第3話 連絡先を交換してしまった
そのメッセージを、何度も読み返していた。
【友達としてなら、たまに話すのは……だめかな?】
友達。
その言葉の安全そうな響きに、胸の奥がざわつく。
友達ならいい。
友達だから問題ない。
友達だから、何も起こらない。
――本当に?
スマホを置いて、風呂に入っても、頭の中から消えてくれなかった。
湯気の中で思い出すのは、役所の窓口で一瞬だけ揺れた彼女の目。
あれは、懐かしさだけだったのか。
それとも――。
考えるのをやめようとして、結局考えてしまう。
中学生の頃と、まるで同じだ。
風呂を出て、タオルで髪を拭きながら、スマホを手に取る。
既読はついていない。
返事を待っているんだろうか。
俺は深く息を吸って、文字を打った。
【友達、か】
【それなら……いいよ】
送信した瞬間、胸が少し軽くなって、同時に重くなった。
すぐに既読がついた。
【ありがとう】
【なんだか、少し救われた】
救われた、という言葉が刺さる。
俺は誰かを救える立場じゃない。
【でも】
【結婚するってことは、ちゃんと分かってる】
【変な期待はしないから】
その一文に、思わず苦笑した。
期待しない、なんて言葉を信じられるほど、大人じゃない。
でも、信じたふりをするくらいの分別はある。
【分かってる】
【無理なことはしない】
自分に言い聞かせるように送った。
それから、ぽつぽつとメッセージのやり取りが始まった。
近況。
仕事の話。
地元の変わったところ。
当たり障りのない内容なのに、不思議と続く。
空白の十数年なんて、なかったみたいに。
――いや、あったはずだ。
彼女には、俺の知らない人生がある。
俺にも、彼女の知らない時間がある。
その事実を、意識しないようにしているだけだ。
数日後。
昼休みにスマホを見ていると、彼女から一通のメッセージが届いた。
【今度、地元の再開発の説明会があるって聞いたんだけど】
【蓮見くん、関係してるよね?】
仕事の話を、こういう形で振られるのは、正直よくない。
でも、無視するほど割り切れなかった。
【一応、担当課だよ】
【一般向けの説明会だけど】
【じゃあさ】
【説明会のあと、少し話せたりする?】
スマホを持つ指に、力が入る。
会う。
画面越しじゃなく、直接。
友達として。
それは、ただの言い訳だ。
俺は一度、画面を伏せてから、また持ち上げた。
【仕事終わりなら】
【短時間だけ】
送ってしまったあとで、もう後戻りできないと分かる。
【ありがとう】
【無理させてたら、言ってね】
その気遣いが、余計に危険だ。
ベッドに横になって、天井を見上げる。
連絡先を交換しただけ。
話す約束をしただけ。
それだけなのに、胸の奥が妙に騒がしい。
友達という名の猶予期間。
その猶予が、どれくらい残されているのか、俺には分からなかった。
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