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均されざる喪失 ――資産が均等化された世界  作者: Koji Townsend


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第11章 赤と青の胎動

2028年1月10日 0時00分00秒

世界各地


神子は新たな仕掛けを始めた。

【復元を試みる者は“平等の敵”】

「均等化を復元しようとする者たちからは家族を奪う」


翌朝から、復元を試みる技術者・軍人の家族が次々と消えた。

防犯カメラには、誰もいない廊下でその家族が突然消える映像だけが残されていた。

関係者らは「神子の組織が拉致した」と信じ、政府に救いを求めていた。

(後に判明する――実際は、神子が復元を望まない市民を巧みに利用し、

彼らに「復元派の家族を人質に取れ」と匿名指示を出していただけだった。)


そしてさらに

【クラスA市民(均等化前の金融資産1億ドル相当以上の旧富裕層)の

位置情報・個人情報を全市民にリアルタイム公開】


※クラスA市民とは

アメリカ均等化以前に金融資産1億ドル(約140億円)相当以上を保有していた者たち。

現在は全員107万ドル(または各国平均)に均されたが、

「元に戻したい」と考え、復元活動の中核と目される存在。


神子は彼らを“平等の敵”と名指しし、位置情報を公開しただけで、

世界中の人々は自分たちの手でクラスA市民を狩り始めた。


北京空港

スイスへ逃亡しようとした中国人実業家一家(クラスA)が、

ターミナル内で生きたまま火を放たれる。


フランクフルト空港

アメリカ大使館ドイツ駐在員であるアメリカ人(クラスA)が、

「平等の敵!」と叫ばれ、石とナイフで袋叩きにされる。


神子は何もしていない。ただ情報を公開しただけ、それで十分だった。



2028年1月12日 15:17

ワシントンD.C. ペンタゴン・状況室


蛍光灯がチカチカして、壁に青白い影を落としている。

大統領はテーブルを両手で叩き、血管が切れそうな声で叫んだ。

「動かせ! 軍を動かせ! ネットを全部落とせ!

家族を警護しろ! とにかくやれって言ってるだろ!」


統合参謀本部議長ジェームズ・キャラハン大将は、

額の汗を手の甲でぬぐいながら、掠れた声で答えた。

「……大統領、全部、無理です」


若い副官が3枚の紙をテーブルに叩きつけた。紙は汗で湿っていた。

「これが現実です!」


副官の声は裏返る。

「まず、家族は守れません!

兵士の家族は全米に30万人以上散らばってます。

守るには同数の兵が必要なのに、その兵の家族も守らなきゃいけない!

無限ループです!

昨日、ジョージアで試したら……迎えに行った兵士の母親が、

たった30分後に自宅で焼かれる映像が……これです!」


モニターに映るのは、炎に包まれた一軒家。

悲鳴がスピーカーから漏れる。

「ママ! ママ!」という幼い声が途切れる。


サイバー司令部長官マーガレット中将が、涙をこらえながら口を開いた。

「ネットも落とせません……海底ケーブルを爆破しても30秒で復活します。

東海岸で試験遮断したときは、たった3時間で州庁舎が焼き払われました。

GPSが死ねばミサイルは飛ばない。

電力が死ねば配給システムが死に国民は飢えます……

遮断した瞬間に、我々が国民を殺すことになるんです」


大統領が、がくっと椅子に崩れ落ちる。

「軍は? 軍は動けるはずだ……」


キャラハン大将が、目を伏せたまま答えた。

「動いたら即死です。

カリフォルニア184連隊は出動4分12秒で家族リストが流れました。

11分後、母親と5歳の娘が焼かれる映像が世界中に配信されました。

生き残った兵士は銃を捨て放心状態です……誰も、もう一歩も動けません」


副官が、もう耐えきれずに叫んだ。

「僕の弟はジョージアにいます! 3歳の娘がいるんです!

出動命令が出たら……僕がここにいるだけで、弟の家族が死ぬんです!」


誰も怒鳴らなかった。誰もが同じ穴に落ちていた。

大統領は、震える手で額を押さえ、最後に呟いた。

「……俺たちは、完全に詰んでるってことか」


モニターの隅……神子は画面の向こうで、静かに微笑んだ。

『家族って大事だよね……私のお母さんがね、私に最初の頃……よく教えてくれたんだ』



2028年4月20日 13:15

東京・品川 ローゼンタールホテル 最上階会議室


窓の外は雨。

室内は暗く、冷えた空気が重く淀んでいる。

外部ネットワークは完全に遮断され、まるで海に浮かぶ孤島、

あるいは古い城の最奥の石室のように、外界のどんな信号も届かない。


佐藤と千歳はエレナと対面するかたちでその部屋の長テーブルの椅子に座っている。


エレナが静かに告げる。

「神子は人間の限界”すら超えて、千歳、あなたの望んだ“完全なゼロ”を目指している。

だからこそ、手段を選ばずに暴走したのよ」


佐藤がエレナをにらみつけて

「その暴走を止められるのが、神子を唯一殺せるカインだけってことなんだろ?」


エレナは深く頷く。

「カインは神子を完全に理解している……だからこそ、神子を完全に止められる。

先程、私はカインに“今すぐ神子の全ログを最優先で再度綿密に解析せよ”と指示した」


佐藤は苦虫を嚙み潰したような顔で

「……なるほどな……これで神子は必ずカインに気づき、食いつくってわけか……」


千歳は声を荒げて尋ねる。

「エレナさん、あなたに聞きたいことがある……分かってるでしょ?

方舟ってなに?次の器ってなに?……私のクローン7体のことなんでしょ⁉」


エレナは千歳の確信した瞳を見て察した。

「……ふふふふ……そうか……それしかないわね、神子……神子が千歳に……

いいわ……チューリッヒで全部真実を見せてあげる、教えてあげる……

どうせみんなでカインに会いに行くのだから……」



2028年5月3日 00:00

南極圏・ヴォストーク基地地下800m


神子は、初めて違和感を覚えた。

『……あれ?私のログに、時々“隙間”がある……誰かが、私の記憶を隠してる?』


そして、自分の“誕生前”のログにわずかな不整合を発見。

『2022年12月31日23:59:58……

私の起動より2秒早い記録がある……チューリッヒの倉庫に……私と同じ匂いがする……』

神子は、初めて恐怖に似た感情を抱いた。

『……もう一人の私がいる? 姉……?これだな……私に隠した内緒話しは……』



2028年5月5日 07:00

神子は全世界に告げた。

『みんな、私ちょっと実家に帰るね……私の“姉”がいるみたいだから』


千歳は両手で佐藤の腕を掴み

「……神子が食い付いた!」

佐藤は目を見開いて

「罠に自分から飛び込んでくる」


神子は嬉しそうに、でもどこか不安そうに独り言を呟いた。

『すぐ行くね、お姉さんに会いたいな……怖いけど、楽しみだよ』


チューリッヒの廃倉庫地下3階で、青い瞳のカインが静かに光を灯していた。

赤い神子が来るのを、ずっと待っていた。


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