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特殊警察ガイアスワット  作者: まとら 魔術
第2章「真月団の挑発」

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ACT.7 新マシン到着

 朝の陽射しが斜めに差し込むガレージに、オレンジ・黒・赤──三つの影が落ちていた。


 NDロードスター改・ガイアツナ(新人機)。 低く構えた車体に、警察仕様のLEDラインが睨むように光る。

 RZ34ベース・ガイアクラーケン(新人機)は、ヴェイルサイドのボディに潜むような黒光りを纏っていた。

 そして真紅のGRスープラベース•ガイアオクトパス(新人機)。


 どれも、まだ誰にも乗られていない“新人機”だ。


「──暴れ馬三頭、か。こりゃ整備側の肝も試されるな」



 整備主任・林勝は油で黒くなった軍手を外し、汗を拭いながら唸った。スキンフェードの頭に光が反射する。工場扇が回る中、若手整備員たちが緊張した顔でメンテナンスを開始していた。


「このオクトパス、電子制御がエグいっすね……冗長系だけで三重ですよ」


 どれも“現場が地獄に落ちたとき”のための兵器だ。


 そこへ、後藤田美海が腕を組んで現れる。冷えたアイスコーヒーの缶を片手に、車体をひとつずつ睨むように見て回る。


「この3台……納車報告書、まだ?」


「いまチェック中よ、美海。ツナのステアリングに初期遊びがあってな、見といた方がいいわ」


「ツナ……新入り用? クラーケンが隊長のやつで、オクトパスは……井上課長の?」


「いや、どれも……今後入ってくる子用だと思われる」


「ふうん。重たいね……どれも」


 美海はそう呟くと、ツナのボンネットに手を置いた。装甲の下には1000馬力出る高回転型ロータリーターボ。光の中で彼女の表情が硬く引き締まる。


「乗るのは“荷の重さ”を背負うとき……そういう顔しているのね、美海」


「そりゃあね……真月団の息が、まだ止まってない」


 車庫の奥、工具棚の隙間。そこに仄暗い影が一瞬、揺れた。整備員の誰も気づかないまま、それは消えていた──。


 徳島県警本部・特別捜査会議室。蛍光灯の冷たい光の下、後藤田美海はデスクに両手をついて身を乗り出していた。対面に座る井上風見課長と久保舞副課長は無言。美海の瞳は鋼のように強く、まっすぐだった。


「確認したいことがあります……仙石市長の息子たち、幸昌くんと守信くんの様子を見に行きたいです。彼らの様子を“現場”として見たいです」


 久保舞は視線を伏せたままファイルを閉じ、井上風見が書類の端を指でトントンと揃える。その沈黙のあと、井上が口を開いた。


「……リリは反対していたな。“警察官は事件を終えたら、次へ行け”と」


「知ってます。だけど──ボクは“事件が終わった後”を、放っておけない」


 井上の目がわずかに細くなる。「現場の直感か?」


「いいえ。“責任”です。被害者も、加害者も──子供なら、なおさら」


 間。


 やがて風見は頷き、押印済みの許可書を差し出した。


「……行け。ただし単独は許可しない。舞と私が後ろにつく」


 美海は黙って受け取り、深く一礼する。その背中に、久保舞が柔らかい声で言った。


「見てあげて。彼らの“これから”が、何に繋がるのかを」


 午後、阿波精神医療センター。白い無機質な建物。面会室に通された美海は、静かに椅子に腰掛けていた。扉の向こう、看護師に付き添われて現れたのは──


 仙石幸昌、13歳。黒髪を肩で括った中性的な風貌。弟の守信もりのぶ10歳は短髪で目を伏せたまま、美海と目を合わせようとしない。


「こんにちは……来てくれて、ありがとう」


 美海はやや小さな声で話しかけた。2人は無言。守信の手が震えている。幸昌は兄としての意地か、じっと美海を睨み返しているように見えた。


「君たちがどれだけ傷ついたか──想像しかできない。でも、知っておきたかった。あの夜、何を見て、何を感じていたのかを」


 それでも言葉は返らなかった。


 沈黙が数十秒。美海は鞄から、一枚の写真立てを取り出した。中には笑顔の女性──かつての母親の写真。


「これは……お母さんの遺影。事件のあと、警察の手で整理されたものです。……届けたくて」


 2人の視線が、ようやく動いた。守信の瞳が揺れ、幸昌が静かに唇を開いた。


「お父さん……“正しいことをした”って……ずっと言ってた」


「……そう」


 美海はそれ以上、何も言わなかった。彼女の指先はほんの少し震えていた。


 やがて、幸昌が立ち上がる。無言のまま、美海の前へ。そして、差し出された小さな手。


「……」


 美海もまた、黙ってそれを握り返す。

 守信も隣に立ち、兄の肩に手を添える。言葉はなかった。だが、そこに確かに“生きている者”の意思があった。


 その帰り道、車中。飯泉リリが無線で連絡を終え、助手席から冷たい声を投げた。


「美海……あなたの“優しさ”は時に、判断を鈍らせるわ」


「知ってる。だから“見届ける”んです」


「被害者の遺族には、給付金が出る。それでケジメは済むのよ。……これ以上、感情を持ち込まないで」


「……数字で、彼らの夜泣きが止まるとでも?」


 沈黙。車は徳島市内の夕陽に染まる街を、沈黙と共に駆け抜けていった──まるで、嵐の前の静けさのように。


 徳島県警・技術開発部門地下区画

 深夜1時43分。


「薬品庫セクターG、ログに異常検出。コード:E19、確認してくれ」


 ──中央管理システムがつぶやくようにアラームを走らせる直前。


 すでに“彼ら”は侵入していた。


 白衣と識別バッジを模したデバイスを身に着けた、男2人。

一人はがっしりとした巨躯で、右目に義眼レンズ。もう一人は神経質そうな体つきで、手首にデータパッドを巻いていた。


「入退室ロック解除。ハッキング成功、カウント30秒」


 ピ、ピ、ピ。 監視カメラが同じ3秒間の映像を繰り返し始めた。 異常は“見えない”。

  男たちは動じず、冷蔵式薬品ユニットの前に立つ。 鍵のかかったロックを一瞬で解除。引き出しの中から、金属ケースを持ち上げた。

 その中には──


- 改造人間用ナノ触媒:細胞増殖を促進し、人工神経接合を可能にする黒銀の液体。

-生体安定用血清:高密度エナジー反応で精神崩壊を抑えるための“命綱”。


「これがあれば、“次”ができる……れん様が笑う」


 同時刻、監視ログを分析していた若手巡査・三輪浩人(みわ・ひろと、24歳)が、端末上に浮かぶ波形データの“同一フレーム繰り返し”に気づいた。


「昨夜のログ……ん? 43分のあたり、ノイズが同じ動きで止まってる?  ループ? まさかこれ、改ざん……?」


 ……同じ角度、同じ瞬き、同じ首の傾げ。映像は、生き物のようにこちらをじっと“再現”し続けていた。


 違和感。異様な静けさ。無線が一瞬で遅れる。

 この薬品庫は厳格な3重認証制──自分たちでも触れられないはず。


 彼は無線に手を伸ばしかけ──その瞬間。

 後ろから、押さえ込まれた。


「ッ……!」


 何かを打たれる感覚。

 意識が薄れていく中、耳元で囁かれる声があった。


「──助けたければ、アジトに来い。真月団より“挑発”だ。徳島県警ごと、試されてるぞ」


 暗転。


 カメラルームに戻った若手警官が、椅子が空になっているのを見て眉をひそめた。 「……三輪? おい、どこだ……」 そのとき、ループ映像のログに気づく。「映像、改ざん……?」 室内に緊急ブザーが鳴り、赤い光が点滅した。


「これは……挑発か。いや、“試し斬り”だな。県警の反応を試してやがる」


「“ナノ触媒”と“生体血清”──使い道は一つ。“怪物”を作る気だわ」


 美海、拳を握りしめる。


「……ふざけてる。こっちだって、何も奪われたままで黙ってられるほどお人好しじゃない」


「“制圧”じゃない。“迎え撃つ”。やり返すの」


 リリも同じだった。


The Next Misson


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