第14話 期待してはいけないと、分かっていた
それから、俺は意識的に連絡を減らした。
既読はつける。
返事も返す。
でも、こちらから話題を振ることはしない。
それだけのことなのに、胸の奥が妙に落ち着かなかった。
スマホを机に伏せて、仕事に集中する。
書類を処理して、電話を取って、質問に答える。
やるべきことは山ほどあるのに、時間だけがやけに遅く感じる。
昼休み。
画面を確認すると、通知が一件。
【お疲れさま】
それだけだった。
以前なら、続けて何通か来ていたはずだ。
今日は、それきり。
【お疲れ】
短く返す。
それ以上は、打たない。
スマホを伏せて、息を吐く。
これでいい。
距離を取るって、こういうことだ。
分かっている。
分かっているのに、胸の奥が少しだけ痛む。
数日後、同じようなやり取りが続いた。
【今日は寒いね】
【風邪ひかないでね】
【ありがとう】
【気をつける】
それ以上、続かない。
まるで、少しずつフェードアウトする練習みたいだった。
夜、帰宅してシャワーを浴びる。
湯気の中で、彼女の顔が浮かぶ。
あの迷い。
あの不安。
あの頼るような声。
――頼らせてはいけない。
そう決めたはずだった。
週末、駅前で買い物をしていると、ふと視線を感じた。
顔を上げると、少し離れたところに彼女が立っていた。
一瞬、目が合う。
驚いたように瞬きをして、それから、控えめに手を振られた。
近づくか、迷う。
でも、足は勝手に動いていた。
「久しぶり」
「……久しぶり」
たった数日なのに、間が空いたような気がする。
「忙しそうだね」
「まあ、いろいろ」
それ以上、言葉が続かない。
以前なら、沈黙を埋めようとしていた。
今日は、しなかった。
彼女は、少しだけ視線を落とした。
「……私、何かした?」
その問いに、胸が締め付けられる。
「いや」
「そうじゃない」
否定は、すぐに出てきた。
「ただ」
言葉を選ぶ。
「距離、ちゃんとしたほうがいいと思って」
彼女は、何も言わなかった。
数秒、黙ってから、ゆっくり頷く。
「……そっか」
それだけだった。
引き止められなかったことに、ほっとして、
同時に、少しだけ寂しくなる。
「元気でね」
そう言って、彼女は一歩下がった。
「ああ」
短く返す。
背中を向けて歩き出す彼女を、追わなかった。
追えなかった。
期待してはいけない。
分かっていた。
彼女は、もう選んでいる。
俺が入り込める余地なんて、最初からなかった。
それでも。
人が誰かにとっての「頼れる存在」から外れていく瞬間は、
こんなにも、静かで、痛いものなんだと、初めて知った。
駅前の人混みに紛れながら、
俺は自分に言い聞かせる。
これは、正しい選択だ。
間違っていない。
――それでも、心は簡単に納得してくれなかった。
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