第12章:女王陛下の戴冠式
私とレオンの確執が雪解けを迎え、バーガーパレスは「無理のない成長」という新たな指針のもと、再び着実な歩みを進め始めた。国内のサービス品質は向上し、グランデ帝国に試験的に出店した一号店も、時間をかけた丁寧なローカライゼーションが功を奏し、大成功を収めた。
私たちのハンバーガーは、もはや単なる食事ではなかった。それは新しい食文化の象徴であり、手軽で、美味しくて、誰もが笑顔になれる「幸せのアイコン」として、世界中に認知されつつあった。
そんなある日、王宮から一通の書状が届いた。それは、国王陛下直々の召喚状だった。
「一体、何事かしら……」
少し緊張しながら、私とレオンは王宮へと向かった。玉座の間には、国王陛下と、国の重鎮たちがずらりと並んでいた。その厳かな雰囲気に、私は思わず息を呑んだ。
「エリザベート・クロフォード、レオン・ハーウッド。前に出よ」
国王陛下の威厳ある声が響く。私たちは促されるまま、玉座の前まで進み、深く頭を垂れた。
「エリザベート・クロフォード。そなたは、一杯のハンバーガーをもって、我が国の食文化に革命をもたらした。当初は嘲笑されながらも、その情熱と努力で、多くの民に安価で美味なる食事を提供し、その心を豊かにした。その功績は、万の軍隊にも勝るものと、朕は考える」
国王陛下は立ち上がり、静かに続けた。
「よって、エリザベート・クロフォードに、『美食卿』の称号を授ける! 今後、そなたは食の分野において、朕の最高顧問として、国に尽くすことを期待する!」
美食卿――それは、かつてデミトリのような伝統的な料理人が目指す、最高の栄誉。それを、スラム出身の私が、ハンバーガーで手に入れるなんて。
私は信じられない思いで顔を上げた。王様は優しく微笑んでいる。レオンが、隣でそっと私の手を握ってくれた。その温かさに、涙が溢れそうになるのを必死で堪えた。
「ありがたき幸せに存じます、陛下!」
私は深く、深く頭を下げた。貴族や重鎮たちから、今度は温かい拍手が送られた。彼らの中には、かつて私の露店に通ってくれた常連客の顔も、そして、今ではバーガーパレスの大ファンだという貴婦人の顔もあった。
世界は、本当に変わったのだ。私が、変えたのだ。
叙任式の後、王宮の庭園でささやかな祝賀会が開かれた。そこで、レオンが少し改まった様子で私に向き合った。
「エリザベート。いや、エリザベート美食卿。本当におめでとう」
「ありがとう、レオン。あなたがいなければ、今日の私はなかったわ」
「俺の方こそ、君と出会えて、人生が変わった。それで……一つ、提案があるんだが」
「提案?」
レオンは少し緊張した面持ちで、続けた。
「バーガーパレスは、世界中に広まった。君は、もう名実ともに『ハンバーガー女王』だ。だから……次は、あなたの店を出さないか?」
「私の店? 何を言っているの、レオン。ここが私の店よ」
「違うんだ。そうじゃなくて……俺と、君の、二人の店だ。クロフォード・ハーウッドという名前の、小さくても温かい、家庭という名の店を……」
それは、あまりにも不器用で、でも、彼らしい誠実なプロポーズだった。私の心は、喜びと愛しさで、はちきれそうになった。周りの人々も、微笑ましそうに私たちを見守っている。
私は、満面の笑みを浮かべて、彼にこう答えた。
「嬉しいわ、レオン。とっても。でもね……」
私は人差し指を一本立てて、お茶目に言った。
「その話は、記念すべき100店舗目がオープンしてからにしましょう? 私たち、まだまだやるべきことがあるでしょう?」
私の返事に、レオンは一瞬きょとんとした顔をしたが、やがて、いつものように爽やかに笑った。
「ははっ、違いない。さすがは俺の女王陛下だ」
空は青く澄み渡り、私たちの未来を祝福しているようだった。
没落令嬢と呼ばれたあの日から、いくつもの壁を乗り越えて、私は今、最高の場所に立っている。でも、ここがゴールじゃない。私の、そして私たちの物語は、まだ始まったばかりなのだから。
ハンバーガー女王、エリザベート・クロフォードの伝説は、これからも続いていく。




