表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特殊警察ガイアスワット  作者: まとら 魔術
第1章「市長逮捕編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/14

ACT.3 犯人発覚

 徳島県警・特別捜査本部。

 壁一面に貼られた写真とデータが、ひとつの線でつながった瞬間、部屋の空気が止まった。

 AIアーケロンが淡々と報告する。


> 「一致率99.7%。改竄命令ログ、出力元:仙石大輔──個人所有端末より検出」


 会議室の誰もが言葉を失った。

 政治家としての実績ゼロ、だが「正義」を口癖にした男。その正義の裏側が、ようやく剥がれ落ちた。


「……自分のAIを、罪を隠すために使ったのか」


 井上が呟く。


 美海は拳を握る。


「彼は“正しいことをした”と信じてたんだろう。でも、その正しさが誰かを殺した。」


 リリが立ち上がる。「検察審査会が動いた。……あとは実行部隊の決断だけ。」


 だが次の瞬間、通信が割り込む。


> 『対象、移動中──徳島市庁舎方面に向かっている』


>「本庁からの増援は間に合わない」


>「警察庁直轄ゆえ、即時執行権あり」


 美海の瞳が鋭く光る。


「……逃げる気はない。自分で幕を引くつもりだ」


 市庁舎のセキュリティ映像には、黒い日産アリアが正面玄関を破壊して突破する映像。

 庁舎に入る前に白バンが離れていく。

 そして降り立つ男、仙石大輔。

 その周囲を守るのは、スーツ姿のSP──いや、人間ではない。

 関節可動部には極小ピストンと注射器状のアクチュエーター。歩行ごとに油圧が漏れるような音がした。


 リリが低く言う。「人造SP……本当に造ってたのね。」


 外郭企業アークシステムが試作した警護ユニット。市の契約記録にある。


「“正義”を感情から切り離すための兵士……仙石の理想ってわけだね」


 美海の装備は自動的に戦闘形態へ移行し、アンダースーツが露出。内部モニタが起動し、呼吸と心拍が同期される。


「徳島市庁舎前、即時介入開始──もう……ここで終わらせる。市庁舎で。」


 そして小さく呟いた。


「……背負う覚悟だけで、前に出るのは怖い。でも、それしかないなら、行くしかない。」


 夜の徳島市庁舎前。

 風に乗って鳴る警報。

 ライトアップされた庁舎を背景に、アリアが停まる。仙石は車を降り、無言でSPたちに指示を飛ばした。


> 「正義を守れ。秩序は、個人の感情より上位だ。」


 声には、壊れかけた信仰の熱と、空虚な正当化が共存していた。

 

 道路の向こうから、ガイアスワットのガイアマシン2台が滑り込む。

 ここで2人はそれぞれのクルマのダッシュボードのボタンを押す。

 ガイアスーツの起動と共に、保護服が自動解放されていく。


「ライズアップ!」の声とともに、粒子が一閃し、緑と紫のスーツが瞬時に体を覆う。美海は緑、リリは紫。それぞれの正義が、形を取った。


 美海がガイアスーツに包まれた緑の手でドアを開けて、庁舎南玄関から突入、吹き抜けのロビーが現れる。三層構造の回廊が螺旋階段で繋がり、最上層の議場へと続いていた。冷たい夜風が吹き込んだ。


 踏み出すたび、アクチュエーターが低く唸り、床に振動が伝う

 地面にわずかな振動を残した。


「隊長、後方支援。ボクは突入します」


「待って、美海。やつらは人間じゃない!」


「分かってます。でも、だからこそ止めなきゃ。」


 頭のHUDが赤く点滅する。


「アーケロン、バイタル共有開始。」


『了解、戦術補助モード起動。敵の心拍──異常値検出。』


 避難放送が遠くで歪み、市職員の足音が階段を逃げ惑う。


 ──一閃。

 庁舎前に立つSPが、まるで獣のような速さで跳躍。

 壁を蹴り、縦に駆け上がり、空中から拳を叩きつけてくる。

 肋骨が軋んだ。スーツ越しでも、確実に打撲を負っていた。

 美海は即座に身を沈め、スーツの関節が「ギィ」と鳴る。

 重い脚を滑らせながら、ショットガン型レーザーを構えた。

 トリガーを引く瞬間、反動制御機構が作動音を上げる。


「エネルギー出力40%──発射!」


 光弾が放たれた衝撃で、美海の身体が半歩後ろに弾かれた。

 ブーツが床を削り、火花が散る。

 その一撃でSPの肩が吹き飛ぶ。しかし、倒れない。


 煙の中、SPの肩口から飛び出した人工筋繊維が、金属の軋みを立てて脈動し始めた。


「くそ……あと10秒で全快される。倒すなら、今しかない。」


 リリの声が無線越しに響く。


「壁を使って動きを封じなさい、美海!」


 美海は息を荒げながら反転。

 議場へと続く長い回廊を蹴るたび、スーツの膝関節が悲鳴を上げた。

 壁には歴代市長の肖像画。100年近い歴史が、今まさに砕かれようとしていた。

 動きが重い──だが、その“重さ”が地を掴む感覚をくれた。

 時間が妙に遅く感じる──体感時間がスローモーションになった


 SPの背後に滑り込み、腕を絡める。

 相手の重量が予想以上に重く、スーツのサーボが限界音を立てる。

 美海は歯を食いしばり、アームの駆動を全開にして引き倒した。


 瞬間、体内の慣性が揺れる。

 反動に耐えながら、至近距離でレーザーを直撃。


 光と爆風。

 ガイアスーツが軋み、内側で美海の呼吸が乱れた。

 衝撃波が壁を叩き、散ったガラス片が肌をかすめる。


 金属と血の匂いが混ざり、床に転がったSPの仮面が割れる。


 ……静寂。

 まるで時が止まったかのような、冷たい静寂。

 その中で、誰かの足音が──。


 無線が鳴る。井上の声だ。


『冷静になれ、美海。感情を切り離せ。お前は正義のために戦ってる。』


「……いいえ、ボクは“人のため”に戦っています。」


 残るSPたちが陣形を組み、庁舎を守るように立ちはだかる。

 その奥に、仙石大輔。

 スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを解きながら呟く。

 彼の背後には、議場中央の演説台。その上部には議場スクリーンに“正義”のロゴが静止したまま表示されていた。

 一部破損した議席には誰もおらず、ボタンだけが稼働していた。

 仙石が演説台に手を置く。


「ここで何十年、政治家たちは声を張り上げてきた。だが誰一人として……“真実”を語らなかった。」


 肩で息をしながら美海が反論する。


「だからといって、“無言の支配”を正義と呼んでいいわけがない」


「これが、私の正義だ。」


 美海が静かに構える。


「仙石大輔──逮捕します。」


「君たちが信じたアーケロン──あれは“正義”の模倣品だ。私が条件を入力し、私が枠を決めた。“正しさ”なんて、最初から人の都合で書き換えられるんだよ。それでも“正義”と呼べるのか? 君は、まだ正義を信じているのか。AIに裏切られても?」


「信じてるのは……この街をまだ信じてる人たちです。」


 仙石の指が、静かにリモコンに触れた。


「SP群、戦闘モードに移行──起動せよ。」


 銃火と光が交錯し、庁舎全体が戦場と化す。

 天井から落ちるガラス片が、夜の街の光を乱反射する。


 リリの声が再び響く。


「美海、判断は自分で。だが死なないで──命令よ。」


「分かってます!」


 美海は重心を落とし、両腕のアクチュエーターを限界出力へ。

 青白い光が走る。


「衝撃波、解放──!」


 轟音。反動がスーツの内部を突き上げ、肋骨に響いた。

 2体のSPが吹き飛び、壁にめり込む。

 スーツの表面温度が急上昇し、HUDに赤い警告が点滅する。


 残る1体が突撃──

 美海は軸足を踏みしめ、体重を乗せた回し蹴りを放つ。

 蹴撃の瞬間、スーツの腰部サーボが爆ぜるような音を上げた。

 金属音が夜に響き、SPの胴が歪んで崩れた。

 敵SPが倒れながらも腕を伸ばし、美海の足を掴もうとする


 仙石が微笑む。

 彼が何かのリモコンを握っていた。


「誰かを助ければ、誰かが取り残される。それが人間だ。私は、その“選択”をAIに任せたかった。私情も、恣意も、排除された秩序のために」


「あなたが選んだのは、守るふりをした支配です。……でも、“誰かを信じる”って、それだけで戦う理由になるんですよ」


 庁舎の奥、議場の扉が開く。


「君は誰か一人の命を選べるか? 私は選べなかった。だからAIに肩代わりさせた」


 その向こうに、最後の決着が待っていた。



TheNextMisson

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ