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悪役令嬢の異世界グルメ革命~ハンバーガー? なにそれ美味しいの? とか言ってた人たちが、今では行列を作って土下座してきます~  作者: 緋村ルナ


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第11章:同じ夢、違う道

 ハンバーガー戦争に勝利し、「バーガーパレス」は王国における不動の地位を築き上げた。私の名前「エリザベート」は、もはやハンバーガーの代名詞となっていた。

 事業が安定期に入ったことで、私とレオンの間には、少しずつ将来のビジョンに対する考え方の違いが生まれるようになっていた。

 その違いが表面化したのは、ある役員会議でのことだった。

「次の目標は、グランデ帝国への本格進出だ。インペリアル・フーズが撤退した今こそ、我々が市場を制圧する絶好の機会だ!」

 レオンは、熱っぽく海外展開の拡大を主張した。彼の瞳は、かつて美食騎士団長だった頃のように、野心と情熱に燃えていた。彼の言うことは、ビジネス戦略として、完全に正しかった。

 しかし、私は首を縦に振れなかった。

「待って、レオン。少し、急ぎすぎじゃないかしら。今は国内の店舗基盤を、もっと盤石にすることに集中すべきよ。店舗が増えた分、サービスの質にばらつきが出始めているわ。品質第一、それが私たちの原点でしょう?」

 食中毒事件やフランチャイズでの失敗が、私の心にブレーキをかけていた。拡大よりも、まずは足元を固めること。それが私の考えだった。

「エリザベート、それは守りの姿勢すぎる。ビジネスは、攻めなければ衰退するだけだ。このチャンスを逃せば、第二、第三のインペリアル・フーズが現れるぞ」

「だからこそ、揺るがないブランドを築くことが先決よ! どの店でも完璧なハンバーガーとサービスを提供できて、初めて胸を張って海外に出ていけるんじゃないの?」

「完璧なんて求めていたら、いつまで経っても前には進めない!」

「品質を疎かにした成長に、意味なんてないわ!」

 会議室の空気は、凍りついた。私とレオンが、こんな風に公の場で意見を衝突させたのは、初めてのことだった。かつては一つの夢に向かって走っていたはずなのに、いつの間にか、私たちは違う道を見つめていた。

 その日以来、私たちの間には、気まずい空気が流れるようになった。仕事上の会話はするものの、どこかよそよそしい。共に笑い合い、夢を語り合った日々が、遠い昔のことのように感じられた。

 レオンは焦っていたのだと思う。私を「女王」にするという彼の夢。そのために、彼は王国を、いや、世界を手に入れられるほどの巨大な企業を築き上げたかったのだ。

 一方の私は、もっとささやかな幸せを大切にしたかった。お客様一人ひとりの「美味しい」という笑顔。それが私の原動力であり、全てだった。会社の規模が大きくなるにつれて、その笑顔が遠くなってしまうのが、私は怖かった。

 確執が決定的になったのは、レオンが私に黙って、グランデ帝国の投資家との会合をセッティングしたことだった。

「どうして、相談もなしにこんなことをしたの!?」

「君は聞く耳を持たないからだ! エリザベート、君は経営者なんだ。いつまでも現場の店長気分でいられては困る!」

 その言葉は、私の心を深く傷つけた。

「……もう、あなたとはやっていけないわ」

 私は、そう言い放って、社長室を飛び出した。

 その夜、私は一人、最初に開いた露店のあった中央広場に来ていた。今はもうないその場所で、レオンと初めて出会った日のこと、二人で夢を語り合った日のことを思い出していた。

「……エリザベート」

 背後から、聞き慣れた声がした。振り返ると、そこにはしょんぼりとした顔のレオンが立っていた。

「すまなかった。俺は、どうかしていた」

 彼は私の隣に座り、静かに語り始めた。

「俺は、君を成功させることに必死になるあまり、君自身の気持ちが見えなくなっていた。君が何よりも大切にしているものが何かを、忘れていたんだ。店長気分だなんて、酷いことを言った。君のその気持ちがあったからこそ、バーガーパレスはここまで来れたのに……。本当に、すまない」

 彼の心からの謝罪に、私の心の氷も、少しずつ溶けていくのがわかった。

「私の方こそ、ごめんなさい。レオンの言うことも、本当はわかっていたの。あなたの情熱があったから、私もここまで走ってこられた。なのに、怖くなって……」

 私たちは、しばらく無言で夜空を見上げていた。

 やがて、レオンが口を開いた。

「もう一度、二人で考え直さないか。急ぎすぎず、でも、立ち止まらずに進む道を。君の『品質』と、俺の『成長』。その両方を叶える、『無理のない成長』の道を」

 私は、こくりと頷いた。

「ええ。そうしましょう」

 その夜、私たちは久しぶりに、夜が明けるまで語り合った。具体的な事業計画を、二人で一から練り直したのだ。海外進出は、まず一店舗だけ、モデル店を出すことから始めよう。国内では、スタッフの教育制度と福利厚生を充実させ、顧客満足度だけでなく、従業員満足度も高めていこう。

 雨降って地固まる。この確執を乗り越えたことで、私たちの絆は、単なるビジネスパートナーではなく、人生を共に歩むパートナーとして、より一層深く、強固なものになったのだった。

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