とか言って、部屋にこもってた。


ちなみに、それならと山のように運ばれてきた歴史書や地理書はとりあえず読めた。

なんでも、『鎖の儀』とかいう召喚の儀式は、俺をこの世界に呼ぶ際、文字や言葉なんかもわかるようにしてくれるらしかった。

それを教えてくれたのは、歴史書を運んできてくれた水の巫女スイニーだった。


「勇者様は本当にこの世界のことを考えてくださっているのですね…正直、私は勇者、という存在を召喚するのはあまり心が進まなかったのです…」


聞けば、彼女は司祭という立場から、世界の人々が死んでゆく現実を嘆いてはいても、そのために「異世界」の人間を「召喚」…攫ってくるのには反対だったらしい。


「この世界の問題を、いくら強力な神のご加護を身に宿すとはいえ、ほかの世界の人に背負わすのはどうなのかと…女神ノーアンブレィラのご意志とはいえ、私も最後まで迷っておりました。いえ、正確には…タカセ様のこのお姿を見るまでは、不安だったのです。」


ですが、と彼女は茶の容器を置きながら言葉をつづけた。


「タカセ様は、宴などよりも知識をお求めになる方でした。私は…それが嬉しいのです」


サラリと青い髪を揺らして、彼女は微笑んだ。


別に、本気で寸暇を惜しんで知識を入れたいわけではなかったが、なんでも神の加護を身に宿すのに、明日じゃないと準備が整わないらしい。

つまりは、俺はまだ異世界召喚特典…スキルとか、強力な力、魔力なんかは身に着けていない、元の世界にいた時と変わらないステータスなわけで。


唯一付与されているのは文字や言葉が通じるスキルだけ、らしい。


そんな紙装甲で、この世界の人間が集まるところには行きたくはなかった、というのも、こうして召喚一日目を引きこもって過ごすことにした理由の一つだ。


しかし、今のスイニーの言葉を聞いてはっきりした。


どの程度かはわからないが、勇者の存在を全員が賛成しているようではない、ということだ。

彼女は『私も最後まで迷っておりました』と言った。

『も』というなら、それは少なくとも、彼女の身近な存在で何人か、あるいはそういう派閥があるとも捉えられる。

まあ、想定内ではある。

早いところ異世界召喚特典を手に入れないと、食事すら不安だ。


蛇足ながら、スイニーには「食事は誰かと一緒でというのが俺の国での流儀で」と言って、同じ茶を飲むように進めた。


彼女が飲んだのを確認して、俺も飲んだ。

飲みながら説明してくれたが、そのお茶は思いっきり緑茶だった。

過去の勇者が好んだお茶だという。

ティーカップに入っていたから、一瞬違和感がものすごかった。


だが、これで少なくとも過去の勇者のうち一人は日本人だったことが分かった。

米、味噌、醤油にも期待したい。



米も、味噌も、醤油も勇者サイドでは登場します。

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