第10章:本物と偽物の戦争
食中毒事件の汚名をそそぎ、「バーガーパレス」は以前にも増して強固なブランドとして再生した。危機を乗り越えたことで、顧客の信頼はむしろ厚くなったようにさえ感じられた。
しかし、ビジネスの世界に平穏な日々は長く続かない。新たな敵は、思わぬ形で私たちの前に現れた。
それは、隣国の大国であるグランデ帝国からやってきた。帝国最大の食品コングロマリット「インペリアル・フーズ」が、私たちのハンバーガーをそっくり真似た商品を、国内で大々的に売り出し始めたのだ。
その名も、「キングバーガー」。
パッケージのデザインも、商品の見た目も、私たちのものと酷似していた。しかし、その品質は、天と地ほども違っていた。
インペリアル・フーズは、圧倒的な資本力を背景に、質の悪い屑肉や、古くなった野菜を使い、見かけだけを似せた「偽物のハンバーガー」を製造。そして、私たちの半額以下の値段で、市場に大量投入したのだ。
「安くて、バーガーパレスのやつと似てるなら、こっちでいいや」
安さに惹かれた人々が、次々とキングバーガーに飛びついた。私たちの店の売り上げは、目に見えて落ち込み始めた。特に、国境に近い都市では、その影響は深刻だった。
「どうすればいいんだ……。あんな粗悪品と、同じ土俵で戦わなければならないなんて」
価格競争を仕掛ければ、資本力で劣る私たちに勝ち目はない。かといって、このまま指をくわえて見ているわけにもいかない。
「これは、戦争だ」
レオンが厳しい表情で言った。
「本物の味と、偽物の安売り。どちらが市場に選ばれるか。私たちのブランドの真価が問われる戦いだ」
私たちは対策本部を設置し、連日議論を重ねた。デミトリも、元高級店シェフとしてのプライドを刺激されたのか、誰よりも熱心に意見を出してくれた。
「値段で戦えないのなら、価値で戦うしかないだろう。我々にはあって、奴らにはないもの。それは『品質』と『信頼』、そして『物語』だ」
デミトリの言葉に、私はハッとした。そうだ、私たちのハンバーガーには、ただの食べ物ではない、ここまでの道のりが詰まっている。
私たちは、大規模なキャンペーンを展開することを決意した。その名も、「本物は、どっちだ!?キャンペーン」。
まず、全店舗で大々的な試食会を実施した。私たちのハンバーガーと、キングバーガー(もちろん、客観的な比較のため、社名を隠して)を並べ、人々に食べ比べてもらったのだ。結果は言うまでもない。一度でも食べれば、味の違いは誰の目にも(舌にも)明らかだった。
「全然違う! こっち(バーガーパレス)の方が、肉がジューシーだ!」
「偽物の方は、パンがパサパサで、ソースの味しかしねえ!」
次に、私たちは「物語」を売ることにした。私が没落令嬢から再起した話、王宮美食コンテストでの勝利、フランチャイズでの苦労、そして食中毒事件を乗り越えた絆。これらの物語を、新聞広告や、吟遊詩人に依頼して作った歌物語として、国中に広めた。私たちのハンバーガーが、いかに情熱とこだわりを持って作られているかを、人々の心に訴えかけたのだ。
さらに、子供たちを対象にした「ハンバーガー作り体験教室」を開催した。子供たちが自分の手で本物のハンバーガーを作ることで、食への興味と、私たちのブランドへの愛着を育むのが狙いだ。この教室は親たちにも大好評だった。
そして、キャンペーンの切り札として、私たちは「バーガーパレス・ロイヤルティカード」を発行した。購入金額に応じてポイントが貯まり、様々な景品や割引と交換できる仕組みだ。顧客を囲い込み、リピーターを増やす戦略である。
これらのキャンペーンは、見事に功を奏した。
「安物買いの銭失いとは、まさにこのことだったな」
「やっぱり、エリザベートさんのハンバーガーじゃないとダメだ」
人々は再び、私たちの店に戻ってきた。安さに飛びついた一過性のブームは去り、「エリザベートのハンバーガーこそが本物」という評価が、不動のものとして定着したのだ。
最終的に、インペリアル・フーズは採算が取れなくなり、キングバーガー事業から撤退。ハンバーガー戦争は、私たちの完全勝利に終わった。
この戦いを通じて、私たちは確信した。小手先の模倣や安売りは、決して本物の情熱には勝てない。誠実に、良いものを作り続けること。それこそが、最強のブランド戦略なのだと。私たちの自信は、確固たるものになっていた。




