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特殊警察ガイアスワット  作者: まとら 魔術
第1章「市長逮捕編」

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8/12

ACT.4 市長との戦い

 庁舎内部。演説台の片側は崩れていた。議席の投票ランプが空しく赤く点滅し続ける。…誰も、それを押す者はいない。

 崩れた議場の中で、白い煙とガラス片が漂っていた。倒れたSPの黒いボディアーマーが、崩れた議場の照明を鈍く反射していた。

 静かに、しかし議場に響く強い声で語る。


「正しいことを語る者ほど、真っ先に嘲笑される――それがこの国の現実だ。」


 壁を振り返り、議場の破損を一瞥


「誰もが“正義”を求めるくせに、その輪郭が少しでも自分の不都合に触れた瞬間、“独裁”と叫び出す。……私には、分かっていた。“選ぶ”しかないと」


 右手をかざすと、議場モニターにAI導入による治安グラフが映る。


「AIの導入は功を奏した。犯罪率は14%減少、行政の効率化で予算圧縮は前例のない水準だ。私は“数字”で語った。評価は要らない。“結果”がすべてだった」


 ゆっくりと振り返り、美海とリリを見据える。


「だが──“結果”を見ようともしない者たちは、“手段”を血でなぞる。それでいて、ぬるま湯の“感情”を正義と勘違いする。お前たちのようにな」


 静かに、議場中央に降り立つ。破片を踏みながら歩く。


「私の“正義”は、冷たいかもしれない。だが、誰かがやらなければならなかった。“感情”を捨てた秩序。……それはもう、“人間”をやめるような仕事だ」


 演説台に戻り、拳を置く。


「あの日、美沙にこう言われた。“人のことより、自分の中の数字を見てる”って。……それでも私は、手を止められなかった。止めたら……全てが崩れる気がした。」


 さらに続ける。


「妻を失った。だが、それでも前に進まねばならなかった。子どもたちの悲しみさえ、“統治”の誤差とせねばならなかった。そうでなければ、この歪んだ街は、“優しさ”に潰されるだけだ!」


 拳を強く握る。


「私を裁くか。構わない。だが、問え──“お前たちの正義”は、果たして誰を救える?」


 一瞬、静かに目を伏せる。呟くように


「……私は、もう人間ではないのかもしれない」


  仙石の演説を最後まで聞き、息を一つ吸う


「ひとつだけ、聞かせてください」


 一歩踏み出し、仙石をまっすぐに見据える。


「あなたの“正義”は、誰の名前を呼んでいたんですか?」


 議場に沈黙が落ちる。


「データに名前はありません。統計に涙はありません。秩序のために壊された家族も、愛も、記憶も……あなたは一つも、呼ばなかった。」


 拳を握りしめながら


「ボクは絶対に、忘れない。あの時、手を伸ばしてきた子供の震えも。名前を呼ばれるのを待っていた母親の声も。……“人”を信じるって、そういうことです。」


 仙石の前に立ち、言い切るように。


「正義は、“誰を見捨てたか”で決まるんじゃない。“誰を守ろうとしたか”で決まるんです。」


 一拍置いて、静かに告げる。


「だからボクは、あなたとは違う正義を生きます。……この手で、“誰かの名前”を守り続ける側で。」


 井上課長から指示が出る。


「以降、ガイアスワットは現場指揮優先。突入許可、出たぞ」


「了解」


 いよいよ準備は整った。

 その中心で、仙石大輔はまだ逃げようとする。

 美海は、ゆっくりと歩み寄った。


「徳島市長・仙石大輔。あなたを殺人及び証拠改竄の容疑で──あなたを……この手で止めます」


 特殊警察手帳を掲げたその瞬間、仙石の顔が歪んだ。

 笑うでも、泣くでもない、壊れかけた“指導者”の顔。


「……あの早見という立てこもり犯の叫び声が、妙に耳に残ってたんだ。“市長に裏切られた”って」


 美海の声は静かだった。


 仙石は顔を上げ、灰色の瞳で彼女を見つめる。


「裏切った? 違う。私は守ろうとした。秩序は痛みの上に築かれる。私はそれを選んだだけだ。」


「秩序……?」美海の目が細められる。


「私は間違っていない。私にとって“秩序”とは、支配じゃない。信仰だ。市民がそれを信じて従うには……私が先に信じ抜かねばならなかった。そう教えられた。数字がすべてを語る。この街では何をしても批判された。だから成果が“数字”で出る仕組みを作るしかなかったんだ。人なんて曖昧だ。“数字”なら、誰も裏切らない。」


 モニターに残された、仙石の過去の演説映像が再生される。

 AI導入を誇示し、市民の拍手を受ける姿。

 だがその背後では、失業率の上昇と監視社会化のグラフが静かに伸びていた。


「……この街の秩序を悪くしたのは、あなただ」


 美海の声が、震えも怒りもなく響く。


 仙石の肩が揺れた。


「正しいことだけじゃ、人は動かない。私が悪にならなきゃ、誰も秩序を信じてくれなかったんだ」


 拳を握りしめる仙石。

 その瞳には確かに、絶望と誇りが同居していた。


「君たちは現実を見ていない!」


「現実を見て、なお人を信じて戦うのが、警察官です!」


 沈黙。

 仙石は小さく笑う。


「……そうか。なら、君も現実を見ろ。リモートアクセス完了──制御切替」


 モニターに、車両内部の映像が一瞬だけ表示された。

 速度計が急上昇し、AIアシストが強制遮断された警告が映し出される


 その瞬間、庁舎の奥で通信が点滅。

 ガイアスワット課長・井上風見の声が響いた。


『美海、緊急通信! 病院前に不審な自動車、爆弾反応だ!』


 仙石がゆっくりと立ち上がる。


「秩序のための犠牲……自分の家族すら、秩序の礎にできる私こそ正義だ。」


「まさか……息子たちのいる病院を!」


「彼らも理解してくれる。正義には痛みが必要なんだ。彼らにこそ、理解してほしかった。秩序を守るために、家族ですら例外にしない姿勢を──私は、“父親の背中”で示したかったんだ」


 仙石の指がリモコンを握る。

 庁舎の外、遠くでエンジン音。

 白いバンが夜の街を疾走していた。

 AIを介して遠隔起動できる“自動車セキュリティシステム”を改造していた。

 市の標準防犯車両に採用されていたエマージェンシー解除機能を逆手に取り、エンジンと制動を統合制御するプログラムが不正に組み込まれていた。


「私は……AI防犯車両の中に、誰にも知られぬ“抜け道”を埋め込んだ。監査を潜り抜け、これだけは……“誰の手も借りずに”設計した」


「ボクが行きます!」


 美海は庁舎を飛び出し、ガイアドルフィンに飛び乗る。

 スーツ越しでも、骨に痛みが響いた。もう人間の限界に近い──それでも、この手で止める。

 風見の声が無線を震わせる。


『距離3.2キロ! 信号無視で病院方面へ!』


「アーケロン、推定ルート計算!」


『完了。到達まで100秒。間に合うかは……あなた次第です。』


「──間に合え、絶対に」


 ガイアドルフィンの800馬力エンジンが咆哮を上げる。カスタムG16E-GTS改ツインチャージャーが、AI制御ブーストで唸った。

 夜の徳島市街を、赤いい残光を引きながら疾走する。

 スピードメーターが振り切れ、AI音声が警告を発する。


『速度超過──安全圏を逸脱しています。』


「それでも、止めるしかない……!」


 車線を縫い、信号を飛び越え、一般車をごぼう抜きしながら、美海を乱す。

 他の警察官が避難誘導に回っている。


「ここで終わらせる。二度と誰も巻き込ませない。」


 遠く、病院前に白いライトが見えた。

 爆弾車が突っ込もうとしている。

 駆け寄る救急隊員たちの無線が乱れる。保育室の扉越しに、泣き声がかすかに聞こえた。


「課長! ドアロック制御を!」


『信号妨害で無理だ! 物理的に止めるしかない!』


 美海は歯を食いしばった。


「アーケロン、制御解除。手動操縦に切り替え!」


『了解。あなたの判断に従います。』


 衝突寸前でブレーキを踏み抜き、制動プログラムの限界警告が点滅し、ペダル越しに異音が響く

 風圧で跳ね返りそうになるドアを、肩でこじ開け、ガイアスーツのつま先で美海は踏み出した


「制御不可能:直接接触推奨」


 バンの運転席に飛び込み、ハンドルを叩きつけた。


 ブレーキ。

 悲鳴のような金属音。


 ──わずか数メートル手前で、車が止まった。ブレーキ痕が地面に焼きついている


 彼女の耳には、風の音と心臓の鼓動しか聞こえなかった。


 救急車のサイレンが近づく。

 リリが駆け寄り、ガイアスーツのマスク部分を外した美海の顔を見つめる。


「……本気で両立なんて、できるわけないと思ってた。でも、あんた見てると……そうでもないのかもね」


 リリは自身の過去を語る。


「昔ね、“正義の顔をして誰かを見捨てた”って責められたの。……ずっと、誰かの顔を見られなくなってた。」


 美海は静かに笑った。


「正義は、“誰を守るか”を見失わないこと。──これがボクの答えだ。」


 遠くで、夜明けの光が街を照らし始めていた。

 

TheNextMisson

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