とりあえずの和解
いきなり"名"を呼ばれ、固まるグランドドラゴン。
『…あ、アンタは、ボニーの兄貴! 』
そう、俺はかつてこいつと戦って打ち負かし、その時に服従の証として"名"を明かされている。そんな訳で、俺に気付いたジュウベイは一気にクールダウンし、すっかり毒気を抜かれた状態に。
「このドラゴン、ひょっとしてお前の子分なのか、いきなり大人しくなったぞ。」
突然行儀が良くなったグランドドラゴンの姿に気勢を削がれた勇者が、そんな風に聞いてくる。
「子分…じゃ無いが、以前コイツと戦って下した事が有る。その時忠誠を誓われたんだ。それよりそもそも何でお前さん達がコイツと争ってたんだ?」
ここでやっと根本的な事を質問する俺。すると横からジュウベイ。
『コイツらがいきなりオレの家に押しかけて来て、オレの寝床のドアを乱暴にぶち壊しやがったんだ! …です。』
「お前さん達がこのドラゴンの寝床に押し込みを掛けたのが元だと言ってるんだが?」
因みにジュウベイはドラゴン語で話しているので俺しか何を言っているのか分からない状態だ。
「お前、ドラゴンと意思疎通が可能なのか…。敵の拠点探索のつもりだったから強行突入はした。…押し込み…と言われてしまえば、そうかも知れない…。」
『敵の拠点だと思っていたそうだ…って、めんどくさいわ! お前人の言葉分かるんだろ、最初からそっちでしゃべれよ!』
「…人の言葉、使える。でも上手くない。」
「いやいや充分充分。」
突然人語を喋り出したジュウベイに、驚く勇者達。だがこれで大分話が早くなった。
「此処はオレがやっと見つけた寝床。扉も作って快適に寝てた。なのに突然コイツら押し入って来た。だからオレ、キレた。」
「我々はこの辺りに魔王の居城があると言う情報を得たのでやって来たのだ。実際中に入ってみれば、次々に凶悪な魔物に問答無用で襲いかかられ、完全に敵地認定してしまっていた。本当に単にドラゴン殿の家だったと言うのであれば、押し込みと言われても仕方が無いかも、だとすれば、無用な争いを仕掛けてしまったのかも知れない。」
「全くその通り、大迷惑だ! お陰でオレの寝床は埋まってしまった。」
やや声を荒げるジュウベイだが…。
「いや、それについては、あんなところで、大地震の能力を使ったお前の自業自得だろう。」
という俺の突っ込みに、
「グガガ…、それはそうなんですが…。」
と、ちょっとトーンダウンのジュウベイ。
「いや実際私達が一方的に仕掛けた様なものだ。申し訳ない! 」
非を認めた勇者が謝罪する。他のメンバーもリーダーに続いて頭を下げる。
「まぁ喧嘩両成敗というか、文字通り痛み分けという事で、この話はお手打ちとしようじゃないか。」
大分乱暴な落とし所だとは思いながら、そう提案する俺。ジュウベイは俺が言うなら異は唱えないとの事だし、勇者達も反省している様で、どちらもお手打ちには同意してくれた。
「ところで1つ気になったんだが、お前さん達の得たその魔王城の場所についての情報、ひょっとして情報源はマンティコアか?」
「何でそれを⁈ 」
分かり易い勇者の反応、図星の様だ。なるほどな。
「おいジュウベイ、どうやらここが魔王殿であると嘘の情報を流して、お前と勇者パーティー両方を落とし入れた"犯人"というのがいる様だぞ。」
俺がそう教えてやると、俄かに色めき立つグランドドラゴン。
『な・ん・だ・とぅ〜!』
"嘘を教えられたとしても恨みはしない"とは約束したが、それにより不利益を被った第三者の恨みまでは責任持てないもんなぁ。
と、言う訳で、回復の為此処で暫く休むと言う勇者一行を残し、俺はジュウベイを案内し、来た道をひとっ飛びで引き返すのであった。
「行かせて良かったんだろうか。相手はあの四天王最凶の魔神エボニアムだぞ、我々と命懸けの死闘を繰り広げたのも、ついこの間の話だ。仇敵と言ってもいい。」
そう提起するのは僧侶のホイットニー。それに続いて語るのは長身のサブ戦士、ブルース。
「俺が、かつて客船の護衛をしていた時、船がアイツに襲われた。あいつは軍船で無かった事をつまらなそうにしながらも、暇潰しに船を木っ端微塵に破壊した。乗客、乗員100人弱は、俺1人を残して全員死んだ。子供もいたが、お構い無しだった。それが俺が最初に見た魔神エボニアムだ。"目の前で死にそうな人がいたからつい助けちゃった"って、何の冗談だ! 」
「うん、わたし助けられちゃった。ぎゅっと捕まえてくれてて、そろそろ放してって言ったら、"あ、すまん"だって…。」
女武闘家のキキがちょっと可笑しそうに呟く。それらを受けて、勇者レダン。
「あの時、キキが捕まっているんだと思ったのにあっさり返してくれたんだよな。あれじゃ本当にお人好しで人助けしただけのあんちゃんだ。あんな奴を凶悪な魔神だからと問答無用で倒しに掛かれるか? ちょっと…俺には無理だ。」
「思えば最初に奴と戦ったあの時から、何かが狂い出したのだ。我々は神のご加護を失い、エボニアムは消耗し切ってボロボロの我々にとどめを刺す事無く去ってしまい、我々は生きながらえた。その後我々が休養をとってこうして体制を立て直すまで、絶対有るだろうと思っていた追撃も無く、何なら忘れた頃になってこうして再開してみれば、歩く災害とか人の姿をとった悪意とか言われたあのエボニアムが、あろう事かお人好しのあんちゃんだ。」
そんな魔術師の感想を受け、ホイットニーが更に言い募る。
「いや、やはりわしは信じられん。今はお人好しぶっているが、本質が変わる訳は無い。奴がこれまでしてきた数多の悪行、残虐な殺戮の数々、遊び半分に行われた多くの破壊活動。多少気まぐれにお人好しをしたところで、それらの罪が消える訳では無いだろう」
うーん…となって結論が出せず、頭を抱える勇者パーティー一同。と、そんなやり取りが、俺とジュウベイがマンティコアを締めに行っている間に有ったらしい。大分後になって知った事だ。